ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~   作:ドロイデン

27 / 71
ファーストステップ その八

 迫り来る剣撃に、私は残っている右手の大剣でなんとか防ぐ。一合一合、まるで乱撃のような斬り合いに、私の『インパルス』は押し込められていく。それに何よりも、

 

「速すぎる!!量産機ベースなんでしょ!!」

 

 そう、まるで量産機というにはおかしい速度で振られる直剣の一撃は、まさしくガンダム系のパワーにも匹敵してもおかしくないそれだった。

 

『そういや、千歌は知らねぇんだったな。俺の『ジン』について!!』

 

「え?」

 

 鍔迫り合いの最中、明かにあり得ないパワーに驚きながらもそんな昴君の言葉を聞き受ける。

 

『元々、SEED系のMS全てはこの『ジン』から始まった。そしてそれがやがて拡張性が高まって、色々なMSに転じていった。桜内さんの『ザクファントム』やお前の『インパルス』のようにな』

 

 だが、そう呟く昴君の剣が私の大剣を押し返してくる。

 

『『ジン』には有って、他のSEED系のMSに無いものがある。それは、扱いのしやすさと、機体自体の能力の高さだ』

 

「それって……」

 

『『ザクファントム』は様々なウィザードを変更することで能力を適材化する。が、逆に言えば全てのウィザードを使いこなせなきゃいけないうえに、それが無くなれば機動性は皆無だ。ガンダム系は能力が特化していて扱うのにも慣れれば良い。が、慣れるまでに時間がかかるうえに、適材じゃない場所……例えば水中や森林等では特化した能力が活かせづらい!!』

 

『だが、『ジン』は違う!!装備自体が扱いやすくシンプルなうえに、コーティングさえしてしまえばビームサーベルとも渡り合える!!機動性も装甲もチューンアップすればガンダムにも引けを取らない!!故に!!』

 

 まるで殺気が乗り移ったような剣の一撃に、ついに対艦刀は真っ二つに切断された。ビームの出力をものともせず、ただ真っ直ぐとその直剣は振り抜かれた。

 

『『ジン』こそが、SEED系の最強!!そしてこの『ジン・AHM』が最も軽い今、速さで勝てる機体はこの場には無い!!』

 

「こなくそ!!」

 

 すぐに持っていた大剣を捨てて距離を取るが、予想してたかのように離れず飛んでくる。再び振り下ろされる直剣に、慌てて『フラッシュエッジ』を右肩から抜いてビームサーベルのように構える。

 

『千歌ちゃん!!今援護に!!』

 

「来ちゃダメ!!今の曜ちゃんじゃ的にされるだけだよ!!」

 

 それに仮に二人で挟み込めたとして、相手は怒りでリミッターが外れた昴君だ。あの時みたいに『アシムレイト』が発動されてないみたいだから7~8割ぐらいだろうが、()()()()()の半分以下でさえギリギリ善戦していたぐらいだ。今の昴君が剣だけしか装備してないとはいえ、左腕が肘下から無い私と、バックパックを切り落とされて機動力がない曜ちゃんではかなりキツイ。

 

『でも!!このままじゃ千歌ちゃんも!!』

 

「私はまだ大丈夫!!それより曜ちゃんは梨子ちゃんのところに!!まだ梨子ちゃんのアレが使えるはずだから!!」

 

『ッ!!三分で戻るから!!』

 

 通信を終えて戦いに集中するも、実践経験の差なのか、再びの鍔迫り合いもかなり押し込まれてる。けど!!

 

「てりゃぁ!!」

 

 私は右足で昴君の機体を払うと、まるで滑るようにその体勢が崩れていく。

 

『んなろ!?』

 

 が、すぐに体勢を立て直されてしまうが、距離を取られた。私は急いで背中のホルダーに収められているライフルを肩ににキャノンのように展開し、交互に狙ってとにかく撃ち抜く。

 

『くそったれ!!火力にものを言わすってか!!』

 

 ステップを踏むように避け続ける昴君だが、それでも打ち続けられるビームの雨には近づけないのか、徐々に徐々に後退していく。

 

『……なぁんてな!!』

 

「え?」

 

 と思いきや完全に背中を向けて私の目の前から去っていく。一瞬何事かと呆けるも、すぐに慌ててレーダーを確認し追いかけると、なんと曜ちゃんの方に向かって昴君の機体が進行していた。しかも徐々に引き離されはじめてる。

