とは言っても本章がラストではありません。あまり詳しく言うとネタバレになってしまうのですが、この後に初音島編(現代編)が続き、その章が全体の最終章となります。
強烈戦士とあったか少女
視界が弾けるように意識が覚醒した。
浮遊している感覚、今自分はここにはいないと認識できる世界。そう、葛木清隆は現在、夢見の力の副作用のようなもので知らずの内に誰かの夢の中に侵入していたのだ。
ここはどこだろう。清隆は自分の夢の中での視点を移動させつつ、周囲の様子を窺う。
人の夢というものにはそのほとんどに法則性というものが存在しない。突発的に現象が起こり、その現象そのものは意味不明な物事であったり、そしてその現象を疑うことなく登場人物は認識する。
しかし、その原則は時として例外を生じさせる。それは、人の『記憶』。誰かが体験したそれをなぞるタイプの夢は、ある程度美化あるいは劣化された状態で整えられ、そして少し脚色された状態でその舞台が完成する。清隆が見ている夢は、誰かの『記憶』そのものだった。
今ではなかなかお目にかかることのできない、舗装されていない、草原の中にできた小道。野原の中にぽつりぽつりと咲いている小さな花には、ひらひらと蝶が舞い踊っていた。
そして。
その小道を歩いている二人の少女。なぜだろうか。その姿だけ輪郭がぼやけていて誰なのか分からない。せめてそれだけはっきりしていれば、これが誰の夢なのかがある程度はっきりするのだが。
「――――」
「――」
何かを話しているが、その内容もよく聞き取れない。シェルで通信会話をしている最中に、音がハウリングしてよく聞き取れないのと似たような現象。音が響いて、擦れて何を言っているのかが把握できない。まるでそこだけ靄がかかっているかのように。
少女の一人が小道を一直線に駆け抜けだした。楽しそうに、少しだけ小躍りしながら。そしてその後ろを、もう一人の少女が追いかけるように走っていく。
そして――少しずつ意識が薄れていく。
清隆のではない。夢の主の意識が、少しずつ夢から遠ざかっていく。清隆は、何故かその感覚に、安心感を覚えていた。これでいいのだと、まるで誰かに囁かれているような。
視界に靄がかかっていく。次第に二人が遠ざかっていく。
そして――そして――
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十一月一日。
早朝から目が覚めた『八本槍』の一人、クー・フーリンはすぐにカレンダーを確認していた。
とてつもなく嫌な予感のするこの違和感が、どうしても思考からシャットアウトできない。まるで何か恐ろしいものが真後ろに迫っているかのような焦燥感。
「おかしい、俺昨日一体何してたんだっけか――」
じっくりと考えて思い出してみれば、その答えは案外すぐに帰ってくる。十月末、つまり昨日は生徒会に所属している旧友、カテゴリー5の魔法使い、リッカ・グリーンウッドに強制連行されて生徒会の仕事を手伝わされていた。破損したり修理を終えたりした備品の運搬から書類作業、あらゆることを押し付けられたがとりあえず暇だったので預かってみせたといったところだ。『八本槍』がこんな扱いでいいのかと都合のいいことを考えながら。
かといっていくら違和感が拭い去れなかろうと、通常通りの講義はあるし、とりあえず本科生として風見鶏の生徒という名目でここにいるのだから、それには出席しなければならない。飼い犬っぽくなってしまっているかもしれないが、エリザベスや騎士王ことアルトリア・パーシーに小言を言われるのは後々面倒だ。
仕方なく息苦しい風見鶏の制服に袖を通して適当に着崩し、テキストやノートなどを持ち運ぶことなく手ぶらで学生寮の自室を後にした。
――近づかないで
誰かがそう囁きかける。そんな幻聴が聞こえてしまいそうなくらいに、後ろ髪を引っ張るような違和感。
イライラする。槍を振るって誰かと刃を交わしていたい。強くなるために旅を重ねてきていたというのに、いつの間に自分はこんなにも平和に飲まれてしまったのだろうか。
