アルマロスinゼロの使い魔   作:蜜柑ブタ

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アンリエッタ編だけど。

前半、ギトーと対戦です。


第七話  風と水

 

 

 

 フリッグの舞踏会以来、アルマロスは大人気となった。

 最近じゃ、ダンスの講師みたいなことまでやっているくらいだ。

 ルイズは、むーっと口を膨らませていた。

「なに膨れてるのよ、ルイズ。」

「別に!」

 キュルケに向かって、ルイズは怒鳴った。

 アルマロスが、前に進む動作のようでいて、後ろに下がるという奇怪なダンスを披露すると、アルマロスのもとに集まっていた生徒達が、おおーっと声を上げた。

 ぜひやり方を教えてくれと教えを乞う彼らに、アルマロスは、筆談で教えていた。

「すごいわよね、ダーリンってば。一夜でヒーローじゃない。」

「あんな奇怪なダンス見たことないわよ。」

 アルマロスのダンスは、このハルゲニアでは、見たこともないものだった。

 娯楽の踊りのようでいて、儀式の踊りのようにも見える。前に進むようでいて、後ろに進むという動作だって16年生きてきたルイズとて見たことも聞いたこともなかった。

 やはり彼は、この世界の堕天使ではないのだと改めて考えさせられた。

 アルマロスが、後ろに倒れた動作から、手を使わず起き上がるという動作までしてみせた。

 アルマロスが人間じゃないからできることだと思われたが、鍛えてコツさえ掴めば誰でもできる動作だと説明。実際やってみると、できる生徒がいたことにも驚かされた。

 踊るのも、教えるのも本当に楽しそうで、ルイズは、ますます膨れた。

 

 やがて授業の時間になり、生徒達は解散し、ルイズはアルマロスを連れて教室に入った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 今日の授業の講師である、ギトーという男が入ってきた。

 ギトーは、アルマロスが視界に入ると、憎々しげな顔を一瞬した。

 アルマロスが宝物庫の壁を破壊したことを一番に責めたのも彼である。

「?」

 睨まれたアルマロスは、首を傾げた。

 そして授業が始まった。

「最強の系統とはなにか、知っているかね?」

「虚無じゃないですか?」

「伝説の話をしているわけではない。現実的に答えるのだ。」

 虚無と聞いても、アルマロス的にはよく分からなかった。

 このハルゲニアには、虚無を含め、土、風、火、水の五つの系統があるらしい。

 その中で虚無というのは伝説にしか語られていない系統であることを、ルイズの部屋でルイズの教科書などを読んだアルマロスは、知識として得ていた。

 するとキュルケが、火こそが最強だと不敵に言ったことに対し、ギトーが違うと答えた。

 彼が言うには、風こそが最強の系統なのだと言う。

「そこの、ミス・ヴァリエールの使い魔君に、なぜ風が最強なのか実証させよう。」

「な、なにを言っているのですか! ミスタ・ギトー!」

 ルイズがギョッとして叫んだ。

「たしかアルマロスといったね。こちらに来てはくれないかね?」

「フオオオン?」

 アルマロスは言われるまま、教室の前に来た。

「試しに私を殴ってみたまえ。」

「?」

「どうした怖いのかね?」

 ギトーが挑発する。

 アルマロスは、仕方なくといった様子で拳を振った。

 すると、ギトーは杖を素早く抜き、風を起こした。

 しかし…。

 

 ポコンッと、いうふうに、軽く、かる~く、アルマロスの拳がギトーの頬を打った。

 

「なっ…。」

 ギトーは予想外な事体に目を見開き、頬を押えた。

「全然ダメじゃないですか、ミスタ・ギトー。」

 キュルケの言葉に、生徒達は笑った。

「こ、こんなはずじゃ…。ならば、これならばどうだ!」

 血管を浮かせたギトーが呪文を唱えだした。

 するとギトーの姿が三人に別れた。

「見たか! これこそが風の偏在! 風が最強と呼ぶにふさわしい所以だ!」

「……。」

 アルマロスは、さすがに驚いたのか口を開けていた。

「さあ、どう出る、使い魔! さすがにこれではおまえも…。」

 しかしアルマロスは焦ることなく、両手から水球を分身の数だけ浮かせた。

「むっ?」

 ギトーが気付いた時には、アルマロスは水のエネルギーを投げつけていた。

 バシャンバシャンと水のエネルギーが跳ね、風の偏在だけが大きく揺らぎ、跳ねる水で呼吸を遮られたギトーが悶えた。その隙をついて、接近したアルマロスがギトーから杖を奪った。