 

『いくら速い『デスティニーR』装備してても、一瞬早く移動できれば、機動性が無いに等しい曜達二人を倒すなんて簡単なんだよ!!』

 

「ぐ、戦略が読まれてた!?」

 

 急いで機体の全力で追いかけるも、昴君が言ったように速さで負けているのか、全くもって追い付けていない。

 

『当たり前だ!!大方、バックパックの接続を桜内さんがカスタマイズして『ウィザードシステム』に対応できるようにしたんだろ?つまり、狙いは『クロスボーン』に『ブレイズ』を装備させること!!違うか?』

 

 大当たりだった。むしろ正解という以外に何もない。それでも私はライフルを抜いて昴君のいる方角に構える。

 

「邪魔されるわけには、いかない!!」

 

 レーダーを確認し、出力を最大値まで上げた火線がまっすぐに向かう。なんとか曜ちゃんと出会う前に足を……え?

 

「届いてない……そんな!?」

 

 どうして、そう思いながら確認すると、既に粒子量が限界値の近くまで尽きていたのだ。つまり本来なら届くはずのところまで粒子量が足りず、中途半端になってしまったのだ。

 

 完全に失策だった。粒子の消費が少ないとはいえ対艦ビーム刀長時間使ってたうえに、何も考えずにあんな火力のビームを射ったりすれば、こうなるのは当たり前だった。

 

『万策尽きたな千歌!!悪いが勝負は勝負だ……二人を確実に倒したあとに……!?高出力アラートだと!?』

 

「え?」

 

 対戦通信で聞こえたその言葉の直後、あり得ないほどの轟音が昴君のいる方角から聞こえた。だが、今のは確実に私が射った攻撃じゃない……

 

「いったい……」

 

 なんでと思った次の瞬間、その答えはすぐに分かった。

 

『ふぅ、ギリギリセーフね。オルトロス回収してて遅くなったわ』

 

「梨子ちゃん!?」

 

 そう、私達の最優秀ビルダー、桜内梨子ちゃんの声が確かに聞こえたのだ。

 

『ばかな!?桜内さんの機体は腕から何からダルマにして無力化してたはず!?それがなんで『オルトロス』を射てる!?』

 

 昴君の言葉は確かにだ。だが、忘れてはいけないことがある。それは、

 

『昴君こそ、私がメイジン杯に挑もうとしてたってこと忘れてたでしょ?作り込みに関しては私の方が上なのよ』

 

『なん……!?そういうことか!!』

 

 梨子ちゃんの機体の姿を見て昴君は漸く納得した。そこには小型の翼のようなものが展開され、映像から見て左側に大型のビーム大砲、左にエネルギーポッドを装備し、さらにミサイルポッドの間に尖った白いものが取り付いた……戦闘機の姿がそこにあった。

 

『シルエットフライヤーをカスタマイズして取り付けて『G-ディフェンサー』みたいにしてあったのか!?』

 

『そうよ!!ネットで昴君が『ザク絶対殺すマン』なんて言われてるって知って、作った脱出機構!!本気で戦われて勝てなくても、支援は欠かさないのよ!!曜ちゃん!!』

 

『ヨーソロー!!分かっております!!』

 

 と、今度は曜ちゃんが昴君に近付いて、持っていた大剣のビーム刃を展開して斬りつける。と、さっきまでなら剣で防いでいた筈が、今度は振られる度にステップで避けている。

 

『この場面でまだムラマサのリミッターを解除できる粒子を残してたか、曜!!』

 

『当たり前だよ!!それに、昴君こそその剣を切り落とさせてよ!!もうコーティングも限界なんでしょ!!』

 

 曜ちゃんの言葉通り、昴君の剣を良く確認してみると、所々ボロボロになっていて、下手したら折れても不思議じゃないくらいになってるほどだ。

 

『分かっててヤりやがるか!!』

 

『当然!!……梨子ちゃん後はお願い!!』

 

 と、曜ちゃんの言葉を受けて、今度は梨子ちゃんが私の方に近づいてくる。

 

『千歌ちゃん、今すぐドッキングするから、3-Aスロットを押して』

 

「わ、わかった!!」

 

