ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~   作:ドロイデン

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Extreme Burst その四

「……あの、なんで移動先がここなんでしょうか」

 

 ガンプラバトルということで俺達全員が移動してきたのは、『コウサカ』から歩いて五分のとある模型店だった。

 

 別にバトルするのに模型店に来るのは問題ない。けど、それがあの『イオリ模型』ならば話は別だ。

 

「む、いけないかい?」

 

「いや別にバトルするなら何処でもいいとは言いましたけど……はっきり言っていろんな意味で狭いです」

 

 物理的な意味と肩身的な意味で。ただでさえこじんまりとした模型店に高校生二人と大人五人も居ればすし詰めも良いところだ。

 

「なんで明日の会場にしなかったんです?あそこなら前日ですし準備や調整の名目で使えたでしょうに」

 

「残念ながら、その名目でニルス氏が調整中でね、なんでも今期ガンプライブでの重大発表があるらしい」

 

「……その内容については極秘なんです?」

 

「ふむ、残念ながらメイジンの私にすら教えてもらえなかったよ」

 

 肩をすくめて苦笑いを浮かべてるメイジン……結城さんに俺は嫌な顔を浮かべてしまう。

 

「……奥さんの方の発案だったりします?」

 

「それに関しては絶対にあり得ないとだけ伝えておこう」

 

「なら安心できますね」

 

 何せニルスさんの奥さんの方の企画発案ならどんな意見を押し通してくるか分かったものじゃない。

 

「さて、すまないね伊織くん。勝手にバトルフィールドを借りてしまって」

 

「いえ、何となく結城先輩が出るイベントの前日でしたし、調整に使うかなとは思ってましたから……予想よりだいぶ多いですけど」

 

 俺と同じ位の身長の青年……PPSE時代の世界大会最後の優勝ファイターである伊織星さんが、ガンプラを片付け観戦用のスペースを確保しながらそう呟く。

 

「手伝いますか?」

 

「大丈夫、これくらいは何時ものことだからね。それより機体の調整しなくていいの?この中で最初にやるんでしょ?」

 

「予備のマガジンとかの設定も終わってますし、朝に手入れもしてきたんで大丈夫です」

 

「なら僕に構わずフィールドにどうぞ。設定は明日のことも考えて制限時間は5分、ダメージはC判定で良いよね?」

 

 大丈夫です。そう伝えて俺はフィールドに入り懐から愛用のGPベースをセット、機体を台座に乗せる。

 

「よ、よろしくお願いします!!」

 

 相手の雪典も対峙するように機体を台座に乗せる。その機体を見た瞬間、俺は少し口笛を吹いた。

 

「へぇ、『M1』ベースか」

 

「は、はい。自分もSEED系量産機が好きなんで」

 

 M1……正式名称『M1アストレイ』。SEEDに置いてオーブという国の主力MSであり、ベースが『アストレイ・レッドフレーム』、OSをSEEDの主人公ことキラ・ヤマトが作ったことで、『ダガー』系列よりも操縦しやすく、ザフト系列以上に安定性がある、ガンプラバトル使用者もザク、ジム系統についでというレベルで多い良機体の一つだ。

 

 特に後継機である『ムラサメ』も、変形能力を抜きにすれば外見は『M1』とほぼ同じという面から見ても、その信頼性は確かなものだ。

 

 雪典の機体はそんな『M1』の中でも『シュライク装備』をベースにしてるのか、バックパックには改造した大型ブースターのようなものが折り畳まれ装備されている。

 

「見た目だけでも中々良く仕上がってるな……それに、刀装備か」

 

 ここまで見る限りかなりの高性能機体、流石は白翼の教え子というだけはある。

 

「さて、それじゃあ慣らしバトルと行こうか!!天ノ川昴、『ジン・AHM Mk.Ⅱ』!!出るぞ!!」

 

 バトルフィールドの展開と共に、俺は叫びながら出撃した。

 

 

 

 出撃したフィールドはヤキン・ドゥーエ……何の因果かガンダムSEED最終決戦のフィールドだった。

 

「あのアストレイは……」

 

 角を展開しレーダーを広げると、かなり高速で突撃してくる機体を発見した。しかも

 

「真っ正面からか!!」

 

 そう、まるで一直線に此方に向かって移動しており、数秒でモニターに相手が映る。

 

 展開されたシュライクユニット……というか、円盤フィンではなく『オオワシストライカー』と大型ブースターを取り付けたような背部ユニットに、うちのチームのビルダーを思い浮かべる。

 

「高速で接近してくるだけなら!!」

 

 俺はブースターを最大まで吹かし、こちらも相手に向かって突撃する。その最中に俺は腰からブレードを二つ、両手に構えバレルロールしながら奴の側面を取る。

 

「貰った!!」

 

 左手のブレードを降り下ろした直後、どんな反射神経してるのかという程の速さで奴は右腰の刀を抜き去ると、逆手持ちでそれを防いできた。

 

「(初撃を防いだか)ならこれはどうだ!!」

 

