ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~   作:ドロイデン

35 / 71
天使の落日 その六

「ねぇ昴くん、いつまで待たせるの?」

 

 昼休みの教室で、千歌がまるで待ちきれないというように体をうずうずと変に動かしている。

 

「……待たせるも何も、俺はスカウティング担当じゃねぇし、津島と仲も良くないから、勧誘は難しいからな」

 

「そうだけどさ~何か情報とか無いの~」

 

 そう思うなら少しは自分で調べろと言いたいが、この馬鹿に言っても仕方ないので諦める。

 

「俺が知ってるのは、アイツが去年のソロ優勝者で、父親が政治家だってことぐらいだからな」

 

「政治家ねぇ~……」

 

「あ、私聞いたことある!!確か、津島源十郎って人だよね?結構強面の」

 

 曜が思い出すように言ってるのを、千歌はほぇー、となんとも覇気の無い返事をしてる。

 

「そ。津島源十郎、政治家歴20年近くの沼津の大御所で、主に児童福祉といじめ対策に熱を入れてる。政策のためなら個人資産の運用すら躊躇わずにやるほどの豪傑だよ」

 

「個人資産?」

 

「津島の母親もそれなりに有名らしくてな。津島薫、大手のゴスロリ系ファッションブランド『Maria』の社長兼ファッションデザイナーで、ある程度は揃っての個人資産でやりくりできるくらいだからな」

 

 しかも公式HPに映ってる素顔は、まるで津島をまさしく大人にしたような感じの美人で、その事から『美女と野獣』と言われることもあるらしい。

 

「凄い……てことはその善子ちゃんはご令嬢ってわけ?」

 

「そうだな。けど、つい数年前まで良好だった関係が、今ではすっかり冷めきってるってもっぱらの噂らしいがな」

 

 そこは本人に聞くべきなんだろうが、あまりにプライベートな内容だ。あまり他人が口を出すのも憚られるだろうな。

 

「……そういや津島といえば、なんかもうバトルはやらないとも言ってたらしいな……」

 

「え!?それホント!!」

 

「偶々仮眠してるときにうっすら聞こえただけだから正直微妙だがな。そこも本人に直接聞くが早しだろ、さて、近々のガンプラバトル大会の予定は、っと……」

 

 自前のノートPCを使い、沼津周辺の大会の有無を確認すると、それなりの数のショップ大会の情報が掲載されていた。

 

「うーん、個人戦からチーム戦……スコアマッチまで多種多様だな……どれにしようか」

 

「でも昴くんと私達なら中堅レベルなら何とかなりそうだと思うよ?」

 

「ダアホ!!俺はプロだから、ランク問題でB以下のローカルショップ大会の出場はできねぇんだよ!!」

 

 ショップ大会にはEX~Eの七段階のレベルが存在し、E~Cが比較的レベルの低い言わば素人勢の下位層、B~Aが普通の高校生やアマチュアファイターが集う中堅層、そしてS~EXがセミプロやプロ上位ランクがこぞってひしめき合う魔境層と分かれる。

 

 ちなみに、A以上の大会やイベントバトルで好成績を出すと、それに応じたGPベース内蔵の電子マネーシステムに賞金が入る仕組みになっているのだが、

 

「それに、三人とも公式ショップ戦に未だに参加してないから、最低でもCランクで上位入賞に入らないと中堅層の大会には出れないからな」

 

「「「そ、そんなぁ!!」」」

 

 まぁ、賞金で最低数千円は動くのだ、当然の仕組みである。

 

 まぁCランク大会の大体はバトルロイヤルマッチのため、そこまで過酷な条件じゃないから二、三度出場すれば充分に中堅層出場が可能だろうな

 

 ちなみに、プロは契約上ショップ大会は強制的に上位魔境以外に出るのは無理だ。知り合い関係で魔境レベル出場権利を獲得してるのも、俺の弟子のルビィと三年生トリオ、あとはプリベンターの皆さんと黒澤家の網子ファイターぐらいだ。

 

「昴くん、何とかならないの!!」

 

「うーん、一応魔境層のファイターから五人以上の推薦があれば中堅層なら……」

 

 まぁそれも条件付きであり、専用のオリジナルガンプラの所持が必要……って、

 

「あれ?考えてみれば普通にいけるな……」

 

「「「ホント!?」」」

 

 まぁ一応許可が貰えそうなのは俺を除けば、鞠莉さん、ダイヤさん、ついでに千歌達のレベルアップに協力した三名……うん、普通に何とかなる。

 

