満身創痍の英雄伝   作:Masty_Zaki

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サラは慌てている時が一番かわいいのです(確信)


真実への標(しるべ)

「B組、全員いる~?」

 

「C組、点呼とるから並んで」

 

 霧に包まれたロンドン、貴族や上流階級の人間がよく使う由緒正しいこの立派なホテル、ハイドパークホテルの前で、各クラスマスターの声が聞こえてくる。

 今回ここに集合することになったのは他でもない。ここ、ハイドパークホテルが、テロリストの手によって占拠され、更に爆弾が設置されたとの情報が入り、その事件を解決するための≪女王の鐘≫のミッションとして、予科1年生と本科生の有志がここに集められたのだ。話によれば、今回のテロ集団はアグレッシブで、リーダー格以外の構成員の恐らく一部が立てこもっているとのこと。人質の有無は未だ確認されていない。

 作戦としては、最初に有志の本科生が先にホテル内に突入し、人質の存在が確認された時は彼らの身の安全を最優先とした上でテロリストを攻略、続いて予科生が設置された爆弾の捜索、撤去を行うというもの。なお、今回の作戦には『八本槍』クー・フーリンも参加しており、彼もまた先陣を切って突入しテロリストを攻略する将を務めるようだ。彼だけで十分戦力的にオーバーキルな気がしないでもないが、確実性を考慮した上でのことでもある。

 ふとエトは、ハイドパークホテルのその全体を見上げた。かなり立派なホテルで、その分中は広いだろう。捜索するにはなかなか骨が折れそうである。

 今回の依頼は爆弾の捜索、失敗すれば爆発、いるかどうかも分からない人質の人まで巻き添えにしてしまう。それ以上に、爆発によって四散する瓦礫に接触して死傷する人もいるかもしれない。そう考えると、初めて人の命のやり取りを目撃することになるかもしれないエトは、否が応にも緊張を感じざるを得なかった。

 いろいろ考えていると、エトの隣に誰かが並び立つ。首を向けると、そこに立って同じくホテルを見上げていたのは清隆だった。

 

「何だか、物騒だな」

 

「そうだね」

 

 どうやら清隆も難しそうな顔をしている。しかし他の生徒たちとは違って、どこか余裕があるというか、自信があるように見えないこともない。

 

「清隆は、平気そうだね」

 

「平気って、これでも結構緊張してるつもりだけど」

 

 緊張していると言えば、目が泳いでいるとか、ソワソワしてじっとしていないとか、そう言う風な感じで落ち着きがないことを指すのだろうが、こと清隆に限ってはむしろいつも通りで肩の力も抜けており、そう言った様子は一切見受けられなかった。これで緊張していると言われても納得がいかない。

 

「俺、魔法使いの社会がどういう風になってるのとか、よく分かんないけどさ」

 

 ふと、清隆が独り言のようにも聞こえる口調で、何やら難しそうなことを話し始める。

 

「リッカさんの受け売りなんだけど、俺たちがこうしていられるのって、今のリッカさんや学園長たち、もっと言えば魔法使いの大先輩たちの頑張りのおかげだと思うんだ」

 

 かつてのヨーロッパで、魔女狩りが始まり、魔女ではないかと疑いをかけられただけで処刑されるという、残虐な過去があった。その苦しみを乗り越えて、なお魔法使いはそうでない人に歩み寄ろうとたくさんの努力を重ねている。同じ人間だから。きっと分かり合えるはずだから。

 

「だから、辛抱しないといけないこの時期に、暴力に訴えた行為でみんなの信頼をなくしてしまうのは、辛いんだ。俺だけじゃない。きっとみんな、そう思ってる」

 

「だったら、僕たちがしないといけないことは、今は一つだけだよね」

 

 清隆の視線がこちらに向いた。真剣な眼差し――魔法使いの卵として、これから死ぬかもしれない場所へと赴く人間として似つかわしくない、覚悟の固まったようなその表情に、エトはほんの少し安心してしまう。彼はきっと、リッカやジル、そして姉以上に素晴らしい魔法使いになってくれると。

