ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
雪原の只中、目の前で相対する幼馴染みであり魔神をカメラ越しに睨みながら、私はとりあえず一息つく
「とりあえずここまで来れば被害は無い、かな」
何せあっちではルビィちゃんとダイヤさんが真っ向からぶつかり合ってるし、下手したらファングを誤射されかねないし。
『でも曜は曜で、私と一対一しなきゃだよ?』
目の前の白亜と蒼に彩られた機体の操縦者……果南ちゃんの言葉に私はアハハと、力なく笑う。
「まぁダイヤさんと戦うのは厳しいかなって思ってたからね、接近戦じゃあんまり決定打は打てないし」
『そりゃ曜のクロスボーン……というよりムラマサブラスターは基本的に解放しなきゃ実体剣だからね、PS装甲があるって予測たてられるだけマシだよ』
まぁそれだけじゃなくて、射撃面もそこまで高威力って訳でもないし、この機体は万能型だから特化してる部分がない。
「まぁでも……果南ちゃんの足止めくらいはできるかなっては思ってるけどね」
『へぇ、中々言うね。私、これでも結構強いよ?』
「そんなの昔から知ってるよ」
そう、多分今の果南ちゃんと相手をできるのは私達Aqoursには多分居ない。辛うじてルビィちゃんが着いていける程度で、それでも勝てるかは微妙だろう。だからこそ――
「……何かを得るためには、何かを犠牲にしなきゃだよね」
『曜?』
それだけ言うと一旦通信を切る。ここから先は本当に賭けだ。多分機体が砕けるだけで済めば儲けものだろう。
それでも、この機体の全てを出しても勝てるかは分からない。でも、ここで逃げてちゃダメなんだよ。そうだよね……千歌ちゃん。
「システムリミッター解除、コード入力……
その瞬間、機体の目が突如として紅く輝き、さらに背中に装備していたヴェスパーの砲身が真っ二つに分かれ、紅い炎を纏った翼へと変形する。
「行くよ果南ちゃん……今の私の全力で、果南ちゃんを倒して見せる!!」
果南side
「何……あれ?」
目の前の幼馴染みの機体が突然姿を変えた事に驚いた私は、そんな言葉を出してしまった。
さっきまでの姿はどこからどう見ても『X3』に『F91』を足しただけの変鉄もない機体だった。
それがどうしてか、『X3』という外見は変わらない筈なのに目が毒々しいほど紅く、さらに砲身だったそれは二枚一対の機械翼へと変貌して、さらに炎のように燃えていた。
「曜……アンタいったい何を」
『――今ここで勝つためならなんでもやるよ……それが
その言葉だけで悟った。何を使ってるかは分からない。けど、直感的に感じた……アレは使ってはいけない力だと。
そして次の瞬間、さっきまで移動してたスピードをあきらかに上回る早さで両手に持ったその剣を此方に振り下ろしにきた。
「ッ!!」
あまりの早さに回避は無理だと感じ、すぐに右腕のシールドでそれを防ぐ。途端、まるで剣を受けた瞬間にそこが爆発したかのような感覚に私は目を見開いた。
(幾ら曜の手先が器用で、作り込まれてるとしてもこの威力はおかしすぎる!!)
すぐに私も剣を抜いて、今度は此方から斬りかかる。だが、それを曜は少ないステップだけで避け、弾いてきた。
(技量までさっきまで見た試合とは別物……)
たった数試合、曜の対戦動画を見た感じではまだまだ操作に未熟な荒さがあった。だというのにどうしたというべきか、まるで行動の先を読んでるかのような……。
(……先読み?)
