満身創痍の英雄伝   作:Masty_Zaki

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バレンタイン企画?んなもんねーよ!


期待の新人

 予科1年のクラスマスター、すなわち担任の先生はそれぞれ生徒会に選出された本科1年の生徒が担当することになっている。本科1年A組のリッカ・グリーンウッドは予科1年A組のクラスマスター、B組のシャルル・マロースは予科1年B組のクラスマスター、C組の五条院巴は予科1年C組のクラスマスターといった具合である。

 さて、A組のクラスマスターであるリッカは、今度開催される、予科1年のグニルッククラスマッチに対して、燃えに燃えていた。そもそもが勝気で強気なリッカなのだから仕方がないと言えばそうなのであるが、それ以外にも彼女を動かす原因はあった。

 シャルルと巴。両方とも同じ生徒会役員で、この学園で切磋琢磨している相手同士である。そして今回は、それぞれが集団を指揮し、下級生を指導するという点で誰が最も優れているか、それを競走する良い機会だったのだ。

 そしてそれに火をつけるように、以前A組の江戸川耕助たち、B組のメアリー・ホームズ、C組のイアン・セルウェイが口論していたのだ。それを聞きつけた各クラスマスターがその鬱憤をグニルックの大会で晴らすようにと、個人の闘争心を受け持つ生徒に押し付ける形で各人睨み合う形となったのだ。

 

 そしてある日の放課後、リッカはAクラス全員を引き連れてグニルック競技場に出ていた。目的は無論、グニルックの練習である。

 あらかじめ調査はしていたのだが、今回のクラスのメンバーでグニルックを経験したことがあるのは、サラ・クリサリスと、エト・マロース、それからほか数名の生徒のみ。他のクラスには経験者も豊富らしく、経験の差からすれば確実にA組は不利と言えた。

 しかし、グニルックは必ずしも経験によって左右されるものではない。

 リッカは今回、この大会において、A組の勝利を確信していた。

 それは、A組の中に紛れ込んでいた、とんでもない才能を持ち合わせている少年、葛木清隆のことである。

 

 少し前、入学式を終えた日の放課後、リッカが彼を、荷物を運ぶ手伝いとして生徒会室に呼び込んだ。

 そこにはリッカと清隆、そしてもう一人、クーの姿があった。

 

「この貧相なガキがねぇ……」

 

 クーが清隆の姿を見るなり、怪訝な表情で舌打ちをする。

 第一印象では彼のことを認められないようだ。

 まだ世界の大きさを知らない、無知の少年。

 一方で清隆は、この段階で既に様子がおかしいことは気が付いていたみたいで、どこか緊張しているというかソワソワしている。

 

「で、俺は何をすればいいんですか?」

 

 白を切るように――という表現は適切ではないだろうが、その言葉は、今そこに屈強な男がいる状況で発するものではなかった。

 

「ごめんね、呼び出したりして。実は手伝ってほしいことがあるっていうのは、嘘なの」

 

 リッカはありのままのことを清隆に伝える。

 どうやらいきなり本題に入っていくようだ。

 清隆はリッカの言葉を受けてもあまり動揺する素振りはなかった。何となく見当はついていたのだろう。

 リッカには聞きたいことがあった。それにクーはあまり関係がないのだが、残念ながらリッカが清隆に色々聞きだすために用意したこの部屋が、クーの仕事の拠点であったために、偶然ではないにしろ居合わせる結果となったのだ。

 清隆は何かを上手く誤魔化すように言葉をチョイスしながらリッカの言葉から逃げ道を作り出していく。

 清隆はリッカがカテゴリー5であり、魔法使いの間ではそれなりに有名であることで褒め殺しに掛かっている。

 リッカはそんな清隆の言葉を真に受けずに、呆れながらもその隙を突いた。

 

「……なんでそんな人が魔法学校の生徒をやっているか、か。――君の口からそんな言葉が聞けるとは思わなかったなぁ」

 

「気持ち悪っ」

 

 リッカの思わせぶりな演技じみた科白に、クーが冗談なのかどうか、口を挟む。

 リッカは彼を一睨みして、話を再開する。

 

「キヨタカって名前、聞き覚えがあると思ったんだ。君ってさ、カテゴリー4の魔法使い、だよね?」

 

「っ!?」

 

 図星。清隆は強張って身動き一つ取れなくなった。

 恐らくは隠していたのだろう。それを知られているのは彼にとって大きな痛手となるようだ。

 

「あ~、身構える必要はないわよ。確認したかっただけだから。これでも魔法使いの社会の中じゃ、それなりに顔効くし、こう見えて意外と情報通なんだよね」

 