 そして清隆は、最後にこう言った。

 

「ああ、誰一人傷付けずに、ホテルの中の爆弾を全部撤去する」

 

 無論、それは清隆一人の力ではない。ここにいる全員の力を一つに合わせて、この事件を解決するのだ。

 エトもまた、みんなのために力を尽くそうと心に誓うのだった。

 清隆が姫乃たちの方に去った後、エトは視線である少女の姿を探していた。学園に入学してからずっと気にしていた少女、堅物で融通の利かない、でも家族のために一生懸命に努力を続けている少女、サラ。クリサリス。その姿をエトは、すぐに見つけることとなった。その手には、何やらノートくらいの大きさの紙が両手に握られている。

 

「サラちゃん、それ、どうしたの?」

 

 覗き込んでみれば、その紙には四角に囲まれた線が、ずらりと規則正しく並んでいるのが分かる。サラが建物とそれを見比べている辺り、恐らくハイドパークホテルの部屋の配置図と言ったところだろう。こう言ったものを所持している辺り、サラはこう言ったことの配慮がよくできている。

 エトは、サラの隣に並んで同じようにその配置図を覗き込んだ。肩と肩が若干触れ合っているが、エトにとっては大したことではない。

 

「何か発見あった?」

 

 そう問いかけながら、至近距離のサラの顔を覗き込んでみると、妙に顔が赤くなっていた。こんな状況だ、緊張しているのだろう。むしろ清隆のように正気でいられる方が、この状況では珍しいのだ。

 

「い、いえっ、まだ見始めたばかりなので、何ともっ」

 

 若干声が上ずっている。いつも冷静沈着なサラがここまで取り乱しているというのも珍しい話だ。確かに失敗できない任務である。魔法使いとして、失敗は許されない。ただでさえ家族の期待を背負っているサラが、他の連中との連携の中で責任を負わされるのだ。もしサラでなければ、発狂することもあるだろう。

 

「でも、地図なんて見て何か分かるの?」

 

「で、デッドスペースを探してるんです」

 

「デッドスペース?」

 

 聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 するとサラは、地図上の線の外、つまり壁の外に該当する箇所を指差してみせた。

 

「壁に囲まれた、死んでいる空間のことです。外から見た広さと部屋の配置があっていない場合、どこかに隙間があるはずなんですが……」

 

 そこに爆弾があるかもしれない、ということなのだろう。しかし納得のいかないような顔をしている辺り、そう言ったものは見受けられないらしい。

 しかし、地図を見ていることで構造を把握していることは、それだけで制圧の効率を上げることができる。彼女自身も動きやすいだろうし、移動中に大まかな推測を立てることができる。

 

「きっと大丈夫だよ、サラちゃん」

 

「……そうですね」

 

 そっけなく、淡白な返事で返された。緊張している自分を、集中させたいのだろう。相変わらず何故か顔が赤いのだが、今の彼女の集中を途切れさせるわけにはいかない。エトはサラの傍を離れようとして、最後に一言加えておいた。

 

「何かあったら、僕を呼んで」

 

 それだけを残して、エトは一旦リッカの傍に集まっているクラスメイトの集団のところに戻っていった。

 なおその結果、サラは一人であわあわし始める。きっと自分で抑えられないくらい緊張が高まってきたのだろう。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そして、総指揮官を務めるシャルルの合図の下、作戦が開始された。

 クーを先頭とした本科生の集団がゆっくりと建物内に侵入していく。それに続いて予科生もハイドパークホテルの中に足を踏み入れていった。

 そして、各クラスマスターの指示の下、ある程度の少人数のグループで集団を分裂させ、指示された通りの位置へと向かう。

 エトはサラと共に、ホテルの二階部分、南側の部屋を回っていた。

 同じような配置の部屋が並んでおり、各部屋を隈なく探しているものの、爆弾の気配は一向にない。爆弾そのものは魔法でできているらしく、どのような魔法で構成されているかは定かではないが、魔法使いが近づけばそれなりには第六感のような何かが反応してくれるはずなのだが。

