ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
正直言うとヨハネ様とのバトルは濃密にするつもりなので仕方ないとしか言えないけどね~w
翌日の土曜日、時刻は朝の7時と早い時間に俺と花丸ちゃんは件の賭博場……『アルテミス』に来ていた。
「しっかし、こんなところに賭博場があるとはな……」
「ずら、まさしく未来ずらよ!!」
そう、というのも場所というのが前に雑誌を予約していたビル……それの地下だったのだ。それも俺がちょうど最後に見たエレベーターに、専用のカードキー射し込まなければ来れないという特殊な仕掛けがしてあったのだ。
「なに、ここのビルを経営してる会社の不正をちょろっと黙ってる代わりの駄賃じゃよ。それにここに続く階段もないうえに、隠しカメラや盗聴器の類いは全てチェックして無効化するしの」
「……だから店名が『アルテミス』なんですね」
恐らく『SEED』に出てくる絶対防御要塞アルテミスから取ってるんだろうな……けど、
「まさしくアルテミスよろしく内側から刺された訳ですね」
「全くだ。が、それも君らがすぐにもとのようにしてくれるだろ?」
「俺らはサーペントテールじゃないですよ」
苦笑いでそういいながら機体の最終調整を終わらせる。今回は完全なAHM装備であり、それでもあの津島善子に勝てるかと聞かれると微妙なくらいだった。
「ところで花丸ちゃん、一体何を……」
俺が声を掛けるが、花丸ちゃんは返事をせずにとある組み立て前のガンプラを前に瞑想のような感じで目を閉じていた。
「……よし」
そう言うと側に置いてあったニッパーを手に取り……
「ちょ、まさかそれは――」
ナイン・バルトの目覚めは早かった。何時もなら9時過ぎまで寝ているのに、時計を見れば7時と早朝だった。
「……嫌な予感がする」
あの日、あのレイジとやらとアイラが戦ったあの日も目覚めは何時もより早かった。アイラと出会ったあの日もだ。
たったそれだけ、だが自分にとって早起きというのは往々にして自分の運命を覆すことになる事は明確だった。
「……起きてるか、ヨハネ」
「ん……なにかしら?」
本来の自室のベッドに居るであろう少女に声をかけると、彼女もまた起床していた。
「……今すぐにガンプラを用意しておけ」
「どうして?」
「分からない……が、何となく君が準備しておいた方が良いと思ってな」
そう、とだけ閉まったドアの奥から聞こえると、すぐに彼女はその扉を開けた。
その格好は黒のゴスロリというやつで、短めのフリルのスカートに黒の長袖の上着、さらにシニョンを止めるようにつけた黒い金属質の羽を纏った堕天使の姿だった。
「……最終調整、しないの?」
「……ホントに良いのか?それをすれば君は……」
最終調整……つまりそれが表すのは彼女という存在の封印だ。それが済んでしまえば、肉体は本人でも人格が別の人間という矛盾した存在へとなってしまう。
「……どうせ別の人間に引き渡せば、結局は表に戻れないんだから良いわよ」
「……そうか」
唇を噛み締めながら、彼女を椅子に座らせ、頭に専用のヘッドギアを装着させる。そして
「……ああ、これで私は――」
その言葉を最後まで聞き届けることなく、彼女の記憶の封印を開始した。
その時、まるで見計らったようにドアが開かれた音が響いた。何事かと思ってリビングに出てみると、大柄の男と、それなりに長身の男が入ってきた。さらにその後ろからヨハネと同年代くらいの少年少女二人が入ってくる。
「ナイン・バルトだな?」
「……だとすればなんだ?不法侵入で警察を呼ぶぞ」
「娘を誘拐した犯人とは思えん言葉だな、指名手配犯?」
娘……なるほどと肩を竦める。
「なるほど、つまり……貴方達は私が貴方の娘さんを拐ったと、そう仰いたいと?」
「事実だろ?悪いが既に警察には話を通してある、素直に返すのならばこちらも悪いようにはしない」
暗に抵抗するなら容赦しないと言ってるようなものだ。確かにこの男の見た目通りの筋力があるならば、非力な自分では何ともしがたいだろう。
「……なるほど、確かにそちらの言う通り、私は津島善子を連れてきたし、現在もここにいる」
「ならば「だが」む?」
しかし、私とて研究者の端くれ、力で勝てないならば知恵を絞るだけだ。
「私は彼女をここへ強制的に連れてきたり、拘束などはしていない。逃げ出そうと思えば逃げられる、通報しようならすぐにでもできる状況にあって、なお彼女が留まったのであればそれは自己責任というものだ」
