満身創痍の英雄伝   作:Masty_Zaki

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新たなる卵たち

 

 

 1951年9月――王立ロンドン魔法学園に、新しい魔法使いの卵が入学してきた。

 

 リッカやシャルル、ジルにそれから否応なく入学させられたクーが本科生となり、魔法学園――風見鶏と呼ばれるこの学園を支える力として、そして魔法使いの未来をより良きものにするための素晴らしい人材として、成長を重ねていた。

 現在、この天下の風見鶏において、生徒会長を務めているのは、本科1年B組のシャルル・マロースである。カテゴリー5であり孤高のカトレアの二つ名を持つ程の魔法使いであるリッカが生徒会長になることが最もいいのかもしれないが、彼女はそちらの方でもいろいろな任務を任されているうえに、彼女の性格がそのようなものにあまり向いていないこともあった。しっかりしていることにはしっかりしているのだが、どうにも面倒臭がり屋なのである。シャルルも最近気が付いたのだが、彼女には、『かったるい』という間抜けた口癖があるようだ。

 シャルルには、リッカ程の才能があった訳ではないが、実は彼女はサンタクロースの家系であり、そう言った意味では家柄も良く、そして最も重要視されたところは、彼女の持つ多彩な魔法に関する知識であった。

 座学では勿論常にトップクラス、そしてあらゆる魔法の技術に関して応用が利き、どんな場面でも的確に対処できうる能力を持つ。彼女がどれだけ努力をしてきたか、共に切磋琢磨してきたジル・ハサウェイは知っている。

 生徒会役員は各学年から三人、各クラスから一人ずつ選出され、三つに分かれる学期でそれぞれ行われる生徒会選挙で各学期、一人ずつ決められる。

 そのシステムは、予科1年から各クラス一人ずつ、三人の立候補者を出し、その三人で最も最終獲得票が多かった者が次学期から生徒会の役目を担う、というものである。

 風見鶏の生徒会に入るということは魔法使いを志す生徒たちにとって大変名誉なことであり、逆に言えば、それだけ重く大きな責任を負うも同義である。だからこそ、と言うべきだろうが、それなりに魔法使いとしての名が世間に広まる可能性も大きく跳ね上がり、将来的に魔法使いとして活躍したり、また、優秀な魔法使いやその家系と知り合う機会も増えてくるというものだ。

 話が逸れはじめたが、とにかく、シャルルの学年で生徒会の座を勝ち取ったのは、シャルル・マロース、リッカ・グリーンウッド、そして五条院巴の三人だった。ジルは最初から生徒会に立候補するつもりはなかったようで、陰ながら生徒会選挙の活動を頑張っている彼女たちを応援していた。ちなみに、この世代が風見鶏の生徒会の黄金世代として伝説になるのは省略しておく。

 

 7月の終わり、昨年度の本科2年生はそれぞれの道へとは羽ばたくために卒業していった。中には魔法学園で教育者として励みたいがために教師として残った者もいるが、ほとんどがこの風見鶏を去った。

 そしてそれは同時に、新しい出会いを呼び寄せる。それが、この入学式の日だった。

 生徒会長、シャルル・マロースの実の弟、エト・マロースもこの年入学することになる。このことについてシャルルは当然、リッカやジルも大変喜んでいた。意外なことに、あの無愛想なクーでさえも、エトの入学には全力で激励したようだ。なんだかんだで師匠としての責任くらいは果たしているつもりなのだろう。

 そしてまた、彼以外にも有望な生徒が入学した。表舞台では探偵を家業とし、その家柄における事件の解決率で一躍有名となった魔法使いの子孫であるメアリー・ホームズ、そして同様にエドワード・ワトスン。そしてイギリスきっての名門の家柄を持つセルウェイ家の御曹司、イアン・セルウェイ。没落しつつはあるが、伝統ある貴族の家柄であるクリサリス家の息女、サラ・クリサリス。

 ヨーロッパ周辺諸国だけではない。日本からも、有望な魔法使いは集まってきている。日本における有能な探偵一族であり、また、質の高い人形使いの一門である江戸川家の跡取りである江戸川耕助。そして日本の名門で、日本の魔法使いならほとんどが知っているほどの名門の家柄である葛木家の長女である、葛木姫乃とその兄、葛木清隆。

 この年も十分に見込みのある、優秀な魔法使いが育ちそうな生徒ばかりだと、リッカたちは思っていた。

 

「いやまぁ、そんなことはどうでもいいんだけどな」

 

 ここ生徒会室で、苛立たしい声が周囲の視線を一点へと引き付ける。

 その視線の先で首輪をつけられ胡坐をかいて座っていたのはクー・フーリンだった。

 新しく入ってきた有望な卵たちについて色々と談義を交わしていたところに横やりが入ったものだから、特にリッカは少し苛立たしげに振り返った。

 一体なぜこんなところで犬のような真似をしているのだろうかという質問に対しては、巴がよく知っている話である。

 