 ちなみに果南を挙げなかったのは、三人の試合はおろか練習すら見てないため除外した。決して話に行って喰われそうとかそういう意味ではない、絶対にそういうことじゃない。

 

「まぁそれでも頼んだりそれぞれ手続きしたりで……少なくとも二週間ぐらいはかかるだろうけどな」

 

「二週間かぁ~待ちきれないな~」

 

 ぐでーとしてる千歌に苦笑いを浮かべていると、突然携帯の画面が光る。確認するとそこには鞠莉さんからのメールが来ていた。

 

「……どうやら、待つ心配は必要ないみたいだ」

 

「てことは!!」

 

「あぁ、鞠莉さんが前以て頼んでたらしい。一応お前ら本人の確認書類とかはあるけど、それさえ済んでしまえば……ってわけだ」

 

 まぁとりあえずそこは鞠莉さんから直接聞けば良い話だろうし、三人に任せてみるべきかな。

 

「……あとは」

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

「お疲れみたいですね、ダイヤさん」

 

 放課後、一人生徒会室にやって来た俺は、目の前で大量の書類にあくせくしてる先輩に声をかける。

 

「あぁ昴さん……部活の方はよろしいのですか?」

 

「今日は千歌達がショップ大会関連の書類を書かなきゃなので、実質休みなんです」

 

 余談だが、意外なことに花丸も中堅層に出れることが分かった。なんでも昔、津島と共にショップ大会に出てたらしく、その時の名残だそうだ。

 

「そうですか……ところで……その、ルビィは」

 

「ルビィなら一人部室で対戦してくるって言ってましたよ。多分オンラインシステムの方でやるんじゃないですかね」

 

 オンラインシステムは特殊なモードで、ベースに乗せたガンプラを3Dデータに転換、それを元に全国対戦を行うシステムだ。

 

 本来なら専用スペースを持つアミューズメントセンターでのみできるのだが、そこはまぁ理事長の鞠莉さんの家である小原財閥、それにも対応したバトルフィールドをうちの学校は置いているのだ。型は二世代ぐらい前のものだが。

 

「そう……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………仕事、手伝いますか?」

 

「……お願い致します」

 

 というわけで近場の机に一部を分けてもらったのだが……

 

「……これで一部っすか?」

 

「……はい」

 

 なんとそれは、机の高さまで積み重なっているのだ。

 

「一応これでも大半が鞠莉さん関係のものなのであっちが処理してくれてはいますが……」

 

「にしても多すぎでしょ……教師は何をやってるんだが」

 

「判子を押すだけの単純なお仕事とでも思ってるのでしょう。それに、教師陣は教師陣でやらなければならないこともありますし」

 

「あぁ……()()ですか」

 

 確認すると、ダイヤさんもため息混じりに頷く。そりゃ確かに生徒の手も借りたくはなるわな。

 

「けど実際のところ、何とかなるようなもんなんですかね……」

 

「そこは鞠莉さんが色々と手回しはしていると思いますが……いかんせん厳しいですわね」

 

「でしょうね」

 

 まぁそれでも前よりはマシな方だし、何よりアイツさえなんとかなれば、多分関東地区でも強豪クラスの実力にはなるだろうな。

 

「あぁそれと昴さん」

 

「ん?」

 

「ちゃんと避妊はしておいてくださいな」

 

「ブフォ!?」

 

 どうしてそうなった!?なんの脈略も無かったよな今!?

 

「ちょ、なぜ今それを!?」

 

「別段、話のネタが無かったので。まぁ昴さんなら大丈夫でしょうが、相手は果南さんですから」

 

「アンタそんなキャラだっけ!?」

 

 油断も隙もありゃしないというか、そういえばダイヤさんも果南の焚き付けをしてたと思い出してガックリと項垂れるのだった。

 

 

 

 

 

 そんなこんな話してるうちに日も暮れ始めて来て、カラスの鳴き声が空を谺する。

 

「とりあえず今日はこんなものですわね」

 

「そうっすね……って言ってもまだまだ山積みですけどね」

 

 というか途中で生徒会の人来てても減らないってどんな仕組みだよ。無限の書類なんて絶対に嫌だからな、俺は。

 

「ですわね……ところで昴さんはこれからの予定は?」

 

「一回沼津の本屋に行こうかと。予約していたガンプラ雑誌があるんで」

 

 なんと今回の付録は実弾銃及び実体剣、29㎜パヨネット付き徹甲機関銃と西洋剣型特殊近接ブレードだ。銃は今使ってる27㎜突撃銃の強化型だから、メインの火力を補強できる。

 

 ブレードは西洋剣と言いつつ、持ち手の内側が微妙に反った形になっていて、受け止めるだけでなく刀のように流すこともできる代物だ。

 

