ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~   作:ドロイデン

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精霊使いとの邂逅①

 夏真っ盛りというか夏休みももうすぐといったその日、それは正しく唐突に訪れた。

 

「仕事……ですか?」

 

 部活が終わり、家で寛ごうとした矢先に掛かってきた電話の内容に俺は思わず相手に聞き返した。

 

『ええ、君も知ってると思いますが今のガンプラバトルの敷居は意外と高い、そこで我々矢嶋コーポレーションでは前々からVR……仮想現実とそのネットワークを利用したガンプラバトル技術の確立に向けて動いてきました』

 

 相手はプラフスキー粒子の精製で有名な矢嶋ニルスさんだった。

 

「てことはその仕事っていうのは、その仮想現実のガンプラバトルのデータ取りってところですか?」

 

『いえ、そちらは自分達である程度のレベルにすることはできました。が、問題が起こってしまいまして……』

 

「問題……ですか?」

 

 ニルスさんのその言葉に俺の頭には疑問符が浮かぶ。

 

『ええ、仮想現実は当然ながらネットワークに接続しているわけですが、どういうわけか最近謎のIPアドレス……つまり不明なネットワークと接続されてしまうバグが起こっているんです』

 

「それは……」

 

 結構な大問題だ。というか問題しかない。

 

『そこで自分が試しにその仮想現実プログラムへ、個人的に作っていたガンプラと共に突入したんですが……あっさりと瞬殺されまして』

 

「瞬殺!? ニルスさんが!?」

 

『ええ、ここ十年近くバトルのほうからは遠ざかっていたことが仇になりまして……』

 

「いやいやいや……」

 

 あのPPSE時代のファイターで、尚且つプラフスキー粒子の解析と精製をしてしまうようなあの人が、幾ら長年バトルの第一線を退いていたとはいえあっさり負けるか?

 

 断言しよう、まずあり得ない。

 

『そういうわけで、最近メイジンと戦った君に頼もうと思った次第です』

 

「いやいやいや!! それこそメイジンに頼むべき案件でしょ!? というか自分とかよりも星さんとかフェリーニさんとかのもっと強い人居るでしょ!?」

 

 決して面倒だから他人に押し付けるわけではない。ニルスさんレベルの人が太刀打ちできないような相手と戦いたくないだけだ。大事なことなのでもう一度言おう、戦いたくないだけだ。

 

『メイジンなら一週間前からニューヨークでガンプラ普及イベント、フェリーニさんはハリウッドのキララさんの応援、星くんは個展でサウジアラビアへそれぞれ行ってまして』

 

「なんつうタイミングだよ……!!」

 

『それに、世界大会予選が近いですからプロファイターも色々あって中々引き受けてくれませんからね、近くに住んでいて尚且つプロファイター資格を持っていたのが』

 

「俺だったわけか……」

 

 一応納得したものの、できれば断りたい案件だった。

 

『ちなみに昴さんが居る学校のガンプラバトルチーム……Aqoursでしたか?そのメンバーの一人であり、プロとして昴さんが所属してる所の娘さんから許可はもらってます』

 

「鞠莉さん……何を勝手に……」

 

『まぁ結構な額の報酬と、一週間のニールセンラボへの招待を要求されましたけどね』

 

 朗らかに笑ってるが、こちらからしたら当事者抜きで仕事が決まってるんだから全然笑えない。

 

「分かりました……で、いつ行けばいいんでしょうか?」

 

『昴さんは学業もありますから、次の土曜日にでもお願いします。あ、何なら二人までならご友人を連れてきても構いませんよ』

 

「え?」

 

 まさかの一言に俺は思わず声が出た。

 

『幾らプロとはいえ、一人で謎の相手と戦うのは難しいですからね。援護支援に何人か連れてきて貰ったほうが何かとそちらも都合がいいかと思いますが?』

 

「それはそうですけど……試作機だって何機もあるわけじゃないでしょ? 俺は仕事だから兎も角関係者以外を二人もなんて大丈夫なんですか?」

 

『一応昴くんが使う予定のものを除いても、試作機は三台ありますからなんとかなりますよ。まぁそれでも流石に全部使うわけにはいきませんからね、昴くんが使うのを除けばあと二人までなんです』

 

「なるほど」

 

 そういうことなら受けるのも吝かではない、が、確認しなければならないこともある。

 

「ところで、その仮想世界のバトルシステムって、アシムレイトとか発動するのか?」

 

『勿論、この件が起こる少し前に三代目にテストをしてもらって、ちゃんとアシムレイトが発動するか確認してもらいましたからね』

 

「了解です、そういうことなら次の土曜日にそちらへ向かいますんで、よろしくお願いいたします」

 

