ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
「……で、お前らその格好はなんだ?」
大会前日、駅にて俺は腕を組みながら阿呆三人を前にこめかみをヒクヒクと動かし半目で睨む。対する阿呆……千歌と花丸と津島の三人は暑いコンクリートの上に正座で項垂れている。
というのも千歌は何というか田舎感たっぷりとでもいうような、もう少しマトモな服があるだろというような格好。まぁこれは田舎者と思われて笑われるだけだから本人の自業自得だ。
問題は後の二人。花丸ちゃんは探検隊か何かかとでも言うような登山冒険ルック、津島は津島で完全に痛々しいメイクに奇抜な堕天使コスプレファッション。はっきり言おう、この二人とは一緒に同行したくないとはっきり言えるような服装だった。
「……初めての東京遠征に浮かれてました」
「……東京までは険しい山道だと思ってたずら」
「わ、私のアイデンティティーみたいなものよ!!文句……ありますよね、すいません」
「とにかく、さっさと着替えてこい馬鹿者どもが!!」
「「「は、はい!!」」」
ピューンという効果音が聞こえそうな速さで駆けていく三人に、俺はまったくとため息をついていた。
「すんまへんな昴はん、ワイが大型車持っとったら態々電車なんか使わんで良かったんやけど」
「仕方ないですよ。竹屋のワゴン車の中は細々とした荷物で埋まってるらしいですし、それに時間も有限ですからね」
「それならエエんですけど。ワイって必要あります?なんか前回前々回と台詞一つも貰えとりませんし」
だいぶ気にしてたのだろう、唯でさえ細い目をさらに細めて若干恨み節が入ってるコーチの言葉に俺は顔を背けた。
「そ、そういや、今回Aqoursが当たるチームってどこか分かります?」
「えっと……あぁ、どうやら多分皆さんフルボッコにされるん確定かもしれませんで?」
「どれどれ…………げ」
真央さんは取り出したパンフレットらしきものを確認し、見た内容にあんぐりとしてる。
俺もチラリと見てみると、そのトーナメントに書かれていた対戦相手の出身で何となく察した。それと同時に、ある意味運命なようなものを感じた。
(相手がここならアレは無さそうだが……逆に千歌達に取っては一番厳しい相手だろうな)
「……」
青い空を見上げながら、ルビィはつい数時間前の事を思い出していた。
「今日でしたわね、ルビィ」
「お姉ちゃん」
屋敷の玄関で立っていたお姉ちゃんはどこか浮かない表情だった。
「……お姉ちゃんは、やっぱりルビィが東京に行くのに反対?」
「……」
「お姉ちゃんは嫌なの?ルビィがAqoursに居ること」
「ルビィ」
お姉ちゃんはそう言うとルビィの肩に手を置いて
「ルビィは自分でAqoursに入ったのでしょ。でしたら私がどうのこうのとだとか、誰に何と思われようが関係ないですわ」
「お姉ちゃん……」
「大丈夫ですわ。貴女は私に1度勝った、それに周りには頼れる仲間や昴さんが居るんですから」
お姉ちゃんはそう言ってはいた。けども
「ただ、貴女も分かってるようですから言っておきます。気持ちだけは強く持っておきなさい。でなければ、呑み込まれますわよ」
(あの言葉の意味……)
「ついたな、東京」
電車と新幹線を乗り継いで一時間半、漸くたどり着いた秋葉原に俺を含めて全員が浮かれていた。
「さて、とりあえず東京ついた事やし、ここからは数人ごとに別行動と行くにしましょか」
「そうですね、俺もちょっと打ち合わせっていうか用事があるんで」
何せメイジン直々に指名されたうえに場所が場所だ。行かないわけにはいかない。
そんなこんなでチームを分けてみたのだが、何というか
「どうしたんだろ昴くん?」「大丈夫だよ千歌ちゃん……多分」(千歌・曜ペア
「えっと、よろしくね善子ちゃん?」「善子じゃない!!ヨハネ!!」(梨子・善子ペア
「どこにいく花丸ちゃん?」「ずら~ルビィちゃんに任せるずら」(ルビィ・花丸ペア
見事に二人ずつに別れた。ここまで行くと逆に清々しいくらいに。
「真央さんはどうするんです?」
「ワイも少し用事があるんで、一人で行動させて貰います」
「そうですか」
まぁ真央さんの事だから変なことはしないと思う。……多分。
「じゃあどうせだし夕方の五時に神田明神でな。各自問題は起こすなよ。特に千歌」
「えぇ!!酷い!!」
何時もの千歌弄りに全員が笑いつつ、俺達は各自別れることになった。
「ここか」
メイジンに指定された店を見て若干苦笑いになりながら、俺は躊躇わずにそのドアを開けた。
「いらっしゃいませ~!!って、昴くん!?」
元気な声でやって来たオレンジの髪のウェイトレスは俺の事を見ると驚いた。
「お久しぶりです。
ウェイトレス……もとい元ガンプライブファイター高坂穂乃果さんに挨拶すると、俺はカフェラテと軽食を頼みテーブル席に着く。
「久しぶりだな、昴」
と、つい最近二代目になったマスターこと、高坂悠真さんが声を掛けてきた。
