インフィニット・ストラトス~小さなヴァルキリー~ 作:黒ペンギン
01 家族
「心配させてごめんな、悠」
病室のベットに横たわる男性が少女に語りかける。少女はその言葉を聞いて一瞬表情をこわばらせるが直ぐに笑顔をつくる。
「ううん、だいじょうぶだよパパ」
そう答えた少女に苦笑いを浮かべる男性。
「無理しなくてもいいんだよ。悠はママにそっくりだからな、そうやって気持ちを隠そうとする。ママはな、そんなそぶりも見せなかったのにいきなりパパに告白してきてな、パパもなママの事が好きだったからすごく驚いたんだぞ。それからもあいつは…」
「パパ、もうそれなんかいもきいたよ」
少女の言葉に男性は先程とは違う意味で苦笑いを浮かべる。
「そ、そうだったか。まぁ悠は良くも悪くもママに似てるからな、きっと美人さんに育つに違いない。せめてランドセル姿を見たかったんだがな」
「みれるよ、あとすこしだもん」
「そうですよ。貴方が弱気でどうするんですか」
少女は耐え切れなくなってきたのか目尻に涙を貯めながら絞り出すように声を出す。その隣からは年配の女性が男性に喝を入れる。
「そうですね、すみません先生」
「謝る相手を間違えてませんか」
「ですね、じゃあ悠、約束しようか。パパは入学式を絶対に見に行くから、さっきのは許してくれ」
「うん」
男性の約束に少女は小さく返事をする。それを機に少女は俯いたままとなる。
「これ以上は辛いだけですかね」
「ええ、佐々木先生すみません後はよろしくお願いします。悠も佐々木先生に迷惑掛けないようにな」
「迷惑なんて思いませんよ。悠ちゃん、そろそろ帰りましょうか」
女性の言葉に少女はゆっくりと頷く。女性は少女の手を引いて共に病室から出て行った。
病室に一人残された男性は小さく呟く。
「結、悠はお前そっくりに育ってきてるよ。お前の記憶なんて無いはずなのにな。本当に強い子だよ」
その呟きは小さいながらも強い意志を感じられるものだった。
この出来事より2日後に男性は静かに息を引き取った。
◇
パパが死んだ、そう聞いた時はとても悲しい気持ちになった。あの時、パパとした約束を守れるとは思っていなかったが、心のどこかで期待していたのだろう。ママは私を産んだ時に死んでしまったらしい。パパは母親のいない私に寂しい思いをさせまいと、多くの時間を私に充ててくれた。でも、その記憶が、思い出が今はとても辛い。
「悠ちゃん、大丈夫……じゃないですよね」
「……うん」
佐々木先生は心配そうに私を見つめている。
これ以上先生に心配をかけるべきでない、そう頭で理解していても、心がついていかない。
「悲しいのなら、無理せず泣いてもいいんですよ」
「ううん、パパとやくそくしたもん、せんせいにめいわくかけないようにって」
佐々木先生はママが昔いた児童養護施設の先生で、これから私もお世話になる。ママが死んでから何度もお世話になっているのだ、これ以上迷惑になることはできるだけ避けたい。
「このくらい、迷惑なんて思いませんよ。これから私達は家族になるんですから」
「でも……」
「でも、ではありません。」
先生は私に目線を合わせるように屈む。
「確かに私達は本当の家族にはなれません。なのでその気持ちを無くしなさいと言っても無理があるでしょう。ですが、たとえ偽物の家族だとしても私は貴方と家族になれるように努力します。なので、あなたもその気持ちを少しでも少なくしてくれませんか」
そう言いながら先生は私を抱きしめてくる。その温かさが、少しでもいいから頼りたいと思ってしまう。
「……わかった」
そう言った私は先生の腕の中で静かに泣いた。できるだけ声を出さないようにしたのは私の中に残った最後の意地だ。