 

「だめだね……」

 

「そうですね……」

 

 二つセットされてあるベッドの下からはい出た二人が汗を拭いつつ溜息を吐く。このような緊迫した状況の中で、なかなか進展がないとなれば焦りもする。

 とりあえず再び地図を開いてみて、探し忘れた場所がないかをチェックしてみる。サラが先程言っていた壁の中、デッドスペースは彼女が使う魔法で探知しているのだが見つかってはいない。爆弾の設置すらも魔法でしているかどうかも分からないため、実際にどのような位置にあってもおかしくはないのだ。

 一度部屋を出て、隣の部屋へと場所を移してみる。そして先程までと同じように部屋の中をチェックしてみて、爆弾がないことを確認する。上の階から『シャラクセェ!』などと楽しそうな叫び声が聞こえてくるが、気にしてはいけない。

 やはり見当たらない。自分たちが担当している箇所に爆弾は設置されていないのだろうか。再びサラと地図を見比べてみようとした、その時――

 

「――!」

 

 咄嗟にサラを抱いて、ベッドに飛び込む。サラが下となり、押し倒す形となる。

 自分が何をされたのか、一瞬思考が停止して、そして状況を把握して、顔を真っ赤にして烈火のごとく暴言をぶちまけようとしたその相手は、自分とは違う方向を見ていた。

 

「チッ、外したか」

 

 その先には、拳に一振りのナイフを握った、不気味な覆面を被る、恐らくテロリストの一人。

 彼は外したと言った。つまり自分たちに対してその刃を突き立てようとしたのだ。エトが反応していなければ、今頃死んでいたかもしれない――

 

「先輩たちが取り逃がした……?」

 

 エトはサラを庇う体勢でそう呟く。実際、この階層は既に上級生の手によって攻略されているはずだ。だからこそ下級生が満を持して爆弾の捜索を行うことができる。しかし今ここにこうやってテロリストが目の前にいるというのは、どういうことなのか。

 

「ここから動かないで」

 

 そう言って、相手を警戒しながらゆっくりとベッドから降りる。

 サラは動かないでと言われたが、そもそも体が恐怖に支配されてまともに動けやしない。

 次の瞬間、テロリストが動いた。刃を真っ直ぐ突き立て、エトの方へと突進する。エトは動かない。ただ自分の制服のボタンに指をかけ。

 地面に乾いた音が響いた。ナイフが転がり落ちている。視線を戻すと、エトとテロリストがその場で膠着していた。

 エトはあの一瞬で上着を脱ぎ、それを盾としてテロリストのナイフを凌ぎ、その後の身のこなしで彼の拳からナイフを奪ってみせた。その後、体格の大きなテロリスト、そして何とか自分の技で持ちこたえているエト、せめぎあっている状況に動きが取れない。

 サラは咄嗟に落ちたナイフを拾い上げて自分が座っているベッドへと突き立て、テロリストの手に渡らないように処理をしておく。

 エトがテロリストから離れる。力でねじ伏せられそうなところを素早くステップを踏んで回避、一度距離を取って相手の様子を見る。

 部屋の出口は完全に相手に塞がれている。外部からの応援を待つ手もあるだろうが、基本的に周囲をうろついているのは予科生である。最上階の方にいるクー・フーリンはもちろんのこと、クラスマスターであるリッカもここから離れた位置で指示を出している。自分で対処した方が手っ取り早いか。

 テロリストが右足を動かす、そして――姿を消した。

 

「なっ――!?」

 

 一瞬の出来事に目を疑うが、すぐに警戒を強める。周囲のどこから来てもおかしくない。耳に、目に神経を集中させる。

 風を切る音、左から側頭部に向けての一撃。両腕をクロスさせて防御の構えを取り、急な衝撃に吹き飛ばされる。壁に体を打ち付けてそのまま地面に倒れ込む。後ろからサラの悲鳴が聞こえてきた。

