ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
「ぐ……!!いい加減に落ちるずら善子ちゃん!!」
『私はヨハネよ!!それに落ちるのは貴女の方よ!!』
まるはビームサイズ、善子ちゃんはビームソードをそれぞれぶつけ合いながらこのデブリの中を縦横無尽に駆け巡る。
もう既に互いの射撃武器は使用不能または弾切れで、使えるのは今持ってるそれぞれの刃だけ。
「ッ!!」
ビームサイズの一閃とビームソードの一撃がぶつかり合い、激しいスパークがデブリの中で輝く。
「……やっぱり善子ちゃんは強いずら」
全国優勝クラスの実力者の善子ちゃんからすれば、趣味レベルのまるじゃお話にならないのは分かってる。幾ら動きを模倣できても、それは変わらない。
それでもまるが善戦できてるのは、昔から善子ちゃんのバトルを見てきたからこそ。そうじゃなくちゃまるの実力で善子ちゃんと正面から戦うなんて無理ずら。
「(……記憶を封じてても、やっぱり善子ちゃんの癖は出てくるずらね)」
接近戦を挑んでくるとき、必ず善子ちゃんは繋ぎに格闘技……というより
だからこそ、それを仕掛けてきたときこそ唯一のチャンス。それを逃すわけには――
『いい加減、しつこい!!』
「ッ……!?」
流石の長時間戦闘に痺れを切らしたのか、今までのヨハネらしくない激情的に、ビームソードを投げつけてきた。
慌ててビームサイスで弾くが、それと同時にビームサイスのエネルギーも尽きてしまった。が、それよりも
(今の言葉……まるで善子ちゃんそのものだったような)
ヨハネらしくない……というより寧ろ今までの方が演技のような感じすらするその違和感が、直感的にまるへある答えを導いた。
(もし、もしそうなんだとしたら……)
改めて考えてみれば、そう考えなければ辻褄が合わないほどに綺麗に繋がったそれは、確信が詰まる所この事件の核心だということに気がついた。
「……いい加減にするのはそっちずら善子ちゃん」
『……どういう意味かしら?』
あくまでしらばっくれるつもりの善子ちゃんに、まるはコンソールを強く握った。
「……善子ちゃん、ホントは
『…………』
「最初から少し疑問だったずら、なんで人格を上書きしておいて、バトルをすれば解除されるのか……下手な小説でも人格を上書きすればよっぽどの事がない限り戻ることはないずら」
図書館の主みたいに毎日こもって読んで得た知識をフルに回転しながら、私は目の前の親友に言葉を投げ掛ける。
「それに幾ら善子ちゃんの体だからって、人格を上書きしたのに
とある少女漫画のヒロインは記憶喪失という状態でありながら、記憶を失う前と後とでどちらも演技……つまり役者をしていた。だが、演技には素人であるヒロインの彼氏から見ても、前と後で演技には若干のズレがあったという。
状況は多少違うが人格を上書きしたなら、それと同じように若干のズレがあるはず。それがないというのはまずあり得ない。
「なら答えは一つ。善子ちゃんは人格を上書きしていない、そして善子ちゃん自身の意思でナインバルトさんと行動してる、違うずら?」
『……ハァ、やっぱり付き合いの長いアンタにはバレたみたいね』
ため息混じりの善子ちゃんのそれが正しく答えだといわんばかりだったずら。
『アンタの言う通りよずら丸、受けたのは催眠療法擬きだし、私は私の意思で彼と一緒にいた。予想してるかもしれないけど、私はこの部屋の中で乱暴もされてないし、寧ろ家事をしていたわ』
「……ならどうして善子ちゃんのGPベースが家にあったずら?悪いことをしてないならおじさんに話しても」
『あんな堅苦しくて寂しい家に帰るのが嫌になった、それだけよ』
素っ気なく言うが、それがやせ我慢であることはまるにはすぐに分かった。
「……なんで嫌ずら?」
『帰っても誰もいない、良い成績取っても誉めてもらえない、せっかく作ってあげた料理が少しも手についてない、なのに私の趣味にはあれこれ口出しするし、何より折角あっちから推薦をくれたガンプラ学園のそれを握りつぶした。しかも母親に関しては秘書と一緒にラブホで優雅にデートしてた。
これだけ言って、嫌いにならない理由が見つかる?』
「それは……」
正直言うと、まるでもそれはドン引きする。ネグレクト一歩手前だったんだろうなとは思っていたけど、手前どころか思いっきり地雷原でタップダンスずら。流石にこれは擁護するのは厳しい。
「け、けどおじさん達が善子ちゃんを心配してるのは今回の件で分かったはずずら!!」
『心配してるのは私じゃなくて自分に対する世間体よ。知ってる?誘拐された人間ってね、約3日で生存率3割。なのに一週間も経って漸くノコノコと現れて何様のつもりよ』
にべもない一蹴だった。ホントにどうすれば説得できるのかまるにはさっぱり分からないずら。
『それに私は誰かに必要とされればそれで良いの。必要としてくれるなら世間体だろうが肉体だろうが……
「……そんなことさせるわけにはいかないずら」
まるはコンソールを動かし、壊れかけて邪魔になった背中の翼をパージした。
『……なんのつもり?』
「どうしても聞かないから、殴ってでも連れて帰るずら」
『ふーん?
