ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
「……なんかまた最近昴君学校に来ないね」
空いてしまっている幼馴染みの席を見ながら、私はため息混じりにそう呟いた。
「昴君もだけど、花丸ちゃんも来てないらしいよ」
「二人とも?どういうことかしら……」
我らがビルダー梨子ちゃんも微妙な表情をしている。
というのも昨日の鞠莉さんからの呼び出しの後から、昴君と花丸ちゃんの両方の表情が険しく、珍しく昴君はバトルもせずに帰ってしまったのだ。
「まさかまた鞠莉さんが無理難題を……」
「えぇ!?」
「千歌ちゃん!?」
二人とも驚いてるが、私からしたらニヤニヤしながら爆弾を投下しそうな理事長を思い浮かべれば何となくそう思ってしまう。
「へっくしゅん!!」
「ずら?風邪でも引いたずら……じゃなくてですか昴さん」
「いや、多分誰か……もとい千歌のやろうが噂をしてやがるな……どうしてくれようかな」
「顔が悪人になってますよ」
「ブルッ!!なんか寒気が……」
まるで誰かが見てるような怖い感覚に辺りをキョロキョロとしてしまう。
「まぁ、でも昴君の事だから、ひょっこり何もなかったように戻ってくると思う」
「千歌ちゃん……だったら私達はそんな昴君を驚かせるために」
「ヨーソロー!!タッグバトルで優勝して、驚かせてあげないとね!!」
意気揚々としてると、見計らったようにチャイムが鳴り響くのだった。
「それじゃ今日も模擬戦始めるよ~」
放課後になり、馴れた手つきで台を起動させると、いつものように青白い粒子が溢れ出してくる。
「千歌ちゃん、今日はまずタッグでそれぞれ練習した方が良いんじゃないかな」
「ふぇ?どうして梨子ちゃん」
梨子ちゃんの提案に私は首を傾げる。
「だって大会は週末の日曜日、今は水曜日よ。模擬戦をするにもまずはコンビでの練習をしないと。特に曜ちゃんとルビィちゃんの二人は」
「あ、そっか……」
何だかんだで私と梨子ちゃんとはちょくちょく一緒にタッグは組んでたけど、曜ちゃんとルビィちゃんはほとんど組んでないし、何よりあの事件があったしね。
「うぅ、じゃあタッグ練習……って何をすればいいのかな?」
「CPU機無双とかどうかな?模擬戦用の仮想ガンプラデータも入ってるし……とりあえず初期モック200体から時間経過で増やす感じで」
「ピギィ!?」
「「いやいやいや!?」」
なんで頭から200も!?普通に死んじゃうレベルだからねそれ!?
「勿論一人20分ぐらいで終わらせるけど、設定にCPUを連携重視にしておくから」
「それでも普通に大変だからね梨子ちゃん!?」
曜ちゃんの意見に私とルビィちゃんがぶんぶん頭を振っている。が、それでも梨子ちゃんは笑顔だった。
「でもこれでも簡単な方よ。お母さんのお友達なんて一人で仮想の後半主役級ガンプラ(素組)を初期100体(増加数鬼)30分とか教え子にやらせてるらしいし」
「「「それどんな魔王!?」」」
「っへくち!?」
「珍しいな、おまえがくしゃみするなんて」
「にゃはは~、多分梨子ちゃんが噂でもしてるんじゃないかな~。今度の夏にO☆HA☆NA☆SHIしないとね」
「いや、くしゃみだけで個人特定できるのか……」
「ひっ!!なんだか寒気が……」
「大丈夫梨子ちゃん?」
「え、えぇ。まぁそういうことだから、とにかく練習始めましょう」
なんだか逃げられた気もするが……まぁ仕方ないというわけで最初に私と梨子ちゃんが台に立つ。
*ここからは暫く音声だけでお楽しみください
「モックくらい、ビームライフルで充分……ねぷぅ!?避けられた!?」
「千歌ちゃん足を止めたら弾幕の餌食になるよ!?」
「わ、分かってるよ!!今度こそ……って後ろからアラート!?」
「もう、モックの癖に速さだけは!?アルフ、ブラックマンバとゼーロス準備!!」
『梨子~いきなり過ぎるよ!!まぁ何時でも準備万端だけど』
「あれ!?なんか変な声が……あぁミサイル嫌いだから来ないでぇ!!」
『フルングニルの制御補助AIのアルフだ。まぁ後で色々と教えてあげるよおちびちゃん』
「ちびじゃないから!!ちゃんとまだ成長してるから……って、なんでトリモチミサイルまで来てるのぉ!!」
「千歌ちゃん!?アルフもふざけてないで……ってこっちもトリモチが!!」
『ありま、これって梨子が作ったトリモチと同じじゃないかい?』
「ちょっそれって……あ、なんか光ってる!?光ってるよ梨子ちゃん!?」
「……起爆するわね」
『バクハツシサン!!ってやつだな、受け入れろ』
「ひ、ひどい目にあった……」
終了して一息つくも、まるで口から出てはいけないものが出そうな感覚になってしまう。
「大丈夫千歌ちゃん?」
「大丈夫じゃないって!!あんなの死んじゃうから!?幾らなんでもハードすぎるよ!?」
「え、でも……」
そう言いながら梨子ちゃんが指さす方を見てみると、
「ピギャギャギャ!!温い、温すぎなんだよォ!!」
「ル……じゃなくてサフィちゃん落ち着いてよ!!っと、ミサイルは射たせないよ!!」
「イイネイイネ!!そのまま弾幕で武器を潰しまくれェ!!取って置きのメガランチャーで締めてやる!!」
「使うのは良いけど巻き込まないでね!!振りじゃなくて絶対に!!」
喧々囂々としながらも見事に大量の敵を前に弾幕の大盤振る舞いをしてる二人の姿があった。
「うっそ……」
「曜ちゃんは元々操縦は千歌ちゃんよりも上だから、役割さえできれば普通にクリアできるわ」
まぁ確かに、曜ちゃんはコスプレ制服を自作するほどの手先の細やかさはあるけどさ……それでも、
「……昴君に後で文句言ってやる」
「アハハ……お手柔らかにね」
どこでなにをしてるか分からない暗躍友人に対して、私はそう決めつけた。
ダイヤside
「えぇ、その日は……」
何時ものように生徒会室での作業中、掛かってきた電話の相手の言葉に驚いていた。
「…………本気ですの?幾らなんでも……それに私は……」
『――』
「……ハァ、分かりました。ではそのように……」
電話を切りスマホのライトを消して空を見上げる。既に夕暮れ時で、茜色が眩しく見えた。
「……私にどうしろと言うのでしょう」
既に賽は投げられているこの状況で、私一人が出きることなど高が知れている。
「……それでも、ですわね」
過去を思い出しながら、馴れた手つきで机の引き出しを開ける。未練がましく、それでいて手入れを忘れないで磨かれた紅の守護者の姿。
「私は……守ることしかできませんから……」
その守るべきものが何かは……今はまだ分からない。