 今度は右手のブレードを下から掬い上げるように下段からの一撃。流石にこれは防ぐのは難しいと考えたのか、右腕のパワーだけで防いでいたブレードを押し返し、すぐにバックブーストで離れる。

 

「(直感もさることながら、技量も高い。セミプロ……いや、下位プロレベル相当の実力は有りやがる)だったらこれはどうだ!!」

 

 今度はビーム砲を展開、さらに弾数が多い重突撃銃を両手に構えてフルバーストの体勢を取る。

 

「ターゲットロック!!食らえ!!」

 

 相手そのものだけでなく、動くであろう辺りにも一斉射し退路を塞ぐ。が、その考えはすぐに崩れ去った。

 

 奴は一直線に此方へ突撃してきたのだ。それも外れるであろう弾は気にせず、直撃するものはその刀で弾いて防ぐという荒業で直進してきた。

 

「ち!!」

 

 当たらない弾丸を射っていても仕方ないと判断した俺は突撃銃とビーム砲をパージし、ブレードを構えて突撃する。

 

 一合二合とぶつかり合う剣戟に火花が飛び散り、すれ違う度に微かな刃傷をそれぞれの機体に付ける。

 

「……正直嘗めてた。幾らあの女神に師事してるとはいえ、そこまでの実力者じゃないってな」

 

 俺は一旦ブレードを下ろし奴へ通信でそう語る。

 

「……これでも、今年の世界大会に出るつもりなので」

 

 世界大会、なるほど確かにそれを宣言するだけの実力はあった。

 

 故に俺は嗤った。これほどの実力者が同年代に居る、それも互いに量産機ベースのプレイヤーで、尚且つこれ以上無い舞台で戦えることに胸が踊った。

 

「いいぜ、認めてやるよ狐糸辺雪典、お前は俺が本気で戦うに相応しい相手だってな」

 

「光栄です。けど、負けるつもりはありません。僕も、僕の『シュツルムアストレイ』も」

 

「なら、その疾風で追いつけるか試してみろ!!」

 

 そう吠えた俺はアシムレイトを発動させ、瞬間、機体と自分が一心同体となる感覚が肌を走る。

 

 そしてスラスターを全力全開で吹かし、ブレードへ粒子を纏わせる。

 

「ッ!?」

 

 直感で察したのか、奴もスピードを上げて肉薄するように接近して、その刀を下段から振り上げてくる。

 

 ぶつかった衝撃か、それとも叩きつけられた粒子が炸裂したのか、とてつもない轟音と共に爆発した互いの一撃で、再び互いの機体が距離を開ける。

 

「てぇりゃぁぁぁ!!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 それでも互いに機体を奔らせる。立場など関係ない、ただ目の前の強敵を倒したいという欲求だけが空間を支配する。

 

 故に互いに剣のみでぶつかり合う、射撃などもっての他、ただひたすらに、自らの剣だけで己の信念をぶつけ合う。

 

「切り裂け、『ジン・AHM』!!」

 

「貫け、『シュツルムアストレイ』!!」

 

 ただの一刀、ただ一振り、ただの一撃に今ある全ての熱量を込めて放たれた互いのそれは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Time Up』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――無情にも制限時間という壁に阻まれ閉幕となった。

 

「……」

 

 正直、その瞬間自分自身何が起こったのか分からなかった。なぜ、どうしてという疑問で何も分からなくなった。

 

 漸くそれに気づいた俺は、自分の発言がとてつもなく恨めしく思った。なぜ制限時間を5分にしてしまった、そもそもなぜ制限時間を許してしまったのか、と。

 

 同時にこれが調整練習だということを思いだし、自分がそこまで熱中して対戦していたのかと愕然ともした。

 

(……久しぶりだった)

 

 プロとなってから味わってなかった、自分自身の力を出し尽くした真剣勝負、それを出来たことが何よりも嬉しく、何よりも懐かしく感じた。

 

「おい」

 

「は、はい!!」

 

 俺は彼に向き直って声をかけると、彼は先程までの雰囲気が霧散して一気にひ弱そうな表情に変わった。

 

「……次は決着をつける」

 

「へ?」

 

「俺は今すげェ悔しい、ここまで本気で戦えた相手とちゃんと決着をつけれずに終わったこと。不完全燃焼極まりなくて苛々するくらいだ」

 

 だから、と俺は彼に指を指す。目には鋭い光を乗せ、オーラでも見えそうなほどの雰囲気を纏わせながら。

 

「世界大会、そこで決着をつけてやる。だから絶対に負けるな、俺以外の奴に負けるな。俺が本気で負かしてやるから」

 

「……はい!!けど、一つだけ訂正させてください」

 

 そう言うと彼は眼鏡を外し、俺と真っ向から対峙する。

 

「世界大会では自分が勝ちます。僕と、僕の『シュツルムアストレイ』で、貴方に!!」

 

「ハ、上等だ新兵(ルーキー)!!」

 

 奇しくも今まで居なかった終世の好敵手(ライバル)の登場に、俺はこいつだけには負けたくないという、確かな目標ができたのは言うまでもない。


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