ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~   作:ドロイデン

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Extreme Burst その一

 あの謎の男との対決から一夜明け、俺は部室のノートパソコンにてとある画面を睨み付けていた。

 

「あれ?どうしたの昴?」

 

「曜か……いや、これだよ」

 

 そういって友人であり従姉である彼女に画面を見せる。そこには世界大会地区予選のサイトが書かれていた。

 

「地区予選のサイト?これがどうしたの?」

 

「どうしたっていうか……ちょっとな」

 

 尻窄みになる言葉に疑問を覚えたのか、曜は首を傾げてくる。

 

「でも昴はプロだし出場するんでしょ?エントリーシートだってもう出したみたいだし」

 

「あぁ……そうなんだがな」

 

 俺が唸ってるのはプロとか以前に、とある約束を知人としてしまったせいというか。

 

「……まぁ、なんとかなるか」

 

 あの二人の関係が今すぐにどうこうなるわけでもなし、暫くは棚上げしておくことに決めた。

 

「……で、千歌達アイツらは何処にいった?」

 

「千歌ちゃんは梨子ちゃんにプラモ作りの指導中。一年生三人は花丸ちゃんの機体の候補探しに真央さんと出掛けてるよ」

 

「なるほどな」

 

 目下の課題である二人……地道に練習あるのみな千歌は兎も角、花丸ちゃんの場合は死活問題になりかねない。

 

 何せスモーのキメラ機体じゃ、国木田流の技術を余すことなく使えるわけがない。寧ろ足枷になる可能性もある。

 

「昴君ならどんな機体を選んであげるの?」

 

「俺か?そうだな……それこそストライク系列かインパルスなんだが、千歌と駄々被りだからな」

 

 何せストライカーパックを換装するだけで様々なフィールドに対応できるし。

 

「そうでなきゃ『リベイクフルシティ』とかか?」

 

「『フルシティ』って、あのゴツそうなアレ?」

 

「あの機体にビームマシンガンとかの連射武器持たせてみろ?フルバーストされたら大抵詰むわ」

 

 しかも実弾射撃もある程度耐えられる、ビームは無効、近接武器にもビームの刃を展開できるようにしたら多分俺じゃ勝てない。果南でも苦戦は免れない。

 

「それは……うん、無理かも」

 

「まぁ惜しむらくは機動性が低いことだな。あんなガチムチ機体で機動性まで良かったらそれこそ手に終えん」

 

「アンタは私の幼馴染みに何をさせるつもりよ!!」

 

 と、どうやらショップから戻ってきたのだろう津島のハリセン一発を頭に受けた。

 

「イテテ……態々戻ってきたのかよ」

 

「ご挨拶ね、まぁ私は家に戻るつもりだったんだけど……ずら丸が一緒に作れってうるさくて」

 

「でも善子ちゃん、花丸ちゃんに頼まれて照れてたよね?」

 

「ルビィ!?」

 

 俺の弟子にバラされて恥ずかしいのか、ギャーギャー言いながら追いかけっこを開始する。

 

「二人とも、部室で走り回ったらダメずらよ」

 

「グヌヌ……それよりもさっさと機体作るんだから、準備しなさいよね!!」

 

 はいずら、とそう言って持っていた大きめのビニール袋から花丸ちゃんは買ってきたのだろうキットを取り出す。

 

「へぇ、『アルケイン』か。珍しいのを買ってきたな」

 

 『アルケイン』……正式名称『G-アルケイン』。Gレコのヒロイン機体であり、初期の方に出してしまったせいで不遇になってしまったキットでもある。

 

「どういうこと昴?」

 

「簡単にいうと、『フルドレス』パッケージが入ってないんだよ。アニメ見れば分かるが、フルドレス無しのアルケインの武器はスナイパーライフルとビームサーベルぐらいなんだ」

 

 だからか、フルドレスは完全にスクラッチビルドするしかないため、中々に良い機体とは言えないのが実情だ。 

 

「けど善子ちゃんが、まるにはこれが良いって」

 

「へぇ、てことはフルドレスは善子が担当か」

 

「そんなわけ無いでしょ。それじゃカスタマイズ機体にならないじゃない」

 

 呆れるように言う善子の言葉に全員が首をかしげる。

 

「ならどうするんだ?言っちゃ悪いがそれ以外でアルケインを使う理由が見つからないんだが?」

 

「勿論だけど、ずら丸の機体(アルケイン)のバックパックは私が作るけど、フルドレスなんかよりももっとずら丸の力を生かせる機体に仕上げるのよ」

 

「……よく分からんが、それは強いのか?」

 

「普通の人間が使ったら弱い、けどずら丸が使うからこそ真価を発揮する武装。それじゃいけない?」

 

 詰まるところ文字通り花丸専用機にするつもりか。けど、

 

