「フォーチュン、フォーチュン。先手は私なの!ドロー!」
目の前の少女(対戦データを見る限り化野歓那というらしい)のわざとらしいとってつけたような語尾(前についているのだから語頭が正しいのかもしれない)は意図してつけたような不自然さがなく、流れるように言葉の一部として発されている。そんな風に聞こえる、何故?情報が無い故にソレに対する答えは見出せない。見出せないのに、デュエルに関係ないのに、頭の片隅で思考の堂々巡りが止まってくれない。
「フォーチュン、フォーチュン。私は〈デーモン・ソルジャー〉を召喚なの。おまけに〈二重召喚〉を発動して、手札から〈魔界発現世行きデスガイド〉を召喚なの。〈魔界発現世行きデスガイド〉の効果を発動してデッキから〈トリック・デーモン〉を召喚なの!」
〈デーモン・ソルジャー〉攻撃力1900
〈トリック・デーモン〉攻撃力1000
〈魔界発現世行きデスガイド〉攻撃力1000
デーモンデッキ。デュエルモンスターズの始まりから存在する〈デーモンの召喚〉などをエースとして利用する上級モンスター主体のデッキ。
そして場の流れはランク3モンスターエクシーズを展開しにかかっている。直接のシナジーこそないが〈発条機雷ゼンマイン〉あたりなどは場持ちもよく効果も強い、警戒を厳にする。
「フォーチュン、フォーチュン。私は〈魔界発現世行きデスガイド〉と〈トリック・デーモン〉でオーバーレイなの!彼方からやってきて!幸せを運ぶ青い鳥!エクシーズ召喚!〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉!」
〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉守備力900
No.というシリーズは耳慣れないシリーズだ。一体効果なのか、皆目見当がつかない。
「フォーチュン、フォーチュン。私はカードを二枚伏せて、ターンエンドなの」
「ドロー、スタンバイ飛んでメインフェイズ」
化野 歓那
LP4000 手札0
〈デーモン・ソルジャー〉攻撃力1900
〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉守備力900
セットカード2枚
澱姫 ぼたん
LP4000 手札6
手札
真源の帝王
堕天使ゼラート
汎神の帝王
神縛りの塚
堕天使の戒壇
アドバンスドロー
悪くない手札です。圧倒してしまいましょうか。
「私は〈汎神の帝王〉を発動!手札の「帝王」魔法・罠を1枚墓地に送ってカードを2枚ドローします」
ドローカードは〈堕天使イシュタム〉と〈終末の騎士〉。いいですね、好調な流れです。
「手札の〈堕天使イシュタム〉の効果を発動。手札の「堕天使」カードとこのカードを墓地に送ることでカードを2枚ドローします、私は〈堕天使ゼラート〉を墓地に送りカードを2枚ドローします」
ドローカードは〈レベル・スティーラー〉に〈死者蘇生〉、いいカードです。勝ちが見えているといっても過言ではないくらいに
「私は〈終末の騎士〉を攻撃表示で召喚。〈終末の騎士〉の効果によりデッキから〈駄天使スペルビア〉を墓地に送ります。手札から〈堕天使の戒壇〉を発動、私は墓地の〈堕天使スペルビア〉を守備表示で特殊召喚し、〈堕天使スペルビア〉の効果を発動。〈堕天使スペルビア〉は自身が蘇生に成功したとき、墓地の天使族モンスター一体を蘇生できます。現れなさい、〈堕天使イシュタム〉!」
〈終末の騎士〉攻撃力1400
〈堕天使スペルビア〉守備力2400
〈堕天使イシュタム〉攻撃力2500
「さらに〈堕天使イシュタム〉の効果を発動。1000ライフポイントを支払い、墓地の「堕天使」魔法・罠カードの効果を適用できます。これにより私は墓地の〈堕天使の戒壇〉の効果を適用、〈堕天使ゼラート〉を守備表示で特殊召喚し、〈堕天使イシュタム〉の効果により〈堕天使の戒壇〉はデッキに戻ります」
〈堕天使ゼラート〉守備力2300
「〈堕天使ゼラート〉の効果を発動、手札の闇属性モンスター一体を墓地に送り相手フィールド上のモンスターをすべて破壊します。私は手札から〈レベル・スティーラー〉を墓地に送り効果を発動」
〈堕天使ゼラート〉の目からビームが放たれ、相手フィールドを焼き払った……かと思うと、一羽の小鳥が必死に逃げ惑い生き延びていた。
「フォーチュン、フォーチュン。〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉はオーバーレイユニットを一つ使って破壊されないの。それと、墓地に送られた〈トリック・デーモン〉の効果によって私は〈迅雷の魔王スカル・デーモン〉を手札に加えるなの!」
エースが手札に加わりましたか。ですが、このターンを防ぎきれなければそのエースも当然現れません。
「私は〈堕天使スペルビア〉と〈堕天使ゼラート〉でオーバーレイ。〈神竜騎士フェルグラント〉をエクシーズ召喚します。そして〈神竜騎士フェルグラント〉はオーバーレイユニット一つを取り除き、モンスター一体の効果を無効にできます。私は〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉の効果を無効にします」
〈神竜騎士フェルグラント〉攻撃力2800
「バトルフェイズに移行、〈終末の騎士〉で〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉を攻撃します」
「フォーチュン、フォーチュン。〈攻撃の無力化〉を発動なの!バトルフェイズはおわりなの」
「凌がれましたか。ではメイン2は放棄、ターンエンドです」
化野 歓那
LP4000 手札1
〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉(効果無効)守備力900
セットカード1枚
澱姫 ぼたん