そこで一瞬思考が硬直し、できた隙を曜の脚蹴りによって吹き飛ばされる。
「ぐ……」
危なかった。もし今の攻撃で剣を突き立てられてたら間違いなく終わってた。
『どう果南ちゃん……これが私の力だよ』
通信越しに余裕そうな声を掛けてくる曜だったが……その映像に映し出されてた姿はどういうわけか額に珠のような汗を流し、息も絶え絶えのようだった。
「――そっか、そういうことか」
『……果南ちゃん?』
その姿を見て漸く確信できた。曜が何をしてるのかを
「曜……アンタその力、今すぐに解除した方がいいよ」
『……何言ってるの?果南ちゃんに勝つためだよ?解除するわけないじゃん』
「……それを使ってると、最悪二度とガンプラバトルができなくなるかもしれないって言っても?」
『え?』
突然の事で困惑してるのだろう。曜は一瞬呆けるがそれでもまだその目は変わらない。
『果南ちゃんがそんな笑えない冗談言うなんて珍しいね』
「冗談じゃないよ。もう一度だけ言うよ、その機体に『EXAM』系列のシステムを今すぐに解除した方がいい」
『……EXAM?』
……どうやら曜はそこまでは知らないようだ。
「『EXAM』っていうのは宇宙世紀初期に使われていた特殊システム、ニュータイプを殺すためだけに作られたそのシステムは、機体自体が意思を持つように動いて、ごく一部のパイロットを除いて搭乗者を殺すほどの性能を生み出す」
もっともガンプラバトルではそんなことでは死にはしない。とある条件が絡まなければの話だが。
『……それとこれと、私が『HADES』を解除しなきゃいけない理由にはならないよね。ガンプラバトルで死ぬことなんてあり得ないんだし』
「HADES……確かに普通ならあり得ない。けどね、ある条件を満たした場合だけ、それが起きてしまうことがあるんだよ」
そう、昴があのニルス・ニールセンですら、それによふ干渉を直すことは不可能とさえ言っていたもの。
「
本来アシムレイトは操縦者とガンプラを文字通り手足のように動かすことができる資質だ。主に先天性の物と、武道によって会得する後天性の二つがあるが、それとEXAMを組み合わせたらどうなるか。
答えは神経障害、普通のアシムレイトでさえダメージを受ければ失神さえしかねないのに、EXAMなどで強制的に、自分の意思とは関係なく動くのだから、神経回路がズタズタになるのは目に見えてる。
事実、昴曰く数年前にそれをやったファイターが両腕に麻痺が残り、二度とガンプラバトルができなくなったと言う話を聞いたことがある。
「悪いことは言わない、今すぐに……!?」
解除しろ、そう言おうとした次の瞬間、不意をつくように曜の剣からビームの弾丸が飛んできた。
『うるさい……』
「曜……」
『うるさいうるさい!!強くて昴とタッグを組むような果南ちゃんには、弱い私の気持ちなんて分からないでしょ!!』
叫びながら斬りかかってくるその姿は、まるで怨嗟にでも呑まれたようなプレッシャーを感じた。
「弱いって、アンタそれ本気で……」
『事実でしょ!!私は昴や果南ちゃんどころか、一緒に始めた千歌ちゃんよりも弱いんだよ!!』
何を、と言おうとした瞬間に、曜の口からそれが漏れでた。
『昴はプロとして戦えるほど強くて、果南ちゃんやダイヤさんもそれと同じくらい強い。梨子ちゃんはメイジン杯クラスのビルダーだし、ルビィちゃんも昴に勝てるぐらいには強いって言ってた。千歌ちゃんはなんでもそつなくこなせるし、接近戦じゃ私よりも上……私の回りに居る人はどこか私よりも上手い』
「……」
『なら私が他の皆より優れてるのは……ただ手先が器用なだけで、後は全部器用貧乏、上手くもないし下手でもない……なんにも……私には何もないんだよ!!』
それは曜の闇と言うべきものだった。確かにメンバーを見てみても曜には突出した能力は何もない。似たような千歌はどこか皆を引っ張れるカリスマ性があるというのにだ。
そしてあの梨子さんの参入、それが曜をさらに闇へと追いやった。同じチームで指揮やビルドができる人間が居るということは、自然と千歌もそっちと仲が良くなる。
さらに追い討ちを掛けるように一年生……昴の愛弟子ルビィの加入だ。公式レギュレーションでも使われる三人体制の試合ですら、恐らく曜は出れなくなる、そう思ったのだろう。
(言ってることが事実だけに、否定できないんだよね)
もしこれが大会とかじゃなくて普通の対戦ならこうは成らなかった……いや、多分大会だからこその暴走と見るべきか。
『弱い人が勝つためには、何かを犠牲にしなきゃいけないんだよ!!』
「ッ!!そんな事ない!!」
『あるんだよ!!もとから強い果南ちゃんには分からないんだよ!!』
さらに剣の振る速度が上がってくる。ここまでくると一太刀が全て鬼門、選択を謝ればそれこそ取り返しのつかなくなる。
