満身創痍の英雄伝   作:Masty_Zaki

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あっけなく行われる正解発表。


暴かれる陰謀

 

 かつてリッカと別れ、一人で一歩一歩踏みしめて歩いてきた平原に簡素に舗装された道は既になく、かつて遠い向こうにあったはずの小さな町が拡大し、文明も進歩してしまったのか、照明の灯りと人々の喧騒に町の風景は書き換えられ、かつて思い出の向こうにあった街並みは綺麗さっぱりなくなっていた。

 そう、ここは既にイギリス国内ではない。船に乗って海を渡り、そして地図を頼りに辿り着くべき場所へと迷い戻り間違えながらも必死に辿り着いたのは、かつてジルが魔女狩りに巻き込まれ、そしてその末にクー・フーリンと初めての邂逅を果たした町であった。

 土地勘はとうの昔に消え去っている。風景すら変わっているのだから当然だ。しかしかなり広くなってしまったこの町で、一体彼らはどこにいるというのだろうか。例の暗号の書かれた紙は間違いなくこの町を指していた。しかしそれ以上の詳細までは結局分からず仕舞いだった。

 

「手あたり次第……だよね」

 

 ここまで来たのだ。見つけられませんでしたではロンドンから彼らを追ってきたことが恥となってしまう。それ以上に彼らの期待を裏切ることなど決してできない。

 よし、と拳を握って気合いを入れる。

 逃走中の身である彼らだ。まずもって大きな通りで悠々自適な生活をしているとは考えられない。となると考えられるのは町の端の方に位置する小さな住宅街か。そう言ったことも考慮して、探索は基本的に町の端から内の方へと向かうように進んでいくことにする。

 心の中で方針を定め、足を踏み出す。ちなみにここに来るまでも、ジルの移動先からリッカの居場所を突き止めようとしたのだろう、何人かのストーカーを確認したので途中で撒くためにわざわざ金と時間を多く使ってきた。成果は出ているようだが油断はまだできない。魔法による探索はサーチがかけられると大変な事になるので却下、信じるのは自分の足と目だけだ。

 

 さて、町の隅に位置する住宅街は、基本的にあまり裕福ではない人々が生活している区域である。集合住宅のような感じで、設備の質は世辞にも高いとは言えないが、家賃も安く、経済的にも安心できる。住めば都と言ったところか、あちこちで行きかう人々に不満を抱いていそうな表情をしている人はいない。治安もそこそこいいのだろう、以前のようにあちこちに警備員が配置しているようなこともなく、逆に言えばそこにクーみたいな時代遅れの恰好をした武人が混じっていれば明らかに浮いて見えるはずなのだが、ここにはいないのだろうか、その姿は見当たらない。

 文明も大分発達してきたこともあり、町の中心部には電化製品やその他様々な生活の役に立つものを売り捌いている店が並んでいる商店街が存在し、更にその周辺には土地の値段も高いのだろう、また居住区となっている場所にある建物も整備が行き届いており、設備も充実していることもあって、高収入の人間が多く出歩いているのを見かける。ここでもクーも対な時代遅れの恰好をした武人が混じっていれば以下略である。

 その後町中を三周くらい探索して持たものの、結局探し人が見つかることはなかった。半日ほど使って歩き続けたのだが、結局町の中で彼らを見つけることはついぞ叶わなかった。もしかしたらすれ違いが起きている可能性も考えたが、逃亡中の身である以上、追手に持つかるリスクを冒してまでわざわざ外まで出歩くこともないだろう。

 そして、ふと道端にとあるものを見つけた。それは中世の時代に活発に行われていた魔女狩りが、時代錯誤甚だしい数百年後に、規模は当時と比べて小さいながらも町一つを巻き込んだ魔女狩りが行われたことを哀悼する、人間の過ちと罪を懺悔する碑であり、道端で小さいながらも、負の遺産がそこにはあった。

 そしてジルは気が付く。魔女狩りから逃れようとして町から避難しようとしていたあの時、追い詰められて裏路地へと逃げ込んだら先は行き止まり、悪漢の集団に追い込まれて殺される寸前だったところを満身創痍の英雄に助けられたのだった。そしてまた表に出たところ、勘違いをしたリッカにクーが吹き飛ばされて――そんな出来事が起こったのは丁度この近くだったはずだ。

