県大会決勝戦で強豪チームと当たって勝ち上がったと思ったら全国大会第一回戦で他の県優勝のチームがそんなに強くなかったとかそんな感じ。
話が進めば進む程強い敵が現れるとか、ラスボス級の強キャラだってそんなに空気読んでくれません。現実とは都合よく行かないもんなんです(ドラゴンボールで次々更新される宇宙一を見ながら)
先程のクー・フーリンとの闘いで、当然のようにエトは負けた。
クリサリス家の領地へと向かう電車の中で、体と心を休めながら、ほとんど記憶にない、一度倒れた時から再び倒れた時までの空白の期間に何があったのかを無理矢理思い出そうとしていた。
負けを認識した後に見た師匠の顔は驚きに満ちていた。きっと自分がとんでもないことをしていたのは間違いないのだろう。ぼんやりとしながらジルが観戦の感想を喋っていたのを聞いていたのだが、どうにも自分は凄いことしてしまっていたらしい。
何はともあれ、エトはクーに、クリサリス家へと向かうことを許されたのだ。別の形で、試練を乗り越えたことを認めたのかもしれない。
ロンドンから列車に揺られておよそ二時間。見渡せば緑が美しい自然と建物が調和した街並、コッツウォルズ地方にあるクリサリスの屋敷をエトはその目で確認する。流石名門と思わせるような、威厳と伝統を感じさせる、少し古風なつくりの巨大な敷地。これで本当に没落しているのかと、その真偽を疑わせるほどの屋敷の大きさには、見上げつつ口が閉まらなくなってしまう。
こんなところで呆気にとられているわけにはいかない。門柱の呼び鈴を鳴らして到着を知らせる。
門柱から女性の声がする。恐らく魔法によって通話が可能になっているようだが、丁寧でかつ淡白な物言いからすれば、恐らくサラでもサラの家族でもない、大方クリサリス家に仕えるメイドと言ったところか。
「リッカ・グリーンウッドさんの紹介で来ました、エト・マロースと申します」
クリサリス家に邪魔するためのアポは既にリッカが取ってある。どんな紹介文を差し出したのかは知るところではないが、魔法使いとして大先輩であり、そして誰もが知るところであるカテゴリー5に無理を言ってここまで漕ぎつけたのだ。彼女の善意を無駄にしないためにも、ここから先はどんな失敗も許されない。
クリサリス家のメイドは門柱越しに魔法によって明らかに歓迎してなさそうな声色で応答する。
荘厳な音を立てながら、巨大な門が観音開きに開く。エトとしても未だ先の闘いの疲れが完全に癒え切った訳ではないが、話をする分にはまだ大丈夫だろう。この後何か課題を出されることがあっても、話をしている間に少しでも休められればいい。
深呼吸を一つして呼吸を整え、丁寧に手入れが行き届いている庭を真っ直ぐに抜け、正面玄関に辿り着いた。
鍵が外れる大きな音を聞くとほぼ同時に、玄関が開く。エトがメイドの姿を確認して会釈をするが、貴様に尽くす礼などないとでも言うような冷たい目でエトを見るだけで礼を返すことはなかった。
「こちらです」
メイドの案内で、彼女の後ろについていくように応接間へと目指す。
道中屋敷の中を見回しては見たが、アンティークな雰囲気もあったものの、やはり清潔感は保たれていて、そのお蔭か木の床や階段の手すり、そして柱が黒く光沢を放っており、時代を重ねてクリサリスの住居として一族を重ねてきた証を見せているようにも思えた。
通された応接間で、メイドに座って待っているように指示され、一人で辺りを見回していた。
絨毯や置いてある調度品も恐ろしく古いもののようだ。腰掛けたロココ調のソファも古い見かけによらず丈夫である。
全体的に、いかにも昔からの英国貴族らしい内装。大きな暖炉の上に飾られてある大きな肖像画は、途中の廊下でも見かけた人物と同じである。恐らく初代クリサリス家当主のものだろう。いかにも紳士といった風貌の、しかしそれでいて責任感の強そうな男性である。
暫くその部屋で待機していると、一度メイドによって閉め切られていた応接間のドアが再び開いた。
長い髪を結いあげた綺麗な女性の後に続いて、車椅子の年寄りや中年の男女が次々に姿を現す。恐らく、サラの家族や親族だろう。その表情は、誰一人としてエトを歓迎してはいなかった。
部屋の出入り口、ドア越しで立ったままでまるですぐに立ち去ろうという魂胆が見え見えな彼らを視界に収めると、エトは冷ややかな彼らの態度に動じることなく立ち上がって一礼する。
「お初にお目に掛かります、エト・マロースと申します」
再び頭を上げて数秒、誰も挨拶を返すことなく沈黙が場を支配する。
