ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~   作:ドロイデン

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精霊使いとの邂逅②

「あー、やっぱりこうなったね」

 

 昴のジンがそれはもうかなりの速度でザクに斬りかかって行ったのを見て、私は思わず苦笑いした。

 

『感心してる場合じゃないわよ果南、止める……のは無理だろうけど』

 

「寧ろああなった昴を止めたらこっちまで巻き添え食らうよ」

 

 何せもうアシムレイトを受けてる感覚があるくらいだから、下手に飛び込んでいったら大惨事になるね。

 

『ならやることは、他の二機を巻き込まないように遠ざけるかしらね?』

 

「それで良いと思うよ。私はあの黒いアストレイやるから鞠莉はドムをお願いね」

 

『えぇ~!!』

 

 だって鞠莉の機体って重武装だから速度でないじゃん。

 

「それに向こうもやる気になってきたみたいだしね」

 

 モニターを確認してみれば、あのザクのパイロットの台詞と、それに対する昴の反応を予測してたような動きを他の二機もしようとしてた。

 

「さて、大人しく倒されてくれるとありがたいんだけどね!!」

 

『果南、倒すのは原因を聞いてからじゃないとダメよ~』

 

 鞠莉の言葉をとりあえず無視して、私はスラスターを吹かせ、宇宙なのに足場を蹴るように飛び出し、ひとまず両手のロングブレードで斬りかかった。

 

『チッ!近接型は相性あんまり良くないからキライなんだけどね、っと!けどね!相性が良くないってだけで早々簡単にヤらせないってのよ!』

 

 けど、紙一重で右手の一撃は避けられ、左手の一撃も右腕の大型トリケロスに備わってるシールド部分で受け流されてしまった。

 

「へぇ、今の攻撃対処できるんだ。けど……」

 

 昴のアシムレイトの影響に入ってるせいで感覚がずれてるのが良く分かる。アタシも最初はそうだったしね。

 

「気をつけて避けるか防がないと痛みで大変な事になるから……ね!!」

 

 アシムレイトの最大の利点、攻撃に体重を乗せることができる事を利用した剣は重く鋭い。流石に奥の手は使ってないから制圧力には欠けるけど。

 

『ちょっと!そこのガチムチな体力オバケで最近はネタで水ゴリラとか呼ばれて弄られてそうな第一回総選挙でドンケツだったクセに2回目で1位になったっぽいヤツ!せっかく久しぶりにうちのバカが私以外のヤツとバトってるとこ見れるってのにムダに嬉しそうに物騒なモン振り回して襲ってきやがるとか一体全体どう言う了見よ!オルゥラァ!ガキじゃねぇーんだからちょっとは空気読よ!空気を!ってかあのジンとやりあってる動画録撮ってるんだからチョロチョロと動き回られちゃ割とマジで邪魔なんだけど!』

 

「え? 邪魔してる? けど昴の所に行ったら多分ガンプラの合わせ目斬られた痛みで色んな所からお漏らししちゃうよ。痛覚遮断設定(ペインアブソーパー)がどうなってるか分かんないけど、アシムレイトの反動って基本痛覚遮断の数値0になるから振りじゃなくてガチでなっちゃうよ」

 

 どこかの大きなお友だちには大喜びな案件だけど、こういった個室でそんなことになったら恥ずかしくて死んじゃうからね。あのソラとか言った男の子から白い目で見られること受け合い受け合い。

 

 え? そういう私はどうだったかって? ……それを聞くならダイヤに頼んでコンクリ詰めにして太平洋の底に沈めちゃうよ?

