アルマロスinゼロの使い魔   作:蜜柑ブタ

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ルイズとの交流。



第十三話  冷たい手

 

 

「フォォン?」

「来ないで!」

「フォ…。」

「……ごめん。嘘よ。」

 こんなやりとりを何度もやった。

 最近ルイズの態度が変だ。

 なんと言ったらいいのか、…なんか変だ。

 近頃、体育の授業の講師をしたり、生徒達のダンスの先生として生徒達に教えているから忙しくて、構ってなかったせいだろうかっと、アルマロスは思った。

 それは寂し事だと、アルマロスは思い、肩を落とした。

「アルマロス…、怒った?」

 ルイズが恐る恐るといった様子で、アルマロスを見上げた。

 アルマロスは、ハッとしてそんなことはないと身振り手振りで伝えた。

「そう……。ごめんなさい。」

「フォオン。」

 謝らないでっとアルマロスは、ルイズの頭を撫でた。

 ルイズがポロポロと涙をこぼした。アルマロスは、ギョッとした。

「だってだってぇ…、アルマロスは、私の使い魔なのに…、使い魔なのに…。寂しかったんだもん!」

「フォオン。」

 ああ、そうか、ルイズは寂しかったのだ。他の生徒達にアルマロスが取られたと思って。

 アルマロスは、ルイズの手を取り、字を書いた。

 『僕は君の使い魔だよ。』っと。

「ふぇええええん!」

「フォーン!?」

 そしたらルイズは声を上げて泣きだしてしまったため、アルマロスはオロオロとした。

 とりあえず泣き止むまでルイズをよしよしと撫でた。

 授業の時間になったので、ルイズは、アルマロスを連れて教室に入った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 コルベールの授業は、彼の炎蛇の二つ名の通り、火についての授業であったのだが……。

 なんか途中から彼の作った研究品である、からくりの話になってきた。

 魔法による生活が定着しているこの世界で、こういったからくりは無駄なものと捉えられるようで、生徒達はあまり興味を示してなかった。

 アルマロスは、コルベールの発明品をどこかで見た覚えがあった。

 もっと精巧で…、巨大で…、または小型で…。

 あっ、っとアルマロスは手を叩いた。

 アザゼルが統治していた階層で見たんだっと思いだした。

 アザゼルは、進化と技術を司る天使であったため、彼が堕天したことで地上界に様々な技術が流出することになった原因にもなった。おかげで彼が統治していたタワーの階層は、通常なら何百年、下手すると千年単位で発展する文明が短期間で築かれていた。

 コルベールの発明品は、アザゼルの技術から作られたエンジンというものによく似ていた。

 熱弁するコルベールとアザゼルが出会えたなら、きっと話が合っただろうな…っとアルマロスは遠い目をした。

 アルマロスがボーッとしていたら、教卓の方が爆発した。

 見るとルイズとコルベールが倒れてた。しかも周りは火の海。

 ギョッとしてアルマロスは、すぐに水を生成してぶっかけ、ルイズのところへ駆け寄った。

「あ、アルマロス…、ごめんなさい。」

「フォォォン。」

 あとで聞いたら、コルベールが誰かこのからくりを動かすために点火してみないかと持ち掛けたのだが、反応が薄い状況で効果はなさず、モンモランシーに挑発されたルイズが名乗り出てやったところ、見事に爆発で終わってしまったのだそうだ。

