ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
どうしてこうなったか、それは誰にも分からない。ただお昼を食べに一緒に入ったお店で、私は……ううん、私達は目の前に鎮座する特注の巨大な器三つを見ながらそう思った。
ギっとりとした油の浮かぶ白濁のスープの上に乗るのは青と白の2つの山のような野菜、さらには分厚く切られた茶色の肉塊が少なく見積もっても500gぐらい、そしてその隣には野菜と同じぐらいに盛られた茶色のキクラゲ。
そして最早切られずそのまま3つ乗せられた煮卵と、埋まってるであろう大量の極太の中華麺。所謂豚骨ラーメンと呼ばれるそれのチャレンジメニューを目の前で食べる三人の猛者を見てしまえば。
「「「「……はぁ」」」」
見てる私達の胃のほうがノックアウトするのは自明の理だった。
すこしだけ時を戻して、昴さん達と別れたルビィと花丸ちゃんは、立ち並ぶ多数の模型屋さんで色んなものを見ていた。というのも、
「花丸ちゃん、どんな武器にするか決めた?」
「ずらぁ……色々多すぎて迷うずら」
花丸ちゃんのガンプラの武器パーツを手に入れるためだった。善子ちゃん(ヨハネ!!)と梨子さんによって現在花丸ちゃんの機体を鋭意製作中なわけだけど、それだと今回のバトルに間に合わないからだ。
花丸ちゃん自身は、今使ってる『スモッグ』で充分ってらしいけど、善子ちゃんが
『そんなおんぼろ機体で戦わせるわけ無いでしょ!!』
流石に現環境のガンプラバトルで使えるように改修したとはいえ、花丸ちゃんの特性と合わないうえに、作ったのがだいぶ昔だからという理由で、バトルでは『アルケイン』を改修した新機体の、バックパックパッケージを既存キット流用で済ませようという事になったわけだ。
「『ビルドストライク』とか『オオトリ』とかはどうかな」
「使いやすそうだけど、アルケインのとポリキャップの接続は大丈夫ズラ?」
「あ、そうか……なら『パーフェクトパック』は?武装も多いし、花丸ちゃんは支援向きの機体だから、スナイパーライフルとあわせて良いと思うよ」
「じゃあそれにするずら」
そんなことを話ながら買い物を済ませて外に出た。
「けど、やっぱり不思議ずら」
「ピギ?何が?」
「ガンプラのキットが売ってるのは分かるけど、腕や脚のパーツ、バックパックを個別で、しかも製作済みで売ってるなんて結構不思議ずら」
その指摘に、私は納得した。
「それはね花丸ちゃん、ガンプラバトルをする人全員が、優秀なビルダーだってことじゃないからだよ」
「?どういうことずら?」
「ガンプラバトルは前提としてガンプラを作らなきゃいけないわけだけど、人によっては手先が器用じゃなくてパーツを間違って壊しちゃったってことが良くあるの」
特に初心者の場合、ゲートと一緒にアンテナを切っちゃったとか、取り付けるパーツを付け忘れて外すときにポリキャップが折れたとかは、有名な失敗談だ。
実際お姉ちゃんも、初めて作ったガンプラの手の甲のパーツを切り外した瞬間勢いよく飛んでいって、無くしてどんよりしてたのは覚えてる。
「だからちょっとだけ割高だけど、ちゃんと作ってあるパーツを買って、それを取り付けてバトルすることも良くあるんだよ」
勿論改造するならちゃんと機体のパーツ全部が入ってるキットを買うべきだけど、皆が皆改造してバトルするって訳じゃない。
人によっては機体そのものが好きで、パーソナルカラーの色塗り以外の改造をしないなんて人も大勢いる。
「ずら~なるほど、ガンプラバトルも奥が深いずら」
「うゆ。って、そろそろお昼だけど、花丸ちゃんは何食べたい?」
歩きながらスマホで近くの飲食店を探してみれば、以外と色々とあるのがよく分かる。
「ずら~……ずら?」
花丸ちゃんも悩んでいたが、何かに気がついたのか少し通りすぎた1つのお店に戻った。
「花丸ちゃん?」
「ルビィちゃん……ここが良いずら」
「ここって……ラーメン屋さん?」
なんというか見た目は地味な店感で、入り口にメニューらしきものが置いてあるだけという、本当にお店なのかも怪しい所だった。
「――おや、ここに決めるとは中々通なラーメン好きニャね」
「ピギィ!!へ?貴女は?」
いつの間にか隣に立っていたオレンジの髪に眼鏡の女性の声に、私はどこかで聞いたことのあるような気がしたが、
「ここは秋葉原でも結構珍しい、チャレンジ系ラーメンが楽しめるラーメン屋さんニャ。週変わりでスープが変わるから、何度来ても楽しめるお店なのニャ」
「チャレンジ系……!!良い響きずら!!」
「チャ、チャレンジ系……てことはそれなりに多いんですよね……ルビィ食べきれるかな」
ルビィの一言が聞こえたのか、お姉さんは笑って。
「大丈夫ニャ。チャレンジメニューもあるけど、普通のサイズのラーメンも置いてあるから、普通の人でも食べれるニャ」
「そ、そういうことなら」
お姉さんの勧めで、一緒に入ろうとしたその時だった。
「――あ!!漸く見つけた!!」
と、これまたどこかで聞き覚えのあるような声が聞こえてきたかと思うと、後ろから茶髪でサイドテールの女性が息を切らしながらやって来た。
「ニャ!?なんでここにいるニャ!?今はお仕事中じゃ!?」
「なんでここにいるニャ……じゃないでしょ!!教え子の子から連絡来て、また逃げたってLIMEで来たんだから!!あとお仕事はもう終わったから!!」
まるで怒り心頭といった具合で捲し立てる女性だったが、女性の声を聞いていてふと思った。
(あれ?この声ってまさか……いやいや、けど)
そんな馬鹿なと思いたかったけど、けどその女性の掛けてる眼鏡を外して考えると、どうしてもそうとしか思えない。
「――あ、
と、まるでルビィの考えを狙ったかのように、目の前で一人の……ルビィと同い年ぐらいの少女3人が、考えていた名前と同じ名前を言ってしまった。
「あ、聖ちゃん。ごめんね、いつもいつも」
「い、いえ!!私達こそコーチの捜索に何時も何時もありがとうございます。コーチ、東京に出てくると毎回毎回私達を何時も置いて逃げるんですもん」
「いや……逃げてるんじゃなくてただこっちのラーメンを食べに行くだけニャ」
「コーチ自身がラーメン屋さんなんですから、こっちに来てまでラーメンを食べなくてもいい気がします!!」
「ていうか、コーチ一人だけ食べ歩きなんてズルいです!!私も一緒に行きたいです!!ついでに奢ってください!!」
「唄楽オミャア
怒濤の如く流れる名前にルビィは困惑した。
「ル、ルビィちゃん……もしかして」
訂正、困惑したのは花丸ちゃんもだ。
「う、うゆ……もしかしなくても……小泉花陽さんと、星空凛さん……ですか?」
ルビィの問いかけに、件の二人も気づいたのか、なんとなく罰の悪そうな顔を花陽さん(?)はして
「う、うん。そうだよ」
肯定した……肯定した……肯定……
「「……サ」」
「?」
「「さ、サインください(ずら)!!」」
拝啓昴さん、ルビィは今幸せの絶頂にいるっぽいです。