紅蓮の闘志、黄金の牡丹   作:ザキール本多

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第一話 ゴシップ好きに碌なやつはいない

「ぼたんってカレシ出来たの?」

 

 昼休み、今朝の神代くんとの決闘で事故をやらかした暗黒界デッキをどう弄ったものかと思案していると、そんな言葉が投げかけられた。

 

「ひなた、それはどういう意味ですか?」

 

 声を掛けてきたのは夏野ひなた。小学生の頃から彼女とは付き合いがあるのですが、彼女は厄介事を素晴らしい頻度で抱え込む能力があります。主人公体質とでも言えばいいんでしょうかね、彼女は恐ろしく厄介な案件を月イチ以上のペースで持ち込んできます。案件そのものの処理から後処理まで、妹のこかげさんをも巻き込んでなんとかするのがもはや日常と化しています。

「んー、だってぼたん、今朝男の人と二人乗りしてガッコ来たんでしょ。結構噂になってるよ」

 

 彼氏。というのはこの場合凌牙を指すのでしょうか?

 

「ふふ、面白い冗談ですね。凌駕は璃緒にベッタリですし、恋愛沙汰はありえませんよ」

 

 小さく笑ってそう言ってみせる。

 

「ぼたんって反応が淡白だよねー」

 

 自身としては笑っているつもりなのだが、表情筋は私の思ったとおりの仕事をしてくれなかったらしい。日常とは儘ならないものである。

 

「そもそもこういう色恋沙汰で強い否定をしても肯定の裏返しととられるパターンが非常に多いですからね。適当にあしらって自然消滅するのが最もクレバーなやり方ですよ」

 

「はぇー、そんな風に割り切れるって凄いよねー」

 

「別に凄いというものではありませんよ。一種の諦めの境地みたいなものです」

 

 そこまで言い切ったところで、他のクラスから女子がやってくる。噂好きな女子がこうやって襲撃してくるのは想定済み。想定より相手のほうが行動が早いようだが相手側は統制が取れていない。他のクラスからも襲来してくる前に移動を開始するのがベターである。

 なぜ、先ほどは諦めていると発言したにもかかわらず逃げを選ぶのか、一つはああいう手合いは相手するのが面倒だということが挙げられ、もうひとつにはああいう女子は行間をありえない方向に読み解き、事実を180度……は言い過ぎでも175度程度はたやすく捻じ曲げてくるので非常に危険である。言葉攻めで疲れたところでポロっと発言した一言と尾ひれが付きまくった噂でオーバーレイするくらいのことは平然とやってくる。噂好きの女子とはそういう生き物だ。だから逃げる。精神的なスタミナは相手の領分だが、デュエルのためにちゃんと鍛えているので噂なんぞにかまけているああいう手合いよりはフィジカル面で優れている。その自信があるからこその逃げである。

 精神攻撃もデュエリストなら必修科目って事は理解しているが、それは後回しでも問題ない部類だと思っているので女子どもの精神攻撃で耐性をつける気もさらさらない。そもそも精神攻撃をされるような状態って言うのはクリアマインドに達しなければならないとかああいう人種であって私はそういうのにかかわる人間じゃないし、だから何も問題ないのだ!

 

 

 

 キーンコーンカーンコーンとお決まりのチャイムがなって授業の終了を告げる。普段であればデュエルスペースに直行するか直帰の2択なのだが、今日ばかりはそんなことを言ってられない。女子という生き物は大変獰猛でかつ執拗で、学校に、ショッピングモールに、商店街に、奴らは跳梁跋扈しているのだ。住所を突き止めスネークしてくる大変危険な人種もいないとは言い切れない。高校生が出歩いていれば補導されるような時間まで逃げおおせれば完全な回避が可能となる。のだが……これはあまりにも自意識過剰というものか。

 

 

 

「フォーチュン、フォーチュン、リルリルリー!幸せな話、教えてなの」

 

 警戒しながらも校門を出て5分くらい歩いたところで追って無しと胸をなでおろした瞬間だった、そんな風に笑いながらこちらに向かってくる少女がいた。うん、完璧にヤバイ奴だよね。割と理解できない内容を口走りながらこちらへ歩みを進める。

 

「フォーチュン、フォーチュン。幸せいっぱいおしえてなの」

 

「お断りします」

 

 即答すると少女の様子が急変する。信じられないものを見るような目でこちらを見た後で、先ほどの鳥が歌うと表現すればいいようなかわいらしい声から一変、ドスの効いた低い声に変わる。

 

「デーモン、デーモン、デルビルビー。幸せ独り占めはいけないなの。ちゃんと皆で分け分けするの」

 

 あちらさんはデッキを引き出し、どうやら臨戦態勢のご様子。面倒ですが仕方がありません、こういう手合いは勘弁ですが、デュエルそのものは好きですしね。全力でお相手して差し上げましょう。

 

「いいでしょう、のめしてあげますよ」

 

「「決闘!」」

 

 化野 歓那 先攻

  LP4000 手札5

 

 澱姫 ぼたん 後攻

  LP4000 手札5

 




 決闘まで行きませんでしたね。熱いデュエルというだけは簡単なんですが、なかなかコレだというものが書けない今日この頃。
 それもこれも作者のデュエルスフィンクスが悪いんだ。

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