 思い立ってすぐジルは足を動かして走り出し、そしてかつての思い出があったであろう場所を僅かな土地勘と方向感覚を頼りに目指す。そして、既に風景こそ変わってしまったものの、何となく既視感のあるその場所に、ここだと直感した。

 そして振り返ると、この町から抜け出すための出入り口となっている通路がある。すぐ傍を近くの川へと続く用水路が流れていて、更にその通路が薄暗く狭いところを見ると正規の通路ではないようだが、出られないこともないようだ。ジルはこの用水路に沿って歩いていき、やがて大きな川に直面する。合流地点はコンクリートで整備されていたがそこから先はごく普通の自然の川である。今ジルが立っている場所とは高低差があり、川へと降りるには対岸へと渡る大きな橋の隣に取り付けられてある階段を降りなければならない。踏みしめるとキシキシと耐久に不安を感じる音を軋ませるがなんとか下まで降りることに成功した。

 

「さて……どっちだろ」

 

 大前提としてそもそも町から外に出ているのか、更に言ってしまえば本当にこの町にいるのか、あるいはいたのかさえ怪しい状況である。しかしそんな中でも、ジルは自分の直感だけを頼りに、特に理由もなく川の上流へと歩き始める。

 川のせせらぎが耳を打ち、全身に沁み渡って心がリラックスしていくのを感じながら足を進めていく。すると、次第に人の声が聞こえ始めてきた。男の低い声が一つ、女の高い声が一つ。それだけでジルの心の中は既に確証してしまっていた。

 

「間違いない……!」

 

 歩いていた足を、その回転を速めて、声のする方向へと脇目もふらずに走り始める。

 次第に大きく聞こえ始めてくる声、黒く小さくぽつりと見えていた程度の影がだんだんそのシルエットを浮かし始め、黒に色を付け始め、次第に鮮明になってくる。

 片や後頭部で一つに纏めて後ろに流した青髪、片や流れる金糸のように光を撒き散らす金髪。忘れることすら叶わない、ずっと探していた探し人。遂に、ついに再会することができたのだ。

 

「リッカ……!クーさん……!」

 

 名前を呼ぼうとして、声が言葉にならない。

 あまりにもこれまでが辛すぎて、二人が無事だったことが分かってあまりにも嬉しくて、その涙は止める必要はないと感情が物語って、力が緩む体を必死に動かしながら、二人の名前を全身全霊を込めて叫ぶ。

 リッカがこちらを向いた。そしてクーもこちらを向いた。ああ、心配しただろう。彼の苦笑いには、彼女の涙には、心配と安心と、言葉にできない複雑な何かを伝えようとして。

 でも、その涙も、その文句も、心配も不安も安心も絶望も希望も幻想も現実も全部、ぶちまけてやりたいのは――こっちの方だ。

 

「よかっ……!――かった……!」

 

 駄目だ。既に喉がおかしくなっている。

 リッカもこちらに向かって走り寄ってくる。頬を紅潮させ、そして涙を走らせて、だけれどもその唇はしっかりと笑っていて――唯一無二の親友がこんなにも愛おしい存在だったとは。

 そこに彼女がいるのが嬉し過ぎて、その肌の温もりに触れて存在を確かめたくて、開く両腕の中に飛び込もうとして――

 

「はいそこまで」

 

 空気を読まない英雄に止められた。むぎゅっ、と顔面をその大きな掌で押さえつけられてこれ以上前には進めない。

 なるほど再会を喜ぶ時間さえも与えないというのか。よろしい、ならば戦争だとリッカの怒りの矛先がワンドと共にクーに向けられると同時に。

 

「とりあえずここから逃げるぞ。三人程追手がいる」

 

 そんなバカな、とジルは戦慄した。あれほど警戒を解かずして時間と金を浪費してまで遠回りしてきたというのに、それでもまだ追いついてくるとは。しかしそれが王室の優秀な人材だということか。

