アルマロスinゼロの使い魔   作:蜜柑ブタ

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惚れ薬騒動と、水の精霊に武力交渉。


第十九話  堕天使と水の精霊

 アルマロスは、困っていた。

「アルマロス~、アルマロスってば。こっち向いてよ。」

「……。」

 今のルイズを直視できない。

 ベタベタと、体を触ってきて、とろんっとした顔をしたルイズ。

 いつものキリッとしたルイズは、どこへやら。

「いや、すまないな…。アルマロス君…。」

「フォオオン…。」

 ギーシュが謝ったが状況が変わるわけがない。気休めはやめろとアルマロスは、声を出した。

 アルマロスは、背中にルイズをくっつけたまま、自分の手に字を書いた。

 『惚れ薬の効果はどれくらいかかる?』っと。

「そうだね…。一か月……、一年以上かかるかもしれないな。」

「フォォン!?」

 長っ!っとアルマロスは、驚いた。

「ま、まあまあ、今モンモランシーが解除薬を作るために奔走してくれているよ。それまでの辛抱だ。」

「それがそうもいかないのよ。」

 そこへモンモランシーが来た。

「惚れ薬を作るのに、秘薬を使い切っちゃって、作れないのよ。」

「フォオン!?」

「ま、そういうことだから。」

「待ってくれ、モンモランシー。こんなことになったのは僕らの責任なんだ。なんとかしないといけない。」

「あら? ずいぶんと肩を持つのね?」

「彼には借りがあるんだ。」

 ギーシュは、そう言った。借りというのは、アルビオンへの道中に野盗に襲われた時、アルマロスに守ってもらったことだ。

「でもどうしようもないわ。お金がないもの。」

「そうか…。」

 ギーシュは、腕を組んで唸った。

 ギーシュからの説明によると、貴族にも色々いて、お金がある貴族とお金がない貴族がいる。ギーシュとモンモランシーの家は、お金がない貴族の分類らしい。

 アルマロスは、手に字を書いて、『足りない素材は何だ?』っと聞いた。

「水の精霊の涙よ。ラグドリアン湖の水の精霊の。」

「フォオオン。」

「なに!? 取って来るだって! いくら君が水を操ることが得意でも精霊を相手をするのはやめたまえ。」

「フォォン。」

「ルイズを元に戻したいからってそこまで…。よし分かった。僕もついていこう。」

「ギーシュ、何を言っているの!」

「君もだモンモランシー。もとはと言えば、僕らの責任なんだから責任はとらなきゃいけない。それに…、惚れ薬は禁制品だ。もしばれたら君は檻の中だぞ? だから発覚する前に対処すべきだ。」

「うっ……、もう! 勝手にしなさい!」

 ギーシュとモンモランシーがついて来ることになった。

「ええー、アルマロス、どこ行くの! 勝手に行くなんて許さないんだからね!」

「……。」

 ルイズも連れて行くことにした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ラグドリアン湖は、ガリアという国の国境にある。

 大変美しいことで有名で、ここの水の精霊に誓約すると、誓約は永遠のものとなり、破られることは決してないという。

 っという話をギーシュから聞いた。

「わあ…、綺麗ね。アルマロス。でも、私は、アルマロスが水みたいな衣装を着て踊ってる姿の方が私は好き。」

「……。」

「ねえ? どうして黙ってるの?」

 ルイズは、目を潤ませた。

 アルマロスは、それでも黙ったままだった。

「アルマロス…、私のこと嫌いなの?」

 ルイズの目からポロポロと涙が零れた。

 しかしそれでもアルマロスは、ルイズを見ようとはしなかった。だが拳を握っていた。何かに耐えるように。

 ギーシュは、その様子を不憫そうに見ていた。

「おかしいわ。」

 モンモランシーが言った。

「何がだい?」

「水位が上がってる。」

 言われてよく見ると、水の中に家があった。

 つまり…。

「村が水没している。」

 

「もし、そこの方々…。」

 