「……それ来週の東京遠征に間に合うのか」

 

「無理ね。幾らヨハネたる私……いえ、先輩とコーチと梨子先輩に手伝ってもらって頑張っても難しいわ」

 

「いったいどんな武装を作るつもりだお前は!?」

 

 少なくともここにいる中でトップクラスビルダー三人の手を借りても間に合わないってどういうことだよ。

 

「勘違いしないで欲しいけど、普通に武装を作るだけじゃダメなのよ」

 

「……つまり面倒なのはシステム回りってことか?」

 

「そ、変形システムとの兼ね合いもあるし、何より取り回し、ずら丸が扱い安いかの確認、出力と使用粒子量の調整とかで少なくとも10日は掛かるわ」

 

 そこまで言われて納得した。確かに俺、桜内さんの二人は機体のビルダーとしてはトップクラスだが、システムエンジニアとなると難しいと言わざるを得ない。

 

 真央さんなら多分できるが、花丸ちゃんに最適化すると言う作業については、幼馴染みである津島善子以外には難しいのかもしれない。

 

「だから完成するまでずら丸には今ある『スモッグ』を可能な限りリメイクビルドした奴で出てもらうしかない。わかった?」

 

「……花丸ちゃんはそれでいいのか?」

 

「ビルダーとしての善子ちゃんに心配はないずら」

 

 笑顔で応える後輩を見て、俺は思うところがあるにしろ、とりあえず一つため息をつく。

 

「分かった。ただし、当日は五人で参加。津島はメンバーから外す」

 

「ずら!?どうしてずら!?外すならマルのほうが」

 

「津島は全国大会優勝者だ、だから全国レベルを1度体験してる。態々慣らしをさせる必要性はない」

 

 今回の参加の目的は自分達の実力を知ること。だとすれば必然的に出なきゃいけないのは津島を除いた五人。

 

「それに津島の知名度は学生ガンプラファイターとしてはそれなりに高い。態々相手に注目される必要はない」

 

「つまり、手札を隠すってこと?」

 

「言いようによってはそうだ。だから津島、お前は当日俺と一緒に行動だ。下手に勘繰られると、地区予選でAqoursの不利になる」

 

 今のAqoursに必要なのは可能な限り情報を隠すこと。幸いにして津島はまだAqoursのチームメンバーとしてショップ大会等の公式大会に出場したことはない。

 

 地区予選にはメンバーとして書かなくてはいけないから仕方ないにしても、早いうちにチームメンバーとバレて対策を取られるのが一番不味い。

 

「……それはダメだよ昴くん」

 

 と、どうやら途中から聞いていたのだろう。部室の入口から千歌が真剣な表情で抗議してきた。

 

「昴くん、私達は今7人でAqoursなんだよ?今回昴くんは立場があるからしょうがないけど、それでも誰かを外すなんてそんなこと」

 

「だからお前はバカ千歌なんだよ。メンバーを大切にするのは当たり前だが、試合の時はメンバーは少ない方に優遇される。その時は必ず誰かを犠牲にしなきゃならなくなる。遅いか早いか、ただそれだけだ」

 

「でも!!」

 

「いい加減にしろ千歌!!」

 

 机を殴りながら、俺は今までにないほどの形相をして千歌を睨む。

 

「μ'sに憧れて、ガンプライブ優勝すれば廃校が無くなると思ってるようなら今すぐ言ってやる、そんな単純な世の中じゃねぇんだよ!!確かにμ'sという前例はあった、が、それは言わばただ単に()()()()()()()()()()()()()!!現に似たような状況でガンプライブに出場したところで事態が好転した所なんて数が少ないんだよ!!」

 

 μ'sの活動拠点は東京……引いては秋葉原だ。山手線が通っていてかつ交通網が広い、そしてかの『A-RISE』の綺羅ツバサが、第一回で棄権した関わらず脅威と認めるほどの実力があったからこそ、そしてμ'sというチームに対する憧れがあったからこそできた事だ。

 

「あの鞠莉ですら期限を伸ばす事しかできないことをお前らがやってのける?はっきり言ってやる。それは無謀な高望みだ!!」

 

「でも!!μ'sにできたなら私達にだって!!」

 

「憧れてるだけのお前じゃ絶対に無理だ!!」

 

「二人とも落ち着いて!!」

 

 今にも一触即発な雰囲気に回りが慌てて止めに入り、俺はイライラしながらも振り返り、自分の鞄を手に取る。

 

「お前ができると思うのは勝手だ。けど、現実はそうじゃねえんだよ」

 

「昴くん……」

 

「俺に認めて欲しかったら、まぁお前らじゃ無理だろうが果南を説得してチームに入れてみせろ。話しはそれからだ」

 

 俺はそれだけ言うと部屋から出ていく。知ってるが言えないもどかしさを抱えながら。


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