 クーは二人を軽々と抱きかかえると、空へと躊躇うことなく跳躍した。人間離れした身体能力から生み出されるその跳躍力は実に、肉体年齢が年頃の女性二人を抱えても三階建ての建物を軽々と飛び越える程のもので、陰に隠れて通信機で報告をしていた追手は存在が気付かれていたこと、そして例の化け物じみた移動速度で逃げられることに驚愕している。

 

「向こうに魔法使いの実力者がいるのは間違いなさそうね。私とクーで気配を絶つ魔法を使っていたのに」

 

「見つかったものは仕方ねーだろ。とりあえず近くの町でもう一つ借りている空き家に身を隠すぞ」

 

 そのままクーたちは追跡を振り切って、川の下流の方まで高速で下っていった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 某所、相変わらず古く汚らしい、手入れが長年施されていない小さな空き家にクーたち三人は身を隠していた。ここも安全のために人払いの魔法と、魔法察知の遮断の魔法を施しておいたため、事前に見つかることはない。それこそカテゴリー5を連れてこない限りは突破されないだろう。

 しかしリッカとクーにとって、この環境下に身を隠すのは三度目、仮にも女性であるリッカはそろそろウンザリしていた。

 

「ねぇ、これホントどうにかならないの?」

 

「嫌なら掃除でもするんだな。得意な魔法でちょちょいとやっちまえよ孤高のカトレア様」

 

 カテゴリー5と共に既に剥奪されたも同然の二つ名で皮肉を言われたことは腹が立ったが、しかしクーの言っていることは紛れもなく正論であった。

 実際に風見鶏の学生寮が清潔に保たれているのは偏に学生寮の手入れを定期で行っている各種スタッフのお蔭であり、自室以外の廊下やロビーなどはいつでも清潔に保たれている。無論そんな大作業は魔法でやるより手で行った方が遥かに効率的な上に無駄な体力も消費しない。結局は自分で掃除するのが結論になってしまうのだが、いかんせんかったるい病のリッカには無理な話だった。

 そして、しばらくの間沈黙していたところ、茶を淹れに行っていたジルがキッチンから戻ってくるなり口を開いた。

 

「犯人は、リッカじゃないよね」

 

 疑っていたわけではない、ジルの口調は明らかに彼女の無実を確信する響きであった。しかし実際のところ、誰が例のスーツケースを盗んだのかも皆目見当がつかない状況なのだ。

 リッカは拗ねた表情を引き締めてジルを正面で捉える。そして深く頷いて肯定した。

 

「当然じゃない。私は魔法使いとしての誇りを欠かしたことなんて一度もないわ。それに、花の開花状態の永続的持続に関する研究も、私とジルの二人で進めてきた、言うなれば二人の魂から生まれた種よ。それを私一人の独断で暴走して答えだけを簡単に手にするなんて考えられないわ」

 

 たっぷりの自信と誇り、そしてほんの少しの怒りを孕ませて断言する。

 

「でも、真犯人って誰なんだろうね?」

 

「あれ、テメェらまだ犯人分かってねーの?」

 

「え……?」

 

 証拠の一つも残っていない、迷宮入りしてもおかしくなさそうな例の盗難事件の真犯人。しかしクーはそれを既に知っているとでも言わんばかりの、むしろまだ気が付いていないリッカたちに驚くような素振りを見せて、間抜けた声を上げてみせた。

 

「まだって、クーさんは気付いたの?」

 

 訝しげに、そして半ば疑わしげにリッカとジルはクーを見据える。

 しかしクーはそんな彼女たちなどお構いなく、淡々とカタルシスもへったくれもなく考えを並べていった。

 

「だって俺リッカには言ったよな?わざわざ()()()()()()()()()ってな。つまり俺は、この事件はそもそもリッカではなく俺自身を狙ったものだと仮定した。そうすると犯人は俺に何かしらの恨みやら何やらを抱える人物ってことになる」

 

 リッカはその時のことを思い出して小さく頷く。

 

「そしてそいつは邪魔だったのか嫌いだったのか分かんねーがとにかく俺を排除したかったんだろ。リッカを巻き込んだ辺り、俺一人を排除するのは不可能と踏んだに違いない。そしてその理由こそが、俺が『八本槍』でなおかつ女王陛下、エリザベスに信頼されているから、と言ったところか。そこで俺の仲間内であるリッカを魔法使いとしての生命が絶たれるレベルの事件の犯人にする。そこまですれば俺がリッカを助けるとでも思ったんだろうな。まぁ実際にそうしてやったわけだが――」

