満身創痍の英雄伝   作:Masty_Zaki

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『八本槍』のメンバーも次々と明らかに……?


決戦、そして新章へ

 試合会場である風見鶏のグニルック競技場は、開場してすぐに席は客で溢れ返り、それに伴って予科1年を受け持っているシャルルたち以外の生徒会メンバーは会場での観客の誘導、進行のプログラムの最終チェック、グニルックに使われる用具の確認など、最終準備をてきぱきと進めていた。

 それを学園長であるエリザベスとその側に侍るクー、そしてもう一人、外見は華奢な、金髪の少女ではあるが、クーと同じく『八本槍』の一人である実力者が一緒にいた。

 名前をアルトリア・パーシー。表向きはアーサー王伝説を研究している研究者の一族であり、存在しないとまで言われているアーサー王の存在を信じて真理探究するほどの熱狂的なアーサー王ファンの家系、その息女である。一方でこちら側――魔法の関わっている側では、湖の精霊との契約を一子相伝で受け継いできた家系で、水と光、そして風に関する魔法を得意とする血族であり、天から二物、三物を与えてもらったと言われても仕方のないような才能を受け継ぎ生まれてきた女性で、騎士として携帯しているその剣は、光魔法を最大限に行き渡らせた業物で、その名を、またまたアーサー王伝説から持ち出してエクスカリバーと名付けている。勿論偽物だが。その上奪われた魔法の鞘の伝説も勝手に使って、偽物の鞘の方は作ってはいないらしい。

『八本槍』を仕切り、纏め上げるリーダー的な存在であり、その統率力から、エリザベスとしては、配下として最も信頼する人物である。そしてまた、その美しさと常に堂々とした凛々しい態度から、民衆からも慕われ、『騎士王』と呼ばれている。

 ちなみに、クーが唯一まともに会話できる『八本槍』でもある。他の連中は、あと三人程会ったことがあるが、どれもアクが強すぎてウマが合わなかったらしい。

 

「にしても、テメェも真面目だよなぁ」

 

 だるそうに、紅の槍を支えにして体重を預けながら立っているクーは、横目で、まるで鉄の芯が頭から背中を通って足先まで貫通しているかのように綺麗な姿勢で立っている騎士王を眺めてそう言う。

 

「あなたの性格はよく理解しているつもりですが……公の場で、人も集まるわけですから、もう少し警戒した方がよろしいのでは?」

 

 苦笑いを浮かべながら、顔だけをクーの方へと向けて、彼に軽く注意を促す。勿論クーに聞く耳はない。

 アルトリアもまた、クーのこの性格にはほとほと呆れ返ってはいるのだが、それを埋め合わせる程の芯の強さを感じ取っているため彼には一目置いている。僅差ではあるが、武術においてもクーには敵わなかった。

 

「どうせガキ共がゲームで戯れるだけだろ?俺がやれるわけでもないだろーし、真面目にするだけ野暮ってもんだろ。それに、俺が少々怠けたところで、テメェがいるなら問題ない」

 

「もし私ではなくアデル・アレクサンダーなら憤慨して殴りかかっているでしょうね。……まぁ、確かに私は陛下の剣として、たとえ一人であろうと陛下の身をお守りすると誓った身だ。あなたが寝ている間に起きた事件を、あなたが寝ている間に解決してみせます」

 

「そいつは頼もしい言葉だ」

 

 二人が話し込んでいる間に、エリザベスは係の人間から大会の進行に関することを聞きいれ、既に全て聞き終えてしまっていた。

 アルトリアはその男――名を杉並と言うのだが――を生徒会本部へと送るために彼と共に学園長の席を離れた。

 

「そろそろ、始まりますね」

 

「自分の参加できない大会に興味なんてねーよ」

 

 つん、とそっぽを向いて、いじけたような反応を示す。

 エリザベスは、そんな子供じみたリアクションをするクーが、妙に可愛らしく思えて仕方なかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「やっと、ここまで来たな」

 

 エリザベス学園長の挨拶を終え、選手紹介を終えた後、遂にA組とB組の試合が始まった。

 シューティングゾーンを目前に控えてそう呟いたのは、清隆だった。

 

「そうだね」

 

 その呟きを聞き取ったエトが、そう返す。

 そして視線を一旦ターゲットパネルから外し、相手のチームのメンバーを見る。

 男子が一人、女子が三人のチーム――に見えるが、実は男子が二人で女子が二人のチーム編成なのである。

 B組の代表の一人、エドワード・ワトスン――彼女、ではなく彼がどこからどう見ても女よりも女らしい美少女で(男であるが)、更にどういう訳か風見鶏の女子の制服を着ているので、完全に初見騙しとしか言いようのない存在になっているのだ。