 当然、両方を使う俺にとってはまたとないものであり、手にいれると前々から決めていたのだ。

 

「……いつも思いますが、たまにはビームメインの機体を使ってもよろしいのでは?」

 

「ビームは粒子切れ起こしやすいんで、スピードに能力値ほぼ振ってる機体だと無理っす」

 

 まぁそれでも一応、作った重斬刀の中には『グフ・イグナイテッド』のようにビーム刃を展開できるものも何本かは作ってるし、ビームカービンもあるからな。

 

「ならいっそ機体をナノラミネート装甲にでもすればよろしいのでは?SEED系の戦艦には使われてる装甲ですし、粒子も使いませんよ?」

 

「当たらなければバスターライフルだろうがファンネルだろうが関係なし、それにするための専用のコーティングして機体重量をコンマでも増やしたくないんで」

 

 特殊塗装するだけで、しないのと数グラム単位で重くなるうえ、いくらナノラミネートコーティングといっても、ガンダム級のカスタム機相手だとするとほとんど意味がないからな。

 

「まったく、それで今回は何冊予約したんですの?」

 

「人を買い占め屋みたいに言わないでくださいよ。たったの8冊です」

 

「充分に多いですわよ……」

 

 ジトリと睨まれるが、俺としては普段あまり浪費しないうえに、プロの給料というかファイトマネーもあるから、むしろ貯蓄が貯まりに貯まるのだ。

 

 それにぶっちゃけ、呼びパーツのためのキットもベースが量産型の『ジン・ハイマニューバ』だ。馴染みの格安ホビーショップに行けば一つ税抜きで1000円以下で買えるのだから、まぁある意味安いといえば安い。(ちなみにこれがガンダム系やエースパイロットのガンプラとなると、安くても税抜き二千円弱するのだから格差社会とは恐ろしいものである)

 

「金は貯めたからって価値があるでもなし、使ってこそ社会が回るもんですよ」

 

「そんなものですか……?」

 

「そんなもんです。時代劇でも言うでしょ、『金は天下の回り物』ってね」

 

「それだと昴さんは町方の同心ですわね……いっそのこと刀でも持たせて敵を切り捨てしてしまえば良いのでは?」

 

「あー、重斬刀も刀なんで。というかその場合、切られるのは鞠莉さんが第一候補じゃないですかね」

 

 何せ意外と悪どいうえにお金持ちだしな。ただそうなったとき果南だけはキャスティングしないでくれ。絶対に女房役を演じるに決まってるから。

 

「寧ろいつものストレス発散という感じで良くないですか?……ところで私は……」

 

「ことなかれ主義の上司」

 

「ぬぁんでですか!!」

 

 それキャラ違うぞ。というかなんでよりにもよってその台詞なんだ?

 

「だってダイヤさん、いつも鞠莉さんに振り回されてるじゃん。つまりそういうこと」

 

「ぐ……否定できないのがなんとも言えませんわね……」

 

「まぁ、そういうわけなんで俺はこれで」

 

 何やらぶつぶつ唸ってるようだし、変に絡まれても面倒だしな~ダイヤさん。というわけで逃げの一手というわけでさっさと部屋を後にする俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがと~ございました~』

 

 沼津にて予約していた本を購入した俺は、だいぶホクホク顔を浮かべてエスカレーターを降りていた。

 

 こらそこ、ニヤケ顔やめろとかいうな。

 

「それで俺のジンも強化でき……る?」

 

 漸く一回に辿り着いたその時、この初夏の時期に茶色いコートにサングラスという奇妙な出で立ちの少女を見かけた。というか……

 

「あれって……津島か?」

 

 チラリと見れたお団子シニョンは、間違いなく後輩であり、知らない仲ではない女子のもので間違いなかった。

 

 不思議に思った俺は、荷物を持ったままでバレないように後を追う。どうやらあちらは気付いてないようで、ゆっくりと間隔を一定に保つ。

 

 辿り着いたのは俺が居た外のビルのエスカレーターだった。彼女はその中に入ると、すぐ扉を閉めてしまった。慌てて向かう先を確認すると、どうやら三階……俺が居たビルと同じ階に設定されていたらしくそこで止まっていた。

 

「……気のせい……か?」

 

 まぁ彼女もガンプラバトルファイターだしパーツは欲しいよなと思い、俺もなんの疑問も持たずに来た道を戻って自転車置き場へ向かう。

 

 だが、今思えば無理にでも追いかければ良かったと思わざるをえなくなるとは、この時の俺はついぞ分からなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。