 そう言って通話を切ると、仕事モードから脱力してベットにドカリと座り込む。

 

「はぁ……」

 

「昴、ため息つくのは良くないよ?」

 

「そういう果南はいつの間に俺の隣に座ってるんだ? 電話してるときは居なかっただろ?」

 

 まるで忍者かというような絶妙なタイミングで現れた姉貴分にこれまたため息をつきつつ、どうにでもなれと頭をその膝に乗せる。

 

「ちょ、昴? いきなりどうしたの?」

 

「別にいつものことだろ。それに最近はどっかの誰かのせいで心労溜まりまくりだったんだし」

 

「もう……ならさっき言ってたのに私も入れてね」

 

「はいはい……すぅ……」

 

 そんな簡単な会話をしながら、俺は果南の膝枕を受けて軽い眠りにつくのだった。

 

 

 

「というわけで、俺と果南は次の土曜日にニールセンラボへ仕事へ行くことになったんだが、もう一人来たいやつ居るか?」

 

『いや唐突すぎるから!!』

 

 翌日、全員がいつも通り集まっている部室で俺が話すと、知らなかったメンバー全員が声を揃えて突っ込んできた。

 

「仕方ないだろ、鞠莉さんが勝手に受けちまった仕事なんだから」

 

「そういうことじゃないですわよ!! いやそういうことでもあるんですが……鞠莉さん!!」

 

「しょうがないじゃない。パパから日本での昴が受ける仕事の認可は私が一任されてるんだしネ」

 

 何時もの堅物さを発揮するダイヤさんの追及に鞠莉さんは何時もの調子で答えている。

 

「ニールセンラボ……ってなんだっけ?」

 

「千歌ちゃん、ニールセンラボっていうのはガンプラバトルのスポンサーの一つの矢嶋コーポレーションが経営してる研究所で、世界的にも有名な矢嶋ニルスさんが所長を務めてるところだよ」

 

「高校生ガンプラバトルチームの合宿所も兼ねてるんだけど、あまりにも人気過ぎて一泊するのも難しいの」

 

「ほぇ~」

 

 千歌、梨子、曜の二年生組はそもそも分かっていない千歌に教えてるが、正直自分も人気レベルについては忘れてた。スマン。

 

「昴さん、なんで顔を背けてるの?」

 

「どうせ自分も忘れてた事から目を背けてるだけでしょ」

 

「うるさいぞ津島」

 

「む!! ヨハネって呼んでよね!!」

 

「善子ちゃん、五月蝿いズラ♪」

 

「善子呼ぶんじゃないわよズラ丸アンタは!!」

 

 なんか津島がギャーギャー騒いでるけど、あれはあれで平常運転だから無視するのが鉄則だな、うん。

 

「けど動けるメンバーって三年生しか居ないズラ」

 

「あー……そういえばそうか」

 

 というのも二年生は東京遠征での経験から新しい機体作りに今現在追われてる真っ最中で、ルビィと津島は花丸の機体作り。そして津島はさらに自分の新機体まで作成してる最中とかなり慌ただしくしてる。

 

「となると鞠莉さんかダイヤさんの二人か……」

 

「……いえ、私は今回は遠慮しておきますわ」

 

 俺が考え込もうとした途端、まさかの発言がダイヤさんから飛び出した。

 

「What's!? まさかダイヤから折れるとは思っても見なかったわ」

 

「うんうん、ダイヤなら絶対に行きたいとか言いそうだもん」

 

「二人とも……」

 

 意外そうな顔をする幼馴染み二人を見たダイヤさんの表情はどこかイラッとしていたが、すぐに何時ものポンコツモードに戻る。

 

「誰がポンコツですか!?」

 

「地の文に突っ込まないでくださいダイヤさん」

 

 アンタはいつの間にエスパーになったと、心の中で突っ込みつつ、部室に置かれている小型冷蔵庫からお茶を出してダイヤさんに渡す。

 

「まったく……私が降りたのは単純に昴さんと果南さんとの相性が良くないからですわ。何せ二人とも防御無視して突っ込んでいくんですから」

 

「失礼な、脳筋な果南と違って俺は考えて戦ってるぞ」

 

「昴、あとでどうなるか覚えときなさいよ?」

 

 背筋に走った寒いものをとりあえず置いておきながら、俺はダイヤさんに抗議する。

 

「昴さんの場合武器捨てて殴りにいくので異論は認めませんわよ。そのせいでシールドビットも邪魔になるから使えないしで私がどれだけ苦労してるか……」

 

「す、すみません……」

 

「というわけで、私が行っても邪魔になるだけなので、寧ろ……非常に残念極まりないですが鞠莉さんのほうが二人の援護は得意ですし、チームで動くのならばあなた方三人はちょうどバランスが良いですからね。とても、とっても遺憾ですが」

