それでも一応完結までには向かわせるつもりです。よろしくお願いします。
カーニバルファンタズム的なノリで書きたい。
「ランサーが死んだ!」
「この人でなし!」
槍使いと魔法使い
かつては霧の町、ロンドンと呼ばれたこの地には、とある1つの伝説が語り継がれていた。
裏路地を抜けて、ひたすら人目のつかない建物の裏を抜けていくと見つかる公園の広場、そこには――
――雄々しくも美しい、紅い、ひたすら紅い長槍が、大地に突き刺さっているのだという。
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ヨーロッパのとある平原、青髪の青年は、片手に槍を引っさげて、体中を傷だらけにして、トボトボ歩いていた。
やつれて生気のない顔を見ると、どうやらまともな食事をしばらく取っていないようだ。
それでも、ただ生きようと光る紅き双眸は、少し遠くに見える町を捉えていた。
「ようやく、まともな飯にありつけるぜ……」
時間を掛けて、一歩、また一歩と、町に近づいていく。
そしてようやく、町中のとある食堂に辿り着いた。
どっかりともたれるようにして椅子に座り、ほっと一息つく。
思えば今回の長旅も、過酷で不幸だった、などと思い出にふけながら、注文をする。
水の入ったコップを受け取り、一口啜る。
久しぶりの冷たくて清潔な水に、涙が零れそうになる。
そして、ウェイトレスが、青年の注文したものをテーブルに並べ、一礼して奥に戻っていった。
青年が目を輝かせながらフォークとナイフを手に取り、料理にその刃をかざそうと――
「いただきますっ!」
生きる希望と喜びを、この大地の食材に感謝の気持ちと共に乗せて、声高らかに挨拶した瞬間――
――ウワァアアアアアアアアアアアアアアア…………
外から妙な喧騒が聞こえるので、何事かと振り返った。
よく分からなかったため、何も聞かなかった振りをしてもう一度振り返ったときには――もう遅かった。
彼の料理に、矢が刺さっていた。
それも、何故か燃えていた。
恐らく火矢でも打ち込まれたのだろう。
青年は、既に半泣きになっていた。
それだけならまだよかったのだが。
――オルルァアアアアアアアアアアア!!!!
武装をした男たちが何人も店内になだれ込んでくる。
吃驚した青年は、その場を動くことが出来ず、ただ呆然としていた。
気を取り戻したのは、彼のテーブルがひっくり返されてから。
自分の料理が地面に落ちて、台無しになってしまったのだ。
「テ、テメェら、いい加減に――」
青年は怒りに震え、立てかけてあった紅い槍に手を伸ばす。
そして。
「しろよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
吼えた。
吠えた。
咆えた。
そして武装した連中をその槍で片っ端から倒していく。
抵抗する人間が現れたので、それを鎮圧しようと武装集団は青年を取り囲み、厭らしい笑みを浮かべる。
「俺の久々の飯を台無しにした罪は、あの世で償いやがれェェェエエエエエエエエエエエエ!!!!」
次の瞬間には、彼の周りにはごろごろと死体が転がっていた。
結局楽しみにしてた食事もとれず、なけなしの金も今の注文で失ってしまったので、完全な赤字で彼は泣きそうになっていた。
仕方がないので青年はその場を立ち去る。
店から出て辺りを見渡すと、あちこちで騒動が起こっているようだった。
「おいおい、こりゃ一体何だってんだ……?」
すると、同じく武器を持った男三人組がこちらに寄ってくる。
明らかに険悪な雰囲気。
応答を間違えれば殺されるだろう。
「お前、この辺の人間じゃないな。魔法使いか?」
魔法使い、というワードを聞いて、青年はこれが何の騒動か分かったみたいだ。
「魔女狩り、ねぇ……」
考え込むように首をひねって、そしてこう思った。
――面白れぇ。
とりあえずそのにやにやした態度にむかついたようで、男たちを蹴散らしておいた。