善子ちゃんも邪魔になった背中の羽をパージし、両腕でファイティングポーズを取る。
『言っておくけど、手加減なんか全くしないわよ』
「善子ちゃんは手加減されるのもするのも嫌いだからね」
『は、言ってなさいよね!!』
スラスターを全力で吹かせ、振り上げた右の拳が一気にまるの機体へと叩きつけられる。改造機とはいえ短い時間で作った模倣機体で受ける衝撃は計り知れなく、受けた左肩に微かな異常が現れる。
「その程度!!」
『甘いわよ!!ずら丸!!』
けどまるはそれを無視して右フックをその顔面に叩きつける。が、それを予期していた善子ちゃんは左手で受けとめると、右膝で胸部に蹴りつけてくる。
「ぐっ……まだまだずら!!」
掴まれてる右前腕をパージし、蹴りつけてきた膝を左腕で掴むと、力の限りでそれを捻り、破壊する。途端、その膝は爆発し善子ちゃんの機体が少し後方へ下がった。
『く、やってくれるじゃない』
「これでお得意の間接技は封じたずら」
宇宙空間だから足がなくても直立できないことはないけど、それでも蹴り技を封じる事はできた。
『は、まだ腕が二本もあるのよ、それだけあればあんたの機体をへし折る事なんて簡単なんだから!!』
「そう簡単に行くとは思わないずらよ!!」
再び互いに接近し、殴りあい、蹴りあいを繰り返す。互いの機体がボロボロになりながらも拳蹴乱舞は続く。
が、それでもやっぱり機体の粒子エネルギーはもう殆ど枯渇していて、一分と経たずに互いの機体は警告音をならし始める。
「……次の一撃で全てを決めるずら、善子ちゃん」
『ふん、やってみなさいよ!!』
そう言って善子ちゃんは右腕を振り上げ、飛びかかるように殴りかかり、
「……国木田流……必殺!!」
私は唯一、模倣したパーツとは違う掌を開き、残ったエネルギーの大部分を一点に集中する。
『な!?アンタまさか!?』
慌てて回避しようと善子ちゃんは慌てるが、それはすでに遅いずら。
「これを食らって、頭冷やすずら!!Iフィールドバンカー……ナックル!!」
極限にまで圧縮したそれを、スラスターを吹かせてコックピットブロックへと叩きつける。途端、それは激しい衝撃波を産み出し、お互いの機体を飲み込むほどの爆発が引き起こされるのだったずら。
「……なんでよ」
バトルが終わった直後、善子ちゃんはポツリと呟いた。
「どうして今ごろになって……いつも私のことを避けてた皆が、なんで今になって近寄ってくるのよ……ワケわかんないわよ」
「善子ちゃん」
「私は……私はただ誉められたかっただけなのに!!パパとママから凄いねって言われたかっただけなのに!!周りからどう思われようと、嫌われても、ただ一言でも誉められたかっただけなのに!!どうして!!」
まるで怨嗟の言葉のように吐き出されるそれは、重々しく、親友だったはずのまるですらなにも呟くことはできなかった。
「善子……」
けどおじさんはゆっくりと善子ちゃんに近づいた。まるで懺悔するかのように、ゆっくりとした歩みで。
「私は……俺はお前のことを分かってやれてなかった。なんでもできる娘だと思って、その事に甘えていたのかもしれない」
「いまさら……!!」
善子ちゃんは逃げようとするが、それよりも早く、おじさんはその体を抱き締め、不器用に髪を撫ぜた。
「悪かった……お前のことを、ちゃんと見てやれなくて……すまなかったな」
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
闇に堕ちた天使の慟哭が響く。けどそれは怨嗟や悲哀の感情はなく、ただただ無垢な叫びとして狭い室内を木霊した。
鞠莉視点
「終わったみたいね」
「……どうやらそのようだな」
腕に手錠を嵌めた男は隣で清々しく笑った。警察に引き渡されパトカーに乗る前の少しの時間で、彼と少しだけ話したいことがあったからだ。
「良かったわね、これで名目上はあなたの思い通り……少し違うけど、まさしく
「……」
「彼女という人質をとったように振る舞い、正義の側な私達に倒されることで彼女の闇を救う、どこからどこまで計算していたの?」
私の言葉に、彼は少し苦笑するだけで何も話さない。
「……ゼロ・レクイエムとやらが何かは知らないが、犯罪者の私が善人だとでも?だとしたらとんだ笑い話だな」
「世の中には正義のためと信じて自分を必要悪にできる人間も居る。
「それ以上は必要ないさ」
彼はそう言うと私を軽く睨む。
「世の中には知らなくていい事も少なからず存在する。君もわからないわけではあるまい?」
「……そうね、なら1つだけ聞かせて?もし仮に私がガンプラバトル部のコーチをしてって言ったら、あなたはどう答える?」
そうだな、と彼はまず呟いた。
「……あの灰色の流星と一緒に練習をしてるようなチームだ、もし鍛え上げれば少なくとも上位に組み込めるだろうが、私はそれを引き受けるつもりはない」
「……理由は?」
「単純さ、そのチームには遠からず彼女が仲間入りする。誘拐した人間とされた人間が同じチームに居るわけにはいかないし、なにより、私はもうガンプラバトルに関わるつもりはない」
それだけ言うと彼は警察のもとへ自ら歩み、ちょうど来たパトカーに入れられたのだった。