 杖を奪われた途端、風の偏在はすべて消え、残されたのは、びしょびしょになったギトーだけだった。

「み…水……?」

「あら、最強の系統は水ということですわね。すごいわ、ダーリン! 水まで操るなんて。」

 キュルケが大きく拍手すると、他の生徒達も拍手した。

 拍手を受けたアルマロスは、優雅にお辞儀をした。

「すごい…。」

 ルイズも驚いた。

 そういえばアルマロスが、水のようなものをフーケのゴーレムに投げつけていたのを今思い出した。あれで30メートルもあるゴーレムが大きくえぐれていたのも思い出した。

 アルマロスの武器は、武術だけじゃなかった。

 ギトーは、長い髪の毛から水を滴らせて、ブルブルと怒りに震えていた。

 アルマロスの情けない姿を曝してやろうとしたら、逆に恥をかかされてしまった。

 しかし不可解だった。最初に起こした風の壁がアルマロスに当たる前に消えてしまったのだ。だがしかし、そのことを考えられるほどギトーには余裕がなかった。

 

 と、その時。

 教室の扉が開かれ、コルベールが入ってきた。

 しかし、恰好がおかしい。

 なんか違う。主に頭が。

「おや? ミスタ・ギトー、どうしたのですか、びしょ濡れですよ?」

「う、うるさい!」

 コルベールに言われて、カッとなったギトーが煩わしそうにハンカチで必死に濡れた顔を拭きだした。

「授業中ですよ! 何の用ですか!」

「あわわわ! これは失礼しますぞ! オホンッ。今日の授業はすべて中止であります。」

 いきなりの宣言にギトーだけじゃなく、生徒達も驚いた。

 コルベールが言うには、アンリエッタ王女が来るから授業は中止だということらしい。

「フォォン?」

「アリンエッタ姫殿下は、このトリスティンで一番偉い人よ。分かる?」

 ルイズに説明を求めたアルマロスは、うんうんと頷いた。

 

 授業は中止となり、生徒達は正装するため解散となった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「アンリエッタ姫殿下のおなーーーーーーりーーーーーーッ!」

 やがてユニコーンに引かれた馬車が魔法学院の門に入ってきた。

 まず馬車からマザリーニが出てきて、続いてアンリエッタが登場した。

 すると大歓声があがった。

 彼女はよっぽど人気があるのだろうなと、離れた位置から見ていたアルマロスは思った。

「ふん、なによ、私の方が美人だわ。ねえ、ダーリン。」

「フォ?」

「もう! ダーリンってば、聞いてたの?」

「アルマロスにそんなこと求めないでよ。」

「あら、ダーリンはあなたの使い魔でも、女を選ぶ権利はあるわよ?」

「だからアルマロスは、無性だから、そういうこと分かんないのよ。」

「性別があろうがなかろうが、関係ないわよ。ねえ、ダーリン。」

「…フォォオン。」

『相棒が困ってるぞ。』

 デルフリンガーがアルマロスの気持ちを代弁した。

 困っていたアルマロスだったが、ふとルイズが何かを一点に見つめているのに気づいた。

 視線の先を見ると、羽帽子を被った凛々しい貴族がいた。アルマロスの目から見ても、かなりの腕利きであることが伺えた。

 その人物をボーッと見ているルイズ。

 しかも頬を微かに染めている。

 まあ、あのような男を見れば普通の女性ならば見惚れるだろうとアルマロスは思った。それほどにいい男だったのだから。

 

 そして、その夜。事件は起こる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 羽帽子の男を見てからのルイズは、ずっと上の空だった。

 アルマロスは、そんなルイズを心配した。

 声をかけても返事をしてくれない。

 羽帽子の男に惚れ込んでしまったのだろうか?