 

 リッカとジルの脳内に、事件の全貌の輪郭が大体見えてくる。あの事件の裏で何が起こっていたのか、そしてそこにどのような理由があったのか。

 

「そしてそんな事件なんざそうそう簡単に起きてくれるものじゃない。となれば簡単だ。刃向かえば命の保証すらなくなる『八本槍』を敵に回すような事件を起こさせ、上手く状況を誘導させる。それで騎士王様の大事な文献をリッカの手から奪い動機やら状況証拠やらでリッカを追い詰めるわけだ。そしてそんな『八本槍』を相手に平然と物事を動かせるのは『八本槍』しかいねーだろ」

 

 ここまで来て、二人は真犯人の顔に、ついに心当たりが行った。

 

「『八本槍』で俺を心から嫌う奴っつったら一人しかいない――アデル・アレクサンダーだ」

 

「でも、あの人が私からスーツケースを奪うなんてどうやって――」

 

「――テメェも見たろ、あいつの使役する金ぴかの騎士を」

 

 脱獄犯の捕獲のミッションを遂行していた最中、アデル・アレクサンダーは黄金の騎士を従え、彼の超高火力にして超高速の武具の掃射を以って、脱獄犯を滅多刺しにしていた光景を鮮明に思い出す。それだけで吐き気を催しそうになるが何とか堪える。

 

「あんな、俺様でも勝てるかどうか分かんねーような化け物を使役する召喚魔法を操るスペシャリストだ。テメェの感知能力に触れることなくスーツケースを盗み出す使い魔を召喚することくらい造作もないだろうよ。とは言ったものの、相変わらず俺の考察も状況証拠でしかないけどな」

 

 クーの推論にもやはり証拠は存在しないようだ。だがしかし、もし彼の仮説が事実だったならば、それこそ国家を揺るがすような大事件だ。国を守る最終兵器となり得る『八本槍』が同僚を排除するためだけに国家の存亡を思わせてしまう大事件を起こしたとなれば、表社会も、魔法使いの社会も大変な事になるのは明白だ。

 

「そこで俺から提案だ」

 

 その一言に、クーへと視線が集まる。

 

「今から俺は再びロンドンへと戻る」

 

 突然の提案。しかもそれは、イギリス一国を正面から相手にするようなもので、世界を敵にしてなおかつこちらから堂々と攻めに行くようなものだ。そんな者は勇敢でも勇猛でもない。ただの蛮勇にして無謀なだけだ。

 

「どーせ逃げ回っててもいずれ見つかってその度に撤退戦を強いられる。そんなのは面白くねーしリスクもでけぇ。だったらこっちから攻めて敵の頭を制圧すればいい」

 

「それって――」

 

 リッカの閃きに、クーは楽しそうに頷く。

 

「『八本槍』を全て倒し、女王陛下エリザベスを下す」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 クーの提案に賛成し、身支度を済ませた三人はボロ屋敷を後にしていた。無論リッカとジルは争うためにエリザベスの下に向かうわけではない。全ては話をするために、全てを分かってもらうために向かうのだ。本当の正義がどこにあるのかを共に探し、見つけるために。

 怪しまれない程度の身なりで大通りを歩き、途中で脇道に逸れる。しばらく裏道を進み、人通りの少ない通路へと姿を現すと、リッカは溜息を吐いた。

 

「ホント、何でこんなこそこそしないといけないのかしら」

 

 彼女の苛立ちも尤もである。犯人でもないのに濡れ衣を着せられて、更に今ではありもしない罪から逃れようとしている逃亡犯の扱いを受け、様々な組織から追われることになっている。リッカは何もしていないのだ。その魔法使いの誇りと矜持にかけて誓える。

 

「そんなことを愚痴ってる場合じゃないでしょ」

 

 リッカの気持ちを察してはいるが、しっかりとすべきことを見据えているジル。そうね、と苦笑いを浮かべるリッカにジルはそっと微笑み返す。

 温かな一場面。これから命を懸けた戦いに身を投じることになるとは到底思えないような会話と雰囲気なのは一体どういうことなのか。それもこの三人の魅力なのかもしれない。

 しかしその空気をぶち壊さんがごとく、新たな声が割り込んできた。

 

