ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
どうも、津島善子ことヨハネです。昴先輩達と別れて梨子さんと一緒に何をしていたかというと
「やっぱり秋葉原の質は良いわね、ここまで良いものが揃うなんて!!」
「全くね善子ちゃん!!」
傍目から見たらただのショッピング、しかしその中身は異本といったちょっとこの場では言えないようなものばかりだ。
ちなみに現在の戦利品は異本が数十冊、オカルトグッズが数点、ちょっと言えないようなものが数品、しめて数万円のお買い上げだが、私も梨子さんもお家がちょっとしたお金持ちだからか、簡単に支払えるのだ。
「けど、まさか善子ちゃんがこっち方面にも詳しいとは思わなかったわ」
「ヨハネ!!……まぁこういうキャラやってると自然にというか……流れ的に詳しくなっちゃったっていうのが正しいわね」
初めてショップに入ったときは顔が紅くなってしまったけど、もう何度も来てれば慣れたもので、最近では色々と試したいものがあちらこちら……。
「あれ、もしかして梨子先輩ですか」
と、いきなり誰かが梨子さんに声をかけてきたので確認してみると、そこには青いツインテールのロリっ子が居て、しかも
「音ノ木坂の制服……」
そう、あのμ'sの母校、音ノ木坂学院の制服を着ていた。つまるところ、この人は梨子さんの知り合いってこと?
「あ、
「やっぱり、やっぱり梨子先輩でしたか!!お久しぶりです」
檎花と呼ばれた少女は、嬉しそうに跳ねる。
「えっと、梨子さん?」
「あ、ごめんね善子ちゃん。この子は」
「音ノ木坂学院1年生、織川檎花です。梨子先輩は中学の先輩でして、音ノ木坂でも先輩後輩になるはずだったんですが」
「なるほど、梨子が転校したからなくなった、と」
その通りです、とはしゃぐ少女に私は
「てことはアンタもガンプラバトルをするわけね」
「はい!!むしろ私は梨子さんの機体を動かしてテストする側だったので」
「中学の頃から妙になつかれちゃって、私はバトルにはあまり興味なかったから、機体のデモテストは彼女に頼んでたの」
確かに梨子さんがピュアビルダーだったって話は聞いてたから納得できる。納得できるが、
「もしかして明日の大会には」
「あー、昴さんや3代目メイジン、絵理先輩達が試合する大会ですか?残念ですけど、私達音ノ木坂は今回は呼ばれてないんです」
トホホ、と悲しむ彼女だったが、私としてはラッキーと思った。
しかし、今の言葉に違和感を覚える。
「ちょっと待って、なんで昴くんのことをそんなに親しげに?」
「あ、そういえば」
梨子さんの指摘通りだ。親しい人以外なら普通、昴先輩のことを『天ノ川プロ』とかもしくは二つ名か、少なくともどちらかで呼ぶはずだ。
一応世界ランカーとはいえ、あんまり評価の高くない昴先輩を、この子はまるで親しいようにさん付けで呼んでる、不自然しかない。
「あれ?梨子さん、昴さんのこと知ってたんですか」
「知ってたも何も、私が転校したのは昴君がいる学校だもの。しかも同じクラスで一緒にガンプラバトルしてるし」
「あー、なるほど」
檎花は納得したように頷き、
「私が直接知り合いというか、色々とあって知り合ったっていうのが理由なんです」
「いいから、さっさと言いなさいよ」
私が急かしてみると、彼女は
「昴さんは、入院してる私の妹の師匠なんです」
「「…………はぁ!?」」
その後、私は檎花の案内で彼女の妹が入院してる病院……西木野総合病院へとやって来た。
「ここが妹の病室です」
結構な高さの階まで上がってきた私達は、案内された病室に入った。
中はなんというか、無数のガンプラが所狭しと並べられていて、机にはキットの入ってる箱やペンチにピンバイス等が置かれている。
「恵美、元気にしてた」
「あ、お姉ちゃん……あれ?そっちのお姉ちゃんは?」
そこにいたのは小学生くらいだろうか、結構な広い部屋に一人でベットに座る少女……織川恵美が首を傾げて聞いてくる。
「昴さんのお友達だって、恵美に会いたいからって連れてきちゃった」
「昴さんの!!」
少女は驚いたように動こうとするが、その足はピクリとも動いていなかった。
「檎花ちゃん、恵美ちゃんは……」
「……二年前、交通事故で両脚が麻痺してまして……」
二年前、そして交通事故、その単語に何かが引っ掛かった。
