ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
「昴先輩……」
知らなくて当然とはいえ、私は悔しく思った。だって、余りにも私達は彼の事を知らなすぎた。
「梨子先輩は明日の大会に出られるんですよね」
「え、ええ。私と私のチームの人達と一緒に」
「そうですか……うん、そうだよね」
檎花さんは少しだけ考える素振りをすると、
「お二人とも、お時間はまだ大丈夫ですか」
「え、ええ、まだ暫くは」
「なら私と、私の妹とのタッグバトルをしませんか」
「はぁ!?」
私はその提案に驚きつつも、少しだけ怪しいといぶかしんだ。
「お二人の事ですから、今の全国レベルがどんなものか、特に去年の全国大会の中学生部門優勝者の『死天使』は知ってますよね」
「そりゃまあ」
知ってるというレベルじゃない。男子女子共に、ここ三年間のガンプラバトルはまさしく魔境とでも言うべき、ガンプラとファイター共々技量が上がっている。
中でも同じ静岡のガンプラ学園『チームラグナロク』、福岡の博多星蓮館『シューティングスター』、北海道の函館聖泉『Saint Snow』、京都の清水ヶ原『カルデアス』、そして東京の音ノ木坂『
「私もこれで、『Lyluck』のメンバー入りしてますし、大会に呼ばれてないとはいえ、前哨戦には丁度いいですよね」
「……梨子先輩、どうします」
私は隣に座る先輩に問いかける。
「善子ちゃんはどう思う?」
「……私としては受けてもいいと思います。此方としては全国レベルのバトルがただでできるんですし」
「私も同感、てことで檎花ちゃん、お願いしてもいい」
「分かりました、ではご案内します」
案内されたバトルルームに、手持ちのガンプラ『ウィングガンダムL0シフェル』をセッティングし、フィールドに降り立った私はそのフィールドに少しだけ嫌な顔をしたくなった。
「まさかヘリオポリスが当たるなんてね……」
SEEDの始まりの場所であるヘリオポリスは、コロニー系のステージでは珍しいある特性を持っている。
『相手はどうやらコロニーで待ち伏せって感じじゃなさそうね』
「そりゃ、下手にヘリオポリス内部で暴れると『崩壊』に巻き込まれるしね」
そう、このヘリオポリス、原作再現なのかコロニーの耐久値が異常なほど低く、内部でドンパチしすぎるとコロニー自体が簡単に崩壊して、デブリ爆発を引き起こすのだ。
その威力は言わずもがな、脱出しそびれると確定で戦闘破壊判定を食らううえに、フィールドもデブリ宙域へ強制変更されるため、ファイターの中には苦手なステージの1つに数えられる程なのだ。
「三時方向に敵のガンプラを捕捉した!!梨子先輩、援護お願いします」
『了解、でも気をつけて、檎花ちゃんはともかく、妹ちゃんは恐らくかなりの手練れよ』
「いえ、間違ってますよ梨子先輩」
私の指摘に、梨子先輩は首を傾げる。
「あのμ'sの再来と呼ばれてる『Lyluck』のメンバーの1人が、私達と同レベルなんてわけありえない」
その言葉に反応したように、二機のガンプラ……『シグー』と『ファントムガンダム』のカスタム機がそれぞれ剣を構えて突撃してきた。
「っ!!」
私もすぐに懐からビームサイズを展開、2体に向かって突撃する。
「せいやぁぁ!!」
振り下ろすビームの大鎌を『ファントムガンダム』がその手に持っていたブレードで防ぎ、その後ろからシグーが『グフイグナイテッド』のビームガトリングのように射撃をしてくる。
『させないわよ!!』
が、ファントムガンダムを蹴り飛ばし、それと同時に梨子先輩のフルバーストがシグーを襲う。
『あわわっと!!』
シグーを操っていた妹ちゃんが慌てて回避し、ファントムガンダムの隣に立つ。
「……強い」
この短い攻防だからこそ分かる、あの2機は強い。ガンプラだけでなく、ファイターの実力も高い。
「嘗めてたわけじゃないけど、やっぱり強いわ、アンタら」
『あの『堕天使』に褒められるなんて嬉しい限りね。私も、私の『レイスガンダム』も』
『ふふーん、私の『シグー・ハイマニューバ』は師匠と一緒に組み立てたんだよ!!強くないわけないよ』
二人とも喜んでいるが、正直こちらとしては厳しい限りだ。
実力で負けるつもりはない、が、今のこの
「梨子先輩、どっちかの相手お願いしても良いですか」
なので、私は今できる最善の策、各戸撃破を梨子さんに提案する。
『そうね……檎花ちゃんの相手ならまだできる可能性はあるわ』
「ならあのファントムの改造機体をお願いします。私はシグーをやります」
『わかったわ』
そう言うと梨子先輩は再びフルバーストをし、あの2体を無理矢理に引き剥がす。
「せいやぁ!!」
ビームサイズをしまい、ビームサーベルに切り替えた私はすぐにシグーへ突撃、あの妹ちゃんは左腕のシールドから『テンペストビームソード』を取り出し、鍔迫り合いを仕掛けてきた。
「ッ、機体が重たい!?」
ぶつかり合いで互いにスラスターを吹かした瞬間に来た僅かな感覚に少しだけ舌を巻いた。
見た目、普通のシグーに『グフイグナイテッド』のパーツを組み込んだだけに見えたが、そんなわけあるはずがなく、パワーでは寄せ集めとはいえガンダム系のパーツを使ってる此方の方が上なのに、明らかに鍔迫り合いが押し負けてる。
