満身創痍の英雄伝   作:Masty_Zaki

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一対多数の戦闘描写ってなんでこう難しいんだろう。
もっと流れるように、メリハリを利かせたい。


荒ぶる紅き槍

 舗装された道をしばらく歩くと、村の入り口が見えてきた。

 

「やっと着いたね、リッカ!」

 

「ようやくゆっくり休めるわ……」

 

「テメェら俺の飯代しっかり払ってくれるんだろうーな?俺、お前らに会う前に、財布を猿に盗られてから、いざというときのためのなけなしの金しかもってねーんだぞ」

 

「いくら?」

 

「あと硬貨が三枚」

 

「何も買えそうにないわね……」

 

「前の町で最後の金で頼んだ俺の飯が燃やされてひっくり返されたんだよ!」

 

「……」

 

 どうやらまだ根に持っているようだった。

 それをしたのはリッカたちではないというのに。

 まぁいずれにせよその後リッカの手で、何もやってないのに粛清を受けたが。

 村に入ると、クーは妙な殺気のようなものを感じた。

 気にしない振りをして辺りを見渡すと、村人から妙な視線を感じた。

 

 ――疑われている?

 

 リッカたちを見る。

 ジルは何も気付いていないようだが、リッカはその空気を感じているようだった。

 

「とにかく、宿探すぞ」

 

「ええ、そうね」

 

 ある程度周囲に警戒をしながら、宿を探しに町中を探し始めた。

 

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 運よく宿を取れたのはいいものの、残念ながら一部屋しかとることができなかった。

 すると必然的に男女三人が同じ部屋で寝泊りしなければならなくなる。

 

「はぁ!?」

 

 クーが非難の声を上げる。

 

「当たり前でしょ。同じ部屋で男女が一緒に生活するって、何か間違いがあったら拙いでしょ。それに、私はあなたにジルを助けてもらった恩があるとはいえ、そこまで信じている訳じゃないわ」

 

「んじゃ俺にどうしろと?」

 

「そんなの知らないわよ」

 

「っざっけんな!」

 

「リッカ、別にいいじゃない……」

 

 流石は三人の仲での唯一の良心、一番慈愛に満ちていた。

 クーはこれまで基本的に野宿だった。

 火を焚けば熊に見つかって襲われながらも撃退し、飯を食ってる途中に野鳥に集られて、石の枕を涙で濡らす夜を送り、魚釣りをしても竿代わりにした木の枝が真ん中から真っ二つに折れたりと、ろくな食と住処を享受することはなかった。

 もしかしたらジルの説得で地べたでもいいからこの部屋で寝ることを認めてもらえることを期待していた。

 

「だめよ」

 

 即答だった。

 目頭が熱くなった。

 せめて旅の道連れとしても愛されてなかったことに悲嘆した。

 気分は太陽に向かって草原を駆け抜けたい感じだった。

 再びジルを見るも、その顔は既に諦めましたと語っていた。

 完敗だった。

 どうやら交渉でもクーは弱いらしい。

 仕方がないからエントランスに戻って、人目のつかない寝られるところを探して確保しておいた。

 

 その夜。

 クーは足音を聞いて目を覚ます。

 その足音は、気配を隠すような、また、忍ばせるような音。

 若干気になったが、宿泊客がトイレか何かで降りてきて、部屋に戻る最中だと納得する。

 そして、何事もないことに安心して再び眠りに就こうとすると――

 上の階から尋常じゃない殺気。

 今までの勘からして、誰かが誰かを殺そうとしている。

 紅槍を持ち、静かに立ち上がる。

 そして足音を忍ばせながら階段を上がり、殺気の元を探る。

 そこで物凄い不安を感じる。

 殺気の元が、リッカたちの部屋に向かっているようだ。

 

(また魔女狩りの連中か……?)

 

 昼下がりにこの村にやってきてから妙に感じる視線、あれは自分たちが魔女ではないか疑う眼差しだったのではないかと推測する。

 

(何はともあれ、あいつらがヤバイ……)

 

 リッカたちが泊まっている部屋の前の廊下、そこから部屋の前の様子を見ると、既にリッカの部屋の扉が閉じようとしていた。

 足音を忍ばせながらも廊下を駆ける。

 そして部屋の扉を音が鳴らないように少しだけ開け、中の様子を確認する。

 するとそこには、ベッドで寝ているリッカとジル、そしてその枕元に立っている人間が一人――だけではなかった。

 他の部屋や、窓から侵入したのだろう。

 数は三、四人程。

 タイミングはほぼ同時だった。

 人影が刃物を振り上げる瞬間と、クーが槍を構えて集団に飛び掛る瞬間。

 クーは刃物の切っ先を槍を使ってリッカから逸らし、声を荒げる。

 