 バックステップを踏みながら後ろへと移動しつつ立ち上がる。しかしテロリストの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「くそっ」

 

 このままではハイドパークホテルどころか、サラや自分自身ですら守ることができない。焦りが体中を駆け巡り、体温が高くなるような錯覚を覚える。

 背後から殺気、しかし遅かった。気が付けば地面を転がって、部屋のドアへと打ち付けられる。

 

「いやっ、放して……」

 

 サラの声。横になったままで目を開けてみたら、サラが窓際でテロリストに抱えられ、喉元にナイフを突きつけられていた。

 

「サラ、ちゃん……」

 

 とりあえず、仕組みは分かった。何故上級生がこのテロリストを取り押さえられなかったのか、何故自分の目の前から突如姿を消しては不意打ちを成功させられるのか。

 恐らくは、光を屈折させるか、認識を阻害させるか、方法としては分からないが、彼はエトの五感に察知されないような魔法を行使している。それを使って、上級生がここらを調べている最中は姿を眩ませていたのだろう。そして同じ力を利用して、今エトを圧倒している。

 しかし、問題はそこではない、そこではないのだ。今目の前で、友達が泣いている。助けてと心の底から叫んでいる。そしてそれが、自分が招いた悲劇だというのなら、それはこの手で始末をつけるべきだ。

 脳裏に、ある男の背中を思い浮かべる。誰よりも強く、強かで、気高い存在。かの男の隣に並び立てるようになりたいと、ずっと胸の中にしまい込んでいた。

 今ここで、敗者となるわけにはいかない。彼が言うのだから。常に勝者たれと。生きて、勝って、己の価値を貫けと。だから、彼女を魔の手から救い出すまでは、死んでも立ち上がる。

 ドアノブに掴まって、体を支えながら立ち上がる。そして、扉の傍にあった傘立てから、ここから逃げたのであろう利用客の者と思われる傘を引き抜いて、そこに魔法を通していく。

 強化――ただひたすらに強化。

 そして、力強くテロリストを睨みつけた。

 その双眸に、テロリストは軽くたじろぐ。ただのガキに、まるで獅子のような鋭い視線を向けられるような錯覚、これからお前を食い殺すぞといわれているような気がして、足元から怯えが湧き上がってくる。

 しかしエトは動かない。ただその場で足踏みをして、傘を構え、状況を観察している。

 テロリストは、彼が一歩でもこちらに近づけはこの 少女を使って脅すつもりだった。もう一歩そこから近づけばこいつを殺すと。それを相手も理解しているのだろう、近づいてくる気配はない。

 彼にしても、そろそろここから脱出しなければ、恐らく応援が駆けつけるだろう。それまでに目の前の少年をなんとかしなければならない。

 あれやこれやと考えていると突然――

 

「――っ!?」

 

 腿に激痛が走り、思わず膝をつく。視線を上げてみれば、銀髪の少年が、鋭い真紅の瞳でこちらを捉えて、傘を振り上げ飛びかかってきていた。

 対処できる余裕はない。思わずナイフを持った手で体をガードする。指を打たれ、ナイフが再び宙を舞う。

 エトはそれを空中で弾き飛ばし、そのまま傘を脇に引き戻し、再び射程に入った瞬間、一気にそれを前に突き出す。

 右肩への刺突、骨までやれただろうか。悶絶している彼から一旦サラを引きはがし、テロリストを地面へと捻じ伏せる。ベッドにあった毛布を適当な長さに千切って、両腕を後ろで拘束させる。そしてそれをベッドの足に固定して、エトはどっかりと椅子に座り込んだ。

 

「さ、サラちゃん、大丈夫?」

 

「エトの方がっ、こんなにっ……!」

 