(アレを使えば……でも曜に言った手前使うわけには)
『はぁ……はぁ……!!いい加減に倒れてよ!!』
「そんなわけにいかないっての!!」
超高速の剣を、こちらも超高速の剣で相殺する。一手も間違えられない、そんな緊張感が私の背筋に走る。
(このままじゃあの時と……それだけは避けないと)
とある過去の出来事を忘れられず、どうしてもコンソールを動かす指に力が入り――
『っらぁ!!』
――曜の振り抜いたムラマサによって、左手の剣が吹き飛ばされた。
「ッ!!」
『貰った!!』
そのままの勢いで逆手のムラマサが機体へと迫る。驚きの一瞬によって出来た隙の一撃は私の機体を――
「『TRANS-AM』、起動!!」
長らく封印してきた能力を解放し、その一撃を寸での所で防ぎ、少しばかりの距離を開ける。
『TRANS-AM……やっぱり使ってくるよね』
曜はやはり予想していたのか、緊張感を保ったままで再び二つの剣を構える。
「――ふう」
私はといえば正直キツかった。恐らく『TRANS-AM』を使ったとしても、今の『HADES』によって暴走してる曜と勝てるかは正直微妙としか言いようがない。
故に……
「(あとで昴にどやされるだろうけど……)ま、仕方ないか」
『果南ちゃん?』
「曜、口で言って聞かないんだから、恨んでもしらないよ」
私自身、危険を承知で使うんだから。
「システム起動、リミットモード……
その瞬間、私自身の体がまるで機体と同化したような感覚をうっすらと感じた。さらに額から大量に汗が流れだし、筋肉の全てが軽く悲鳴をあげる。
「……行くよ、曜!!」
そして次の瞬間、私は踏み出しの一歩で曜の機体へと間を詰めた。電光石火、正しく紅い閃光の如く。
『ッ!?』
曜もすぐに反応して両手の剣を交差して防ぐが、その勢いを利用して真横に蹴りの一撃を叩き込む。
『かはっ!?』
「ッ!!まだまだ!!」
吹き飛んだ瞬間に後ろへと回り込み、再び剣による一撃を振るう。それによって右翼の一枚が切り落とされ、曜の『クロスボーン』は節減を数度バウンドする。
『ぅ……今のはいったい』
「――アンタが、曜が今やってるのと同じことだよ」
阿頼耶識、それは『鉄血のオルフェンズ』で使われるナノマシーンインターフェース。肉体とMSを同調させることによって、機体を正しく生身のように動かすことのできる代物。ガンプラバトルにおいては、
そして、それと機体を三倍近く超活性化させる『TRANS-AM』を組み合わせる。それは正しく、瞬間的に体感時間を三倍にまで引き上げ、限定的とはいえ人が時間の楔を超越するのと同じだ。
(けど、代償は曜以上だけどね)
勿論そんなことをして唯で済むわけがない。阿頼耶識だけなら兎も角『TRANS-AM』を同時に発動させればダメージフィードバックは無効になっても、血流など見えない部分で、下手すれば致死レベルの代償を払うことになる。
故に、このシステム共用を使えるのは、長くても五分だけ、それが昔昴だけでなく、鞠莉やダイヤと決めた絶対の制約だった。
「(あと残り三分……)速攻で決めるしかない!!」
『勝つのは……勝つのは私なんだぁ!!』
未だに勝利への妄執に憑かれてる曜は、ムラマサのリミッターを解除してきた。いよいよ以て油断など出来るわけがなくなった。
「……らぁ!!」
回収した左手の剣を構え、曜へ此方から接近する。彼方も此方へと接近してきて、そのムラマサを上段から振り下ろす。
それを一歩動くだけで回避、すぐに曜の機体の後ろへと回って今度は左側の翼を切り落とす。
『まだ……まだだ!!』
「ううん、もうおしまいなんだよ」
爆風を受けながらも一人叫び、我武者羅にその両手の剣を振るうが、もはや『HADES』に着いていけなくなっているのは誰の目から見ても分かった。
避けつつ瞬時に両手を切り落とし、通信越しに曜の悲鳴が聞こえてくる。アシムレイトの反動が来てるのは明らかだった。
「(残り一分……)曜、今すぐにアシムレイトを解除し方がいいよ、もうできることは何もないんだから」
『あ……あ……!!』
曜の泣いてる顔がモニターへと映る。正直ここまでの血戦になるとは思っても見なかった。恐らく暫くはトラウマ確実だろう。
「曜?早く解除しなよ」
『…………分かった』
どうにか落ち着いたのか、曜の纏う空気は元に戻っていた。アシムレイトの発動条件が解除されたのは明確だった。
「曜、あとでハグしてあげるから、許してね」
そして私はその剣を曜の機体の胸に突き刺した。コックピットを破壊されれば最早動けないのは当然だった。
そして、それと同時に『TRANS-AM』の発動が解除された。ジャスト五分経過したのだ。
「……さて、あとはダイヤに任せないとね」
残粒子5%、援護すらできなくなった機体を、ダイヤ達のいる方向へとカメラを向け、姉妹決闘の行く末を見守る事にした。