そんなことを気にしてしまう程に苛立ちが募ってしまっている。これはどうにかしなければいつか学園の備品を破壊してしまってその補修のための予算と手間が全て帰ってきてしまう。これはそろそろ他の『八本槍』に喧嘩を売るべきところだろうか。
ふと、視界に入ったのは、風見鶏生徒会の良心にして生徒会長、シャルル・マロースだった。クーの弟子であるエト・マロースの実姉に当たる人物であり、二人揃ってサンタクロースの家の出である。アッシュブロンドの流れるような緩いカーブを描く長い髪を淡い緑の小さなリボンでデコレーションした、ルビー色の瞳の美少女。ついでに胸が大きい。そこはまさしく俗世に染まった男が憧れる聖なる領域。なおクーには興味がない模様。
「おうシャルル」
「あっ、クーさん、おはようございます」
クーが声をかけると、シャルルは少し驚いた表情で半歩下がりながら挨拶を返した。
多少共に時間を過ごした仲ではあるが、初対面が、赤い槍を穂先を出した状態で持ち歩いている武骨な真紅の瞳の戦士、といったものであったり、弟を助けられた際のインパクトがあまりにも強烈過ぎたりで少々恐れている部分もある。基本的に優しい男であるとは重々承知しているのだが、どうしてもこの強い強いオーラには慣れない。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが――ってあれ、これの質問前もしたような?」
「えっ?」
ふと口からでた問いは、何故かついこの間も同じ言葉で口から出てきたものだったような気もする。
自分から質問を切り出したかと思えばすぐに自分の世界に戻る、そんな態度を取ったクーを少し怯えながら凝視する。もしかしたら聞き間違えたのかもしれない。
「いや、何でもねぇ……。今日って何月何日だ?」
「今日は……十一月一日、ですよね?」
疑問に疑問で返すシャルル。『八本槍』から唐突に繰り出される当り前な質問にどんな深い意味があるのかをついつい考えてしまう。頭が切れるというのはこういうところで災いするのだろう。
しかしもって、これでクーも違和感が払拭された――と思いたかったのだが、どうにも昨日という日が遠い過去に感じられる。昨日であるはずの十月三十一日が、まるで半年も前のようなそんな錯覚を受ける。
「気のせい――のはずはないんだろうが、なぁ……」
腰に手を当てて納得がいかないと首を捻る。
しかし、考えたところで解決には向かいそうにない。とりあえずは違和感は置いておいて、シャルルには適当に礼をしておいた上で、校舎へと足を運んだ。
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放課後――になる前に、クーはさっさと教室から退散して学園内を散歩していた。
少し乱暴なやり方だが、『八本槍』である以上、たとえ風見鶏の教師であろうと、生徒であるクーの素行不良を咎めることはできない。何でもありの彼を止められるのは、やはり何でもありの『八本槍』と学園長兼女王陛下であるエリザベス、そして手綱を握られているも同然なリッカとジルくらいだ。その誰もがいない教室で、彼を止められる術はない。ちなみにリッカはカテゴリー5としての≪女王の鐘≫の単独任務、ジルも私用でどこかへと出かけていた。エリザベスは女王陛下としての公務のため現在は不在である。
そろそろ講義も終わり放課後になるだろうという時間を見計らって、クーは踵を返した。
背後では桜の花びらが舞う中で噴水が水飛沫を上げている。至って情緒的な光景かもしれないが特にクーの目に留まるほどでもなかった、というより見慣れていた。
扉をノックし、中に誰もいないことを確かめる。誰かがいてはいけないということでもないが、何となく誰かがいると必然的にうるさくなる。リッカ然り、ジル然り、巴然り。シャルルならいても問題ない。距離を取ってくれるというか、空気を分かってくれる。
ドアノブに手をかけてドアを開き、そして中に入る。だるそうに頭を掻きながら生徒会室に設置されている『俺様専用特等席』に腰掛けて新聞を開こうとしたその時、それは視界に移った。
「――え」
小さな悲鳴。それは聞きようによっては悲鳴とも取れたかもしれない。