 しかしそれにしては…。っと思っていると、扉を叩く音がした。

 初めに長く2回、それから短く3回。

 ルイズがハッとして、大慌てで扉を開けた。

 そこには、黒いずきんをまとった少女がいた。

「あなたは…?」

 すると黒いずきんの少女が杖を振るって魔法を使った。

「ディティクトマジック?」

「どこに耳が、目が光っているか分かりませんからね。」

 少女はそう言った後、ずきんを外した。

「お久しぶりです。ルイズ・フランソワーズ。」

「姫殿下!」

 なんと、少女の正体は、昼にやってきた王女、アンリエッタ、その人だった。

「ああ、ルイズ! ルイズ、懐かしいルイズ!」

 アンリエッタはルイズを抱きしめた。

「姫殿下、いけません! こんな下賤な場所へお越しになられては!」

「ああ、ルイズ、ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい! あなたとわたくしはお友達! お友達じゃないの!」

 どうやら見知った間柄らしいなっと、アルマロスは思った。

 それもお友達いうからには、幼いころから遊んでいた仲なのだろうと思った。

「あら? そちらの方は?」

「彼は…、その…私の使い魔です。」

「まあ、ルイズってば、昔からどこか変わっていたけど、相変わらずね。」

「ええ…、まあ…。」

 言えない。アルマロスが堕天使だなんて言えない、っとルイズは、ダラダラと汗をかいた。

 アルマロスは、汗をダラダラかいているルイズを見てハラハラしていた。やはり国の一番偉い人を前にしたら死にそうなほど緊張するのだろうと思った。

 するとアンリエッタがため気を吐いた。

「どうされましたか、姫殿下?」

「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね……。いやだわ。自分が恥ずかしいわ。あなたに話せるようなことじゃないのに、わたくしってば…。」

「おっしゃってください。あんなに明るかった姫様が、そんなふうに溜息をつくとは、なにかとんでもないお悩みがおありなのでしょう?」

「いえ…、話せません。忘れて頂戴、ルイズ。」

「いけません! 昔はなんでも話し合ったじゃございませんか! わたしをお友達を呼んでくださったのは姫さまです! そのお友達に悩みを話せないのですか?」

「わたくしをお友達と呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。とてもうれしいわ。」

 アンリエッタは、嬉しそうに微笑み、そして決心したように頷いて語りだした。

「今から話すことは、誰にも話してはなりません。」

 それを聞いたアルマロスは、退室しようと動いた。

「大丈夫ですわ、使い魔殿。メイジにとって、使い魔は一心同体、席を外す理由はありません。」

 そう言ってアンリエッタは、アルマロスを引き留めた。

 それからアンリエッタは、もの悲しい調子で語りだした。

 彼女はもうすぐゲルマニアに嫁ぐこと。

 それは、トリスティンとゲルマニアの同盟の為であること。

 アルビオンという国で貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒され、トリスティンに攻め込んできそうなこと。

