満身創痍の英雄伝   作:Masty_Zaki

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邂逅のアルティメットバトル編が終わるまではずっとエトのターン。
ここらで活躍させとかないとしばらく出番がなくなっちゃうから……


喧嘩と新チーム

 

 

 事件が起こった。

 A組、グニルックの練習に時間を割いている時、姫乃とサラが、喧嘩を起こしてしまったのだ。

 耕助が清隆に、自分の魔法の得意不得意と、グニルックとの相性を語ってこれから頑張ろう、と結論付けていたところ、サラの苛立った声が清隆たちに届いていたのだ。

 当然そこにいたエトも、サラの様子を心配し、事情を聴いたのだが、どうやら姫乃がサラに鬱陶しく付きまとったのだとか。

 一方で姫乃は魔法のアドバイスをほんの少ししようとしていただけだと事情を説明する。

 長年一緒にいた清隆は勿論、最近清隆や姫乃たちと仲良くしているエトでさえ、姫乃が面倒臭い性格ではないことは知っていたが、逆に、彼女が親切心があり過ぎてたまにおせっかいを焼いてしまうこともまた、知っていた。そしてサラもまた、話しかけるなオーラを十全に纏った一匹狼タイプである。多分今回は、それが祟ったのだろう。

 自分の親切心を踏みにじられた、仲良くしたいだけだったのに――グニルックの素人である人間のアドバイスなど必要ない――二つの思惑は交錯せず、平行線のまますれ違う。結局どちらとも不満が爆発して、お互いに文句を言い合った結果、関係がこじれてしまったのだ。

 とりあえずその場の応急処置として清隆が一旦両者を黙らせ、距離を離してその場を収めたのだが、その姿にリッカは感心したようで。

 

「キミにはリーダーの素質があると思うわ」

 

 清隆はその言葉を真には受けられず、リッカのお願いである、二人を仲直りさせること、と言うのを任され、不安ながらも請け合うことにした。

 エトもまたこれには賛成したのだが、ほんの少し難しいな、と、苦笑いをせずにはいられなかった。

 

「それで、何で俺に相談に来たんだよ」

 

 面倒臭いとあからさまに態度に出ているクーは、来訪したエトに向かってそう言った。

 エトは、清隆を連れて、クーのいる学生寮の部屋にお邪魔していたのだ。その際、当事者である清隆を引き連れて、どちらともが自身の視点で話を進めた時、第三者の視点で物事を判断できるように、とのことである。

 シスコン、と言う程でもないが、妹に肩入れしている清隆、空回りした姫乃と同様、割とサラと距離を近づけつつあるエト、この二人の話だと、どちらも理路整然と物事を話す力があるとはいえ、言葉の選択が無意識にそのどちらかを庇うようなものになってしまうとも限らない。そこで、対人関係に対してはサバサバしているクーを相談相手に選んだのは、エトにとってある意味正解だったと言えるだろう。

 しかしそれはあくまで彼が真面目に話を聞いてくれればの話だが。

 

「面倒臭ぇ、そんなのてめーらだけでどうにかすればいいだけの話だろーが」

 

『八本槍』の役目を円滑に進めるための情報収集として、新聞に目を通しながら、エトの言葉を聞き流す。

 本当はこんなことはやりたくはないのだが、それでも金を貰って仕事をしている以上、妥協できないのもまた彼の性格でもあった。主従関係には逆らえない。

 新聞から最近起こった出来事、政治や経済の動向を大まかに把握しながら、そのページを次から次へと、手早く捲っていく。

 エトは知っていた。

 自分の師匠は、兄のように強く優しいが、それでいて自分に全く関わりのないことには一切首を突っ込まない。

 エトの命を救い、ここまで面倒を見てきたのは、それが面白そうだったから。我武者羅に生きることを求めた瞳、そして人として強くなることを求めた瞳、そのどちらもが、彼にとって気に入ったものだったからだ。

 それは決して、人助けだの、誰かの為だの、どこぞの義妹持ちの鈍感な主人公のような意志を持っていたわけではない。

 だからこそ、今回のことにも、決して関わろうとはしない。

 

「いや、僕はお兄さんに相談しに来たわけじゃないよ。ちょっとお話ししたいと思ってただけ。お兄さんと何か話してれば、何かいい方法とか思い浮かぶかなって」

 

「話だけなら聞いてやるよ。俺は何もアドバイスなんざしねーぞ。そう言うのはジルの専門だ」

 