見た目齢十歳前後と思われる体躯、美しい金髪は肩に届かないショートヘアで、その瞳は神秘を秘めたサファイア色だった。誰かに似ていると言われれば、リッカに似ている。
その少女は、椅子に座ったままクーの方へと大きく目を見開いて、その視線をこちらへと向けて放さない。
その左手には、桜と思われる花弁をつけた小さな枝を握り締めていた。
「よ、よう」
なるべく、そうなるべく嫌われないように、穏やかで優しい笑顔を心がけて刺激しないようにゆっくりと右手を掲げて挨拶を試みる。第一印象は大事だ。過去に何度小さな子供に怖がられ怯えられ泣き叫ばれて間違えてジルやシャルルに警察を呼ばれたことか。その度に呼ばれた警官が真っ青になっていた。
大丈夫、今この段階ではクーと彼女の間には机が一つ空間を遮蔽している。それを越えない限り二人が面と向かうこともない。本当は一瞬もあれば越えてしまうのだが。
「え、えっと」
少女が口を開く。やや緊張しているのか、語尾が震えていた。
クーは、少女から言葉を発するのをゆっくりした姿勢で待つ。下手に強張ると相手を刺激してしまうと考えた。自覚していなくともどうやら自分が放つオーラは凄いらしい。シャルル談である。
「……怖く、ない?」
それを本人に聞いてどうするのか。しかしここで鋭く突っ込んでしまえばそれこそ大失敗だ。
彼女を怖がらせないためにはどんな顔で返せばいいか。とびっきりの笑顔。とびっきりの笑顔。そう、包容力と父性でいっぱいな、太陽のような笑顔を浮かべて、そしてこう一言いえばいい。『怖くないよー』。
駄目だ気持ち悪い。クーが自分で考えておいて気持ち悪い。どれくらい気持ち悪いかというとリッカがクーを『お兄ちゃん』呼ばわりするくらい気持ち悪い。
なんだかんだ考えるのも面倒になってきた。もういっそのことありのままの姿を見せてしまったっていいかもしれない。それで嫌われたらそれもいつもの自分である。
「あー、別に怖くなんてねーよ」
椅子に浅く腰をかけつつ背もたれにどっかりともたれる。溜息を一つ吐いてゆっくり彼女を見ると、どこか彼女から緊張が解れているような気がした。そんな表情をしている。
桜の枝を握ったまま立ち上がり、そしてゆっくりこちらに歩いてくる。子供が苦手なクーは椅子の上で少し逃げ腰になったが、しかし目の前で立ち止まる彼女をしっかりと見据える。
何をすればいいか――どうやら子供は頭を撫でられるのが好きらしいから、とりあえずごつごつとした自分の掌を眺めて、こんな手でも嬉しいのかと思いつつ彼女の頭の上に翳してみる。
軽くポンポンと二度程触れてみれば、彼女は不思議そうにこちらを見つめてくる。
その視線といえば、かつての病床のエトとは違う、可愛らしくついつい守ってあげたくなるような弱々しい視線。うっかり、『可愛い』などと思ってしまっていることに自分でも気が付いていない。
ゆっくりと椅子から立ち上がって、軽々と少女を自分の頭の高さまで持ち上げる。クーの身長は、そこら辺男子生徒のそれを画するものであり、かなり高い。そんな高所で肩車をされた時の少女からの全貌といえば――
「す、すごーい!」
ツンツンと逆立った髪の頭に両手を置いて身を投げ出すようにその景色を楽しんでいる。思った以上に微笑ましい光景となっているあろう状況にクーの口元がふと綻んだ。
そのままゆっくりと真っ直ぐに歩いてみたり、途中で右往左往してみたりする度に、頭上から楽しそうな歓声が聞こえてくる。
今、クーは心の底から感動していた。そう、今彼が体験している至福の喜びは。
初めて子供に懐かれたということだ。いや素晴らしい。シャルルでさえ怖気づく強い強いオーラを纏った屈強な戦士クー・フーリンの頭上で子供がはしゃいでいる。こんなことが自分の人生で起こるなど、予想だにしなかった。まさに奇跡。そう、生きていればいいことはあるのだ。不運まみれだった自分の人生、ついに冬を脱したのかもしれない。
その時、ドアの方で物音がした。振り返ってみると、そこには真顔でこちらを見つめているリッカの姿があった。
「よう」
手を挙げて挨拶してみたが、何を眺めているのかリッカの方は無反応である。
そして何かを考えるように顎に手を添えながら――部屋に入ることなく扉を閉めた。