 後片付けは大変で、前の爆発事件(シュヴルーズの授業の時の錬金)の時より手間がかかった。なにせ水浸しだったのだから。

「そういえばアルマロスって水を操れるのよね。武術の達人だし、水も操れるなんてどんだけ万能なのよ。」

「フォォン。」

 そんなことはないとアルマロスは、首を振った。

 これだけの力はあったが、イーノックに完敗したのだ。

 アルマロスは、溜息を吐いた。

 あの時、ワルドを倒しきれなかった。自分の力はこの程度だったのだろうかと自分の拳を見つめた。

「アルマロス?」

「フォオン。」

 なんでもないとアルマロスは首を振った。

 後片付けが終わったのは、結局夜になってしまった。

 クタクタのルイズは、ベットに倒れ込むように横になり、アルマロスは、それを見てからカーテンを開け、空の月を見た。

 二つの月が浮かんだ夜空。

 ああ、やはりこの世界は自分がいた世界じゃない。

 あらためてそれを思う。

「ねえ、アルマロス…。」

「フォ?」

「…元の世界に帰りたいって思う?」

 いきなりそんなことを聞かれたので、アルマロスは、キョトンッとした。

「別に変な意味はないわよ…。ただ、あなたはこの世界の堕天使じゃないんでしょ? だから、元世界が恋しいとか…そういう気持ちとかってやっぱりあるのかなって、思って…。」

「フォォン…。」

 恋しくないと言ったら嘘になるが、元の世界に帰ったところで、待っているのは永遠の牢獄だ。

 堕天という大罪を犯した天使に待つのは、過酷な罰だけだ。

 不可抗力とはいえ、この世界に来て、アルマロスは、よかったと思っている。

 アルマロスは、ベットの端に腰かけ、ノートに字を書いた。

 『僕を召喚してくれて、ありがとう。』っと書いた。

 ルイズは、その字を見ると、涙ぐんだ。

 最近涙腺が弱くなっているなと思いつつ、ルイズは、ぐしっと涙を乱暴に拭った。

「ねえ、アルマロス。…ベットで寝る?」

「フォ?」

「いやなんていうか…、いっつも床で座って寝てるでしょ? やっぱり横になって寝た方がいいんじゃないかと思って…。それとも私と一緒はイヤ?」

 アルマロスは、そんなことはないと首を振った。

 ネグリジェに着替えたルイズは、ベットの横をあけ、そこにアルマロスを招いた。

 アルマロスは、布団に入り、ルイズと一緒に横になった。

「ねえ…、アルマロス。」

「フォ?」

「…私、一人前のメイジになりたい。強力なメイジじゃなくていい。ただ普通に魔法が使えるようになりたいの。お父様もお母様も誰も私に期待なんてしてなかったわ。学院でもゼロ、ゼロゼロって……。自分の得意な系統を唱えるとね、体の中で渦巻くものがあるんですって。自分の中に何かが生まれて、それが体の中を循環して、それはリズムになって、そのリズムが最高潮に達した時呪文は完成するんですって。でもどの系統を使ってもなんだかぎこちなくって…。そんなこと一度もなかった。私の得意な系統なんてないのかもしれない。でも私は、みんなが普通にできることできるようになりたい。」

「……。」

 アルマロスは、ソッと横にいるルイズの頭を撫でた。

 アルマロスが撫でてくる手に、ルイズは気持ちよさそうに目を細めた。

「あなたが伝説のガンダールヴなのに、どうして私は魔法が使えないままなんだろうって…。そういえばガンダールヴって、どんな武器でも使えたって言われてるけど、なんかアルマロスって違う…わよね?」