すると、車椅子に座っていた老人が顔を顰めて低い声を発した。
「なんだこいつは、カテゴリー5の紹介と訊いて仕方なしに通したと思えば、ただの子供ではないか。こんな小僧相手など話にもならん、さっさと荷物を纏めて帰れ」
老人が自ら車椅子を動かして背中を向ける。
それに続くように他の親族もドアから離れて踵を返そうとする。
「少々お待ちください」
そんな彼らの脚を止めたのは、若々しい男の声だった。
整えられた短い亜麻色の髪、鋭い瞳は知性を携え、細い指先が眼鏡を押し上げる。サラに見せられたプロフィールの写真の男、ディーン・ハワードである。
魔法犯罪専門の魔法捜査官であり、かつて風見鶏を上位で卒業したカテゴリー3のエリート。一度テロリストの集団を見事な手際で一網打尽にしてみせた功績が高く評価されており、知名度としても実力としても安定したものを持ち合わせている。
クリサリス家の親族が道を開けると、その間を抜けるように姿を現す。エトは、その男の顔をじっくりと眺めた。
これが、サラの政略結婚の相手になる予定の男。魔法使いとしての地力もあり、それなりのカリスマ性も持ち合わせている。クリサリス家の再興の駒としては申し分ない方だろう。
しかし、そんなサラの望まぬ結婚を、エトは望まない、認めない。
「君が、エト・マロース君だね」
彼もまた、エトを歓迎しているようには見えないが、一応礼儀は欠かさず握手を申し出る。エトは差し出された手を両手で握り返すと共に、彼には気付かれないように小さく敵意を飛ばして見せた。日頃から殺意や敵意をコントロールしているというか師匠によってそう調教されているエトにとってそれくらいは造作もない。
「エト・マロースです。以後お見知りおきを」
「姉のことはよく耳にしているよ。私たちが風見鶏を卒業した後も、献身的に学園を支えてくれているようで何よりだ。今後の活躍を期待している」
「……ありがとうございます」
姉のことは高く評価されているようだ。王立ロンドン魔法学園の生徒会長というものは、それだけで魔法使いの信頼を勝ち取っているようなものである。今後は魔法使いの社会の中でも様々な責任と共に活躍する機会が増えるだろう。シャルル・マロースは、周りからも生徒会長としての能力を十分に持ち合わせていると高い評価を得ている。
しかし、今の言葉も、周りの評価も全て姉のものでしかないのだ。
「しかしディーンさん、今のは全て姉の評価でしかありません。調べさせてもらいましたが、如何にサンタクロースの一族の息子とは言え、魔法の才能はほとんど姉に持っていかれたも同然、そんな子供に何ができるというのですか」
サラの母親であろう女性がエトにとって辛辣な言葉をディーン・ハワードに投げかける。エトはともかく、ディーンもその言葉を冷静に受け止めた。
どうやら見た目と同様、性格も人格も知的で冷静沈着なのだろう。眼鏡を持ち上げては女性の方に向き直った。
「しかし紹介文によれば彼は、かの孤高のカトレア、リッカ・グリーンウッドから魔法を学び、『八本槍』の一人であらせられるクー・フーリン殿に師事しているとのことではありませんか」
顔色一つ変えることなく、至って冷静に言葉を返すディーン、どうやらそこまで悪い男ではないようだ。
「そんなもの、文面ではいくらでも嘘偽りを書くことはできます。そもそも『八本槍』との密接な関わりがあるなどと言う辺りもどうせ口から出たでまかせなのでしょう」
「確かにその通りです――が、彼はここに来た」
ディーンはまるでここが自分の家であるかのようにエトに椅子に座るように促し、自分もまたテーブルを挟んでエトの反対側に来るように椅子に座った。
「理由は一つしかないでしょう。私とクリサリス家の縁談を邪魔しに来た、と。――立ったままでは疲れましょう。お座りになってはいかがでしょうか」
完全にこの場の主導権を握ったこの男は、クリサリス家の人間も思い通りに動かしていく。
しかし、過程がどうあれここにクリサリス家とディーン・ハワード、そしてエトの三者が話し合う席が成立したのだ。
「本当に彼がかのご高名な二人に師事しているのかどうか、そしてそれが実力として戦力たるものなのか、ここに示しに来たというところでしょうか」
眼鏡越しの鋭い視線がこちらへと向けられる。
エトはその威圧的な視線に対して臆することなく視線を合わせた。
しかし、その時サラの母親と思われる女性がおもむろに立ち上がり、そしてここにいる全員に言い聞かせるように言った。