「って、おい」
そして少ししてまた扉が開く。そしてそこにいたリッカの視線は、相変わらずクーの方へと向いていた。
そして、右腕から人差し指までを、前方やや斜め上くらいの角度で伸ばして、表情を驚愕に変えた。
「な、なんで――」
「なんで?」
「なんであんたに子供がなついてるのー!?」
響き渡る女の甲高い声。耳を塞がないとやってられないくらいにうるさかったが生憎肩には少女が座っていたので碌に耳に手を当てることすらできなかった。
とりあえず少女を下ろして、大事な情報をいろいろと入手することにした。
その結果、この少女はここロンドンで有名な時計塔、ビッグ・ベンがそびえ立つウエストミンスター宮殿の前で迷子になっていることを発見したこと、保護当時、少女は記憶を喪失しており、自分の名前から、どこから来たのか、自分は何者なのか、その他家族構成や友好関係なども全て覚えていないということ、その少女を、握っている桜の枝から便宜上『さくら』と呼ぶことにしたこと、リッカの意思もあり、検査の結果さくらが魔法使いであるという事実が判明したために、身柄の保護という名目で風見鶏で預かることにしたことが明らかになった。
「ふぅん、本当に何も覚えてねーのかよ」
今確かに耳にした事実だが、一応本人に確認を取ってみた。
するとさくらと呼ばれる少女は少ししゅんとして、しかし小さく笑顔を浮かべて首を縦に振った。
「うん、何も覚えてないんだ。でも、ここにはリッカも清隆もいるし、思い出せない内は考えても仕方がないからのんびり生活することにするよ。自分が何者なのか分からないのは怖いけど、きっと大丈夫」
子供のような用紙をしていながら、意外と芯は強いらしい。
この少女の意外な肝の太さと、楽観的というべきか、このあっけらかんとした態度をクーは面白いと感じた。自分のアイデンティティを喪失するということがどれだけ恐ろしいことか、誰もが体験したわけでもないが、何となく想像を絶するものだろうということは考えられる。その中で恐怖も絶望も感じず笑っていられるというのは、人として実に強い。
見た目の上では完全に子供だが、魔法使いだと判明した以上彼女の年齢は容姿以上のものと考えるべきだろう。すぐ近くに二十近くの見た目の百歳越えという
「ま、上手く仲良くあなれそうみたいだし、今後も面倒見てあげて。もし『八本槍』のコネで専門家の人がいるようなら、さくらの記憶を取り戻す手伝いをしてあげてほしいの」
何だか他人とは思えないのよね、と呟きながら、どこか母性溢れる眼差しでさくらを見つめるリッカ。
あまり他人に関心を寄せるタイプではないと自負しているクーではあったが、どうせ乗りかかった舟だと割り切って彼女の面倒を見ようと心に決めたのだった。
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放課後になれば、ロンドンの地下にある喫茶店、ケーキ・ビフォア・フラワーズ、通称フラワーズは甘い香りに釣られてふらりと立ち寄る風見鶏の生徒で賑わいを見せ始める。
そんなフラワーズには、一人の少女がアルバイトとしてせわしなく働いていた。
「すいませーん」
「はーい、今行きまーす!」
フラワーズの可愛らしい女性用制服に袖を通して、栗色のショートヘアを揺らしながら店内や屋外テーブルの間をパタパタと走り回っている少女。
ここ風見鶏でもお日様のような笑顔で人気のある美少女、
あちらこちらで聞こえてくる客からの呼び出し。何故か今日はいつも以上に客の入りがいいらしく、葵とその他二名のホールではなかなか回らない。空いたテーブルの皿を回収するのもままならず、客が並んでいるのを待たせている状態となっている。
このままではお客さんに申し訳ない、焦り半分でテーブルとフロアを猛スピードかつ慎重に行き来していた時に、その人物は現れた。
「なんだなんだ忙しそうじゃねーか」
逆立った青い髪に、真紅の瞳。見るからに強い強いオーラを解き放っているその男は、このイギリス、いやヨーロッパでは知らない者はいない。その男こそ、『八本槍』クー・フーリンである。