 

『はぁ?痛覚遮断設定?そんなの精霊使い(エレメンタラー)精霊憑依(ポゼッション)して機体と一つにでもなんないと設定項目出てこないでしょうが!あとアシムレイト?それって確かプラフスキー粒子が禁止される前のガンプラバトルでたまに発現したとかってレアスキルみたいなモンよね?そんな古くさいレアスキルでなんでお漏らしなんて話になんのよ!真姫的イミワカナイことばっかり言ってんじゃないわよ!』

 

<マスター。お話し中に失礼します>

 

 なんか色々騒いでるな~なんて思ってると、通信から電子音的な声……いわゆるAIボイスが聞こえてきた。しかも聞いただけで私にも結構高性能だってことが分かるくらいに。

 

『ウズメ?何よ!今ちょっと真姫的イミワカナイことばっかり抜かしやがるこの水ゴリラの相手で忙しんだけど!急用じゃないならあとにしなさい!』

 

<それでは割と急用の部類かと思いますので、このままご報告いたします。今回のお話では世界線が微妙な感じでアレしてコレしてソレした結果の果てになんやかんやで融合した諸事情により、当機にもアシムレイト関連での痛覚設定項目が特別に増設されております。デフォルトでは100%ダメージがファイターに反映されるドM推奨の設定となっておりますので、マスターがお望みでしたらこちらで痛覚設定を常人向けのそれなりに痛い程度のモノに変更いたしますが?>

 

『いきなりメタい話題が来たし!ってかあんのかい!痛覚設定!』

 

 なんか色々騒いでるんだけど、どうやら向こう側の世界にはアシムレイトが存在しないみたい。まぁ諸刃の剣だし、阿頼耶識とほぼ効果被ってるから無くなったのなら仕方ないか。

 

「ぬがぁぁぁぁぁぁぁ!!ドチクショォォォォォ!!痛覚設定なんて知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!英語も国語も数学もみんな年下のバカに面倒見て貰わなきゃ赤点確実なめんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ぐぅおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ってかドM推奨の設定ってなんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 しかもワケわからないこと叫びまくってるし、てか

 

「なんなら痛覚設定弄る時間くらいはあげるよ?まぁ昴の強請アシムレイトがあるから無効にすることはできないだろうけど」

 

 なおこの痛覚遮断設定、さっきのAIが言ったようにデフォルトだとダメージ全部がフィードバックするんだけど、代わりにアシムレイトは阿頼耶識を比べるのも烏滸がましいほどに、機体が体の一部みたいに動くんだよね。

 

 これをデフォルトから下げていくごとにフィードバックは減るけど、代わりに動きがその分だけ機械じみた、言わばシステムが動かすみたいな動きになる。言わば一長一短なわけだ。

 

 ちなみに鞠莉は機体の特性上前もって耐アシムレイトのプログラムを機体に入れてるからアシムレイトにならないんだけど……あ、

 

「鞠莉、そっちのドムのパイロットの方にはアシムレイトのこと伝えた?」

 

 思い出したように通信を開いて、ドムと戦ってるだろう鞠莉へと通信を開いて確認してみれば

 

『へ?……Oh~!!ごめん忘れてたわ!!』

 

 案の定忘れてたみたい。

 

「いやいや忘れちゃダメでしょ。普段のバトルなら兎も角今回は調査なんだから、この人たちの力も借りなきゃいけないかもしれないし」

 

『OK、そういう果南こそお得意の間接技なんてやらないようにね』

 

 分かってる、と伝えて通信を切ると

 

<設定完了しました。これで機体から反映されるダメージがドM推奨からタンスの角に小指をぶつけた時の痛みレベルまで減衰されていると思われます。>

 

 タイミング良く、どうやら相手の方も設定が終わったのか通信を開いてきた。AIの言葉通りなら多分30%近くまで落としたのかな?

 

「設定は終わったんだ」

 

『えぇ!えぇ!どっかの誰かさんのクソ忌々しいお節介のお陰さまを持ちましてしっかりばっちり普段はやった事ないよーなクソめんどい設定を懇切丁寧にやらせていただきましたよー!だ!お礼にきっちりノシ付けてぶちのめしてヤるんだから精々覚悟しときなさい!!このドチクショーが!!』

 

 なんか妙に煽るような言葉なのは気のせいか。ていうかさっきの水ゴリラってなに?新種の海底生物か何か?