「お久しぶりです。メイジン達は?」
「いや、まだだね。それにしても数ヵ月前と顔付きが変わったな」
「……まぁ、色々ありまして」
俺はポリポリと頬を描きながら苦笑いで答える。
「しかし、かの有名な二人が揃って一緒の店で働いてるのはどうかと思いますけど?」
「それを言うなら、世界中のファイターをここの常連にするのやめてもらうように手伝ってくれ。何せネットで、毎日誰かしらプロファイターが居る、なんて言われてるんだからさ」
「事実じゃないですか」
方やメイジン杯トップビルダー、方や二回目のガンプライブ優勝チームのリーダーという、これでもかという著名な二人が居て何を今更。
「そういえば、今年こそは音ノ木坂の教員採用試験受かると良いですね穂乃果さん」
「むぅ、なんで私のこと知ってる人はそればかりで弄ってくるかな~!!」
「いやだって、前回で何度目です?受けるの?」
「……五回目だけどさ」
罰が悪そうに答える穂乃果さんだが、これでもちゃんと大学まで通い、多分音ノ木坂以外なら速攻で採用できるぐらいまでちゃんと勉強してるのだから凄い。ちなみに担当教化は現国と地理らしい。
「もう諦めて別の教員採用試験を受けたらどうです?μ'sのリーダーですし、いろんな意味で引く手あまたじゃないんですか?」
「μ'sのリーダーだからだよ」
穂乃果さんは真剣な表情で此方をみる。
「今の私はμ'sの高坂穂乃果じゃなくて、
「……ホント、何度聞いてもブレないですね」
逆にここまで清々しく言えるとなると尊敬にも値できる。
「まったく、そんなこと言ってるから実家追い出されるんでしょ」
「ギクッ!!え、絵理ちゃん……」
と、どうやら到着したらしい待ち人の一人……またもやμ'sの綾瀬絵理さんが呆れるように穂乃果さんに小言を添える。
「亜里沙を通じて雪穂ちゃんから聞いてるんだから、ついでに今日会うこと言ったらちゃんと定職に着けって言っといてって伝言預かってるし」
「ア、アハハ……すみません」
「フフフ、相変わらずね穂乃果さんに絵理さん」
さらに登場した綺羅ツバサの台詞に、辺りが穏やかな表情で溢れる。
「さて、あとは呼び出したメイジンだけね」
「……済まない、用事が立て込んでいた」
絵理さんが確認した直後、狙ったように来店するメイジン……もとい今は私服だから結城達也さん。
「しかし、悠真さんには悪いけどこんなところでガンプラバトル界の著名人大集合ってどういうことよ」
何せ世界的に有名なメイジンとツバサさん、そして前線から退いたもののけそれでも有名すぎるμ'sの二人、アーティスティックガンプラビルダーの悠真さん、各言う自分も良くも悪くも有名なのだが。
「なに、それだけ信頼があると言う証拠でもあるさ。なんなら丁度帰国してる伊織くんも呼んで良いぐらいだ」
「俺が堪えられないんでやめてください」
「冗談だ」
まったく冗談に聞こえない結城さんの冗談に苦笑していると、ふと覚えのない視線に横を振り向く。
「……」ジィ……
「うぉ!?」
いつの間にか隣でガン見してる同い年ぐらいの男子に俺は驚いて飛び退く。黒髪に眼鏡、だいぶ童顔な彼はというと、
「ほ、本物の『灰光の流星』!!」
なんか涙流して感動していた。え、どういうこと?
「つか誰!?」
「あぁ、その子はうちのチームのマネージャーよ」
絵理さんのその言葉に俺はえ?と2度見した。確か絵理さんのところって、
「まさか情報戦でもしようって?」
「いえ、単純にその子が貴方のファンだから連れてきただけよ」
にべもなく言われた言葉にずっこけたものの、とりあえずそういうことじゃないというのは分かった。
「えっと、名前は?」
「は!!すみません!!僕は
自己紹介で頭を下げた瞬間、座っていたということを忘れていたのか額を思いっきりぶつけていた。大丈夫かこいつ。
「いい機会だし昴くん。ちょっとこの子と対戦してもらっても良いかしら?」
「待ってください絵理さん!?そんなことしたら機体の情報アドバンテージ無くなるじゃないです!!」
むしろこっちの対策されそうで怖いんだが。この三人にメタ張られたらそれこそ千歌にネームドモブなんて言われかねん。
「それは安心しても良いわよ。私もこのあと穂乃果に練習付き合って貰うから、そこで情報を盗んでくれても」
「絵理さん、その次私もお願いします」
「アハハ……今の私で何とかできるかな……」
絵理さんとツバサさんという二強に対戦相手されることが確定となった穂乃果さんはタジタジの表情だが、寧ろそれを楽しんでるようにも見えた。
「ふむ、なら私は悠真君、君に頼みたいが構わないかな?少し慣らしをしたくてね」
「ええ、つい最近作った新型の試しをしたかったのでありがたいです」
此方は此方で慣らし運転という名のファイトをするらしい結城さんに、悠真さんが乗っていた。
「アハハ……マジですか」
「本気と書いてマジよ」
もうどうにでもなれ、そんな事を思いながら俺はすっかり冷めたカフェラテを啜るのだった。