「その必要はございません。シャルル・マロース本人が出向いてくるならなおのこと、才能を姉に持っていかれた彼に見せてもらう力などありません。それに、社会的地位にしてもディーンさんの方が信頼できますし、クリサリス家再興のための大きな力となりましょう。こんなことで波風を立てるなど、時間の無駄です」
部屋から出ようと足を動かそうとする女性に、ディーンの声が突き刺さる。
「みっともないですよ」
ビクリと小さく震えて、咄嗟に足を止める。若干慌てたように振り返り、ディーンのことを睨みつける。
「挑戦状を突きつける相手に無闇に背を向けるのは、弱者のすることだ。クリサリス家が本当に将来再び栄光を取り戻す程の力があるというのなら、少年の無謀で勇敢な挑戦を一蹴するのはやめてください。そんな情けの知らない家に――私は行きたくはないんです」
「な、何を――」
「待ちなさい」
肩をわなわなと震わせる女性に、また別の声がかけられる。
新しく部屋に入室してきたのは、紳士的な風格を持つ男性だった。どことなくサラと似ている気がしないでもない。恐らく彼女の父親であり、女性の夫であると思われる。
「私が帰ってくるまで待っているようにと指示をしたはずだったが?――ディーンさんも、わざわざ茶番に付き合せてしまい申し訳ない」
サラの父親の登場と、彼の謝罪の言葉にディーンが立ち上がり、一礼する。
遅れてエトも立ち上がり、サラの父親に対して挨拶をした。彼もまた紳士的に挨拶を返す。
「妻たちの無礼な振る舞い、どうかお許しください。私がクリサリス家当主、ネイト・クリサリスです。よろしく」
彼が差し伸べる手に、エトは両手で応えた。再び簡単に自己紹介をして、再び会談の席に着く。
ネイトがメイドに指示をして、素早く茶を人数分用意してテーブルに並べる。流石貴族というべきか、香りだけで紅茶が高級であることが分かる。
「それでは、さっそく本題に入ろうか」
ネイトが両手を組んで、無遠慮にエトに視線を向ける。
無論、今回家同士の縁談に勝手に介入し引っ掻き回しているのはエトである。異分子である以上、真っ先にその意中を明らかにしておきたいというのはクリサリス家にとってもディーン・ハワードにとっても同じことが言えるであろう。実際に、エト自身のいち早く自分の目的を伝える腹積もりでいた。
「エト・マロース君、君は、家同士の大事なお話を邪魔しようとして、一体何がしたいんだね」
それは、侮蔑でも糾弾でもない、純粋な疑問。
いや、むしろエトの腹の中をある程度推測した上で、エト自身を試しているのかもしれない。
「僕は、サラちゃんを奪い返しに来ました」
「なるほど、君にとって私は恋人を奪った仇ということになるのか」
エトの宣言に、ディーンは眼鏡をくいっと上げて、真面目な顔のままでそう皮肉を飛ばす。
エトは彼のその言葉を無視して、ここにいる全員に心中を吐露し始めた。
サラ・クリサリスという一人の少女。彼女が宿命と共に背負った責任と義務と重圧。それを誇りだと言った彼女の言葉に嘘偽りはないこと。
クラスメイトとして共に過ごしてきた中で垣間見た彼女の努力と人間性。寸分たりとも怠けることなく、自己の研鑽のためだけに時間を割いて。
想いが通じ合った後、家の代表としてエントリーするクイーンズカップで勝利を掴むことを目標にして、協力し合って弱点の把握と対策に心血を注いだ。
そして第一回戦、思いも虚しく衝突することとなった相手は、カテゴリー5――リッカ・グリーンウッド。
誰もがサラに勝ち目などないと確信している中で、強大な敵に追い縋り接戦を繰り広げる中で、二人の戦いに会場中が熱を帯びた。
結果敗北という形になったが、その一戦が、サラ・クリサリスの名をそこにいた全員に刻み付けることとなったのは言うまでもない。
そんな彼女に、家族が送った言葉は何だったか。
その言葉をエトは知らない。聞いてすらいない。
それでも、その言葉を聞いたサラは、どうしようもなく絶望に叩き落とされた。立っていられなくなるほどの衝撃を心に味わったのだ。
そして送られてきた戦力外通告の紙切れが、彼女を虚ろな人形へと変えた。何も写さないその瞳は、全てを失ったとすら語らせてくれない。家族の期待という最後の信じる絆が断ち切られた今、サラは何を思って生きていけばいい。
「クリサリス家の皆さんが渇望するものは果てしなく大きい。そしてそれは皆さんが絶対に手にしなくてはならないもの。力のない一族の中で、ほんの少しの希望を持ったサラちゃんに全ての期待をかけたくなるのも、その理由も分かっています。でも、そのせいで」
