アルマロスinゼロの使い魔   作:蜜柑ブタ

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アルビオンに出航。


第九話  アルビオン

 

 

 その夜。ベランダで月を眺めていたアルマロスのところに、ルイズが来た。

「?」

 しかし何も言ってこないルイズは、しばらくアルマロスと並んで月を眺めていた。

「ねえアルマロス…。ワルドから結婚しようって言われたわ…。」

「フォオン。」

 それはとてもおめでたいことじゃないかと思ったが、ルイズの横顔はすぐれなかった。

「返事は出してないわ…。」

「フォォン?」

 どうして?っというふうにアルマロスが聞くと、ルイズは、アルマロスを見上げた。

 何か言いたげな…、何か言ってほしそうな顔をしている。

 しかしアルマロスは、言葉を持たない。何を言ってほしいのかも分からなかった。

 その時、アルマロスは、ハッとした。

 月が陰った。

 巨大なゴーレムによって。

「あれはゴーレム!?」

「フォオオン!」

 アルマロスがゴーレムの肩の上を指さした。

 そこにいたのは、フーケだった。

「フーケ!? 投獄されてたはずじゃ…。」

「覚えててくれてたのね?」

 フーケが笑った。

「親切な人がね、私みたいな美人はもっと世の中のために役立たなくてはいけないって言って、出してくれたの。」

 フーケいるゴーレムの肩の反対側の肩には、白い仮面をかぶった男がいた。

 フーケを脱走させるのを手伝った輩であろうか?

「素敵なバカンスをありがとうって、お礼を言い来たのよ!」

 狂的に笑ったフーケが操るゴーレムの拳がベランダを粉々に砕いた。

 アルマロスは、それよりも早くルイズを抱えて飛びのいていた。

 そのまま部屋を駆け抜け、一階へと駆けだした。

 下に降りると、下も下で修羅場だった。

 ラ・ローシェル中の傭兵が襲い掛かってきているのか、キュルケ、タバサ、ギーシュ、ワルドが石の机を盾にして、応戦していた。

「ダーリン!」

 キュルケが叫んだ。

 アルマロスは、瞬時にウォッチャースーツに変わると、矢の雨の中を駆け出し、傭兵の軍団に襲い掛かった。

 鎧を砕くほどの威力を持つ打撃が、弓矢や剣よりも早く浴びせられ、次々と傭兵達が倒れていく。

 あまりの速さに、強さに、傭兵達が後退しだした。

「いまだ! 裏口へ!」

「アルマロス!」

 ルイズがアルマロスの名を叫ぶ。

 アルマロスは、床を殴り、水の壁を作った。

 その隙に、後ろへ駆け出し、ルイズ達の後を追った。

 水の壁はすぐに止み、傭兵達が背後から追って来た。

 

「まずいわ、前の方からも敵が…。」

「…このような任務は、半数が辿り着けば成功とされる。」

 ワルドが言った。

「囮。」

 タバサが言った。

 タバサの指が、キュルケ、ギーシュを指さした。

「ううむ、仕方ないか…。ここで死んだら、姫殿下にも、モンモランシーにも会えなくなる…。」

「どうせ私はなんでアルビオンに行くか知らないもんね。」

 それを聞いたアルマロスは、自分も残ろうと動こうとしたが、ルイズの手がアルマロスの腕をつかんだ。

「君はルイズの使い魔だ。」

「!」

「いいね?」

 アルマロスは、俯き、すぐに顔を上げた。

 ワルドとルイズとともに走り出した。背後で凄まじい爆音や破壊音が聞こえて来た。

 飛んでくる矢は、ワルドが風の壁を作ったり、アルマロスがベイルで防いだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 桟橋というから、そこに船があると思ったら、全然違った。