 見てみれば、衣服はボロボロ、庇ったつもりだった頭部も、綺麗な顔には切り傷をつくっていて、白銀の髪もぼさぼさになっていた。

 とは言え、触れ回ってはいないのだが、彼はあの『アイルランドの映雄』の弟子なのだ。訓練で何度も手合せしたこともある。かの男は人間の弱点というものをこれでもかという程熟知しており、そんな彼からすれば、訓練でも力は抜くが手は抜かない、つまりとことん弱点を狙って攻撃をしてくるのだ。そんな猛攻を受けてきたエトにとって、たかがテロリストの一撃など、痛くはあるが過去のそれと比べれば大した事でもなかった。

 

「僕は大丈夫だから、とりあえずこの部屋をでよう」

 

 廊下に出た後、とりあえずエトはリッカにテロリストと遭遇、そのまま交戦し捕縛したことを連絡しておいた。身を案じるとともに、とりあえずは無事で安心したこと、そして大きな活躍を称える内容のテキストが届き、とりあえず一難去ったことをようやく自覚して安堵の溜息を吐く。

 安心したのか、無事で嬉しかったのか、ひたすらにエトの胸で泣き続けるサラの髪を撫でてやりながら、疲れ果てたエトはその場で待機することにしたのだった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 事件から数日後、クー・フーリンはある場所へと足を運んでいた。

 目の前には、とある大きな古い館、恐らく二、三百年以上前からあるのではないかと思わせるような古臭さは、本当にここに人間が住んでいるのか同課さえ疑いを抱かせる。

 しかしクーにとってはそんなことはどうでもよかった。ここに居座っているのはそもそも、人間の域を超えた者なのだから。

 正門から建物の入り口のドアまで、長い通路の丁度真ん中辺りで建物を見上げていると、ドアが開き、目的の人物が姿を現した。

 黒を基調としたローブを着込み、同じく黒のフードを目元まで被った謎多き女、『八本槍』が一人、『歩く禁呪(フォビドゥン・ゴブレット)』。カテゴリー5の中でもずば抜けたトップクラスの魔法使いであり、リッカ・グリーンウッドですら畏怖する程の実力の持ち主。

 そんな彼女に会いに来た理由など、一つしかない。

 

「私に会いに来るのは、正解であり、不正解」

 

 意味の分からないことを言ってのけるこの魔法使いは、しかし実に的を得たことを言っていた。その理由は、続けて彼女の奥地から出ることになる。

 

「そう、このロンドンを覆い尽くす、霧の魔法。その正体。そして、魔法といえば、私しかいない」

 

「だがテメェは教えない、それを分かっているから最初からエリザベスはテメェを当てにしてない」

 

 十一月が始まって辺りから急に濃くなり始めたロンドンの霧。恐らく魔法が関わっているであろうということで、女王陛下の超法規的措置における命で『八本槍』を総動員し、初めて全員を動かすに至った。しかしそれでもなお、取り組みの具合は個人に任されるのだが。

 

「私の禁呪は、私の娘のようなもの」

 

 そのフードのせいで、相変わらず表情は読めない。何を考えているのか、想像すらつかない。

 

「いえ、正確に言うなら、その逆――なのでしょう」

 

「禁呪、なんだな」

 

 クーの確認に、女の唇が笑った。

 一瞬の動作の下に槍を構え、刹那の時間に女の喉元を食い千切れる等に狙いを定める。

 

「今すぐ魔法を解きやがれ」

 

「残念ながら、私は術者ではない。運命の核は、私ではないもの」

 

 女の唇から、微笑が消えていた。

 

「知ってはならない。そこに残るものなど、何もなくなるのだから」

 

 不穏な言葉だけを残して、彼女はその場から姿を消してしまう。

 最も正解に近いはずなのに、まるで遠いようなこの違和感。体中が警鐘を鳴らしている。答えに近づいてはならないと。

 開けてはいけない不幸の箱が、そこにあるのだと告げるように、小さな恐怖を、戦士の心に残していった。




もしかしたらこの辺り、軌道修正のために書き直すかもしれない。
今のところはこのままでいこうと思います。矛盾が出てきたらどうしよう。プロット上では問題ないんだけど。

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