 

「そ。なら本気……は出せないけど全力で行くから付いてきなよ!!」

 

 とりあえず煽りは無視して、一つ深呼吸してから剣をしまい、本編ではまだ出してない私の三つ目の奥の手の一つを解放する。

 

「RGシステム、イグニッション!!」

 

『はぁ?!ちょ!あーるじぃーしすてむぅぅぅぅぅぅ?!』

 

 解放と同時に機体全体が白く輝き、RGシステム特有の光の線が機体を走る。

 

 昴が居ないときにアシムレイトと同じようにするための阿頼耶識、限定的に最大速度をあげるトランザム、そして機体の出力を引き上げるRGシステム、流石に三つ同時に使うと大変な事になるけど、アシムレイト(阿頼耶識)RGは肉体の負荷はそんなにないから、本気は出せない全力ならこれが一番なんだよね。だから、

 

「さぁ、全力で行くよ!!」

 

 宇宙だというのに、地面を強く蹴るように加速し飛び出した私は一瞬であの黒いアストレイの胸元に入り込んだ。

 

『チッ!あのバカと似たような事を!』

 

「遅い!!」

 

 マニピュレーターに粒子を纏わせた右ストレートは見事に胸元……ではなくギリギリ間に合ったらしいトリケロスのシールドにぶつかり、衝撃で近くのデブリにぶつかった。

 

『いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃ!!ぬぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ふぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

 流石に三割のフィードバックでもかなりの痛みらしく、通信からは悶絶するような叫び声がこだましてる。しかし

 

「へぇ、中々固いね……今ので抜けると思ったんだけど」

 

 普通ならシールドくらい簡単に貫通して破壊できる威力のパンチを放ったはずなのに、破壊すらできなかったことに少しだけ驚く。

 

 しかし、それでもシールドパーツは見ただけでひしゃげてるのが分かる。あの様子だと多分ランサーダートを射つことはできなくなったかな。

 

「(確かトリケロスは腕と一体化してる武装だって昴が言ってたから、暫く右手は痺れて使い物にならないはず)もう一発くらいなさい!!」

 

 油断無く、トドメを刺す勢いで殴りかかろうとしたんだけど、そうは問屋が下ろすわけないことで

 

『ゴルゥゥラァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!クソ水ゴリラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!ウズメェェェェェェェェェェェェェェ!!』

 

<“ヤサカニノマガタマ”全基射出。オフェシンブシフトで起動します>

 

 もう言葉にすらなってない声にAIが反応、何やら背中から丸い何かを展開させる。

 

「あ、これヤバそう」

 

 小さく呟いた言葉が聞こえて無いだろうが、私にとって嫌なそれは、

 

『うっしゃおるぅらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!片っ端から穴だらけにしてぇぇぇぇ!!ぬっこぬっこにぬっころしやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

 

<了解しました。攻撃を開始します>

 

 予想通り遠隔操作兵器……アストレイだからドラグーンだったそれがまさしく豪雨さながらにビームの雨を大量に降らしてきて……ってヤバイ!!

 

「ちょ、ドラグーンは困るって!!」

 

 幾らRGで機体全体のポテンシャルが上がってるとはいえ、機体自体に耐ビームコーティングなんてされてないから、一発被弾しただけでも大変な事になっちゃう。

 

 慌ててステップを踏むように回避し、右手にGNバスターライフルを抜くと動き回るそれを狙っていく。

 

「射撃嫌いなんだからやらせるなっての!!」

 

 相手もろとも消し飛ばす為に最大出力で発射するが、それは完全に悪手だった。

 

『“マフツノヤタカガミ”起動!』

 

 なんか神話に出てきそうな単語が聞こえたかと思うと、あの黒いアストレイは左手に取り付けられた、トリケロスのシールドとは別のシールドを展開する。

 

<“マフツノヤタカガミ”起動します。アブソーブシステム、スタンバイ>

 

『災い転じて糧となれ!!』

 