 あの容姿で彼と男子トイレなどで遭遇した時、微妙な空気になるのではなかろうか。

 

 そんなことは置いといて、だ。

 A組のチーム四人も、これからのグニルックの試合に集中している。

 一つに重なる闘志が、会場を熱くさせる。

 先行は、B組のメアリー・ホームズからであった。

 

 第一フェーズ――ショートレンジ、ターゲット4、ガードストーンなし。

 強がっているだけなのか、あるいは自信満々で恐れを知らないのか、堂々とした足取りで一直線にシューティングゾーンに向かい、そしてロッドを構える。

 

「見てなさい!あたしの完璧なショットで、あんたたちA組との実力の差を思い知らせてやるわ!」

 

 そう言い終わる前に、ロッドを精一杯引いて、そして魔力を込めてブリッドに叩きこむ。

 緩やかな弧を描いて、真っ直ぐにブリッドはターゲットパネルの中央へと飛んでいく。そしてメアリーの狙い通り、パネルの全てを打ち落とすことができる、パネルの交差点を射抜くことに成功、一撃でパーフェクトショットを決めた。

 初回から見事なショットに、いきなり会場が沸いた。

 シューティングゾーンから引き返してくる彼女は、これでもかというくらいのドヤ顔を清隆たちに見せつけ、チームの下へと帰っていった。

 

「メアリーの奴もなかなか破天荒な性格だけど、やっぱり実力者なのは変わりないな……」

 

 彼女の正確なショットをまじまじと見た清隆が、真剣にそう言う。

 そこにサラが続いた。

 

「だったらこちらも最初からパーフェクトを目指すだけです。できるだけ向こうに流れを与えないようにしましょう」

 

「そうだね。それじゃ、最初は僕だから、負けないように頑張るよ」

 

 そう言ってエトはシューティングゾーンに立つ。

 生徒会長の弟、それだけで注目度は十分高く、期待も大きい。

 エトは、相手のチームを仕切っているクラスマスター、姉であるシャルルを一瞥して、再び集中する。

 

「お姉ちゃん、見てて。僕は、僕を助けてくれたお兄さんやリッカさん、ジルさんのために、そして、僕が病気でベッドに寝たきりになってた時、いつも看病してくれてたお姉ちゃんのために、僕はここまで成長できたんだって、そう伝えるために――」

 

 

 ――この一球を、捧げます。

 

 

 次の瞬間、魔力の込められたブリッドが、流れ星のように競技場を翔けた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 試合は終了した。

 結果は、エトたちA組の勝利となった。

 実際のところ、決して大差で勝利したわけではなく、A組としてもかなり知能戦を強いられ、割と苦戦していたのだ。恐らく、そう言ったことを考えていたのは、B組を纏めているシャルルだろうが。それに、一人だけ、清隆はそこまで苦戦したようには感じなかったようで、勝利したことには次に繋げればいいと楽観的だった。

 

「納得いかないわ~!」

 

「まぁまぁ、現実は受け入れないと……」

 

 遠くでメアリーが悔しさのあまりに地団駄を踏んで、それをエドワードが宥めている。

 大体こんな関係なのだろう。鉄砲玉の如く突っ走るメアリーに対し、エドワードがブレーキをかけている――そんな感じか。

 

「そんなこと言ってる場合?もう後がないのよ。C組に負けたら罰ゲームなんだからね!」

 

「分かってるよ。次は頑張ろう」

 

 いつも似たようなやり取りをしているのだろうか、エドワードは上手くメアリーを扱っていた。

 その後、リッカが四人のところに戻ってきて、労いの言葉をかける。

 相変わらずC組に勝つ気が満々で、B組が負けたことでシャルルが悔しそうな顔をしていたのを、してやったりと言うような悪魔的な笑みで見ていた。

 その後、B組対C組の対戦が行われたが、この試合は実力差がはたらいてC組に軍配が上がると思われたが、少し前に敗北を喫したこともあり、次はないという状況から、背水の陣の下勝利への執着と粘りによって、最後の最後にB組が逆転して勝利してしまった。

 

 昼食をとるための時間、清隆たちが学食でランチタイムを終えたと同時に、向こうからメアリー・ホームズたちがやって来た。

 隣にはそのメアリーの監視役――ではなく友人の、エドワード・ワトスン。

 メアリーは、腰まで伸びた淡い桃色の髪を靡かせ、C組に勝利したその勢いでA組に負けたことなどとうの昔に忘れた、と言うか気にしていない素振りで清隆たちを見る。

 

