満身創痍の英雄伝   作:Masty_Zaki

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今回クーさんは出てきません。


異境からの手紙

 

 結果として、カテゴリー認定試験を受けたリッカたちは、それぞれ自分のカテゴリーを得ることができた。

 事前に対策なども図書館島で調べていたこともあって、三人とも結果は良好だったともいえる。

 ちなみに、結果は以下のとおりである。

 ジル・ハサウェイはカテゴリー4。ワンドなどの補助なしで繊細で難しい構築を必要とする魔法を行使できることが、最も評価につながったポイントである。

 シャルル・マロースはカテゴリー2。リッカに魔法を教えてもらって、ジルと比べてもそれ程長くはなかったため、この試験では高い評価は得られなかった。しかし、本来であればまともに魔法教育を受けていなかった物は、通常ではカテゴリー1であったところを、最初からカテゴリー2に認定されるところを見ると、今後に期待できる逸材となる。

 最後に、リッカ・グリーンウッドは、驚くことに本当にカテゴリー5として通ってしまった。彼女は元々多大な才能を持っており、保有している魔力量、そしてそれを余すところなく発揮できる技術と使用用途の幅そして何より、オリジナルの自作魔法を複数所有していることが評価のポイントとなった。カテゴリー5となったリッカはここから後その名を、魔法使いの間で轟かすことになる。

 その名は、華麗さと高級さを象徴する花の名から、彼女の美貌と高級感を彷彿とさせ、そして、その名は彼女の気高き意志と、類稀なる実力を知らしめる響きを持つ。

 

 ――孤高のカトレア

 

 それが、彼女が得た通り名であり、称号のようなものであった。

 ちなみにリッカ自身この二つ名はかなり気に入っているようだ。

 そしてそれが魔法学園にも良い結果を与え、この学園にカテゴリー5がいるということで、息子娘を魔法学園に入学させたいという魔法使いの家系もかなり増えたようだ。

 リッカ・グリーンウッド、孤高のカトレアというカテゴリー5の名は、魔法学園にとって素晴らしいほど広告としての役目を果たしたといえる。

 

「やっぱりリッカって凄いよねー」

 

「何言ってるの。ジルもシャルルもよくやったわよ」

 

「私は二人と比べたらまだまだだけど、すぐに追いつくから待っててよね、特にリッカ」

 

 シャルルが両手でガッツポーズをつくり、今後の目標に向かって意気込む。

 

「よーし、頑張るぞー!」

 

 魔法学園の朝、桜並木を抜けてきた学生たちが次々に登校してくる。その様子をと遠くのベンチから眺めていた。

 ある者は前方不注意ながらも本を読みながら、ある者は友達や恋人と仲良く会話をしながら、またある者は寝不足なのか、半分船を漕ぎながらなんとか歩いていたり。

 いつも通りの朝。優秀な魔法使いの卵たちが、今日も勉学に勤しむために、学び舎へと向かっていた。

 

「ところで、リズからの連絡、そろそろ来たんじゃない?」

 

 ジルからリッカへの質問。

 それに対してリッカは待ってましたとばかりにジルとシャルルの前に立ちはだかる。

 そして懐から一枚の紙を取り出すと、それを二人に突きつけた。

 

「何それ?」

 

「リズからの手紙よ。今後の予定のことが書いてあったわ。昨日届いたの」

 

 嬉々として出来事を語るリッカ。やはり離れた友から連絡が、手紙が来るというのは、カテゴリー5と言えど嬉しいものらしい。

 ジルが受け取って封を開け、中の手紙を取り出す。

 そこには次のように書いてあった。

 まず一つ、とりあえずヨーロッパ各地の魔法関係の組織と連絡を取り、協力を取り付けることに成功したということ。

 そしてそこから更に世界へと進出し、本格的に世界各地から魔法使いを呼び寄せる算段を立ててきたという。

 そして、本魔法学園については、ジルたちは実際に予科学年から入学してもらい、そこで学園の生徒として教育を受けてもらう。

 一方でリッカはそのカテゴリー5の地位の所有者ということで講師を依頼するという。これはエリザベスの意向ではなく、どちらかと言えば各地の代表の推薦ともいえる。とは言ってもこれは強制力はないため、リッカには断る権利はあった。

 それから、来年からエリザベスがイギリス女王兼王立ロンドン魔法学園の学園長に任命されることが決定された。

 以上のことが、手紙には書いてあった。

 

「――で、リッカはどうするの?」

 

「何が?」

 

 すっとぼけているのか天然なのか、リッカはジルに訊き返した。

 

「何がって、学園の講師のことに決まってるじゃない。リッカから直々に教えてもらえる生徒は幸せ者よね」

 