突如現れた理不尽を前に、恐怖で体が固まって皿を落としそうになった。それだけは拙いと咄嗟に体が反応して間一髪で拾い上げたものの、こんな大英雄を待たせたなどとなればこの四股と首は離ればなれになってしまうだろう。
「あ……あ……」
大変な事になってしまった。何かを話さなければならないのに言葉が出ない。気が付けば周囲の人間も完全に青ざめた表情でこちらの様子を窺っている。
どうする――どうする――震える体で思考だけはフル回転で働かせるものの、焦りと恐怖でまともなアイデアが浮かばない。先にこの男をどこかに座らせて最優先に注文を取るという考えが何故かこの時浮かばなかった。
「なるほどこれは身を隠すチャンスでもあるか……」
そう呟いたと思えばその視線はキッチンの方へと向いていた。
「フロアが足りねーのか。おいあんた、キッチンの連中を二人フロアに回せ」
「ひ、ひゃい!?」
裏返った声で返事をしてしまう葵。しかしキッチンも三人しかいない。一人でこれだけの人数の注文を受けて調理するなど不可能だ。しかしこの男はそれすらも見越していたのか、その口元には僅かな笑みを浮かべていた。
「心配すんな、キッチンは俺様が引き受けてやる。これでも料理経験は豊富なんだぜ」
料理とは真紅の槍で人間を滅多刺しにしては絶命させてその四股を分解し血の香りを楽しむことを言うのだろうか。
この男の『アイルランドの英雄』の伝説の内容を知っている葵にとっては、どうもこの戦闘狂に料理ができるとは思えなかった。
しかし、どちらにせよ『八本槍』がそう言いだしたのであれば聞かない訳にはいかない。下手に断ってしまえば客の料理が自分の血で美味しく悲惨にデコレートされてしまう。
だから結局深々と頭を下げるしかできなかった。
「よ、よろしくお願いします」
ずかずかとキッチンの方へと向かっていったクー。入れ違いに追い出されるようにキッチンから出てきた店員は、風のように駆け抜けてフロアの空いたテーブルの皿を次々と回収して下げていく。
フロアの回転速度が上昇したことで、客の回転も速くなっていく。
葵が心配していたクーの料理の腕前だが、実際追い出された二人がキッチンにいた時より、オードブルとしてのサラダなどのスタンバイは恐ろしく早く、客の方が圧倒的に多い状況下で、彼の前には既には二十を大きく上回る数のオードブルが並べられていた。オードブルだけでなくメインディッシュ系にも合間に手を出して簡単に片づけていく様はベテランシェフそのものである。
キッチンを追い出された二人がどう脅されたのか焚き付けられたのかは知らないが、キッチンの時以上に二人が働いてくれているのでフロアの方では人手が余る状態になり、葵は一度フロアを放置してキッチンで皿洗いに専念していた。
クーの手捌きは凄かった。何が凄かったかというと、効率を究極にまで極めていたのだ。そして一つひとつの手作業が半端なく速い。キャベツの千切りを見たが既に人の手の回転速度ではなかった。そしてこれが綺麗に一ミリ幅に切りそろえられていた上に盛り付けも丁寧である。どこでそんな技術を身に着けたのだろう。
結局、その日は閉店まで『八本槍』の男にキッチンを手伝ってもらうことで、いつも以上の作業の回転効率と売り上げを得ることができたのだった。
旅中でのサバイバル生活の中で、少ない食材で少しでも贅沢をしようと試行錯誤を重ねて完成したサバイバル料理術。さすが生き残りに特化した最強の戦士だ!
すでに客の間に出回っている料理を見て記憶していたためにどんな食材が使われているかはある程度推測でき、更にメニューの名前を聞いた上でその記憶から何を皿に並べるかを把握できており、結果ほとんど誰の指示を受けることなく作業をこなすことができた。
キャベツの千切りなら一秒足らずで一玉分仕上げられる。敏捷性の高いランサーなら余裕だね(白目)
なお作中で最も料理上手なのはアーチャーもどき。宮廷でたまに料理を振る舞っているという裏設定。今考えた。次点で姫乃。原作清隆曰く、食べたものから使った食材調味料などをある程度推測できるレベルらしい。D.C.シリーズ義妹カテゴリで唯一料理の天災枠から逃げ切った少女。代わりに絵が壊滅的に下手になりました。ドンマイ。