何故か、そう思って相手の機体を観察してみて良く分かった。翼のパーツ……初期ZAFT量産機特有のあの巨大な大型ウィングスラスターが別物に入れ替わっていたのだ。
選んで来たのは恐らく『シナンジュ』、それもスラスターの稼働光を見た限り、大型スラスターを全て『ジン・ハイマニューバ』やミーティア系のコーンスラスターに取り替えるという完全なスクラッチビルドをしていたのだ。
「(多分馬力と瞬間加速力はあの子の方が上、なら)射撃戦はどう!!」
私はすぐにその場から離れてフェザーボムを大量に展開し発射する。ロストウィング同様にビット兵器としての性能を持つそれに相手はどう対処するか。
「そんなミサイル程度!!」
妹ちゃん……恵美ちゃんは腕に内蔵していたらしいスレイヤーウィップ……いや、先端に付いてるアンカーからしてエクステンション・アレスターか?それを展開すると、超高速で回転させてフェザーボムをガードする。まるでガンダムハンマーのような行動に頬をひきつらせながらも、これではっきりした。
(あの機体、昴先輩の作風を受け継いでるけど、戦術は接近戦を主体としてるのね)
恐らく射撃武装は両腕のドラウプニル四連装ビームバルカンと、シールドである多目的防盾に内蔵されたガトリング、そして胸部のC.I.W.S.と全部ばら蒔く系の射撃武装。
そこから考えると、どうやら高機動で相手に接近し戦うヒット&アウェイ型、フルパージ状態の昴先輩と同じようなスタイルなのは間違いない。
「だとしたら!!」
私はバスターライフルを通常ビーム程度に抑え、両手それぞれで構えて弾幕を貼る。当然相手はそれを持ち前の高速移動で回避していく。
「ッ、速すぎて粒子の動きが読めない!!」
プラフスキー粒子が見えると言っても、弱点がないということじゃない。相手の機体がそもそもプラフスキー粒子そのものを操ることができたり、機体の速度が余りにも速すぎると、見えて実際に動くまでのタイムラグがとても速くなりすぎて、知覚する暇がなくなるのだ。
「(けどここで見ないって選択肢を選んだらそれはそれで負ける!!だとしたら)望み通りの
どうせ当たらないと割りきってバスターライフルを捨ててビームサーベルを抜き、今出せる最大速度で相手に突っ込む。
それを見た恵美ちゃんは、そのスラスターを極限までに吹かして突撃してくる。互いの得物同士がぶつかり合い、高速で切り抜けメビウスの輪を宙に描く。
『漸くお姉さん、私と勝負してくれるね!!』
「は、射撃戦も立派な戦術よ!!」
『けど、お姉さんはどっちかといったら前で戦う方が好きなんでしょ』
恵美はテンペストをしまい、ドラウプニルからビームクローのような刃物を4本、両手だから8本の鍵爪を産み出すと、バレルロールのような動きをしながらぶつかってくる。
「そうね、相手の攻撃を紙一重で交わして切り裂く方が楽しいわね!!」
そう言いながらビームサイスをビームランス形態にして構えてぶつかり合う。長柄の刃を彼女は器用に打ち合わせ、たまに踏み込むような挙動で懐に飛び込もうとするのを柄頭を振るうことで追い払う。
『なら師匠との戦いって面白いよね!!』
「は、そりゃ同感!!」
エクステンション・アレスターを振り回して槍を絡め取ろうとするのをマシンキャノンで迎撃、お返しとばかりにフェザーボムを大量に展開して、それを彼女の周囲を囲む。
「弾けろ!!」
その一言、たった一言で大量のフェザーボムが爆発し、その衝撃が少し離れた場所にいた私にも伝わる。
やったか、そう思った瞬間まるで狙ったようにアラートが鳴り響き、彼女の機体が、爆発のダメージを受けて弱冠煤だらけの状態で私の機体に組みついてきた。
さらには展開したエクステンション・アレスターが、私と彼女の機体自身にぐるぐると巻き付き、二人揃って簀巻き状態になった。
「この!!」
すぐにほどこうとするけど、まるで動かない状況に嫌な予感が募る。しかも相手の機体の頭部が、私の機体の胸部に組み付いてることからして頬がひきつる。
『とぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!』
そして何を思ったのか、彼女は狙って縛らなかった自らの翼のスラスターを全開に吹かせ、ゆっくり、だが確実に加速しながら横に回転しながら移動していく。
「ちょ、目が!?」
ぐるぐると高速で回転していく景色に弱冠酔いかけながら何とかもがこうとするが、そんなことはお構いなしに回転し続け、頭からどこかに落ちていく。
「ちょ、まさか……うぷ!!」
至近距離で粒子が大量に動き回るという、さらに酔いが回るフルコースを受けても良くわかる、この動きで狙ってるもの、それは
『必殺!!流星落としぃ!!』
へリオポリスの外壁、それに超高速で回転しながらぶつけられた私のシフェルの頭部が嫌な音と共に弾け飛び、さらに貫通した外壁からさらに加速して地面に激突する。
「ぎゃぁぁぁぁ!?うっぷ!?」
ダメージが入らないC設定とはいえ、機体全体に罅が入るほどのダメージを受け、私のシフェルは完全に沈黙した。
と、同時に限界となった吐き気に私は思わず口許を手で抑え、その場から走り出す。目指すは化粧室、こんなところであんな不名誉な称号だけは貰いたくないと思いながら、酔って千鳥足になりながら無理矢理駆け抜けたのだった。