ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
とりあえず授業をそつなくこなして過ごした放課後、私は鞄にさっさと荷物をしまって教室を出る。
「もう帰るずら?」
「当たり前でしょ、部活入ってないし委員会があるでもなし、さっさと帰って夕飯の買い出しもしないとだし」
共働きの両親は基本的に料理をあまりしないし、あまり私とも会話をしようともしない。それどころか、二人ともそれなりに立場のある人間らしく、週に1度、それも真夜中に数分帰ってくるぐらいだ。
多分結婚したのだって、ただ一人身が嫌だからなんとなくだったのだろう。私が不登校になって学校からの連絡があっても、両親はそれぞれどうでも良いように返答して……まるで腫れ物扱いのようだった。
ネットでそれがネグレクトというのは知ってるが、別に私に言わせれば両親共にどうでもいい存在にまでなっていた。最近誕生日を祝ってもらった記憶もなければ、私がガンプラバトルで全国一位になっても興味を持ってくれない。完全に崩壊しているのだ。
「……そっか、それじゃあ仕方ないずらね」
「ふん、アンタもさっさと委員会終わらせなさいよ。まだ初夏だけど、遅くなったらバス無いんだから」
軽口を言いながら心配してやると、ずら丸はニヤニヤとして頷いてる。……なんか少し気持ち悪いわね
「ただいま……」
家に帰った私が目にしたのは、珍しく早く帰ってきていた父親……津島源十郎だった。
「…………帰ってたんだ」
「ここは俺の家だ。帰ってきておかしいのか」
「そういうことじゃないけど……」
なんとも珍しいというか、まだ夕方なのに帰ってくるということ事態、ここ数年ではまったく考えられない出来事だった。
「それよりもだ、お前、まだあんな
「……ッ!!」
父親が言ってるのは紛れもなく、ガンプラバトルの事だった。
「いい加減現実を見ろ。そんな一時のくだらないものに時間を裂くなど言語道断だ。ましてや……」
「うっさい!!」
尚も言い募る父親に私は怒りを覚えた。ほとんど見向きもしないくせに、人の事をあれこれと難癖をつける。そんな父親が大嫌いだった。
「私は父さんの操り人形じゃない!!
沼津の政治家として活躍する父は、それすらも簡単にすることだってできるうえに、ガンプラバトルをくだらないと評する人間の上位だ。例えかのガンプラ学園たりとて、圧力の前には何にもなさない。
「当たり前だ。学校とは知識を学ぶ場所だ、あんなくだらないことこのうえない学園に通わせるなど、津島の家のものとしてあり得ん。本来ならお前の部屋にある妙ちくりんな模型ごと処分してやりたいが、それをしないだけありがたく思え」
「ふさけんな!!娘を大事に思ってないダメ親父が!!私は私の望むように行動する!!アンタなんか父親じゃない!!」
私は自分の部屋に走って駆け込み、部屋の扉を完全に閉めて閉じ籠る。
もう嫌だった。あの力を手に入れてから周りは全て変わってしまった。
今まで仲の良かった友達は、まるで掌を返して、むしろ気味悪がって離れていった。両親もその頃には家に全く帰ってこなくなって、私はいつも一人だった。
唯一だったずら丸も、いつの間にか赤毛の同級生と仲良くなっていて、私が入り込めるスペースは全くなくなった。
「私が……私が何をしたっていうのよ……」
私は神様が嫌いだ。こんな忌むべき力を与えただけでなく、周りの人達を全て奪っていく。
嘗ては白く塗られていた愛機は、まるで私の心を写すようにいつの間にか黒に染まっていた。誰も信じれず、誰も助けてくれない……そんな闇を写したように……。
そんなことを思っているといつの間にか夜になっていて、外は暗く星が少しだけ見えた。
のっそりと立ち上がり、私は自らの愛機を鞄に入れて、少し変装して部屋を出る。
田舎の都会という沼津においても、それなりに夜でもネオンが明るく光っていて、伊達メガネに人工の光が射し込む。
(もう私は表に立たない……立っても意味がない……)
故にたどり着いたのは、沼津のとあるビル……会員制のカードを差し込んで入ったエレベーターが向かった先は……
「いけぇ!!お前に有り金賭けてんだからな!!」
「アヒャヒャ!!死ね、死ねぇ!!」
アンダーグラウンドの賭博ガンプラバトルだった。
「……
併設された受付のバーラウンジでグラスを拭いてるマスター兼に支配人に声をかける。いつも通りにサングラスにドックタグ、さらには燕尾服のような姿に奇妙なものを感じながらも、私はついでにドリンクを頼む(もちろんノンアルのジュースよ)。