「リッカ!ジル!起きろ!敵襲だ!」

 

 そして同時にその人影を蹴り飛ばす。

 一方でジルの方も同時に襲われていて、ジルが少しでも集団から距離を遠ざけようとして動こうとするのだが、足が震えてまともに立てないでいた。

 

「そいつから離れろォ!」

 

 リーチが最大まで長くなるように手の中で槍を滑らせ、ジルを襲った人影を槍で一突きした。

 続けざまに短剣で自分に襲い掛かってくる人影を見据える。

 相手の行動は飛び上がって縦斬り。

 クーは最小の動作で攻撃を避け、全力を籠めて人影を殴りつけた。

 どうやらもう一人は逃げてしまったらしい。

 騒動が終わり、急に部屋が静かになった。

 とりあえず部屋の電気をつける。

 ジルを見てみると、恐怖で涙目になっていた。

 リッカは、ただ呆然としていた。

 

「あ、ありがと……」

 

「ったく、俺を部屋に入れてないからこういうことになるんだってんだ……」

 

「ごめんなさい……」

 

 リッカは自分の失敗にしゅんとなって落ち込む。

 

「落ち込んでる暇はねぇぞ。やっぱり俺たちは何者かに狙われているらしい。おちおち寝てもいられねぇ」

 

「やっぱり、って……」

 

「とにかく、一度村から離れたところで野宿ってことになるな。町中じゃいつ襲われるか分かったもんじゃねぇ」

 

「ええ」

 

 そうして、宿から離れ、町を一度出て、近くの林で野営をすることとなった。

 クーは念のために見張りをすることになる。

 リッカも、自分に負い目があるからと見張りを買って出たのだが即却下、イレギュラーな事態に慣れている自分がすべきだとクーが言い張ったのだった。

 

 翌朝。

 リッカが目を覚ませば、なんか大変なことになっていた。

 木を頭にして寝ていたリッカたちを取り囲むように、武器を持った男たちが辺りを取り囲んでいた。

 そして、それらから守るようにリッカたちに背を向けて立っていたのはクー・フーリン。

 その顔は――楽しそうに笑っていた。

 

「聞いたぜ、お前ら三人隣町から来た魔女じゃねーか。穢れた呪いをこの町に運んでくるとはいい度胸してんじゃねーか」

 

 集団の先頭にいる大男が怒りをあらわにして怒鳴り散らす。

 それに呼応するかのように後ろの集団が騒ぎ立てた。

 

「ハッ、たった三人相手に数十単位で襲わないと勝ち目がないとでも考えたか。それでもまだ足りねぇよ。俺様を殺してぇなら一個師団くらい連れてこいや!」

 

「魔女の血筋は減らず口まで汚ねぇってか。野郎ども!遠慮なくやってやれぇー!」

 

 ――ウゥオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 武装集団が声を上げながら接近してくる。

 

「リッカ、ジル、絶対にここから離れんなよ。それと、手出しは無用だ。俺一人でこいつらぶっ殺すくらい楽勝だってことを証明してやるよ」

 

「いくらなんでもそれは――」

 

 リッカはクーを見上げる。

 クーの眼差しは、戦闘に対する興奮、そして死地に赴く決意、そして、勝利へのゆるぎない自信に満ち溢れていた。

 そしてそれら全てを口の端の吊り上がりが物語っていた。

 リッカが不安がっているのをよそに、クーは敵集団に単独で突っ込んでいった。

 敵陣の一角に触れる瞬間に大きく槍を水平に薙ぎ、迫力を相手に植え付ける。

 そして削れたところから陣を食い蝕むように、外側から確実に敵兵を潰す。

 リッカやジルはその様子を周囲に警戒しながら見つめていたが、素人であろうと、その槍捌きは、常人では到達不可能、絶対的な強さと、美しさ、そして速さを兼ね添えた、全てが孤高とも言える一撃だと、判断できた。

 まさしく、神の境地であると思った。

 この男が、この槍が隣に座る少女を守ったのかと思うと、彼に対する畏怖と同時に、何かよく分からない感情が胸の中でくすぶり始めた。

 

「その程度か!それじゃ何人いようがこの俺様を止めることなんざ出来る訳ねぇ!」

 