その時、どこからか悲鳴が聞こえた。
恐らく、標的となって追いかけられているのだろう。
青年はその音源の場所をいち早く特定して、たかってくる雑魚共を瞬殺してすぐにそこに向かった。
場所は路地裏、このまま行けば行き止まりなところである。
そこには少女が一人、絶望に身を震わせながら、身を屈めて座っていた。
そして、それを取り囲む武装集団。
少しずつそれぞれの得物を持って迫ってくる。
逃げ場はなく、既に身を守る術もなくしていた。
ここまでか、と思った時、その集団の後方から、怪しげな雄叫びが――
「
突如男たちの背後から爆音が鳴り響き、爆風に男たちが巻き込まれていた。
その様子に少女は呆然と見ていることしか出来なかった。
同時に思った。
――助かった。
煙の中から一人の人影が現れる。
紅い槍を持った雄々しき姿。
青色の髪を後ろで束ね、鋭い紅眼は彼女を見つめていた。
「大丈夫か?」
青年は少女に聞く。
少女はそれは違う、と思った。
それは貴方が言う科白ではない、と。
なぜなら。
彼の方が圧倒的に満身創痍であったからだ。
額から地を流し、来ている洋服もところどころが破けて血が滲み、挙句の果てに背中に矢が数本刺さっていると来た。
これを見て心配しない人はいないだろう。
とにかく、辺りは既に放火されたり爆破されたりしたせいでところどころが崩れ落ち焼け落ちているので、もはやここは人間が住めるような場所ではなくなってしまった。
「わ、私は大丈夫……ですが……あなたは――」
「――ルー!?ジルー!?」
遠くで誰かが人を呼ぶ声がする。
この町に住んでいた人の知り合いの人だろうか。
そうなれば今目の前にいる娘を保護してくれるだろう。
青年はそう思ってほっとしていた。
そしてその声の正体が姿を現した。
黒いローブを身に纏い、それと対照的に当たりに光を撒き散らすような美しくなびく金髪、そして、サファイアを彷彿とさせるような澄んだ蒼い瞳。
紛れもない美少女が、青年の前に現れて――
「あ、あんた、ジルに何をするつもり!?すぐにそこから離れなさい!」
「ちょ、リッカ!?」
助けた少女がリッカと呼ぶその美少女は魔法のワンドを構えてこちらに振りかざした。
惚けていた青年は突然後方に吹っ飛ばされる。
風を操って対象に衝撃を与える攻撃魔法を行使したのだ。
「ぐぅおあッ!?」
青年は満身創痍の体でその攻撃を正面から受け、かなり痛手を受けたようだ。
青年はゆっくりと立ち上がる。
そして自分に危害を加えた美少女を、ありったけの殺意を籠めて睨みつける。
「テメェも俺をぶっ殺そうってか……。上等だァ!かかってこいやァーー!!」
青年は槍を構えて美少女に肉薄した――
数分後。
「……」
青年は美少女の前で情けなくうつぶせに倒れていた。
残念ながら手負いの状態では勝てない程の魔法の使い手だったようだ。
「そんな状態で私に勝とうなんて百年早いわ!」
美少女は青年を睨みつけて吐き捨てるように言った。
だがしかしこの状況に満足していないのが一人いたりする。
「えっと、だからリッカ、この人は私を助けてくれたんだよ……」
「えっ」
少女は金髪の美少女に、この青年が追い詰められた自分を救出したこと、規模の大きい騒動を、たった一人で鎮圧したこと。
そしてその際に深手を負った状態で、勘違いした金髪美少女と相対したこと。
「えーっと、その、大丈夫……?」
「これが大丈夫に見えるなら医者にかかることをお勧めする……」
「あの、その、……ごめん?」
何故か疑問系だった。
なんとなく勢いだけで始まってしまったものだから、正直自分に非があるかどうか分からないようだ。
そして、その様子を見ていたそばかすの少女は、ばつが悪そうに苦笑していた。
早速ジル・ハサウェイ生存ルート。
これで原作リッカルートは脆くも消え去ったのだった……
さぁて、風見鶏入学まであと百数十年!
どうすっかなぁ……?