「そうだったんですか…。」

 ルイズは、沈んだ声で言った。

「いいのよ、ルイズ。好きな相手と結婚するなんて、物心ついたときから諦めていますわ。」

 それは上に立つ者の宿命ともいえるだろう。

 アルマロスも真剣にアンリエッタの話を聞いていた。

「礼儀知らずなアルビオンの貴族は、わたくしの婚姻をさまたがえるための材料を血眼になって探しています…。もし見つかってしまったら…。」

「まさか…姫様…。」

「おお、始祖ブリミルよ…、この不幸な姫をお救いください……。」

 アンリエッタは、顔を両手で覆い、床に崩れ落ちた。

 ちょっと動作が大げさというか、芝居がかっている。っと、アルマロスは思った。

「言ってください、姫様! いったい、姫様のご婚姻をさまたげる材料とはなんなんですか!?」

「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです。」

「手紙?」

「それがアルビオンの貴族達に渡ったら…、彼らはすぐにゲルマニアの皇室にそれを届けるでしょう…。」

「どんな内容に手紙なのです?」

「それは言えません……。」

 同盟が潰れるほどの内容なのだ、よっぽどのことなのだろうとアルマロスは思った。

「その手紙はどこに?」

「それは手元にはないのです。実は、アルビオンにあるのです。」

「アルビオンですって! では、すでに敵の手中に?」

「いえ…、その手紙を持っているのは、アルビオンの反乱勢ではありません。王家のウェールズ皇太子が…。」

「プリンス・オブ・ウェールズ? あの凛々しい皇太子が…。」

 ルイズが言うと、アンリエッタは、のけ反り、ベットに横たわった。

 一々動作が芝居がかっているな…っと、アルマロスは思った。

「ああ、破滅ですわ! 遅かれ早かれ、ウェールズ皇太子は敵に囚われるわ! そうしたらあの手紙も明るみに出てしまう!」

 アルマロスは、アンリエッタが何を言いたいのか、なんとなく察した。

 

 ようするに、アルビオンに行って、その手紙を取ってきてくれということらしい。

 

 ゲルマニアがいかなる国なのかは分からないが、同盟を結ばなければマズイほど世界情勢はよくないらしい。

 そしてアルビオンの貴族達というのも、かなりの危険な連中らしい。

 そんな状況に誰かを行かせるなんて、カモがネギしょって行くようなものだ。下手すると手紙が敵の手に渡る可能性が高い。むしろ死ぬ可能性が高い。

 

「アルマロス…。」

「フォオン?」

 ルイズの言葉でハッとしたアルマロスは、ルイズの懇願するような目を見た。

 ルイズが言いたいことは言われずとも分かった。

 ルイズは、アンリエッタの願いを叶えたい。だが一人ではできない。そのためにはアルマロスの力が絶対に必要だ。

 アルマロスは、両手をすくめ。

「フォォオオン。」

「アルマロス…、いいの?」

 ルイズが確認するとアルマロスは、頷いた。

「ありがとう、アルマロス!」

 ルイズは感極まって、アルマロスに抱き付いた。

「明日の朝にでも、ここを出発します。」

 アルマロスから離れたルイズが、アンリエッタに言った。

 アンリエッタは、アルマロスを見た。

「頼もしい使い魔さん…。わたくしの大切なお友達をこれからもよろしくお願いしますね。」

「フォォン。」

「…あの、そのお声は、どうしたのですか?」

「いえ、姫様…、アルマロスは、このような声しか出せないのです。」

「まあ、そうなのですか?」

 アンリエッタは、そう言って口元を押さえた。

 すると、アンリエッタは、左手を差し出した。

 アルマロスは、それを見て、すぐに察した。

 アンリエッタの前に跪き、その手に口付けた。

「貴様ー、姫殿下に何してるかー!」

 そこへ、扉から転がり込んできた人物がいた。

 ギーシュだった。

「ギーシュ!? まさかあんた立ち聞きしてたの!?」

 ルイズが慌てて聞くと、ギーシュはキリッと立ってポーズを決めた。

「薔薇のように目麗しい姫様のあとをつけてきてみれば…、こんなところへ…。それで鍵穴からまるで盗賊のように様子をうかがえば……。」

 ギーシュは、心底羨ましそうにまだ跪いているアルマロスを見た。

「フォオオン?」

「姫様のお手を…、お手を…。羨ましいじゃないか! ちくしょう、決闘だ!」

 半狂乱のギーシュが、薔薇の杖を振り回した。

 アルマロスは、立ち上がって、ギーシュを掴み床に抑え込んだ。

 それからルイズを見上げて、どうする?っと視線で問いかけた。

「今の話を聞かれたのは不味いわね…。」

「姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう。」

「グラモン? あのグラモン元帥の?」

「息子でございます、姫殿下。」

「あなたもわたくしの力になってくれるというの?」

「任務の一員に加えてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます。」

 ギーシュもこの危険な任務に加わることになった。

 アンリエッタは、ルイズの部屋の机を借り、手紙を書いた。

 そして最後の一行。決心したように何かを加えた。

 その手紙をルイズに渡し、さらに。

「母君から頂いた水のルビーです。せめてものお守りです。お金が心配なら売り払って旅の資金にあててください。」

 アンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜き、それをルイズに渡した。

 

 

 危険な旅が始まろうとしていた。

 

 

 




アルマロスの操る水は、ハルゲニアの魔法とは異なります。
ギトー戦ですが、まあ勝てませんよね。っという展開です。
じゃあワルドは…?

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