 エトたちに背を向けながら、それでも話を聞くと宣言したクー。

 エトは、そんな彼に遠慮はせず、いつも日常茶飯事にやっているごく普通の会話を始めた。

 

「この時期ってさ、グニルックの大会があったよね。僕の方はちょっと用事があって見に行けなかったんだけど、どうだったの?」

 

「グニルックねぇ、アレは楽しかったぜ。またやってみたいもんなんだが、どうもリッカたちに阻止されちまう。確かに俺は色々と道具を破壊したが、今では魔力の調整もお手の物だってのに」

 

「あはは……。お兄さんなら仕方ないね。で、その試合は勝ったの?」

 

「当り前よ。この俺様が出てやってんだ。俺が負ける時はそれは、俺が死ぬ時だ」

 

「それなら、お兄さんは勝負事では絶対に死なないね」

 

「俺様は最強だからな」

 

 それからも、他愛ない会話は続く。

 クーがエトのためにグニルックの必殺技(?)の考案をしていることや、女王陛下に仕えるに際しての公務についてのあれこれ、学園生活のこと、様々なことを話していた。

 

「そういや、あの時はリッカたちが代表を勝ち取るって、放課後の練習が終わった後も三人で練習していたっけか」

 

「そうなの?」

 

「ああ、今思えば、俺もあそこに参加してればもっと面白れぇことになってたんだろうがな。あの時のあいつら、すっげー楽しそうだったぜ」

 

「あっ!」

 

 突然の清隆の発生、エトが吃驚して清隆を振り返る。そう言えば彼は、エトとクーが二人だけの会話をしていて殆ど蚊帳の外だったが、何かに気が付いたようだ。

 

「なぁエト。だったらさ、俺たちも四人で練習しないか?放課後にさ」

 

 期待のこもった視線をエトに向ける。

 その表情があまりにも楽しそうで、エトはとりあえず、何も聞かずに首を縦に振った。

 

「そこの坊主――葛木っつったか。テメェ、なんか危なっかしいから気をつけろよ」

 

 エトと清隆が同調して、答えを見つけたところでいい感じにクーの部屋を去ろうとしたところに、クーの声が清隆に飛んでくる。

 突如として言われたことに、清隆は理解できずに立ち止まって振り返る。

 

「お前は何か危険だ。危機感がない。周囲に線引きしない。ほぼ初対面に近く、こないだ初めて顔合わせた時に派手にやらかしたつもりだったが、テメェはビビる素振りすら見せなかった」

 

 クーの背中が、プレッシャーを放つ。

 何か恐ろしい、確実に未来を的中させそうな、そんな警告。彼の言葉に、自分の未来に対して清隆は固唾を飲んだ。

 

「そんな奴が、それこそジルみてーな他人思考をしてやがる。――テメェ、確か妹がいるんだってな?」

 

「ええ、まぁ」

 

 妹に関係がある、それだけで警戒せざるを得なかった。しかし、この反応そのものが、クーの危惧する状況のカギを握っていることを、清隆は知らない。

 

「例えば、だ。妹が何か危険な状況に晒されてみろ。テメェは真っ直ぐにそいつを助けに走り回るだろうよ。そうなれば危機感に鈍いテメェはすぐに無茶をする。後は泥沼にはまってくたばるだけだ」

 

 危機感のない者は、勇者になり得る。どんな困難にも、どんな恐怖にも立ち向かえる勇者に。

 しかし、だからこそ乗り越えてはいけない一線を、踏みとどまることなく平気で跨いでしまう。

 清隆には、その実感は湧かなかった。

 確かに清隆の妹、姫乃には、ある事情がある。その事情もあって、清隆は風見鶏へと乗り込んだのだ。その問題を解決するために。

 しかし時間は山程ある。まだ焦る必要もないし、無茶をするような場面でもない。だから清隆は、頭の片隅に置いておこうと考えるだけで、深く考えることはしなかった。

 

「……分かりました。覚えておきます」

 

 清隆はそう言って、エトと共にクーの部屋を去った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌日の放課後。

 授業が終わってすぐ、エトはサラのところまで足を運んだ。

 彼女は既に帰宅――いや、グニルックの練習を一人でする予定だったのだろう、道具を鞄に仕舞っては席を立とうとしていた。

 

「クリサリスさん」

 

 清隆からはある程度話は聞いている。とりあえずサラをうまく誘導して、グニルック競技場まで連れ出す。その際に、清隆と結託していることだけは絶対に言わない。そうすれば絶対にサラはエトについて来ないからだ。