LP3000 手札3
〈終末の騎士〉攻撃力1400
〈堕天使イシュタム〉攻撃力2500
〈神竜騎士フェルグラント〉攻撃力2800(残りオーバーレイユニット1)
「デーモン、デーモン。劣勢なの、なんとかしなきゃのドロー!」
ドローカードを確認した相手の表情が急激に明るくなる。
「フォーチュン、フォーチュン。攻め込むなの。〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉をリリースして、〈迅雷の魔王スカル・デーモン〉をアドバンス召喚なの。このとき、〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉の効果発動なの。墓地の〈トリック・デーモン〉、〈魔界発現世行きデスガイド〉をデッキに戻して〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉はエクストラデッキに帰ってくるなの。さらにさらにのトッピング!〈迅雷の魔王スカル・デーモン〉に〈デーモンの斧〉を装備なの」
普通に装備されてしまえば攻撃力3500、私のデッキでそれだけの火力を何とかできるカードはそうありません。
「〈神竜騎士フェルグラント〉の効果を発動します。エクシーズ素材を一つ取り除き、〈迅雷の魔王スカル・デーモン〉の効果を無効にし、〈神竜騎士フェルグラント〉以外のカード効果を受けなくします」
そこでとった対処はつまり、スカル・デーモンの無力化、およびデーモンの斧の無効化。
「デーモン、デーモン。そんなのは受け入れないなの。〈迅雷の魔王スカル・デーモン〉の効果なの、相手のカード効果対象になったときにサイコロを振って1・3・6が出たらその効果を無効にして破壊するなの」
さすがに相手もそこまで甘くは無かったか、と内心で歯噛みつつも2分の1のギャンブル効果であると心を落ち着かせた。
「フォーチュン、フォーチュン。永続罠カード〈出たら目〉オープンなの、このカードはサイコロの出目を1か6に変更できるなの!」
「つまり、スカル・デーモンの効果が確実に発動する……ッ!」
「デーモン、デーモン。正解なの、そこの大きなお兄さんはご退場願いますなの」
スカル・デーモンの効果を受けて、フェルグラントは苦悶の表情を浮かべながら破壊される。
「デーモン、デーモン。そっちのおねーさんも、バイバイなの」
堕天使イシュタムも続けて戦闘破壊される。それも1000ダメージのおまけつき。
「くっ!」
「フォーチュン、フォーチュン。ターンエンド、形勢逆転なの」
化野 歓那
LP4000 手札0
〈迅雷の魔王 スカル・デーモン〉攻撃力3500
〈デーモンの斧〉(スカル・デーモンに装備)
〈出たら目〉
澱姫 ぼたん
LP2000 手札3
〈終末の騎士〉攻撃力1400
相手のフィールドには対象を取る効果に完全耐性もちのスカル・デーモンが一体。シンプルだが、それゆえに恐ろしい性能の持ち主だ。それでも、闇属性モンスターさえドローできれば勝機はあります。
「私のターン、ドロー」
引いたカードは〈炎帝家臣ベルリネス〉炎属性モンスターだ。
「スタンバイは処理なし。メインフェイズ、〈死者蘇生〉を発動。墓地の〈堕天使スペルビア〉を蘇生、さらにスペルビアの効果で〈堕天使ゼラート〉を蘇生」
ドローに、賭けるしかない。
「〈アドバンスドロー〉を発動、〈堕天使スペルビア〉をリリースしてカードを2枚ドロー」
スペルビアが強烈な光に包まれ、二枚の羽を残して飛び立ってゆく。その二枚の羽はカードに姿を変える。そのカードは……〈天帝従騎イデア〉と〈堕天使の追放〉。望んだカードは、手札に入った。
「〈堕天使の追放〉を発動、デッキから「堕天使」カード一枚を手札に加えます。私が選択するのは〈堕天使アムドゥシアス〉。さらに〈堕天使ゼラート〉の効果を発動、手札の〈堕天使アムドゥシアス〉を墓地に送り、相手フィールド上のモンスターを全て破壊します」
「デーモン、デーモン。そんなの認めない、認めないなの!」
プレイヤーが何を言ったとしても対抗手段を持たなければ破壊される。ゼラートがふんぬと一声上げて羽ばたくとの羽がダーツのようにスカル・デーモンの右胸を貫き、爆散させる。
「バトルフェイズ、〈堕天使ゼラート〉で直接攻撃」
リアクションは、無い。
「〈終末の騎士〉で直接攻撃」
彼女は何も言わずに固まったままで、デュエル終了の気が抜けたようなブザーがなるまでの数秒間がやけに長く感じられた。
そしてデュエルが終わった後、雀が一枚のカードを彼女の手元から抜き取り、こちらに飛んできた。そこにあったのは〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉のカード。雀は追い払っても、追い払ってもしつこくそのカードを私に押し付けてくるので、雀からカードを毟り取り、蹲ったままの彼女に手渡そうと声をかけた。
「どこか具合でも悪くなりましたか?」
少女は顔を上げる、先ほどまでの表情とは打って変わり、幽鬼のようなとでも表現されるような、真っ青な顔色をしていた。
「困っている人は放っておけない、か。私も随分感化されたんでしょうね」
日々しっかり鍛えたデュエルマッスルのおかげで、人一人抱えていてもそう苦にもせず我が家にたどり着いた。
まったく我ながら、襲ってきた人間を助けるとかどこの善人だよ。本当に柄にもない。
ぼたん「今日のデッキ紹介、第一回目は私のデッキ【帝王堕天使】です。名前のまんまですね。堕天使は上級、最上級を多く擁しているため堕天使のみでデッキを組むのは困難です。そのため帝王カードで召喚をサポートし、事故率を下げているわけですね。ちなみに弱点は除去能力の低さです。なにせサイクロン一枚入ってませんからね、除去能力はエクストラデッキに依存する形になりそうです。と、こんなものですかね。ではまた次話でお会いしましょう」