ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
「……これ、ちょっと厳しくない?」
私は追いかけてくる赤い悪魔から逃げながらそう呟いた。
何せよれば私のムラマサより重たい大剣をぶん回してくるし、射撃戦は射撃戦でファングの雨霰のせいでまともに射軸は取れないし、極めつけは
『ピキャギャギャ!!オラオラオラ!!さっさと墜ちやがれ雌豚がぁ!!』
「キャラ壊れすぎだから!!」
なにがどうやったらあの小動物系なルビィちゃんが、凄いドSな感じ口調が荒くなるのぉ!!理不尽だよ!!
こうなったのは数分前、昴君が離れて私と花丸ちゃんが千歌ちゃんとルビィちゃんに接敵したところに遡る。
「花丸ちゃん、一応二人の動きを見るために私がルビィちゃんの相手をするからね」
『ずら、でもマルに千歌先輩を倒せるかわ』
「大丈夫、これは練習なんだから倒せなくても大丈夫だよ。そういうわけだから、頑張ってね!!」
止めようとする花丸ちゃんを無視して私はルビィちゃんに近づく。千歌ちゃんも同じ考えなのか、私を無視して花丸ちゃんの『スモッグ』に向かっている。
クリムゾンレッドに塗られたガンダムがどんな機体なのかは知らないが、先手必勝っていうし、まずは仕掛けてみようかな。
そう思って、ムラマサをライフルにして牽制目的でビームを数発放つ。するとそれをシールドを使わずに最低限の動きで全て避けると、今度は左手に装備しているハンドビームガンを射ってきた。
「(威力はそこそこだけど、取り回しと連射重視なのかな)でも!!」
そういう戦い方はシャギアさんのビームガンで慣れてるからか、あまり苦せずに回避すると、ビームサーベルを一つ抜いて、その赤い機体に投げつける。
『そ、そんな攻撃!!』
何やらだいぶ戸惑っているが、それでも簡単に避けられ、すぐに右手にバスターソードを抜いて斬りかかってくる。
「(大剣相手にビームサーベルじゃキツいかな、それに)接近戦なら得意なんだよね!!」
すぐにこちらもムラマサを抜いて、リミッターを解除せずに鍔迫り合いに持ち込む。金属刃同士の激突のためか、耳にガキンという聞き覚えのある音が聞こえてくる。
『る、ルビィのバスターソードを受け止めるなんて……』
「そりゃ昴君の初弟子は私だからね。大型の剣との戦いはそれなりに知ってるよ」
まぁ弟子って言っても、その時の私はそこまでガンプラバトルに熱中してなかったから、数ヵ月程度なんだけどね。
それでもその時の経験のお陰で、一時的とはいえ本気じゃない昴君の剣撃と渡り合えたんだけど。
『……お兄さんの……初弟子?』
「ん?」
その時、ルビィちゃんが目に見えておかしくなったように通信越しでも分かった。聞き取れないくらいにぶつぶつと何かを呟いていているが、それが何か全然分からなかった。
『…………な』
「え?」
『ふざけんなっつってんだ、この雌豚がぁぁぁ!!』
「えぇ!?」
まさかの暴言に驚いていると、急にルビィちゃんのバスターソードが目に見えて重たくなり、たまらず鍔迫り合いをやめて後ろに下がる。
『死ね、死ね死ね死ねぇ!!死ねってんだよぉ!!』
「ど、どうしたのルビィちゃん!?」
明らかにさっきまでの小動物の雰囲気だったルビィちゃんではなく、まるで相手を鈍い殺さんとばかりに殺気が漏れて、さらに機体の色がさらに赤くなって、まるで血を求める悪鬼のような風貌に見えた。
『ルビィじゃねぇ、アタシはサフィだ!!テメェはこのアタシが粉微塵にすりおろしてやるってんだよ!!ファングゥ!!』
背中の大型のパーツから飛んでくる突起物……ルビィちゃんの言うところのファングが大量に飛んできて、私はたまらずそれから逃げる。そして冒頭に戻るという状況なわけだった。
『うわぁ……ルビィちゃんってあんな感じになるんだ』
『ずら……正しく赤い悪魔ずら』
ここからだいぶ離れた場所でビームの撃ち合いをしてる千歌ちゃんと花丸ちゃんまでそう言ってる。というか花丸ちゃんは仲間なんだから援護して欲しいんだけど!?