 すると、痩せこけた老人が話しかけて来た。

「もしや水の精霊と交渉しに来てくださったのですか? でしたら助かります!」

「あの…、私達は別件で来たのですわ。」

「そ、そうですか…。」

 老人は肩を落とした。

 アルマロスは、馬から降り、老人に近づき、自分の手に字を書いた。

 『何があったんだ?』っと聞いた。

「二年前から増水が始まって…、今じゃこの通り、村は水の中で…。」

 暗い顔で語る老人の言葉を、アルマロスは真剣に聞いていた。

 やがて老人は、自分達を助けてくれない領主やアルビオンのことで手が回らないトリスティン城にたいする愚痴を語るだけ語って、去っていった。

「アルマロス君…、まさか…。」

「フォオン。」

「ああ…やはりか。交渉する気だね。」

 ギーシュが腕をすくめる。

 するとアルマロスは、ラグドリアン湖を見て、拳を叩いた。

「えっ? ちょっと! 何をする気なの?」

「フォォオオオオオオオオオオオオオオオン!」

 アルマロスが地面を殴った。

 水柱が立ち、水柱は地面を走り、ラグドリアン湖を引き裂くように命中した。

「ああああ、なんてことを!」

 モンモランシーが頭を抱えて青ざめた。

 アルマロスは、ラグドリアン湖に向かって走り出した。

 アルマロスによって引き裂かれ、大きく波打っていた湖面が、ウネウネと動き出した。

 アルマロスは、湖面を走り、そのウネウネと動くところに向かって拳を振りかぶった。

 大きな水柱が立ち、アルマロスの姿が飲まれた。

「アルマロス!」

「ダメよ、ルイズ!」

 駆けだそうとしたルイズを、モンモランシーが止めた。

「水の精霊を武力交渉するなんて…、よっぽど気が立っているんだね…。」

 ギーシュは、半ば呆れながら言った。

 水柱がなくなると、アルマロスが湖面に立っていて、目の前に、アルマロスを模したような水の塊が立って対峙していた。

 アルマロスが拳を振るうと、水のアルマロスも拳を振り、拳同士がぶつかった。

 水が弾け、衝撃波が湖面を揺るがした。

「うわあああ! 激しいな!」

 水しぶきは、岸辺にいるギーシュ達にもかかった。

「フオオオオン!」

『……人ならざる者よ。いかなる要件があって、我に挑むか?』

「フォン?」

 アルマロスを模している水の精霊が美しい声で聞いてきた。

 アルマロスは、構えを解いた。すると水の精霊も構えと解いた。その様は、まるで鏡のようである。

「フォォン…。」

『案ずるな。おまえの言いたいことは言葉にせずとも分かる。おまえの波動と共感させれば言葉など不要だ。』

 アルマロスは、それならば早いと、水の精霊をまっすぐ見つめた。

 アルマロスを模している水の精霊が揺れた。

『我の一部…、そして人の里の水位を下げろと……。我の一部は持ち帰るがいい。だが水位は下げられぬ。』

「フォォン?」

『我と共感せよ。おまえならば言葉など必要あるまい。』

「……。」

 アルマロスは、意識を集中し、水の精霊から水の精霊の気持ちを読み取った。

 そして眉を寄せた。

「フォオオン。」

『頼むぞ。』

 そう言って水の精霊は、ラグドリアン湖の水に戻っていった。

 湖面の上に残されたアルマロスは、ルイズ達のもとへ戻った。

「それで? なんだって?」

「フォオオン…。」

 アルマロスは、手に字を書いた。

 『精霊に仇なす敵を倒すことが水の精霊の涙をもらう条件』だと。

「水位の件は?」

 『アンドバリの指輪を奪還することが条件。ただし無期限。』っと書いた。

「敵はともかく、アンドバリの指輪だって?」

 『死者を蘇らせる力を持つ指輪。奪ったのは、クロムウェル…かも』っと書いた。

「クロムウェル…って、アルビオンの新皇帝が?」

「人違いじゃないの?」

 盗んだ人物は、ともかく、まずは水の精霊を脅かす敵を退治することとなった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その夜。