 

 凄い悔しそうに歯軋りまでしてるし。そこまで悔しいかよ

 

「なので鞠莉さん、果南さん、そして昴さん。くれぐれも……く・れ・ぐ・れ・も!! 粗相のないように頑張ってきてください」

 

「「「は、はい……」」」

 

 どこから取り出した扇子で掌パンパンしてる姿はとてもヤクザの娘に見えましたとは言えなかった。

 

 

 

 そんなこんなで土曜日、俺、果南、鞠莉さんの三人は鞠莉さんのところの車でニールセンラボへとやって来ていた。

 

「お待ちしてました、昴くん」

 

「えっと、こうやって会うのは初めましてですか、ニルスさん」

 

 態々出迎えてくれたニルスさんに挨拶しつつ、目的の場所へと案内される。

 

「けど流石は天下の矢嶋コーポレーションですね、ここまで大きな研究所を持ってるなんて」

 

「半分近くは合宿所ですけど、それでもプラフスキー粒子関連の研究施設としてはまず間違いなくうちが最大ですから」

 

 アハハ、と軽く笑ってるニルスさんだが、こちらからしたら居て良いのかすら不安になる。

 

「それで、その仮想現実バトルシステムってのはいったいどんなやつなんです?」

 

「簡単に言うとコックピットのような特殊な部屋に入ってもらって、その後はいつも通りの操作で動くようになってます」

 

 そう言って案内された部屋には大型の四角い箱のような機械が置かれており、それぞれの前にはガンプラを設置する台のような物が置かれている。

 

「オーウ!! 先にガンプラをセッティングするんですか?」

 

「えぇ、流石に内部に設置するには現状まだスペースが足りませんからね」

 

 そんな説明を聞いてるのかいないのか、果南は機械の入り口を開け中を確認すると感嘆の声をあげる

 

「見てよ昴、中はZに出てくるコックピットみたいだよ」

 

「え? マジで?」

 

 どれどれ、と確認してみるとそれは果南がまさしく言った通り、宇宙世紀では最早鉄板と言われるコックピット……全天周囲モニターとリニアシートというファンからすれば垂涎もの間違いなしな代物だった。

 

「これどうやって再現を……」

 

「ガンプラバトルは実際のMSと違って色んな計器やスイッチを押す必要が殆どありませんからね、その分視覚情報が重要なので張り切って作ってみました」

 

「……ちなみに特許は?」

 

「ガンプラバトル以外ではあまり必要のない技術ですからね、正式に商品化すれば一緒に通しますよ」

 

 なるほど、と頷きながら観察してみると、

 

「……そういや操縦桿が見当たらないですけど」

 

「それに関しては現在のガンプラバトルのそれを流用してるので、起動すれば自動で出てきますよ」

 

 俺の疑問にさらっと答えてしまうと、ニルスさんはさて、と一言呟き目を真剣なものに変える。

 

「それでは簡単に概要を説明しますよ。これから三人にはこの試作機を使って仮想現実バトルシステムのネットワークへ突入、発生してる謎のネット接続の調査を行ってもらいます」

 

「確認しますけど、外部からのハッキングとかじゃないんですよね?」

 

「それはまずあり得ません。研究所内……特にこの実験区画は有線による外部接続が一切されていない独立回線(スタンドアローン)です。まずハッキングなどできませんし、できたとしてもそれは内部から接続されているPCを使わなければいけないのでまず不可能です」

 

「分かりました。なら俺たちの目的は調査及び原因の排除ということですね」

 

 俺がそう言うと果南がそういえば、と声をあげる。

 

「ニルスさんは何にやられたんです? 昴の話だと瞬殺だったって聞きましたけど」

 

「Oh~!! そういえばそうデェス!!」

 

「オイコラ二人とも!!」

 

 なんて事を聞いてるんだ、そう思ったがニルスさんの顔はどこか微妙なものだった。

 

「瞬殺された……というより不意打ちだったというほうが言葉の上では正しいですね」

 

「え?」

 

「自分が戦ったのは正しくガンプラでした……けど、ただのガンプラじゃなく、人が操縦してるガンプラでした」

 

「……ちょっと待ってください、ということはまさか……」

 

 一瞬考えた中でまさかと思った。ありえないと思っているはずなのにそれだと頭の中が早鐘をならしている。

 

「ええ、恐らくですが繋がってる先はこの仮想現実バトルシステムが普及している……別の平行世界である可能性が極めて高いです」

 

 

 

 

「ここがバトルフィールドか……」

 