「フォオン。」

 確かにアルマロスは、ガンダールヴのルーンが刻まれているが、武器を使ってもいまいちしっくりこないでいた。

「不思議よね。伝説って言うくらいだから何かあっても不思議じゃないのに。」

「フォオン。」

 アルマロスは、左手のルーンを見た。

 黒っぽいそれはアルマロスの褐色の手の甲にしっかりと刻み込まれている。

「右胸のそれだって、四人目の伝説の可能性があるんでしょ? それって何か意味があるのかしら?」

 言われても分からない。名前の記されていない四人目の使い魔のルーンなので、分からない。

「アルマロス、何か変わったって思ったことある?」

「……、フォ!」

 変わったことがあったと、思い出したアルマロスは、ルイズの手に字を書いた。

 『神の叡智を浄化できるようなった』っと。

「じょうか? それ前はできなかったの?」

 アルマロスは頷いた。

「そもそも神の叡智ってなに?」

 そこからアルマロスは、ベイルとアーチが、かつてアルマロスがいた世界の神の世界の技術と知恵で、自分達グリゴリの天使が堕天したことで流出したのだと説明。

「それがハルケゲニアにも流出しちゃったわけ?」

 その理由は分からないっとアルマロスは答えた。

 あとひとつ。ガーレという武器も存在するのだが、もしかしたらそれも流出していてどこかにあるかもしれないと答えた。

「分かんないことだらけね。」

「フォォン…。」

「ほんと…、分かんないことばっかり…。」

 やがてウトウトとルイズが眠りだした。

 ルイズが寝入ったのを確認してから、アルマロスも目を閉じた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 暗闇。

 どす黒い。冥界の闇とも違う、どんよりとした気持ちの悪い黒が広がっていた。

 それでいて冷たい。

 自分の体は、堕天したことで冷え切ってしまったが、それ以上に冷たい気がした。

 氷よりも冷たいような気がした。

 

『………れ……。』

 

 地の底から響いてくるような低い声が聞こえた。

 

『おのれ……おのれ…! よくも、よくも! 名を…、我の名を…、返せ!』

 

 どういうことだっと、アルマロスが思っていた時、ドスッと右胸に衝撃が走った。

 見ると…右胸に……。

 

 

 そこで目が覚めた。

 ガバリッと起き上がったアルマロスは、額を抑えた。

 それから確かめるように右胸を見た。なんともなってなかった。

 ホッとして、溜息を吐いた。

 横を見ると、ルイズが静かに寝息を立てて寝ていた。

 ルイズがいる。これは現実だと分かり、もっとホッとした。

 あの夢は何だったのだろう?

 夢にしては不気味であったし、あの声は…。

「うぅん…。」

 ルイズが眉間にしわを寄せてうなされた。

 何か悪い夢を見ているのかと、そっと手を伸ばして、頭を撫でた。

 それに安心したのか、ルイズの顔が安らぎ寝息も一定になった。

 ルイズの頭を撫でてやりながら、アルマロスは再び横になった。

 あの夢の中に出てきた声がいまだ頭から離れない。

 嫌な予感がする。

 アルマロスは考えた。

 もしものことがあったなら…、自分は…。

 脳裏に、自分を慕ってくれる子供達、大人達、そして…ルイズの顔が過った。

 アルマロスは、拳を握り、決意を新たにし、目を閉じた。

 

 ルイズは、ふと目を開けた。

 目の前にはアルマロスの寝顔。

「……冷たい手…。」

 自分の頭に置かれていたアルマロスの手を、ソッとどける。

 撫でていてくれたのだろうか?

 よく覚えていないがちょっと嫌な夢を見ていて途中からいい夢に変わったような気がする。

 なんとなくアルマロスの手に自分の手を重ねて、大きさを比べてみた。

「大きな手…。」

 身長差もあるのだから手の大きさの差もある。

 左手の甲を見れば、ルーンが刻まれている。自分の使い魔である証だ。右胸は服と布団で隠れているが、そこにもルーンがあるはずだ。

「ねえ、アルマロス…。私、感謝してるのよ? あなたが私の召還で来てくれたこと…、あなたに会えたこと…。好きよ…、アルマロス。」

 果たしてその好きという言葉の意味は…。

 ルイズにもよくわからなかった。けれど素直に出てきた言葉だった。

 親愛でもない。恋愛的な意味でもない。なんだっていい。

 ただ好きだと思う気持ちだけ。

 今はそれで十分だとルイズは、微笑み。目を閉じた。

 

 




ルイズの好意が、どういう意味なのかは、筆者にもよく分からん。
少なくとも恋とかではない。

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