 とにかく大きな木がそこにあった。

 枝の先を見ると、そこに船が吊るされていた。

 えっ?っとアルマロスは思った。

「水に浮かぶ船もあれば、空を飛ぶ船もあるのよ。」

 アルマロスが呆気に取られているのを見たルイズがそう説明した。

 そして木の根元から中に入り、階段を駆けあがった。

 するとそこへ、白い仮面の男が飛んできた。

「フォオオオン!」

「アルマロス!」

 アルマロスは、ルイズを庇い、白い仮面の男にベイルを振るった。

 男が杖を構え、ベイルを防ごうとしたがベイルの先端が触れた途端、男の体がかき消えた。

「?」

「消えた…。」

「走るんだ!」

 ワルドの叫びで我に返った二人は、再び走り出した。

 アルマロスは、少し後ろ髪を引かれるような気持ちで走った。

 やがて枝の一つに辿り着き、そこに吊るされた船には船員達と思われる人間達がいた。

 寝ていた彼らを起こし、船長を呼び、交渉して多額の賃金を渡して、船を出航させた。

「……。」

「アルマロス?」

「フォオオン…。」

 おかしいっというふうにアルマロスは声を出した。

 ベイルが触れた途端、消えてしまった白い仮面の男。

 あれは……。

 ふと、先日戦ったギトーを思い出した。

 彼は、風の魔法を使って、分身を作っていた。

 まさかっと、アルマロスは思った。

 しかしそうだとすると本体は? 何が目的でっと考えていると、アルマロスの手を、ルイズが掴んだ。

「アルマロス。敵はもう振り切れたわ。」

「フォオオン…。」

「明日にはアルビオンにつく。今はそれだけ考えましょう。」

 ルイズの言葉を聞きながら、アルマロスは、離れていくラ・ローシェルの街を見おろした。

 あそこにいる、キュルケ達は無事だろうか。そのことだけを思った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 甲板の端で座り込んで寝ていたアルマロスは、太陽の光で目を覚ました。

 空はすっかり青空で、船は白い雲の上を進んでいた。

 空を飛ぶ船…、それはアルマロスの世界にはなかったものだ。

 ああ、やはりこの世界は自分がもといた世界と理が違うっと改めて思った。

「アルビオンが見えたぞーーー!」

 船員の声を聞いて、見るが、どこにも陸地はない。

「あそこよ。」

 ルイズが来て空を指さした。

 そちらを見てアルマロスは、驚いて口を開けた。

「フォオオン…。」

 まさに圧巻だった。

 巨大な、そう、まさに大陸が空に浮かんでいた。

 大陸から流れる川だろうか、滝があり、下まで落ちることなく途中で霧になっている。その霧が雲となり、アルビオンの下を覆っていた。

「アルビオンはね、通称白の国って呼ばれているわ。」

 ああ、確かに納得だとアルマロスは頷いた。

 アルビオンの下の方の雲が白くて、確かに白の国と呼ぶにふさわしいだろう。

 すると、船員が叫んだ。

 右舷から船が来ると。

 アルマロスは、嫌な予感がしてベイルを装備した。

「空賊だ!」

 そんな叫び声が聞こえて、やはりかとアルマロスは思い、ルイズを守るように立った。

 慌てる船長に、ワルドが魔法は打ち止めだと落ち着き払って言い、空賊からの命令に従って停泊することになった。

 

