ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~   作:ドロイデン

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天使の落日 その十二(二年生+ルビィ√)

 昔からお姉ちゃんが大好きだった。家の習い事をしっかりこなし、勉学も疎かにせず、人付き合いも出来ていた。

 

 私はそれをいつも見ていた。けど私は習い事を要領よくこなせず、勉強も常に真ん中、人と話すことが苦手で、特に男の子と話すなんてある日までは出来なかった。

 

 お姉ちゃんは私のことを大好きだと言ってくれた。私も同じだったけど、でも心のどこかで幼いながらに悟っていた。私はお姉ちゃんには敵わない、と。

 

 最初は憧れだった大好きな姉が、いつしか高い高い壁になってて、あるとき、憧れがいつの間にか憎悪に変わって、同時に私の中に私じゃない何かが生まれた。

 

 姉に勝つことを諦めた私と、姉を越えると牙を向く私。どちらが本当の私で、どちらが違うかなんてもう分からない。

 

 けどそれでも……

 

 

 

 

 

「まさかダイヤさんと果南ちゃんが出てるなんて」

 

 試合を見ながらまさかの事態に曜さんは頭が思いというように項垂れていた。

 

「……やっぱり、あの二人のガンプラは凄い」

 

「あれ?……あ、そっか、ルビィちゃんは昴君と一緒に二人の戦ってる姿は何度か見たことがあるんだっけ?」

 

「は、はい。高速接近戦を得意とする果南さん、支援防御や射撃支援をメインに戦うお姉ちゃん、そしてかなりの重爆撃で相手を殲滅する鞠莉さん、三人とも基礎は勿論ですけど、得意分野は多分ルビィ達よりも上です」

 

 果南さんの『1.5ガンダム・ゼブブ』はベースとしては確かに『1.5ガンダム』なのだが、能力や装甲を『ガンダムバエル』のそれ……つまりナノラミネートアーマーを基本に改修していて、昴さんと組ませたら三人がかりですら勝ち越せない程に厄介な程だった。

 

 そしてお姉ちゃんの『イージスガンダム・ディアマンテ』、見た目は寧ろ『ロッソイージス』に近いけど、装備された『アルミューレ・リュミエールユニット(以下ALユニット)』による光学防壁は、ユニット自体がが壊れない限り完全防御するという厄介な代物で、特に鞠莉さんの機体と組んだ時は、何ともいえない無敵さがあった。

 

「ち、ちなみにルビィちゃん、あの二人が組んだ時はどうだったの?」

 

「……あくまで二年前ですけど……昴さん込みの組み合わせの中で、あの二人の組み合わせの勝率は一番低かったです」

 

「……つまり最弱の組み合わせなのに千歌ちゃんたちは手も足も出なかった……と?」

 

「で、でも二人も二年経ってますから、その分の経験とかもあると思います」

 

 それに二人の組み合わせでの勝率が低かった理由は、前に昴さんが教えてくれたからそこを利用すれば……

 

「――誰と誰が最弱ですの?」

 

「ピギィ!?」

 

「ダ、ダイヤサン!?」

 

 まさかの後ろからの登場に、私も曜さんも驚いてしまう。

 

「全く……一つ言っておきますが、ルビィが言った最弱の組み合わせというのは確かに事実ですが、それは相性の問題ゆえです。そもそも重爆砲撃の鞠莉さんと、撹乱遊撃を得意とする昴さんが組合わさったら、まともに機能する筈がないですからね」

 

 よっぽど苦々しいのか、いつにも増して不機嫌そうに足をならす。

 

「えっと、ちなみに鞠莉さんの機体ってどんななんですか?」

 

「どんなものと言われましても……単純に面制圧に特化した機体ですから、単純な弾幕だけなら私達が戦った梨子さんが可愛く見えますわね」

 

「うんうん、しかも重武装なのに高機動とかどんな作り込みしたらそうなるって三人揃って突っ込んだし」

 

 どうにもお姉ちゃん達も苦々しく思ってるらしくて、特にお姉ちゃんはため息を連発していた。

 

「ま、くれぐれも油断などしない方がよろしいですわよ。私達がぶつかるであろう決勝戦、本気で来なければぶっぶーな結果になりますからね」

 

「そういうことだから、二人ともよろしくね~」

 