「――久方ぶりだな、大罪人」

 

 壮年ながらも逞しく鋭い雰囲気を感じさせる『八本槍』の一人、魔法の考古学に精通した魔法使いであり、女王陛下の為ならどんな卑劣な事でも残酷な事でもしてみせんとばかりに、クーたちの目の前で残虐な行為を繰り返してきた男――アデル・アレクサンダー。そしてその隣には――

 

「……」

 

 無言にて、その闇のような深い赤の双眸を無機質にこちらに向ける従者――金色の騎士がプレッシャーを放って立っていた。

 この男こそが、アデルを『八本槍』の武力たらしめる最大の要素。驚異的な火力と圧倒的な殲滅力を誇る、古代の超貴重にして高価、そして究極の性能を持つ武具を惜しむことなく弾丸として射出する一斉掃射。地面に着弾しただけで大爆発を起こすようなそれを未だに体が覚えている。

 クーはその男に脅威を感じながら、肩に背負う筒から真紅の長槍を取り出して正面に構える。弾幕攻撃は以前にも体験した。似たような技が二度も通用すると思うなと。

 そしてアデルはその唇を狂気に歪ませて黄金の騎士に指示を出した。

 

「済まないが貴様らにはここで消えてもらう。全ては女王陛下のために。――英雄王ギルガメッシュ、処刑しろ」

 

 彼の言葉を肯定するように、ギルガメッシュと呼ばれた黄金の男は、その背後に巨大な黄金色のカーテンを出現させる。波打つようにゆらゆらとしたそのカーテンの面に、所々で波紋が広がり、その中央から武具がゆっくりとその頭を現す。

 

 ――≪王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

 ありとあらゆる武器や武具など、伝承として言い伝えられてある宝具の類、そしてその原典を無数に内蔵した、黄金の都バビロニアの象徴である宝物庫。その全てが最古にして最強、最高の武具として有名であり、魔法的考古学者として血を流してきたアレクサンダー家の努力があったからこそ完成された最強の兵装。今、その牙がゆっくりと向けられる。

 しかしクーはその時、あることに気が付いた。そのカーテンから姿を現した武具の数が、以前見た時よりも少ない。せいぜい四、五丁と言ったところか。その程度の量であれば、クーの技量なら片手で十分に捌ける。

 そして――

 

 ――轟ッ!

 

 強烈な発射音を残して、凶器がありえない速度で飛翔してくる。

 クーは直線状に飛んでくるそれを確実に目で捉え――自分に掠るとも弱点から大きく逸れるだろうそれを、二つ程槍で叩き落としてやり過ごす。直線的な射撃攻撃はクー・フーリンを相手にあまり効果をもたらさない。死角からあるいは弾幕での攻撃なら体勢を崩す程度はできるかもしれないが、しかしこの場での相手の攻撃はクーには全く通用しない。無論アデルもそのことは理解しているはずではないか。

 この程度か――訝しげにギルガメッシュを睨みつけるが、その時背後から絶望的な悲鳴が、聞こえてきた。

 

「あっ……あ……」

 

「り、リッカ……!?」

 

 全身に悪寒が走った。今自分は何を考えた?

 その答えは、あの男が()()()攻撃を加えるのに何故たったのこれだけの手数だったか、だった。

 しかし、もしそれがクー自身を狙っていたものでなかったとしたら――

 ゆっくりと背後を振り返る。そして、信じがたい光景が、目の前に繰り広げられる。

 鮮血の赤い花が宙に咲き、形を崩す。そしてその先――蒼白になり、苦悶の表情を浮かべた金色の美少女。その体が二振りの剣に貫かれ――壁へと磔にされていた。

 

「お、おい――」

 

「いや、リッカ、うそ……こんな……」

 

 狂乱、絶望。親友の無残な姿にジルが嗚咽を上げる。

 そしてそこに、誰もが耳を塞ぎたくなるような、悲哀に満ちた絶望の悲鳴が響き渡った。




あと五話ほどで本章終わらせられるかなっと。

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