 ガリア側の岸辺に身を潜め、水の精霊を襲う敵を待った。

 やがて黒いローブを纏った、二人の人物が岸辺に近づくのをアルマロスは見つけた。

「来たのかい?」

「フォン。」

 小声でギーシュと会話した。

「僕がワルキューレで陽動する。君は、あのガーレという武器で…。」

「フォオン。」

 アルマロスは、ガーレを構えた。

 しかしその直後。

 風の衝撃がアルマロス達が隠れている位置に当たり、隠れるために利用していた茂みが吹き飛んだ。

「!」

「な…。」

 敵は先にこちらに気付いて攻撃してきた。

 ギーシュは固まり、アルマロスは、すぐにガーレを飛ばした。

 ガーレの光の矢が、襲撃者が放った風の壁によって軌道がそれ、襲撃者の体のギリギリの位置を飛んだ。

「フオオオオオン!」

 アルマロスは、前に出て、ガーレからアーチに変え、斬りかかろうとした。

 だが、その時。

「だ、ダーリン!?」

「!」

 聞き覚えのある声に、アルマロスは止まった。

 襲撃者の一人が慌ててローブを外した。見覚えがある鮮やかな赤毛。そして褐色の肌。キュルケだった。

「どうしてここに!?」

「フォオン。」

 それはこっちの台詞だとアルマロスは、武器を下ろして声を上げた。

 もう一人もローブを外した。タバサだった。

「な、なぜ君達が…。」

「それはこっちの台詞よ。なんでダーリン達が水の精霊を?」

「フォオオン…。」

 アルマロスは、キュルケの手を取り、字を書いた。

「水の精霊の涙を手に入れる条件ですって? なにがあったの?」

 アルマロスは、説明も億劫だが、仕方なく説明した(筆談)。

「あらまあ…、気の毒にダーリンってば……。」

「ちょっとぉ、キュルケ! アルマロスから離れなさいよ!」

 アルマロスの腕を掴んでルイズがアルマロスを引っ張った。

 そして、キュルケ達が、なぜ水の精霊を襲っていたのか、その理由も聞いた。

 タバサの実家からの命令で、ガリアの領土を浸食する水の水位を上げている水の精霊の退治をするためだったそうだ。

「困ったわねぇ。ダーリン達が水の精霊を守っているようじゃ、これ以上戦えないわ。」

「フォオン。」

「えっ? 水の水位が上がっている理由は分かってるですって?」

 アルマロスは、アンドバリの指輪を奪還することが水位を下げる条件だと説明した。

「アンドバリの指輪…、ちょっと噂で聞いたことがあるわね。」

 アルマロスは、水の精霊から、その指輪が偽りの命を死者に与えるモノであることを説明した。

「偽りの命…。」

 『蘇った死者は、操り手の人形になってしまう』のだと、説明した。

「気持ちの悪いマジックアイテムね…。」

「まったくだ。悪用されたらたまったものじゃない。」

 キュルケ達は、説明を聞いて(筆談)、嫌そうな顔をした。

「とにかくその指輪さえ取り返せれば、退治しなくてもいいわけね。でも…盗人はクロムウェルって…、アルビオンの新皇帝かもしれないのよね? アルビオンまで行ってアルビオンの大軍に突っ込めって言うの? ムチャよ…。」

「退治する方が早い。」

「それだと僕らが水の精霊の涙を手にいられられなくなる。」

「フォオオン。」

「えっ? もう一度水の精霊と交渉するって? 応じてくれるだろうか…。」

 ギーシュの不安を他所に、アルマロスは、再びラグドリアン湖に向かい、湖面を歩いた。

 中央に行くと、水がうねりだし、再び水の精霊がアルマロスの姿を模して現れた。

『約束できるのか?』

「フォオオン。」

『……いいだろう。おまえの命が尽きるまでの間に、必ず。』

「…フォオン。」

 短いな…っという風に、アルマロスは少し俯いて声を漏らした。

 水の精霊は、再びラグドリアン湖の水に戻っていった。

「フォ、フォオオン!」

『すまない。忘れていた。』

 そう言って、ピチピチと湖面が揺らぎ、水の塊が宙に浮き上がり、アルマロスがそれを手で受け止めた。

 アルマロスは、水の精霊の一部である、水の精霊の涙を持って、湖面から陸地に戻った。

 そして手にすくうように持っている水の精霊の涙を、モンモランシーが持ってきた瓶に入れた。

「これで一件落着?」

「フォオン。」

 アルマロスは、頷いた。

「ねえアルマロス…、本気でアンドバリの指輪を取り返しに行くの?」

「フォオン。」

 約束だからだと、アルマロスは字を書いた。

「アルマロスに何かあったら、私…。」

 ルイズは泣きそうになりながら言った。

 アルマロスは、ルイズの頭に手を置いて撫でた。

 

 こうして、水の精霊との交渉(?)は、終わった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 学院に帰って早々、モンモランシーは解除薬を作った。

 惚れ薬を作ったということを口外しないことを約束し、アルマロスは、薬を受け取った。

「フォオン。」

「イヤよ。それ臭いもの。」

「フォオン!」

 嫌がるルイズにアルマロスは、それでも薬を突きつけた。

 ルイズは、薬と、アルマロスを交互に見た。

「ねえ…、どうしても飲まなきゃダメなの?」

「……。」

「この気持ちは本物よ。アルマロス。それでもダメなの?」

 アルマロスは、首を横に振った。

「ねえ、アルマロス…。私…、あなたが来てくれて、本当によかったって思ってるのよ。本当に、本当によ? 嘘じゃない。」

「……。」

「あなたへのこの気持ちが…、好意なのか、親愛なのか最初は分からなかった…でも…。」

「フォオオン…。」

 アルマロスは、首を振り、薬を押し付けるようにルイズに渡した。

「……ごめんね。アルマロス。」

 ルイズは、一筋の涙を零しながら、薬を飲んだ。

 そして。

「…………アルマロス。」

「フォン?」

「私を、殴って。」

「フォーン!?」

「記憶が無くなるぐらい、ギタギタにして!」

 赤面したり青くなったりと忙しく表情を変えるルイズが混乱しながら叫んだ。

 

 

 




なんで武力交渉したか…、アルマロスなりの交渉です。彼なりに焦っての行動です。
拳を交えて、アルマロスに害意がないと分かった水の精霊は、平和的(?)に交渉を持ちかけました。
アルマロスなら、たぶん言葉を交わさずとも精霊と共感して意識を伝え合うことができそうと思ったのでこうしました。

次回は、ほぼ完全にオリジナル展開になると思います。

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