 何とも普通に去っていく二人にプレッシャーを感じながら、私は拳を握りしめた。

 

「ルビィちゃん、どうする?」

 

 緊張感の欠片もない言葉で……ううん、わざとそうやってる曜さんを見て凄いと思いながら私は曜さんの方へ振り向いた。

 

「……曜さん、お願いがあります」

 

 

 

 

「あれで良かったのダイヤ」

 

 果南さんのその一言に、私はなんのことやらと首をかしげた。

 

「ルビィのもう一つの人格のこと、姉のダイヤが知らない訳じゃないでしょ?あんなこと言ったら」

 

「……それでも、ルビィをああしてしまったのは私の責任ですもの」

 

 ルビィが二重人格になったのはごく最近の事だ。私達三人の解散によってガンプラバトルを表だってできなくなって、それでも昴さんのおかげでたまに対戦や大会などでプレイすることでルビィの精神は安定していた。

 

 けど、そんな折りに昴さんの入院となった。昴さんは四ヶ月近くガンプラバトルを……それどころかガンプラを触ることすら出来なくなった昴さんにルビィの心の中の何かが壊れてしまった。

 

 それからだった。ルビィも暫く塞ぎ込み、たまにふらりと出掛けると思えば、夕方にまたふらりと帰ってくる。その時の私は家にずっと引きこもるよりは良いと思って何も言いませんでした。

 

 けど、それが間違いでした。偶々取れ立ての蟹を持ってきてくれたシャギアさんから言われたそれに驚愕しました。最近、ルビィの様子がおかしい、と。

 

 なんでもバトルルームに入っては、まるでなにかに取り憑かれたように相手を滅多切りにし、荒れるように蹴散らしていく。まるで鬼にでもなったかのようだという位だった。

 

 そこでも冗談と思っていました。けど、そんな期待は儚くも一瞬で砕け散りました。

 

 慌てた様子でシャギアさんの弟であるオルバさんがやって来たかと思うと、なんとルビィがバトルルームでダメージレベルAで相手集団を蹴散らしたというではありませんか。

 

 急いでショップのバトルルームに向かってみると、そこにあったのは粉々に砕かれたプラスチックとシールが所狭しとならび、その中央で立つ血濡れのような紅い無傷のスローネ、そして狂ったように嗤うルビィの姿でした

 

「あの子にサフィという人格を作り出させてしまったのは私です」

 

 元々ルビィは自分一人で悩みやストレスを抱え込んでしまうのを分かっていたのに、当時の私は果南さんと鞠莉さんの件で精一杯で何も気付いてあげられなかった。

 

「正直言いますと、彼女に言われるまで私は、最近ルビィと正面から向き合ってない事に気付きませんでした。上から押さえつけるだけで、何も話してなかった、何もしてなかった」

 

 私は回りが言うほど世間上手じゃない。頭は固いし、応用は効かない。ただ周りを見るのが得意なだけで、二人のように何かに突出してるわけでもない。単純な1vs1なら恐らく素人の千歌さんと引き分けにするのが関の山。けど、

 

「ルビィ自身が、サフィを使わずとも戦って私に勝てるようにする。それが今の私にできる最大限です」

 

「そっか……」

 

 そう言うと果南さんはいきなり後ろから私にハグしてきた。

 

「ホント、鞠莉じゃないけどダイヤってホントに堅物だよね」

 

「どういう意味ですの!?喧嘩なら言い値で買いますわよ!?」

 

「誉めてるんだって、ダイヤはルビィと戦わなきゃなんでしょ?だったら私は曜を釘付けにしておいてあげる」

 

 その言葉に私はぎょっとする。

 

「な、何を言ってるんですの!?私単体でルビィ……いえ、サフィと戦いきれるわけが無いでしょう!?」

 

「大丈夫大丈夫、どうせあっちもその気だろうし、乗ってあげても良いんじゃないかな」

 

 ていうか、と果南さんは続ける。

 

「ダイヤとルビィ、一回腹わって喧嘩した方がこの先の為だと私は思うよ」

 

「それは……まぁ……」

 

「ま、そういうことだから。私は千歌達を慰めに行ってくるよ~」

 

 そう言って果南さんはあっという間に行ってしまいました。けど、

 

「……姉妹喧嘩ってどうやるべきなんですの?」

 

 私に残った疑問は増えるだけだった。


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