「メアリー……」

 

「それに、エドワードくん……でしたっけ」

 

 清隆の呟きに、姫乃が続く。この二人、特に姫乃は彼らと直接話したことはない。

 エトは生徒会長の弟と言うだけでなく、B組のクラスマスターの弟と言うことで、何かと有名でB組との関わりも少しあった。

 

「ど~お?調子の方は?」

 

 やはり勝利した余韻に浸っているのか、あからさまに機嫌がいいのが分かるような、語尾の上がったような質問をするメアリー。

 清隆はその言葉に対して無難な返答を返す。悪くはない、と。

 

「それもそうね。なんたって、最強チームのあたしたちを負かしたチームなんだもんね。実力の二百五十パーセントってとこかしら」

 

「それはまた、奇跡が起きたとでも言いたそうな響きだね……」

 

 メアリーのトンデモ発言にエトが苦笑する。

 その後も少しだけ他愛ない会話を交わして、メアリーの激励を貰い、食堂を出る。

 その時、エトの視界に、きょろきょろと辺りを見て誰かを探しているような少女二人が入った。

 その少女たちがエトたちを見つけるなり、走って駆け付けてきた。

 

「あの、生徒会長の弟の、エト・マロースさん、ですよね?」

 

「えっと、どうしたの?」

 

「生徒会長が、お姉さんが、次の試合が始まる前に話しておきたいことがあるからって、呼んでました」

 

 姉がエトのことを呼んでいるという。

 恐らく、優勝のかかった闘いに挑む前に姉としてエールを送っておきたいのだろう。

 少女たちが付いて来いと言うので、彼女らに従うように後を追う。

 

「サラちゃんたちは先に行ってて!後ですぐに向うから!」

 

 振り向いて大きな声で彼女たちに呼びかけると、清隆たちも笑顔で送り出してくれた。

 彼女たちの向かうままに廊下を歩いていくと、とある部屋に案内された。中にいるというのでそのまま足を踏み入れた時――

 

 ――バタン!

 

 背後からの強烈な音と共に、扉を閉められたのだ。

 そして運悪く、この部屋は割と古いつくりらしく、電気が通っていない。すなわち、真っ暗で何も見えないのだ。

 

「ちょ――!開けて!誰か!」

 

 ドアを懸命に叩くも、物音一つしない。

 明らかに不自然なこの扉を簡単な魔法で解析したところ、割と強力な防音の魔法が施されていることに気が付いた。そして、これは彼女たちにここに連れてこられる前から施されていたこと。

 つまり、自分がこの部屋に閉じ込められるのは必然の出来事で、それを意図的に行った人物がいるはずだ。

 考えられるのは一人だけ。自分が閉じ込められ、A組の戦力が落ちることで得をする人物――

 

「イアン・セルウェイ……」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一方その頃、競技場では、エトがなかなか戻ってこないにも拘らず、定められた時間が来たことで次の試合が始められてしまう。

 A組は代理として耕助をチームに加えて試合に参加するのだが、どうにも肝っ玉の小さい耕助には、この突然の大きな舞台には相応しくないようで、大勢の観客に怯え、竦みあがっていた。

 

「くそ、エトの奴、何やってんだ……!」

 

 苛立ちのあまりに清隆が呟く。

 試合展開は最悪、何とかC組にしがみついてはいる物の、耕助のショットが、調子のいい時は上手く軌道を作れるのだが、調子の悪い時はとことんあらぬ場所へと飛ばしてしまうのだ。

 その結果、少しづつではあるが、点差は広がってしまう。

 サラも知恵を絞って最良の策を講じてはいるのだが、なかなか上手く行かず苦汁を飲まされ続けている。

 同様、清隆も姫乃も焦りから集中できず、ミスショットを偶に放ってしまう。

 リッカの思惑は正しかった。エトがチームメンバーの緩衝材となり、上手にそれぞれの個性を活かしながら融和してくれると。逆に言えば、彼がいなくなればそれぞれの個性がクッションなしにぶつかり合ってしまうのだ。ある意味でチームの精神安定剤、それがなくなって、全員が動揺してしまっている。新しく代理で参加した耕助では、力不足にも程があった。

 

「とにかく、今は点差がこれ以上広がらないように、ミスショットだけには注意しましょう。いつか勝機が見えてくるはずです」

 