「生徒会雑用なんてそんなモンがあるなんて聞いてねーぞ!?」

 

 怒鳴り声が生徒会室に鳴り響く。その声に気弱な女子生徒会役員がびくつくが知ったことではない。

 

「だってアンタ『八本槍』なんていう大層な名前を貰ってる割にはこの学園で対した働きしてないじゃない。クーみたいなご立派な騎士様が学園で平和に暮らせると思ってるわけじゃないでしょ」

 

「だからってこの扱いは何だ!?魔法で気絶させて首輪着けて監禁とか最早人権どうこうって話じゃねーぞ!警察呼んで来い!」

 

 じたばた暴れまくるも、その音も揺れも全くこちらには届いてこない。巴とシャルル、それからリッカの恐るべき連係プレイによってできた魔法の結界によって、彼の言葉だけがこちらに届くようになっているのだ。今の彼ではこれを突破することは出来ない。ちなみにここまで強固なものにしようと提案したのは巴である。

 実はこの男、どこまでも自由奔放なのだ。

 学園の職務はほとんどないに等しい、学園長の護衛を地下から地上まで、あるいは地上から地下まで行うというのが彼の役目の大半であり、それ以外は大体学園内の治安維持、要するに見回りだけなのである。

 それすらも面倒臭がってやらないし、やれと言ったら駄々を捏ねはじめる。大人げないと言ったらそうなのかもしれないが、それが彼の性格なので仕方がない。

 そして、そんなやり取りを生徒会室の中で行っていたために、ただでさえかったるい書類作業を行っていたリッカがそれを煩わしく思い、とりあえず彼を黙らせたのだ。

 少しやり過ぎなところもあるかもしれないが、これまでの経験上、こうでもしないと彼は停止しない。それに、長年の付き合いで力の加減は完全に把握してしまっている。

 それだけ彼を叩き潰しているということにもなるが。

 結論を言えば、自業自得、と言うことになる。

 

「どうだ?学園の犬として貢献する気は起きたか?どうせ犬なら働き者の犬の方が好まれると、私は思うんだが」

 

 笑いを堪えるような表情で、巴はクーに対してそんな腹立たしいことを抜かす。

 クーは、この結界を破ったら真っ先に巴をなぶり殺しにしてやると心に決めた。だが出来ないものは仕方ない。

 

「ごめんなさい、クーくん。あんまり暴れられると流石に迷惑だから、ね?」

 

「ね?――じゃねーよ!ここから出せって!」

 

 子供が駄々を捏ねるように地べたをバタバタと転げまわるクーに対してほんの少しだけ憐れみを持ったリッカがクーの目の前に来てしゃがみ込む。

 

「あーあー分かったから静かにしなさい。とにかくクーは、これから予科1年生の女王陛下からの依頼での出動に常に同行してもらうわ。アンタが『八本槍』でもどうせ学園内でしか仕事ないんだから出来るでしょ?」

 

「分かった!分かったから出せ!じゃねーと殺す!今出さねーと後で絶対殺す!」

 

 やれやれと頭を抱えながらリッカはシャルルと巴に結界を解除するように指示をする。

 怒り浸透しているクーは鬼のような形相で巴を睨みつけながら大股で接近するが、それに対して彼女は余裕の表情で構えた。

 

「それは勿論これからどうするかキミの勝手だろうが、今の私がキミに対してどのような強みを握っているのかを忘れないでほしいものだ」

 

 その一言に、クーは拳を震わせながら静止してしまった。

 どうやらクーは巴に何かしらの弱味を握られてしまっているようだが、それが何なのか、シャルルもリッカも知らない。

 突如、力のこもった拳は壁へと叩きつけられ、そこから広い範囲に罅が広がった。

 

「あの野郎殺すあの野郎殺す殺す殺す殺す殺す殺す――」

 

 ひたすら呪詛のように何者かに対して呟いているが、それは追々明らかになることだろう。

 

「クー、呪ってるところ悪いけどとりあえずそこの壁の修理代あなた持ちでよろしくね」

 

「あ」

 

 自分が犯した失態に気が付いて、クーは何もかもを諦めたようにへなへなと倒れ込んだ。

 戦闘に関しては最強と呼ばれる『八本槍』の一人であるはずなのに、何故かすぐに弄ばれる『アイルランドの英雄』なのであった。全く持って情けない。

 

「それは置いといて、これからまた今学期も選挙の準備で忙しくなると思うから、ビシバシ働いてもらうわよ」

 

 孤高のカトレアの魅惑的なウインクも、力の抜けたクーの前では水の泡のように無意味なものだった。

 これから始まるのは、ダ・カーポのように繰り返される、魔法と奇跡と幸福を辿る、盛大に残念な英雄伝となるだろう。




簡単な原作の登場人物紹介みたいな話。
ランサーは入学二年で巴におもちゃにされました。

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