「だが貴様はかつてエンボディシステムを構築した犯罪者だ、娘を使い非道な実験をしてるのは明白だ!!」
「確かにそれも認めよう。私はとある人間からプラフスキー粒子が視認できる人間を連れてこいと命じられている。そのために先程、一時的な記憶の封印を施した。だが、それも彼女には合意の確認を取り、ここに彼女の直筆のサインも貰っている」
最初の一言は兎も角、拘束から最後までは全て事実だ。むしろ彼女に料理を作ってもらったりしてたぐらいだし、何より最終調整についても、書類上は三日前には既に書かれており、むしろ此方が踏ん切りが付かずに引き伸ばしたくらいだ。
「……分からないな、なんで指名手配犯のお前がそこまで躊躇った?」
と、今まで沈黙していた少年が声をあげる。よく見れば彼は去年の世界大会に出ていたジンの使い手……天ノ川昴だということに気付いた。
「別に思うところがあっただけだ、むしろこちらとしては『灰色の流星』と呼ばれる君がここにいることの方が不思議でならないが?」
「そら学校の後輩がこうなってるって話だ、少なくとも警察だけに任せられるほど安穏としては居ねぇよ」
「……なるほど」
そういう繋がりかと納得する。
「別段、私個人としては彼女がどうなろうとは構わない、君達に返せば、結局私は刑務所の中で生涯を終えるだけ、依頼人に引き渡しても……口止めに消される可能性も少なくない」
「ならなんで?」
「私個人の事はどうでもいい……だが、アイラと同じ力を持ち、ガンプラバトルを楽しんでいた彼女が、君達に返したところで幸せになれるのか?」
その一言に、周りの全員が静かになる。
「彼女はアイラと違い両親も、住む場所も、居場所もあった。だというのに、彼女はアイラと同じように孤独に押し潰され、自分自身の意味さえも分からなくなってしまった……そんな彼女が、家族の元に戻ったとして、幸せになれるとどこに確約できる、どこに証明できる?」
「……つまり、アンタはかのアイラ・ユルキアイネンと津島善子の姿が被ってるわけか……」
「フ、笑ってくれてかわないが、真実そうだ」
私にとってあの頃の自分への戒めと同時に、今どこに居るか分からない彼女への償いなのだ。彼女……ヨハネには悪いがそれ以外存在しない。
「……で、だ、その津島善子は今どこにいる?」
「……私の自室で最終調整の真っ最中だ」
「ならさっさと連れ帰させてもらうぜ!!」
血気盛んに飛び出そうとする彼に、私はニヤリと嗤った。
「真っ最中だと言ったろ?下手な操作をすれば脳を直接破壊することになるぞ」
「な!?……ぐ!!」
「まぁもっとも、そろそろ終わる頃だが……記憶は完全に封印してある、ちょっとやそっとのことでは解けることはない……ある方法を除いてな」
そう言って私はソファーを壁側にどかして、取り付けていたボタンを押した。すると先程までソファーがあったところの床から中型のバトルフィールドが浮かんでくる。
「なんつー細々とした仕掛けを……」
「なにここは一階だ、地下に仕掛けするくらいわけはないさ」
「そうかよ……で、これを出したということはつまり、そういうことだろ?」
彼はまるで呆れ半分真剣さ半分という顔で聞いてくる。
「そうだ、私と彼女……二つのガンプラをバトルで破壊すること……それが彼女の記憶を取り戻すことのできる方法の一つというわけさ」
可能だろ?と高校生プロファイターに投げ掛ける。
「……だったら遠慮は要らねぇな、ヨハネの方は兎も角、研究畑のアンタが俺達に敵うと思ってるのか?」
「ふ、勝負は何事も不足の事態が起こるのは常だ。やらずに勝てないと決める道理はないさ」
「良いだろう……さっさとアンタを潰して、善子を……後輩をさっさと救わせて貰うとしようか!!」
「くだらない」
その時、隣の部屋のドアが開き、凛とした声が響いた。
「……起きたか、ヨハネ」
「ええ、全てを忘れて空っぽになる……これほど良いことがあるかしら?」
妖艶に、しかしハイライトの消えた目で見られた向こう側は、自分達の知ってる姿と違うことに戸惑いを隠せていなかった。
「救いなんてくだらない……結局人は独りになるの……誰かを救うなんて絵空事、くだらないとしか言えないわね」
「……それが、津島善子の本音か?」
「津島?
……若干性格が拗れてる気がするが、記憶の封印をした直後だと考えれば誤差の範囲内だ。
「さぁ、このヨハネの前に……全てを散らして死になさい……!!」
次回は二年生+ルビィルート!!ということでがんばルビィしたいと思います!!はい!!