 サラは、自分が言ったことが直接勝利へとつながるようなものではなく、ましてそれができるのならここまで苦労していない――希望的観測であるのを自分で理解していた。

 一刻も早く、エトが戻ってくるのをただ祈るばかりだった。

 そんな彼女たちの無様な姿を見て、下種な笑みを浮かべている、一人の御曹司がいた。

 

「これで、僕たちの勝ちは、揺るぎない」

 

 状況は、最悪である。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 開錠(アンロック)の魔法は通用しなかった。

 複雑な魔法で幾重にも固められているため、簡単な魔法で崩れるような代物ではないようだ。

 そして、そんな魔法が行使できるのは、才能だけは十分に持ち合わせている、イアン・セルウェイ。彼しか考えられなかった。

 

 シェルも、清隆たちには届いていないみたいだ。

 連絡手段はない。周囲に呼びかけることも不可能、おまけに、この学園の壁は、万が一のことも想定してか、魔法によって堅固にコーティングされていて、ちょっとやそっとじゃ破壊できないようになっている。

 鍵も開けられないこの状況で、誰かを待つというのは、大会の参加者であるエトにとって、悪手とも言えた。

 今すぐにでも、ここを抜けなければならない。

 

「なにか……ないかな」

 

 エトは、暗闇に慣れてきたところで目を凝らし、拳に握れる程度の太さと、ある程度の強度、そして長さを持つ棒きれが落ちていないかを探す。

 不幸中の幸いと言ったところか、ここはどうやら割と古い倉庫のような部屋だったらしく、あらゆるものが棚に積まれたり壁に立てかけられたりしているみたいだ。

 転倒しないように、壁に手をついて、足元は慎重に小股ですり足で移動しながら、物品を物色していく。

 ふと、手元に丁度良い感覚のものが触れたような気がした。

 手繰り寄せるようにしてそれを握ると、なかなか感触がいい。

 慣れた目で確認してみると、それはどうやら剣の用だった。鞘から抜き放つと、暗がりでもある程度の光の反射を起こす。刃は偽物で、レプリカではあるが、何かしらのマジックアイテムなのかもしれない。

 

「これなら、何とかなるかな」

 

 そう呟きながら、エトは扉の前に戻る。

 抜き放った剣を右手に握り締め、左足を前にして腰を落とす。

 瞳を閉じて、自分の身体中を廻る魔力を、右の拳に握る剣に流し込むようなイメージ。

 剣を、その切っ先が扉に向くように、刺突の構えをつくり、魔力を練り上げていく。

 構えの基となったのは、自分の師匠であるクー・フーリンの、槍の構えの一つ。エトが握っているのは剣だが、ある程度の応用は効かせてある。

 

「こんな――感じかな」

 

 大分魔力が練りあがってきたところで、次は術式魔法を展開していく。

 物質の強度を底上げする術式――自分の筋力を可能な限り強化する術式――魔力を増幅させる術式――。

 全てを完成させたところで、カッと眼を見開き――

 

「たぁぁぁあああああああ!!」

 

 バネのようなしなやかさで地を蹴り、一歩で三メートルの幅を縮め、腰を捻って、全身のエネルギーを右手の剣に集中させて、一気に刺突を放つ。

 扉と衝突した瞬間に、強烈な金属音が耳を貫き、大きな火花の閃光が瞳を焦がす。

 次に耳にしたのは豪快な破砕音だった。

 自分の身体は勢いのまま扉の外に投げ出されるが、美味くステップを踏んで上手に着地する。

 

 ――脱出は成功した。

 

 時刻を確認すると、既に試合は始まっていた。

 急いで清隆たちと合流しないと、大変な事になっているかもしれない。

 胸の中に渦巻く不安と焦りを抑え込んで、エトは剣を捨てて廊下を全速力で走った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「みんな、遅くなってごめん!」

 

「エト……!」

 

 息を切らしながら競技場に到着したエトは、みんなの苦し紛れな笑顔に迎え入れられる。

 試合展開は最悪である。エトは点数の差を把握して、表情を引き締めた。

 

「悪い、エト……。俺がしくじっちまったばかりにこんなことに……」

 

 耕助にしては珍しく真剣に落ち込んでいるようだったが、そんな彼を元気づけて、バトンタッチをする。

 彼を含めたチーム全員に声援で背中を押されて、シューティングゾーンへと向かった。

 その時、あの男の顔が視界に入る。

 イアン・セルウェイの表情は、驚きに満ちているようだった。しかし、そんなことは知ったことではない。

 