 空賊の船が横にくっつき、空賊達がこちらに武器を向けて来た。

 アルマロスは、いつでも動けるようベイルを構えた。

「やめたまえ、いくら君が早くても、向こうの大砲がこちらの船を砕くのが早いだろう。挑発しないように武器を下ろしてくれ。」

 ワルドに頼まれ、アルマロスはしぶしぶベイルを外した。

 すると一人の派手な空賊が甲板に降りて来た。

「船長はどこでぇ。」

「私が…船長だ。」

 震えていて、精一杯の威厳を保とうとしながら船長が手を上げた。

「船の名前と積み荷は?」

「トリスティンのマリー・ガラント号。積み荷は、硫黄だ。」

「船ごと買った。料金はてめぇらの命だ。」

 それを聞いて船長は屈辱で震えた。

「おや、貴族の客まで乗せてんのか?」

 そう言って空賊がルイズの顎を掴んだ。

「フォオン!」

 アルマロスがその手を払いのけた。

「いってぇな。」

 空賊は、プラプラと手を振るった。

 アルマロスは、空賊を睨んだままルイズを空賊から遠ざけるように前に立った。

「いい度胸じゃねぇか。貴族の飼い犬君。」

「フォォ…。」

「アルマロス、落ち着いて。」

「そうだ。ここで君が暴れたら全員、船ごとハチの巣だ。」

 それを聞き、アルマロスは、空賊を睨んで拳を握った。

 空賊は不敵に笑うばかりで意に介さない。

「てめぇら、こいつらも運びな。たんまりと身代金をふんだくってやる。」

 ルイズ達は、船倉へ移動させられた。

 ワルドとルイズは杖を取り上げられ、アルマロスは、デルフリンガーを取り上げられた。ベイルは光になって消えたため取られていない。

 しかし多勢に無勢。しかも空の上。

 ここでアルマロスが暴れてもルイズ達が危険にさらされるだけなので、動けなかった。

「メシだ。」

 すると扉から空賊の男がスープの入った皿を持ってきた。

 扉の近くにいたアルマロスが受け取ろうとすると、ヒョイッと持ち上げられた。

「質問に答えてからだ。」

「言ってごらんなさい。」

「お前達、アルビオンに何の用だ?」

「旅行よ。」

 ルイズは、腰に手を当てて毅然とした声で言ってのけた。

「トリスティンの貴族が今時のアルビオンに旅行? いったいなにを見物にするつもりだい?」

「そんなことあんたなんかに言う必要ないわ。」

「強がるんじゃねぇぜ。」

 空賊は笑い、皿と水を寄越した。

 一つの皿からスープを三人で飲んだ。

 飲み終わると、本当にやることが無くなる。

 ワルドは、壁に背を預けて何かもの思いにふけている。

 ルイズは、体操座りで顔を伏せていた。

 アルマロスは、座り込んで、暇なので鼻歌を歌いだした。

「あんた…、歌もうまいのね…。」

「フォ?」

「…もっと歌ってて。」

 ルイズに言われるまま、アルマロスは、鼻歌を歌い続けた。

 

「こんな状況で鼻歌たぁ、お気楽なこったな。」

 すると扉が開いた。

「おめえら、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」

 ルイズ達は答えない。

「おいおい、だんまりじゃわかんねよ。」

 空賊が言うには、空賊達は貴族派と商売しており、王党派に味方する者達を捕まえる密命を帯びているという。

「じゃあこの船は反乱軍の軍艦なのね?」

「いやいや、俺達は雇われてるわけじゃあねえ。あくまで対等な関係で協力し合っているのさ。で、どうなんだ? 貴族派だったならきちんと港まで送ってやるよ。」

「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか!」

 ルイズは言った、自分達は、王党派への使いだと、トリスティンの大使として来たのだと、空賊に向かって大使として扱うよう要求した。

 アルマロスは、ポカンッとした。

 状況的に不味くないかっと思った。

 空賊は笑い、お頭に伝えに行った。

 ああ、このままじゃ空から放り出されるかもっと思うと、ルイズだけでも無事に地上に降ろしてやらねばと考えを巡らせた。

 もしもの時は……。

 アルマロスは、ギュッと拳を握った。

 すると空賊が戻ってきて言った。

 お頭が呼んでいると。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 狭い通路を通り、三人が連れていかれたのは、船長のいる立派な一室だった。

 頭と思われる男。ルイズの顎を触った派手な空賊が杖を弄って上座の椅子に座り、周りには、空賊達がいてニヤニヤ笑っている。

「おい、お前達、頭の前だ。挨拶しろ。」

 ルイズは、従わずキッと睨んでいた。

「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと名乗りな。」

「大使としての扱いを要求するわ。」

 ルイズは無視してそう言い放った。

「王党派と言ったな?」

「ええ、言ったわ。」

「なにしに行くんだ? あいつらは明日にでも消えちまうよ。」

「あんたらに言うことじゃないわ。」

「貴族派につく気はないかね? あいつらはメイジを欲しがっている。たんまり弾んでくれるだろうさ。」

「死んでもイヤ!」

 アルマロスは、強気なルイズを見て、気付いた。

 ルイズは、震えていた。怖いのだ、怖くても真っ直ぐにお頭の男を見ている。

「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」

「フォオオン。」

「うお、なんだおまえ、変な声出すなよ。」

「彼は私の使い魔よ。」

 ルイズは、胸を張って言った。

「使い魔?」

「使い魔よ。」

 ルイズの言葉に頭は笑った。大声で。

「トリスティンの貴族は、気ばかり強くってどうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより何百倍もマシだがね。」

 ワハハハっと笑った頭の豹変ぶりに、ルイズ達は顔を見合わせた。

「失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな。」

 そう言って、頭は、黒髪を剥ぎ、眼帯を取り、髭をビリッと剥いだ。

 現れたのは、凛々しい金髪の若者だった。

「私は、アルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令官…、本国艦隊といっても、すでに本艦イーグル号しか存在しない無力な艦隊だがね。まあ、その肩書きよりもこちらのほうが通りがいいだろう。」

 若者は、威風堂々と名乗った。

「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。」

 なんと空賊のお頭だった男は、これから会いに行こうとしていたウェールズ皇太子、その人だった。

 ウェールズは、にっこりと魅力的な笑みを浮かべ。

「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、ご用の向きをうかがおうか。」

 あまりのことにルイズ達は、すぐに反応できなかった。

 

 

 

 




ウェールズも登場しました。

続けて十一話までいきます。

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