 

「ファーストネームでいいです」

 

「へ?」

 

「だから、ファーストネームでいいと言っているんです。何だか、呼びにくそうにしてますし」

 

 少し照れながら、紅く染まった頬をエトに見せないようにそっぽを向きつつ、サラはほとんど聞き取りにくいような小声で言った。

 エトは唐突に言われたその要求に少し驚き、どうしたものかと一瞬考え込んで、そしてもう一度彼女と向き合った。

 

「それじゃ、サラちゃん」

 

「――っ!?」

 

 まさかのちゃん付け。

 さん付けや呼び捨てならともかく、ちゃん、だとどうしても可愛らしく聞こえてしまう。いや、それはそれで正しいのかもしれないが。

 目の前の小柄な少女は動揺しながら、困惑しながらも訂正を求めようとしたが上手く言葉にできない。

 エトはそんなサラの気持ちなどつゆ知らず、そのまま話を進めてしまう。

 

「これから一緒にグニルックの練習に行こうよ。サラちゃんからなら、色々アドバイスも貰えそうだし、僕からもサラちゃんにアドバイスできることがあるかもしれないからね」

 

「ええええと、あうあう――!?」

 

「ど、どうしたの、サラちゃん?」

 

 あまりの困惑っぷりにエトも心配する。自分の呼び方に原因があるということに未だに気が付いてはいないが、更にエトに接近されるとサラとしてはどうしようもなくなるので。

 

「――ッ!――ッ!」

 

 声にならない叫びを上げながら、首を縦に振って肯定の意を示したのだった。

 

 そして校庭に出て、移動中に流石に落ち着いたサラもグニルックの練習のスタンバイをして、あれやこれやとエトとサラの二人で色々なことを話し込んでいたところに、清隆と姫乃はやって来た。ついで、というのも可哀想だが、どういう訳か耕助と四季もいる。なんだかんだで姫乃たちのことが心配だったのだろう。

 

「エト!」

 

 サラを見かけるや否や、気まずそうな表情を浮かべる姫乃と、その隣で若干緊張しながらも、それを押し隠してエトに呼びかける清隆。

 背後には、心配そうに姫乃たち四人を後ろから見つめる四季と耕助。

 

「遅いよ清隆。少し待ったよ」

 

「すまんな」

 

「清隆、姫乃……」

 

 清隆とサラは、以前に面識がある。清隆が初めて図書館島に行った時、ブローチ、もといボートの使い方が分からなくて困っていた時にサラに助けられたのだ。

 サラも、清隆と姫乃を見て、この状況に驚きを隠せないでいる。そしてすぐにエトに視線を移した。

 しかしエトは苦笑いを浮かべて頬を掻くばかりである。

 

「ど、どういうことですか、兄さん?」

 

 姫乃も清隆に視線を移して困惑の表情を浮かべている。それに同調するかのように姫乃も清隆に抗議した。

 

「どうもこうも、俺はこの四人でクラス代表の座を勝ち得ようと思ってるんだから」

 

 清隆の言葉に、姫乃とサラが固まる。

 エトもそのことについては聞かされてはいなかったが、清隆が考えそうなことだとはあらかじめ想像はしていたのだ。

 

「何故、私が始めたばかりの初心者と組まなきゃいけないんですか?」

 

「そこだよ。俺はこの四人が、結構バランスのいいチームだと思っているんだ」

 

「その根拠は?」

 

 サラは、清隆の唐突な言葉にも対応してくる。

 主張をするなら、根拠を提示しなければならない。いかにもサラらしい話の運び方だった。

 

「まず、エトは、聞いたところによると生徒会長であるシャルルさんの弟だから、その友達であるリッカさんたちと交友があるんだって。だから魔法に関してはなかなか深い見識を持っているんだ。グニルックに関してはほんの少しかじった程度らしいけど、それでも十分に戦力になると思う」

 

「それは知っています。私もエトとはそれなりに話をしていますから」

 

「それで、こう言っちゃ失礼かもしれないけど、俺と姫乃は魔法の総合力って意味ではクラス内で上位にランクインする」

 

「えっ、そんなことまで分かるの?」

 

 突如話を切って話題を逸らそうとしたのは以外にもエトだった。

 清隆が言うには、その上下と言うのは何となく感覚で掴めるものらしく、それがどういった原理なのかは理解できていないらしい。それでも、総合的な力に関しては二人が上位に位置づけされているのは把握できているらしい。