「……いつもの嬢ちゃんか。メイキングは?」
明らかに地声じゃないそれで聞いてくるマスターにも既に慣れてしまい、渡されたドリンクをちびちびと飲む。
「一対多、少なくとも30人と同時にバトルできるようにして」
明らかに無茶苦茶な設定、地下のバトルは名こそ無いものの、実力だけならメイジンやプロ相手でも遜色はないほどの実力者ばかりだ。
だがこの程度の無茶苦茶は、私にとっての日常茶飯事、いつものことだった。
「……念のために分かってるだろうが、負ければ」
「
既に堕ちるところまで堕ちている私にとっての救いは、負けること……この力が無敵の万能じゃないと示すことが出来るのなら……回されようが売られようが、もうどうでも良かった。
「……良いだろう。さっさと準備しろ」
「分かってる……」
そう言いながら、私は備え付けられた衣装部屋に向かい、持ってきていた衣装に着替える。黒のゴスロリに背中の羽飾り、顔を覆うように着けた血の涙を流す仮面を身につけ、シニョンを解いてバサリとロングにする。
さらに荷物をパスワードロッカーにしまって部屋を出ると、立っていたスーツの男が寄ってきて腕輪とGPベースを取り出す。情報漏洩の防止と逃走防止の為だった。
「……ありがと」
「……すぐに準備ができますので、暫くお待ちを」
「ん」
小さく頷いて、私は再びバーの椅子に座る。
「……しかし、今日は随分と不機嫌なものだな」
「……客のプライベートを聞くのは、この地下ではご法度よ」
「なに、この程度は問題ないさ。何せ私が支配人なのだからな」
「……あっそ」
別にこのマスターは口が固いし、腕っぷしもそれなりのもんだから、別に言ってしまっても良いのだが、一応隣を確認して誰も居ないことを確認する。
「……会いたくない男に会ったのよ」
「……君が会いたくないというと、前に話した父親の事か?」
「そ、私にとっては目の上のたんこぶよりも邪魔で、私の事を何にも理解しようとしないダメ男。そんなんだから女に浮気されるのよ」
「まるで見たような口ぶりだね」
「まるでじゃない。見たのよ、この目でね」
あれはちょうど全国優勝を果たした翌週だった。偶々母親を学校帰りに目撃したのだが、そこには若い男と抱き合って、手を繋いで……しまいにはラブホにまで行ってる母親の姿を見てしまった。
しかも相手は父親の部下の一人、それもイケメンの若手だったのだ。
「……なるほど、それは少し来るものがあるな」
「……そう言えばマスターも結婚してるんでしょ。なのによくこんな場所続けられるわね、捕まるかもしれないし」
「なに蛇の道は蛇だ、そこのところは抜かりないさ。ついでにここは非常階段も無いうえに、来るには専用のカードがなければエレベーターは動かないからね」
ある意味では無駄に高すぎる防犯能力(?)だった。というか違法賭博場だから対警察能力か?
「まぁそういうわけだからな。警察は下手に動けないし、近々成立するカジノ法案が政府を通ればここも正式に資格を取るさ」
「そ、っと……バトルの時間ね」
気付けば先程までバトルしていた男の一人が黒服に引きずられており、なんか煩い悲鳴をあげていた。
もう一人は観客たちからもみくちゃにされていて、中には大手企業の重役も見てとれた。
「ま、嬢ちゃんなら負けねぇだろうが……good luck、『死天使』」
「そうね。今日も周りにbad luckを振り撒こうかしらね」
そう言いながら自らの愛機とGPベースを取り、鎮座されている大型バトルフィールドの奥に立つ。
『今宵お集まりの皆様、本日のメインイベントのお時間です。これまで無敗の限りを尽くし、その業火の天使を前に、あるものは撃ち抜かれ、あるものは切り裂かれ……そして今宵もそうなるのか……死天使ヨハネの降臨です』
死天使……ホントは堕天使のほうが良かったんだけど、この機体を知ってる人間のせいでこの呼び方が定着しちゃった。
『対するは、本日負けてしまい、全てを喪う事になったファイター、総勢35名、彼らは死の天使を前に、まるで剣闘士のように戦わなければならない』
対面に立っているのは、何やら精神をおかしくしてしまった者から、身体中傷だらけの者、果てには薬物中毒の禁断症状が出て発狂してるものまで、どれもまともな人間は居なかった。
『お手元の装置でベットはお済みですね?それでは……バトル開始!!』
十五分後、フィールドの宇宙には壊れて屑鉄となったガンプラだったものの廃材と、
一応言っておきます。父親はアンチじゃないよ、ちゃんとあとで父娘で救いがありますからね!!ホントだからね!!