 ニルスさんのあの言葉の後、すぐに機体の中に入った俺ら三人は、出撃と共に視界に広がる宇宙の暗闇と、デブリに息を呑んでいた。

 

『かなり作り込まれてる……結構凄いね、これ』

 

『確かに、そういえばこのfieldってどこか分かる?』

 

 鞠莉さんの質問に、俺は辺り一帯を見回しながら答える。

 

「多分だけどSEED系のL4宙域じゃないか?」

 

『へ~、てことはメンデル(Mendel)ってことね。何ともって感じね』

 

 SEED系ではある意味物語の中心的な場所であるためその言葉には納得できるが、正直悪い予感しかしない。

 

「とりあえず索敵からだな。どうやらここはメンデルの艦船入口から反対側みたいだな」

 

 俺はレバーを操作して鶏冠のクリアパーツを展開しレーダーを確認する。が、範囲内には何も反応がなかった。

 

「目標ははデブリ側か、もしくはコロニーの中か……」

 

『どっちにしろここからコロニー入口の方へ行かなきゃ確認できないね』

 

「なら善は急げだ、さっさと向かう……!!レーダーに反応!?」

 

 移動しようとした瞬間に現れた機体の反応に、俺は声をあげて二人を止める。

 

『昴、数は?』

 

「計測した感じは……三機、多分平行世界とやらのファイターだとおもう」

 

『けど現況の可能性も捨てれないわネ、向かうとしましょう』

 

 鞠莉の言葉に頷くと、俺らは揃ってその方向へ機体を走らせる。

 

「距離からして300メートルだからそこまで離れてない……近付いてきた? こっちに気付いたのか?」

 

『なんにせよ相手の姿が分かるんだから良いでしょ』

 

「そうだな、モニターを最大望遠に」

 

 そうして出てきたのは三機のガンプラで、一目見ただけで厄介だと頬を少しひきつらせる。

 

 1体はダークグリーンのザクⅡ……恐らく高機動型ベースか?大型のマシンガンライフルやミサイルポットの他に多数の大型ブースター、正直言おう、完全に被ってる。

 

 1体はアストレイ系、恐らくゴールドフレームだろう。背後まで見れないから詳しくは分からないが、恐らく背中にドラグーン系の武装を取り付けてるのは間違いない、中衛の荒らし目的か?

 

 そして最後の1体、ベースは一目で分かるというくらいのドムベース。それだけなら兎も角背中にあるバックパックが異常で、まさかのハーミットグラブを背負ってるではないか。

 

「サテライトランチャーは確定だろうな」

 

『確定ネ』

 

『あんなの着けてたら一発で何を装備してるか一目瞭然でしょ』

 

 果南のお言葉に正しくその通りと言いたくなる。だが分かったとしてもアレの火力は考えるだけで恐ろしい。

 

「とりあえず通信開いて確認するか……お『おーい♪聞こえてるかー♪そこのザクのパクり疑惑が濃厚な某種に出てきやがる量産機(笑)を弄ったなんか灰色のヤツに乗ったヤツ。そんなクソジンなんざ使わねぇーで男ならザクを使え。ザクを。いいか?ジンなんざ使ってると周りからいや~ん♪ジンよぉ~♪ザクのパクり疑惑が濃厚なあのジンよぉ~♪近付くとジンがうつるわぁ~ん♪って言われてハブられるぞー。他にもご近所のオバサン連中の井戸端会議で奥さんご存知?ほらアソコの…そう!あの子!ジンなんてつかってるんですってよぉ?怖いわねぇ~。ジンよ?ジン?ザクじゃなくジンなのよ?イヤよねぇー?うちの子にアソコのジンに近付かないように言っておかなきゃダメよね?だってジンがうつったら怖いわぁー。』……」

 

『『あ……(あのザクのパイロット、多分死んだ)』』

 

 さて諸君、最近勝率こそ悩んでるが俺は一応のところプロのファイターだ。あの言葉が煽りのために言われたのは直感的に分かる。

 

 分かるが、それでも今、やつは何といった?『そこのザクのパクり疑惑が濃厚な某種に出てきやがる量産機(笑)』だと? まぁ確かに平行世界なんだろうから俺の事を知らないのは良いだろう、だが、しかし、奴はその事を差し引いても退っ引きならない事を言いやがった。

 

 しかも言ったやつはどうやら先頭にいるザクのパイロットで、さっきも言ったが完全に似たようなコンセプト被ってると来た。これはもうあれだ、数え役満待ったなし。詰まるところ、

 

「ヤロォォブッコロッシャァァァァァ!!!!」

 

 俺は刀を二本抜きアシムレイト強制解放、『灰色の流星』から『ザク絶対殺す(シリアルザクキラー)』へと変貌するのだった。


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