 自分が現在どの程度の立ち位置なのかを把握しておくことは、今後の成長に役立つだろう。

 

「でも、さっきもサラが言った通り、俺たちは初心者だ。ルールもうろ覚え、経験がないからセオリーとか駆け引きも分からない。そう言った意味で、グニルックに精通したサラの知恵と知識と熱意が必要なんだ」

 

「ね、熱意……?」

 

 最後のは不要だ、とばかりにサラは首を傾げる。

 しかし、クラスの練習中にサラが一番真面目に取り組んでいたのを、清隆はしっかり見ていた。

 エトが後々にフォローしていたので、冷や冷やするようなことはなかったが。

 自分の力を伸ばすのに一番時間を使っていたのは間違いなくサラだった。

 

「それに、駆け引きとか頭脳戦になった時、サラまぁのような落ち着いた人間が必要なんだ」

 

「そんなこと言って、ホントは私と姫乃の中が険悪な感じになったから、仲を取り持とうとしてるだけじゃないんですか?」

 

 サラがあまりにも核心の部分を突いてきた。

 突然の展開にエトはヒヤリとする。

 

「そうだよ」

 

 しかしそんなエトの心情など全く意に介さず、清隆はサラの疑念にあっさりと肯定する。

 

「そんなの、余計なお世話です」

 

「勘違いしないでくれよ、俺の目的はグニルックのクラス代表になってB組やC組に勝つことだ。特にC組のイアンみたいなタイプには一度敗北の味をキチンと覚えてもらった方がいいと思ってる」

 

「それは僕も賛成だね」

 

 当人の前で噂の彼を転倒させ、あまつさえ啖呵を切ったエトがそれに頷く。

 ここまでして負けてしまえば、彼が尊敬する師やその友人の顔に泥を塗ることになる。

 

「そのためのこの四人で、その上で姫乃の兄として、サラには妹のいい面を知ってもらいたいと思ってるし、サラの友人として、姫乃にはサラのいい面をしてもらいたいと思っている。……欲張りかな」

 

 清隆が一通り饒舌に語り終えて、一息つく。

 エトが、素直に自分の思ったことを言葉にして言い表したことに対して凄いと思っているところ、真っ先に姫乃が沈黙を破って口を開いた。

 

「かなり……」

 

「まぁそこは勘弁してくれよ。俺の見立てでは、っていうか、多分これはエトも耕助も思っているところなんだろうけど、二人は仲良くなれる素質があると思ってる。どっちも人づきあいが苦手でお互いにすれ違っちゃうこともあるだろうけど、とりあえずここはグニルック優先ってことで俺の顔を立ててくれないかな?そうすれば練習を重ねるうちに、お互いの距離感がつかめてくると思うし……。どうかな?」

 

 清隆が交互にサラと姫乃を見つめる。

 エトはそんな二人の思考を邪魔しないように、そっとサラの傍を離れて、耕助たちと並ぶようにして清隆の後ろに立った。

 恐らく清隆のやっていることは賭けに近いだろう。そんなことはエトも分かり切っていたが、姫乃のことも、サラのこともある程度知っているエトに言わせてみれば、清隆の狙いを二人とも理解してくれるはずだと思っていた。

 

「に……兄さんはずるいです。そんな言われ方をしたら頷くしかないじゃないですか」

 

「……そうですよ。ここでムキになって固辞できる程、私たちは子供じゃないです」

 

 清隆の言葉に、二人とも反抗の言葉を投げかけたが、根本的な部分では渋々納得がいったようだ。

 サラに至っては、どこか諦めたようにも見える。

 清隆は二人に握手するように言って聞かせて、仲直りをさせる。

 元々仲の良くない二人であっただけに、『仲直り』という言葉を使うのは場違いなのだろうが、それでも清隆は二人が仲が良かった、と言うニュアンスを持たせたくてこちらの言葉を選んだ。

 

「よろしく、姫乃」

 

「よろしくお願いします、サラさん」

 

 こうして、二人は無事に()()()することに成功した。

 ここから二人の仲を進展させるのには時間がいるだろうが、それはゆっくりやっていけばいい。上手く行けば、これからもお互いを助け合える竹馬の友となえり得るだろう。

 そうして、ここに新しいパーティーが誕生したのだった。




クーはアニキであり、みんなの父親的存在だと思う。
Fateの男連中(特にサーヴァント)は背中で語る奴が多いからかっこよすぎて困る。

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