『ったくどいつもこいつも、アタシにストレス貯めさせやがって……ざけんじゃねぇぞ(自主規制)がぁぁ!!』
「お、落ち着いてルビィちゃん!!」
『誰がルビィだ!!アタシゃサフィだ!!名前間違えんなよこのあばずれがぁ!!あぁむしゃくしゃするなぁ!!もういっちょファングゥ!!』
さらにファングを飛ばしてきて、その数は既に30を優に越すことになっていた。どこにそんな数仕込んでいるのやら
「ってそんなこと言ってる場合じゃないってぇ!!」
慌てて撃ち落とそうとビームを連射するのだが、ご丁寧にもナノラミネートコーティングされていて、それさえも弾かれてしまう。
「花丸ちゃん!!援護、援護プリーズ!!」
『しょうがない、本当は取っておきたかったけど仕方ないずら』
と、そう言うとあっさり花丸ちゃんは千歌ちゃんのコックピットブロックをビームで突き刺して終わらせる。
『ちょ!!私の出番これだけ!?』
『尺が無いから仕方ないずら。それより曜さん、少しでいいからルビィちゃんの動きを止めてほしいずら』
「了解!!」
私はその言葉を聞いてムラマサを納め、ファングを抜いたビームサーベルで斬りながら突貫する。
『ピキャギャギャ!!気でも狂ったか!!』
「そんなわけ、無いよ!!」
途中かなりの数のビームを食らうが、それをものともせずに接近し、ついに直近まで近づき、再びムラマサを振るう。
「これ以上暴れさせない!!」
『ピキャギャギャ!!そんなボロボロの機体でなにができる!!』
「足止めくらいならできる!!」
そう言ってバルカン砲を射ちまくる。近くのせいかコックピットに良く直撃し、慌てて赤い悪魔は後退する。
『クソが!!調子に乗るなぁ!!』
「だったらさっさと墜ちてよ!!」
『ふざけんなこの百合ビッ○が!!テメェなんぞお呼びじゃねぇんだよ!!』
『――とりあえずルビィちゃん、少し……頭冷やすずら』
まるで底冷えするような言葉と共に、突如として巨大な一本のビームとそれに呼応するように周りの4本の巨大なビームのようなそれが飛んできて、中央の1本に私とルビィちゃんが貫かれる。
「えちょ!?花丸ちゃん!?」
まさかの出来事に私の思考が追い付かない。え、どう言うこと?
『国木田流必殺技、Iフィールドバンカーファランクスずら。これからゆっくり閉じていくから、覚悟するずら』
『閉じる?ま、まさかあの四つのビームは……』
『死人に口無しずら、とりあえず地獄の一丁目に逝ってらっしゃいずらよ』
ゆっくりゆっくり、狭く閉じてくるビームの刃に怯え、やがて最後には重なるようにそのビームの刃が閉じて爆発、四散するのだった。
「うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい……」
バトルが終わった直後、あの強面やくざもかくやというような恐ろしいルビィちゃんは消えてなくなり、寧ろ何時ものような小動物に戻っていた。
あのあと、すぐに昴君も撃墜されたらしく(本人曰く、あの弾幕の中で接近戦は不可能らしい)、何やら苦笑いを浮かべていたところを私はすぐに直撃して聞き出していた。
「やっぱあの状態になってたか……」
「昴君、知ってたなら教えて欲しかったんだけど……ていうかアレってどういうこと?」
「ルビィのサフィモードのことか?」
そう、それである。まさかあんなトンデモバーサーカーな状態になるなど、前もって言ってくれなかったらおかしいんだけど。
「うーん、説明が難しいんだが、簡単に言えばルビィは二重人格みたいなもんだ。しかも自動切り替え型の」
「それは何となく分かるけど……どうしてあんな風に?」
「ルビィは前々から周りの機嫌を取りながら生活してたせいで、知らず知らずにストレスを溜め込んでてな、それが自分の好きなガンプラバトルになるとリミッターが外れるんだ」
それは……なんとも面倒というかなんというか……私だったらそんな生活し続けられないんだけど。
「しかも厄介なのが、ストレスを溜め込めば溜め込むほどに狂暴性が増すというか……今日のはあれでもまだマシな方だな」
「え"アレより酷い状態があるの!?」
「そうだな……一番酷かったときはバトル終わっても数時間、手に拷問用の鞭持って山の木々を伐採してたし」
「いや鞭で伐採って……」
あり得ないでしょと思っていると、昴君はスマホから動画を選ぶとそれを見せてくる。するとそこにはゆらりと歩く鞭を持った女の子が、見覚えのある神社の近くの林の木々にそれをぶつけ回し、やがてだんだんと倒れていくという映像だった。
「……ねぇ、これ何年前?」
「丁度一年前の春先だ。あったろ、内浦赤鬼騒ぎ」
それは確か、風が強くないのに急に木々が倒れて、その近くにお面を着けた赤い鬼がいたとかいう……ってまさか……
「それがその時の映像なの!?」
「そういうこと。ちなみにストレスが溜まれば溜まるほどガンプラバトルで強くなるから、ある意味安心だろ?」
「むしろ不安しか無いんだけど!!」
良くそんな子を弟子にしてたのかと不思議でならないが、まぁ昴君の事だから色々と制御してるんだろうな~
「まぁ一回バトルさせればリセットするし、何もなければ一週間ぐらいは最初の大人しい状態でバトルしてくれるよ」
「……私としては是非ともそうしてほしいよ」
何せ千歌ちゃんはちょっと纏め役には向いてないし、梨子ちゃんはビルダーとして暫くはみんなの機体の修理を引き受けなきゃだしで、私が引き受けなきゃいけないしね。
え?昴君?昴君はプロだから、プロとしての仕事もあるから論外なんだよね~はぁ、これからどうしよう……。
渡辺曜高校二年生、部活の本格開始から二日目で、すでに波乱の展開が目に見えてるであります……。