 それは女王陛下であるエリザベスと友人関係にあるのだから、職権濫用のようなものでそうなるのも仕方がないことなのだが。

 実際にそれ程までの実力を身に着けたのは彼女の努力に他ならない。

 

「気をつけろ。口ではあんなこと言ってやがるが、いつ脅迫の材料に使われるか分からねぇ。下手したら一生の奴隷――っ!?」

 

 爆発音と共に、一瞬光が瞬く。

 清隆には何が起こったのか分からず、ただ唖然としていた。

 あのカテゴリー5が自分の前で、魔法を使った。それも人間に対して。そのことに多大な驚愕を感じて、逆に何も言えなくなっていた。

 

「大丈夫よ。あいつ、知ってるでしょ?なんでもアニキーとか呼ばれてるみたいだけど。殺しても死なないレベルの生命力だから」

 

「だからって急に爆破する必要もないと思うが……」

 

 吹っ飛んだ机の破片の中から爆発で焦げた蒼色の頭が出てくる。

 あの勢いの爆発で無傷であるその男にも、清隆は何も言えなかった。

 

「あの……」

 

 清隆が何とか腹の底から声を捻り出してそう言葉を発する。

 リッカが彼の言わんとしていることを察して、先にこう付け加える。

 

「安心して。別に言いふらそうと思ってるわけじゃないから」

 

「口外しないで下さいよ」

 

「分かったわ、誰にも言わない」

 

 そしてその事実は、彼がいつも一緒にいる妹、葛木姫乃も知らないことであったらしい。

 彼女にもまた伝えないよう、釘を刺された。

 

「それで、君の、カテゴリー4の君が学園に入学する、その目的は……何?」

 

 彼女が聞きだしたかったその核心。一気にリッカは踏み込んだ。

 にこやかな雰囲気ではあるが、どことなくプレッシャーを放っているのを、遠くから眺めているだけのクーでも感じ取れた。彼にとって大した事でもないが。

 

「簡単ですよ。海外留学する妹のお目付け役です。うちの父は、娘に対してかな~り過保護ですから」

 

 あくまで口を割らない。結局清隆はこの場でその本音を語ることはなかった。

 とりあえずリッカは彼に無茶はしないこと、勝手な行動はしないことを彼に約束させた。

 最後に彼に首飾り――妖精『ティンカー・ベル』とリッカは名付けた――を装着させ、彼がカテゴリー4としての魔法を濫用した時にそれを使って知らせを送る監視役とした。

 こうして、清隆とリッカたちは知り合うことになったのだが。

 要はこの少年、そんじょそこらの魔法使いの卵とは話が違う。それなりに素質を持っていて才能があり、既に上級者の域に達している人物なのだ。

 

 それから数日経過、初めて本格的な練習が始まった。

 リッカはグニルックの説明を初心者のために簡単に話し、そして実際にやってみたほうが早いと、グニルックのロッドとブリッドをスタンバイする。そして少し離れた位置にターゲットパネルを設置する。

 清隆の方に歩み寄っては、その肩に手をポンと置いた。

 

「え、俺から?」

 

「おいふざけんな!実演くらい俺にやらせてくれたっていいだろーが!」

 

 少し離れた位置で喚き始めたのはクー。やっぱりグニルックが楽しいようだ。

 あまりのやかましさに生徒たちが振り向くが、その視線の中に尊敬の念が込められているのが多いことは明白である。

 

「ダメよ!あんたがやればセットが消し炭になっちゃうもの!」

 

「調整するから頼む!」

 

「その言葉に何度騙されたことか!いい加減弁償してもらうわよ!」

 

「クソッ、魔法使いの風上にも置けない卑怯な奴め……」

 

 渋々引き下がってでもちらちらと期待のこもった視線を送ってくるクーを無視して、リッカは続ける。

 

「やりながら説明させてもらうわ。これ、握って」

 

 そう言いながらリッカは清隆にロッドを握らせる。

 清隆は彼女の指示を受け、説明を聞きながら、ブリッドを打ち出した。

 綺麗な放物線を描いたそれは見事に的に的中し、パネルの一枚を打ち落とした。

 やはり初めてとは言え、筋はいいらしい。

 そんな感じで、初日の練習は次々にグニルックになれるようにロッドでブリッドを打ち出すことを延々と繰り返すことで終了したのだった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その翌日、A組の体育の授業を一時限変更して、その時間をグニルックの練習に充てることになった。

 ちなみにこの時また例のイアン・セルウェイとのいざこざのせいで、負けたクラスには罰ゲームが課されることをリッカは笑顔で報告した。またシャルルと巴、三人で悪ノリが始まったようだ。