 ジルはそういう。しかしリッカはその言葉に対してあまり良い反応を示しているとは言えなかった。

 少し不満げな顔をして、そしてにっこりと微笑む。

 

「もちろん断るに決まってるわ。だって講師ってかったるいじゃない。ただでさえカテゴリー5としていろいろ忙しくなるらしいのに、そこに更に講師としての活動も入れたら身が持たなくなっちゃうし、ジルとの共同研究も手が付けられないわ」

 

 ジルはリッカの発言に納得する。

 世界中に花を咲かせる研究――その先駆けとして、彼女たちが目を付けたのは、極東の国、日本に存在する、桜の花だった。

 桜の花を永遠に枯れさせないようにする、それが今の彼女たちの研究の目標。

 それを実現させるために、リッカの力は必要不可欠で、同時にジルの力もなくてはならないものである。

 どちらも欠けるわけにはいかないのだ。

 

「それに、生徒として潜り込んだ方が、本科生になってからそういうところに気が利くようになるらしいしね」

 

 そう言ってリッカは二人にウインクをかます。

 シャルルたちは、リッカははやはり相変わらずだと、その自由奔放さを羨ましがると同時に、カテゴリー5であろうと、リッカはやはり大切な友達であることを再確認したのだった。

 

「ところで」

 

 リッカは懐からもう一枚、手紙のようなものを取り出す。

 そこに書いてある名前は、シャルルの弟、エトだった。

 

「弟さんから手紙が来てたわよ」

 

「何であたしじゃなくてリッカの方に届いてるのかは知らないけど、とにかくエトからあたしに届いたんだね」

 

 とりあえず余計なツッコミは置いておいて、シャルルはエトからの手紙を受け取る。

 そこには、シャルルが見慣れた、エトの柔らかい文字の列があった。

 今頃はクーにいろいろ教えてもらいながらヨーロッパ中を旅していたのだろうと、シャルルも感慨深くなる。

 エトの手紙には、こう書いてあった。

 

『お姉ちゃん、それからリッカさん、ジルさん、元気ですか。

 僕の方は女王陛下の護衛という任務の中で、お兄さんと一緒にヨーロッパ中を旅して回りました。

 その道中、他の従者さんやお兄さん、それから女王陛下にもいろいろなことを教えてもらって、大変貴重な時間を過ごさせてもらっています。

 女王陛下からは名前で呼ぶことをお許ししてもらえているのですが、やっぱりそういう目上の人にはそれなりの敬意を持って接するのが正しい人間関係だと思ったので、お断りさせていただきました。

 お姉ちゃんたちの話も、女王陛下やお兄さんを通じて色々聞きました。

 魔法学園に入学するみたいですね。お姉ちゃんたちが魔法学園に通って、友達をたくさん作って、一生懸命に勉強して、いつか世界中の魔法使いを引っ張っていけるような立派な魔法使いになるのが楽しみです。

 僕もお姉ちゃんたちが本科学生になった時に入学することになるみたいですが、その時はよろしくお願いします。

 僕の方もお兄さんにいろいろと教えてもらって、魔法学園でたくさん勉強して、みなさんに肩を並べられるような魔法使いになりたいです。

 それでは、また戻ってきた時にお会いしましょう。』

 

 読み終わったシャルルは、その手紙から目を離してほっと一息吐く。

 安心したような、それでも少し心配しているような。

 エトの姉として、離れている弟のことは少し気になっているようだ。

 

「立派だよね~」

 

 脇から覗き見していたジルがそう呟く。

 シャルルはそのコメントに満足したのか頬を紅潮させて笑った。

 

「クーの方も大丈夫そうだし、私たちは私たちですることをしましょうか」

 

「そうだね」

 

 ジルたちもベンチから立ち上がり、学園の方を見た。

 三人の夢も、まだまだ遠い彼方にある。それは彼女たち自身がよく分かっていた。

 それでも目標に向けて、決して諦めない、その心意気は絶対に忘れることはない。

 これからの希望と期待に胸を膨らませて学園を見る。

 季節は春。

 遠くには美しい桜の花が咲き誇っている。

 エリザベスも親日派ということで、一度日本に行った時に幾つか苗木を譲ってもらったらしい。

 それをこの魔法学園の敷地に植え、今では立派に咲き誇っている。

 リッカたちが桜を咲かせる研究を進めているのも、ここに咲く桜を目にしたことと、そしてエリザベスから手紙でやり取りしたときに目にした日本の情報に驚き、関心を持ったこと、そして図書館島での文献に書かれた桜が大変美しくてすばらしいものであったこと。そう言ったことが、リッカに日本を意識させると同時に、研究への意欲を更に掻き立てたのである。

 とにかく、三人はその光景を見て、これからの未来を、胸の内に描いたのだった。




更に時間が飛びます。

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