エトは一度そこで言葉を切る。
本当に大事なのは何か。それを彼らに理解させるためには、ここで声を大にしなくてはならない。
「彼女は一度大切なものを全て失いかけた」
家族からの信頼も、期待も、家族に対して報いたいという誠意も、努力の末にここまで築いてきた結晶も、何かを楽しむ心も、誰かを愛する気持ちも、誰かに愛される温かさも。全て、何もかも一枚の紙切れで失いかけた。
「だから僕は、彼女がその全部を失わないように、彼女の傍にいてあげたい。そして同時に、彼女が幸せであるために、クリサリス家の悲願を成し遂げたい。だから、僕が言いたいのは一つだけなんです。僕に――サラちゃんをください」
ふむ、とネイトが頷いて、顎髭を撫でる。
そして考え込むように瞳を閉じ、そして声を出した。
「だ、そうだ。――入りなさい」
扉が開く。弱々しい足取りで、こちらを見つめながら入ってきた少女は、サラ・クリサリスだった。
あの時よりは心身共に回復しているらしいが、未だに心を病んでいるようにも見える。虚ろな瞳で、しかしエトを心配そうに見つめる眼差しが、エトにはよく分かった。
エトは椅子から立ち上がり、しっかりした足取りで、呆気にとられたクリサリス家の人間を無視してサラの方へと歩み寄る。
隣に立った時、恐怖からなのかは分からないが、わずかに肩が震えた。
その肩に、そっと慰めるように手を置く。サラの視線が、エトの瞳と重なった。
ただ一言、大丈夫と。エトはサラにそう伝えて。
「どんな試練でも難題でも乗り越えてみせます。なんせ、さっきまで世界最高峰の無理難題に付き合わされたばかりなので」
自信に満ち溢れた笑みで、サラの肩を抱きながら宣言してみせた。
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クリサリス家の課題の準備中、エトは控え室に通されそこで待機していた。
今回この課題に挑戦するのはエトであり、ディーン・ハワードは参加しない。元々この縁談自体がクリサリス家とハワード家のものなのだから、ディーンまで試されるいわれはない。
そしてエトの中では、今回何でエトの実力が試されるのか、大方の予測は立てられていた。まずはクリサリス家で行われるものである以上、クリサリス家の人間ができる範囲のものである。そのため、魔力の少ないクリサリス家にできないような、強大な魔力を必要とする課題はないと考えていいだろう。そして術式魔法をテーマとしている一族である以上、理論や技術と言った面が大きく試されることになるだろう。そして何故このような状況になっているのか、その大元の原因を辿ってみれば、それら全てを考慮してみると一つしかない。それは――やはりグニルック。
準備完了との合図が出たので指示通りに屋外に出てみれば、そこには広々としたグニルックの競技場が広がっていた。隅に設置されていた簡易の観客席にはクリサリス家の人間とディーン・ハワードが着席している。
「これから君にはグニルックをプレイしていただきます。そして、こちらが定めたルールの上で、こちらが指定した得点以上を上げることができましたら君の実力を認めましょう。そして、今回の縁談も中止とし、君の願いを聞き入れるとします」
いいですね、と隣に座るディーンに確認を取ると、彼は無言で頷いた。
「ちょ、ちょっと待ってください、お父様!こちらの定めたルールって、そんな――」
エトの近くにいたサラから非難の声が上がった。今思えば、サラの声をまともに聞いたのは久しぶりかもしれない。
しかし、ここで安心してなどいられない。相手がルールを定め、それをエトが飲み込む以上、どのような卑劣な手を使われても文句を言える筋合いはない。この時点でエトが圧倒的不利な立場に立たされるのは確実と言えた。それに、当然ここはアウェーである。実力を認めさせる以上、偶然やまぐれなどでクリアしたところで意味がない。
「サラの気持ちはよく分かる。だけどね、これはクリサリス家の未来がかかっているということなんだ」
サラの父が、サラを諭すようにそう言う。そして、周りに視線を向けると、そこには親族の冷たい表情があった。
「見てみなさい、周りを。今の時点では誰一人として彼――エト・マロースをサラの婚約者とは認めていない。それに、決してこの家だけの問題だけではないんだ。様々な問題が、サラとマロースさんの間には立ちはだかっている。だから、彼には悪いが、こちらが最大限に求める資質を示していただきたい」
心配そうに父とエトの間で視線を彷徨わせるサラ。