 昨日と同様に、順番に一人ずつロッドを握ってブリッドを放っていく。

 実はこの時、一人ひとり全員に見られながらの実演となるので、プレイする側は結構恥ずかしかったりするのだ。

 清隆の安定したショットの後、江戸川耕助が指名され、四季といつも通りの不毛なやり取りをしてロッドを握り、レーンに立った。

 清隆は妹である姫乃と、やたらとクラスの連中と壁を作りたがるサラ、そしてそのサラを衆目の中イアンの例のアレから助け出したエトの三人を気にしながら、自分の感覚を忘れないように素振りを数回繰り返し、どうにも不格好に素振りをしている姫乃にちょっとコツを教えることにした。

 そして一方、こちらもまた、同じようにもう一人の不器用な少女に声を掛けた少年がいた。

 

「あ、クリサリスさん」

 

 ブリットを壁に打ち付けているサラに声を掛けたのは、エトだった。

 サラのそのスイングのフォームは非の打ち所のないものだったが、どうやらサラは、魔力の乗せ方に無駄が多いようだった。

 

「……エト・マロース」

 

 彼女がエトの声に振り向き、いつものようにそっけない態度でそう呟いた。名前はクラスメイトと言うこともあるのか、覚えてはいるらしい。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、ちょっとアドバイスをと思って」

 

「初心者のマロースにアドバイスできることなんてないです」

 

 相変わらず棘のある言葉――を放っているつもりはないのだろうが、それでも十分他人を寄せ付けないような冷たい言葉ではあった。

 

「えっと、ラストネームで呼ぶのはお姉ちゃんもいるから、できればファーストネームでお願いできるかな?」

 

 サラの冷たい言葉も何のその、その温かな笑みは崩れることもなく、彼女との距離を縮めようとする。

 

「それに、僕もお姉ちゃんとかにグニルックは教えてもらってやったこともあるから、初心者って訳でもないしね」

 

「……それで、アドバイスって何ですか?」

 

 不愉快だとばかりにそうサラは訊き返す。エトはとりあえず彼女のスイングに無駄はないが、一方で魔力運びに難があることを指摘した。

 

「私の魔法の力は元々弱いんです。だから、無駄が多いように見えるんじゃないですか?」

 

「確かにキミの魔力は弱いかもしれない。けどね――」

 

 エトは自分のロッドを構えて、ブリットをスタンバイする。そしてほとんど少量の魔力だけをロッドに乗せてスイング、ブリットは理想通りの曲線を描いて壁に衝突し、元の位置に戻って来た。

 

「消費する魔力をできるだけ抑えて、効率よく魔法を乗せればブリットは曲がるんだよ」

 

 にっこり。姉に似た、包容力のある笑みにサラは思わず引き込まれそうになる。

 

「分かりました。コツは大体見て分かったので、もうどこかに行ってください」

 

 どうにか気を取り直して冷たくそう言い放つ。

 次に撃ったブリットは、サラの思い通りには曲がらず、サラは不満げな顔を作る。

 

「もうちょっと力を抜いて――」

 

「そ、そんなこと、言われなくても分かってるもん!」

 

 エトが食い下がってアドバイスをしようとした瞬間、彼女は爆発した。

 いつも見せない、感情を表に出したサラ。これ程珍しいものをエトは見たことがないという気分だった。

 

「……もん?」

 

「あ、いえ……」

 

 自分の失言に羞恥して顔を紅潮させ、目を泳がせながらも、何とか体裁だけは整えなおした。

 

「コホン、い、言われなくても分かっています。ただ、コツと言っても、頭で理解するのと実際にやるのとでは違うわけですから――」

 

「それならもう一度、見せてあげるよ。それなら、いいでしょ?」

 

 そうして、エトはサラに対してあれこれと指導していく。

 サラは、何故か自分い優しくコツを教えてくれるエトに対して疑問とほんの少しの感謝を抱きながら、彼の指示を仰いでいた。

 競技場の隅で、この二人がいい感じに接近しているのを、清隆もリッカも、勿論クーも知らない。




本校時代で既に地に足の着いた考えができる純一然り、大切な人の為なら死ぬこともいとわないさわやかヤクザの義之然り、カテゴリー5をサポートできるレベルのカテゴリー4である清隆然り、D.C.シリーズの主人公は誰もがチートスペックを持ってると思う。

感情が爆発すると地が出てしまうサラ可愛いです。
でもシャルルさんみたいな姉が欲しいです。欲しかったです。

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