 するとなんて事でしょう。直撃するかと思ったビームはシールドに触れた瞬間にまるで意味を介さない……それどころか吸収してしまったのだ。

 

「ちょ!?ビームを吸いとった!?」

 

 ウィングゼロの最大出力のバスターライフルとまではいかないけど、結構な威力のビームをまるでそばを啜るように一瞬で吸い込んでしまったあの黒いアストレイに、私の頬が引き攣った。

 

「昴が言ってたアブソーブシステムってやつ? なら射撃はやらなくて良いみたいね!!」

 

 バスターライフルを再びしまい、ドラグーンが動かない今、再び急接近をしかける。

 

『急加速する連中へと対処方法は加速し始める前にぶっ潰す!!もっかいいけ!“ヤサカニノマガタマ”!!あーんど!コイツも貰っときなさい!!』

 

 が、やっぱり接近されたくないから飛ばしていたドラグーン、さらにおまけにどうぞと言わんばかりにビームライフルまで射ってきた。

 

「もう、ホントにドラグーンとかビットとか嫌いなのに!!」

 

 もうムカついて来たのでロングブレードを両方抜いて、

 

「昴みたいに合わせ目は斬れないけど、切り裂くぐらいなら!!」

 

 ロングブレードに粒子を纏わせ、振り抜いて斬撃を飛ばす。両手の剣から放たれたそれは全部で6つ?飛んでるドラグーンのうち、二つを真っ二つに切り裂き、爆発した。

 

『うげっ?!飛ぶ斬撃?!なんてインチキしてくちゃってんのよ?!』

 

 インチキって、昴どころか昔ニルスさんもやってるから別段ガンプラバトルでは普通なんだけど。って、そんなことよりも。

 

「いまだ!!」

 

 隙が出来たこの瞬間、スラスターを再全開、再び剣の間合いに入り込むとロングブレードに粒子を纏わせ、今度はそのまま攻撃しようとするが、

 

「ウズメ!防ぎなさい!!!!!」

 

<ディフェンシブシフト起動。防御フィールド展開します>

 

 一瞬でドラグーンがビームの防御幕が展開され、攻撃をギリギリで防がれた。

 

『無理を通してオマケに道理もアイツもまとめて全部ぶち抜きなさい!!逝け!“御雷槌”!!』

 

 だけじゃなくて、あのトリケロスに内蔵されてたランサーダートを、ゼロ距離で放とうとしてきた。

 

「ちょ!?」

 

 あの拳の一撃で使えないと思ってたランサーダートを撃ってくるとは流石に思ってなくて、慌てるが時すでに遅し、発射されたそれは回避しようとしたが右肩と右脇腹をかすっていった。

 

「ぐっぁぁぁ!?」

 

 当然アシムレイトのフィードバックが肉体に幻痛としてあらわれ、毎度のことながら痛いを通り越して吐き気すら沸いてくる。

 

 さっきのAIが言ってたように100%フィードバックはドMならご褒美とか言われるくらいの痛みなんだけど……生憎とこの程度の掠ったで怯むほど昴のパートナーはやってない。

 

「こんのぉ!!」

 

 痛みを誤魔化すように剣を捨て、マニピュレーターで顔を掴み膝蹴りをコックピットブロックに数発叩き込む。

 

『いっ…たいんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!こんのぉぉぉ!!ボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 相手も負けじと振り払い、トリケロスで殴りつけてきて胸部にいくつも傷をつける。

 

 最早不良の取っ組み合いというか殴り合い、殴っては殴り返されという攻撃を何回も繰り返し、その度に痛みを受ける。

 

「さっさと!!」

 

『落ちなさいよ!!』

 

 そして互いの全力の……トドメを刺さんとばかりのパンチを振りかぶったその時、

 

「『!?』」

 

 突然耳をつんざくような大爆発が起こり、慌てて聞こえてきた方向……メンデルコロニーの方向を見ると、そこには

 

「え……」

 

『なによ……アレ……』

 

 コロニーの中心から煙が登り、その中に巨大な影が見えるのだった。


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