ふわふわとしたサラをしっかりと傍に置いておくように、エトは彼女の肩を捕まえた。
肩をびくつかせたサラは、自分よりも少し大きな背のエトを見上げる。エトが見た彼女のその瞳には、僅かながら安堵の色が見えた。無論、心配であることには変わりないだろうが。
しかし、それもまた、信頼の証。いつだって二人で頑張ってきた。
「僕がサラちゃんも、サラちゃんの家族も、幸せにしてみせる。僕にはそうしなければいけない義務と責任があるから」
そう、それは進むべき道を決めた者にのみ課される使命。
グニルックのフィールドの向こうに設置されてあるターゲットパネル4を見据える。
まるでそれがスクリーンであるかのように、世話になってきたたくさんの人間の顔が脳裏を通り過ぎで写し出される。
耕助や清隆を始めとしたクラスメイト、生徒会長であり、大切な姉である、かつて病で床に臥せていた時にいつまでも傍にいてくれたシャルル、いつもどこかで見守り、優しく迎え入れてくれたジル。大いなる実力と人望で築き上げられた人脈を上手く使い、サラを取り戻すまでの架け橋をつくり
その全てがいてくれたおかげで、今ここに、サラの隣に立つことができている。もう、それだけで何も怖くない。彼らの恩に報いるためには、この試練に成功するしかないのだ。
「では、早速グニルックをプレイしていただきましょう」
ネイトがそう言うと、グニルック競技場から魔力が感じられた。全ての準備が整ったのだろう。
「フェーズ数は公式ルールと同じ八フェーズ、奇数フェーズがショートレンジ、偶数フェーズがロングレンジであることも同じ、ショット回数もターゲット4の時は二回、ターゲット9の時は四回とします。つまり、基本的なルールに関しましては公式のものと同じと考えてください」
エトはネイトのルール説明を頭の中で反芻する。
フェーズ数も同じでショートレンジ、ロングレンジと言っている以上フィールドも同じ、ショットの回数も同じであれば、理不尽な要求こそされることはなさそうだ。しかし、今の説明の中では、公式ルールと同じかどうかが説明されていない要素がある。
「ガードストーンの設置は、その都度こちらで行います」
エトが眉を顰める。
そう、ガードストーンについての言及がなかったのだ。そしてそのガードストーンが彼らの采配によって自由に設置できるのなら、ここを理不尽な設定にすることでエトを試すはずだ。
「そしてクリアポイントですが、前八フェーズ合計で四十五ポイントということでどうでしょう」
ターゲットパネル4は一、三、五、七フェーズであり、ターゲットパネル9は二、四、六、八フェーズである。つまりパーフェクトで五十二ポイントとなり、エトがミスショットによって許される損失はたったの七ポイントになるということだ。特にターゲットパネル9の方は一度でも失敗したらパーフェクトは達成できない。
「分かりました、では、始めてください」
そう、ネイトに言葉を飛ばす。
ネイトは一度頷くと、大きな声で宣言して見せた。
「それでは始めます。第一フェーズ、ターゲットパネル4、ショートレンジ、ガードストーン――12です」
「なっ、じ、12!?」
音を立てつつそびえ立つ膨大な量のガードストーン。
公式ルールでは、第八フェーズで決着がつかなかった時、延長戦としてサドンデスで設置されるのでも六体だ。
そして、今回エトの目の前に立ちはだかったのはその倍の数。かつて見たことのない圧倒的な城壁を前に、エトは再び覚悟を決めた。
さぁお膳立ては済んだ、後は暴れてもらうだけだね!
実はこのD.C.シリーズの世界観で魔法は想いの力、即ち心とか気持ちとかそう言った領域から湧き出る力だから、しっかりと下準備をしておけば覚醒イベント的な何かで誰もが強くなれる可能性があるんです。お役目の力を受け入れ覚悟を固めた姫乃なんかも今では清隆以上の力を持っているかもしれないです。だってあの華奢な体の中には封印されしエクゾ――じゃなくて『鬼』が宿っているんですから。
ちなみに魔力量で上下をつけるなら
キャスターもどき>>アデル・アレクサンダー>アルトリア(セイバーもどき)>ライダーもどき>>リッカ>ジェームス(アーチャーもどき)>エリザベス>姫乃>清隆>シャルル>ジル>巴>イアン>エト>>サラ
ってな感じだと思います。アニキはルーン魔術は方向性が違うということで除外。メアリーとかはちょっと分かんないです。多分イアンとエトの間くらいかな?
なおこの相関図?は本編でちっとも役に立たない模様。