 勿論相手の数も数で、数の暴力というのはやはり驚異的だった。

 百戦錬磨のクー・フーリンとはいえ、ところどころに傷を負い、いたるところから血を流していた。

 しかし、彼は槍を振るい続ける。

 一箇所傷つく代わりに、クーは十の敵を葬る。

 そして、相手の攻撃も、一撃たりともクリーンヒットしなかった。

 全て文字通り、掠り傷程度だった。

 言うならば、この状況を切り抜けるための最小限の犠牲、そのほんの少しの犠牲で次の行動を速め、より精度の高い攻撃を放っていた。

 数が減ってきたところで、リッカはあることに気付く。

 敵集団が銃を持ち出したのだ。

 

「危ない!」

 

 リッカが叫ぶと同時に、発砲音が耳をつんざく。視界の外からの、敵側の味方まで巻き込んだ一斉射撃。

 クーもその音に気付いたようで、そちらの方向を見るが、対応までは出来なかったようだ。

 駄目元で腕を上げ、その腕に銃弾がめり込んだ。

 クーは苦痛に顔を歪め、少しよろめく――が。

 

「しゃらくせぇ!!!」

 

 その闘志は未だ失われてはいなかった。

 それどころか、むしろこの状況を楽しんでいるようにも見えた。

 一度体勢を整えるために集団から離れ、一呼吸置く。

 そして笑みを絶やさずに、集団を睨みつける。

 

「俺に怪我を負わせるとは、やってくれんじゃねぇか。俺の槍と同じ色に染めてやるぜ!」

 

 クーは空高く飛び上がり、そして槍を逆手に構えて、槍を引く。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 躊躇いもなく敵集団のど真ん中に槍を投擲する。

 そして地面に触れると同時に、そこを中心として大爆発が起こった。

 クーは綺麗に着地し、銃弾を受けた左腕を押さえる。

 

「ったく、イテェじゃねぇか……いつものことだけどよ……」

 

 冗談めかして呟くが、その実、額に冷汗が流れる程激痛が走るようだ。

 砂煙が晴れると、そこには襲い掛かった敵全員が倒れていた。

 勝負アリだった。

 

「だ、大丈夫か、リッカ、ジル」

 

 クーが振り返って状態を確認するが、一方でジルは苦笑していた。

 

「前も言おうと思ってたんだけど、君のほうがむしろ大丈夫?」

 

「ああ、ちょっと銃弾が腕にやられただけで、後は掠り傷だ。死にやしねぇ」

 

「いや、それはそうかもしれないけど……とりあえず見せて。治療するから」

 

「出来んのか?」

 

「これでも一応得意魔法は治療系だからね」

 

「そうか」

 

 クーはジルの前に座り、左腕を差し出す。

 そしてジルはクーの腕から銃弾を抜き出し、穴の開いた腕に治癒魔法をかける。

 開いた穴は次第に塞ぎ、やがては完治した。

 リッカは治療魔法が不得手で、何もできずにただジルが治療しているのを傍から見守っているだけだった。

 自分の不甲斐なさと、今自分たちがここにいるのはクーのおかげだと、そんなことを考えて、リッカは瞳を伏せていた。

 

「全く、あんなに無茶してくれちゃって……」

 

「いや、なんかつい楽しくなってな」

 

「あんたも変な性格してるわね」

 

 リッカも相変わらず憎まれ口を叩いているが、なんだかんだでクーを心配していたようだ。

 

「ごめん、の代わりに、ありがと……」

 

 リッカが初めてクーを信頼した瞬間だった。

 クーはその言葉を、面倒臭そうな顔で聞き流していた。




 ここでのランサーは全身青タイツじゃないよ!
 この時代っぽい服装なんだよ(適当)

-追記-

 以前も一度指摘があり、評価された際にも書き込まれたことなんですが、矢避けの加護があるランサーには銃弾が効かないとのこと。しかし矢避けの加護には決して飛び道具に対する完全な防御能力であるわけではなく例外が存在します。
 宝具でも飛び道具ならば、使い手を視界に収めることができれば、ランサーには通用しません。しかし裏を返せば視界外からの投擲は対処に難く、さらに超遠距離からの攻撃や広範囲の全体攻撃にも対応できません。実際にアニメではギルガメッシュの王の財宝の掃射攻撃を避けきれずに負傷するシーンも見受けられます。今回も上の条件の内二つを満たしているので銃弾を回避できない描写も無理はないものと考えます。しかしそう捉えられないのは作者である俺の力不足なので少し書き足しておきました。申し訳ありませんでした。(七月十七日午前一時 追記)

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