「両親は無事だったんですが、恵美の座っていた座席の所に別の車が直撃して……今のところ、リハビリを頑張ってる状態です」
「……けど、だとしたらどうして昴くんと?」
「昴さんが一時期入院してたの、この病院の精神科だったんです」
なるほど、そういう繋がりだったのかと納得した。
「……檎花」
「……場所を移しましょう、ここでする話じゃないですし」
そう言って移動したのは、西木野総合病院のカフェテラス、外が見渡せる位置に陣取った私達は彼女の方に集中する。
「……前もって言っておきます、私がこの事を話したことは誰にも……昴さんにも黙っていてください」
「別にそれは良いわ、で、話してくれるわよね。どういう経緯で昴くんが彼女と、師匠と弟子なんて関係になったのか」
「分かりました」
その日は昴さんが入院して3ヶ月程、つまり世間からのバッシングがだいぶ薄れてきた頃でした。
昴さんは当時、誰の目から見ても痛々しくて、自分で歩く気力すら無かったんです。
その日も果南さん……昴さんの彼女さんが車椅子を押して中庭を散歩してたんです。
その時妹も中庭で車椅子を押されていて、もしかしてと昴さんに声を掛けたんです。
妹は昴さんのデビュー戦を直接会場で見てからのファンで、純粋に自分の好きなプロファイターと話ができる、みたいな感覚だったそうです。
けど昴さんは、自分はプロなんかじゃないって否定して、話しかけてくるなと追い返したそうです。
「千歌ちゃんたちも、その頃の昴くんは情緒不安定だって言ってたわね」
「トラウマを思い出して、その結果暴走して多数の被害を出してますからね、仕方ないと言えばその通りです」
けど、妹は諦めませんでした。毎日毎日、昴さんに声をかけ続けたんです。まだ低学年だったのに凄い粘って……一月ぐらいするとすっかり会話をできるくらいになってました。
内容はガンプラバトルやガンダムの話ばかりで、あのシーンは良かっただの、あのバトルは凄いだの言う昴さんの話を聞き続ける妹の姿を見て、どっちが年上なのか分からなくて笑いました。
それから暫くして、妹との会話があったおかげか昴さんはクリスマス前にはガンプラを作れるくらいにまで回復しました。
退院前日となって昴さんは妹に顔を見せに来ました。お前のお陰だぞって、偶々一緒に歩いていた私に妹の自慢をしてくれて、嬉しかったです。
けど、昴さんは言えませんでした。妹は……いえ、私達家族は
「父の姿を見て、昴さんはフラッシュバックしてしまったんです。あの日、あの世界大会の会場付近の事故で目撃したのは父だって」
「そんな……」
昴さんは自分の部屋に戻って悩みに悩んだそうです。仕方ないとはいえ、昴さんの黒歴史の発端となった家族へのやるせなさと、自分に親身になって話しかけてくれた妹への感謝の気持ちが板挟みになって、結局答えは見つからなくて、翌日になったんです。
昴さんは妹に会いに行きました。そして二人きりで話をしたそうです。そして昴さんは知りました。妹がもう立つこともできないかもしれないって。
だから昴さんは聞いたんです、妹に何かしたいことはあるのか、と。
「それで答えたのが、昴さんとガンプラバトルをしたい、ただその一言でした」
幸い病院のレクリエーションルームにはガンプラバトルの装置があったので、すぐに始めました。
こう言ってはなんですけど、プロの昴さんと比べるのも烏滸がましいほどに稚拙なバトルをする妹を、昴さんは出来る限りの力でボッコボコにしました。それはもう、初心者相手に容赦ない程のフルボッコでした。
妹はそれに悔しがってもう一回、もう一回と繰り返して……それでも全部負けました。
流石の妹も悔しくて泣きそうでした。けど、そのバトルで何を思ったのか、昴さんは
『しょうがないなから、また来週にでもバトルしに来るから、それまでにバトルの腕、磨いとけよ』
プロに復活してないので正式なものじゃないですが、事実上の弟子扱いでした。妹も最初は戸惑ってましたが、それを知った途端泣き出したました。悔し泣きから嬉し泣きです。
それからは時間をたまに作ってはガンプラをお土産に、バトルを一緒にやって、今では妹も昴さんにもたまに勝てるようになったんです。
そして、昴さんのプロ復活戦前日、昴さんは妹に正式な弟子として教えると言いました。妹もそれに頷いて、昴さんと面会時間ギリギリまでバトルし続けたそうです。