 第六フェーズ――ロングレンジ、ターゲット4、ガードストーン2。

 設置されたガードストーンは、S3のFとG――すなわちロングレンジコートの中間距離より手前の中央に、幅は狭いが身長の高いビショップが二つ。

 エトはこれを易々と回避し、見事に一撃の下に四枚全てのパネルを落とすことに成功した。

 歓声の中、シューティングゾーンを降りると、入れ違いにイアンが登場しようとこちらに来ていた。

 

「僕を閉じ込めるのは失敗だったね」

 

「……何の話だい?」

 

 敢えて白を切るつもりのようだ。しかしエトとしても、別に彼をここで咎めるつもりなど毛頭ない。

 

「僕たちのチームは、残念ながらエースは僕じゃなくて清隆なんだから」

 

 その言葉に、イアンは小さく舌打ちをした。

 そしてそのまま、エトの登場で場の流れが変わったのか、C組のミスショットが目立つようになる。

 最終フェーズで、エトの言葉通り、清隆のショットで逆転勝利が決まり、大会において、A組の優勝が決定したのだった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一方で、ロンドン郊外。

 とある広い通りに、クーたちはいた。

 

「ったく、こんな時に頑張ったりしなくてもよ……」

 

「むしろ、こんな時だから、ではないでしょうか?」

 

 悪態をつくクーに対し、アルトリアが真剣な面持ちで考察する。

 ロンドンの地下でグニルックの大会が行われている間に、地上では大きなテロが起きようとしていたのだ。それを王室の未来予知能力をもつ魔法使いが事前に察知し、エリザベスがクーたち『八本槍』を送り出したのだ。

 恐らくは、人の多くなる時期を見計らって、女王陛下の身柄を拘束するか、もしくは暗殺を謀るか――いずれにせよ、事前に阻止できたのは大きなことである。

 人払いが行われた大通りでは、既に戦闘は始まっていた。クーたちが現れた時には、既に他の『八本槍』のメンバーが二人駆けつけて事に対応していたのだ。

 内一人が、現在視界内で大人数のテロ組織相手に一人で大立ち回りをしている。

 どこかで見たことがあるようなその背中をした男は、両手に色違いの双剣を握り、時には投げつけて爆砕させ、時には凶器を手に襲い掛かってくる連中を迎撃している。

 

「――現像(トレース)――開始(オン)

 

 彼の呟きと共に、紅い外套を纏った男の両手に、先程と同じ、白と黒の西洋の双剣を現出した。

 

「では、私もそろそろ加勢します。あなたは、右側の戦闘の援護に回ってください」

 

 そう言うなり、アルトリアも薄い霧の中でも煌めいている、伝説の剣を模した聖剣、エクスカリバーを両手に構え、男の方に駆けていった。

 クーも面倒臭いながら、アルトリアの指示に従って指定の位置へと向かう。

 そこにいたのは、いつも彼に難癖をつけてくる老人、アデル・アレクサンダーと、もう一人――

 黄金の鎧を身に纏い、街頭の上から、その冷ややかな赤い瞳で地上を見下し、その背後には同じく黄金色に揺らめく巨大なカーテン、そしてそのカーテンに生み出される無数の波紋の、それぞれ中心から煌びやかな装飾が施された、ありとあらゆる剣戟が姿を現し、豪雨のようにテロ組織の人間へと、弾丸のように降り注いでいた。

 

「こ、こいつは……」

 

 あまりの光景に驚愕するクー。

 こちらを振り返ったアデルの口元は、嘲笑に歪められていた。

 

 ――これが、陛下を守る力だ。

 

 重罪人とは言え、容赦なく惨殺していく黄金の青年の主は、その行為に、何の躊躇も抱いていなかった。

 剣呑な雰囲気ながらも、事件は収束を迎える。

 紅き槍の男は、妙な胸騒ぎを抱えながら、現場を後にしたのだった。

 

 

 

 ――そして、時は満ち、霧が世界を支配する。

 

 

 

 めくるめく繰り返される夢の世界へと、物語は飲み込まれていく。

 終わりなき始まりを告げる、始まりの物語。




五次アーチャーっぽい人の台詞は仕様です。詳しいことは作中で語ろうとは思いますが念のため。そもそも別人です。実は以前に登場しています。全然別人みたいになってるけど。
次章からいよいよ風見鶏本編へと突入!
ようやくクーたちの出番が回って来たぜ!
プロットともう一度睨めっこしなおすためもしかしたら一週間が間に合わないかもしれません……
ゆっくり書いていこうと思いますー。

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