 言われた通りのボタンを押すと、バックパックがパージされ、梨子ちゃんの戦闘機のミサイルポットのウイングパーツが収納されたと思うと、なんとパージされた大型ウイングが外れ、それぞれがポットの両脇にドッキングされたのだ。

 

 さらに驚くべきことに、繋がっていた梨子ちゃんの大砲の粒子タンクからエネルギーが供給され、さっきまで空っ穴だったのが、半分近くまで回復してしまったのだ。

 

「これって……」

 

『元々千歌ちゃんのインパルスはね、素組の時の粗さのせいで最大粒子量が少なかったの』

 

 え?それじゃさっき動けなくなったのって……

 

『だから昴君と私と千歌ちゃん達が戦うことになって、それだと戦いにならないから、もしもの時を考えて、あえて完全に作り込まないで『デスティニーR』とかをベースに取り付けただけにして、その時が来たらフィールドでドッキングさせて、完成体にするつもりだったんだ』

 

「じゃあ……」

 

『そう、千歌ちゃんの専用機、『インパルスガンダム・サラバティ』の完成よ!!』

 

 そう言われ、嬉しさの余りに泣きそうになるが、今は堪えた。粒子ポッドのエネルギーが尽きて、大砲と共にパージされて、私は深呼吸と共に大剣を抜く。

 

「ふぅ……行くよ梨子ちゃん!!」

 

『銃の火器管制サポートは任せて!!千歌ちゃんはとにかく、足止めしてくれている曜ちゃんの元へ!!』

 

「分かった!!……ありがとね、梨子ちゃん」

 

 どういたしまして、と返され笑って答えると、私はスラスターの全てを吹かせて昴君の所へ駆け抜ける。さっきよりも早く鋭い動きに驚きながらも、私は楽しくなって笑顔が溢れる。

 

『ち!!もうドッキング……ってなんじゃそりゃ!?『ブレイズ』と『デスティニーR』を戦場でミキシングドッキングなんて、聞いたことねぇぞそんなの!?』

 

 漸くたどり着いた先では、かなりボロボロになって倒された曜ちゃんの姿と、剣が二つとも半ばから折れて、曜ちゃんの剣を手に構えて止めを刺そうとする昴君の姿があった。

 

「驚いてる暇は無いよ昴君!!梨子ちゃん、ミサイルよろしく!!」

 

『分かってる!!残ってるの全部使いきるから、次はないわよ!!』

 

 そういいながらコンテナを開きミサイルを計六発……それも一つからさらに8発ずつ射たれる拡散ミサイルを昴君目掛けて飛ばした。

 

『くそが!!厄介な代物を残しやがって!!』

 

 悪態をつきながら、昴君は一つ一つを紙一重で避けながら、時には曜ちゃんから奪い取った剣のライフルで迎撃しながら私との距離を詰めてくる。

 

『千歌ちゃん!!』

 

「分かってる!!ここでなんとしても!!」

 

 右手の剣を握り直しながら、迫ってくる昴君の動きを良く見る。一瞬の隙を見逃せない、そんな気持ちが私のなかで暑く残る。

 

『チィィィカァァァ!!』

 

「すぅばぁるぅぅぅ!!」

 

 叫びと共に互いの剣がぶつかりあう。衝撃が今までのそれとはまるで違う。自分自身の感覚で剣を振るうような、そんな感覚が呼び起こされた。

 

『これは……アシムレイト!?千歌ちゃん!!昴君!!』

 

 梨子ちゃんが何かを言ってるが、そんなことは今はどうでもよかった。楽しい、超えるべき敵と戦えることの楽しさが私の胸を踊らせた。

 

『アシムレイトを怖がらねぇとはな……やっぱりお前はバカ千歌だ!!』

 

「バカは昴君だよ!!こんな楽しいことから逃げようなんて!!」

 

『そうだな……バカは俺だな……なんで忘れてたんだろうな……ガンプラバトルが……こんなに楽しいものだって事をな!!』

 

 まるで吹っ切れたかのように鋭く犬歯を剥き出しにして叫ぶ昴君の勢いに萎縮するが、すぐに私もニヤリと笑って返す。

 

「やろうよ昴君!!今からでも、私達と本当のガンプラバトルを!!」

 

『……それも一興だな。だがな……今ここで勝つのは()だ!!』

 

「……ううん、勝つのは()()だよ!!」

 

「達……だと?」

 

 そう、私一人だったら昴君とまともに戦うことすらできなかった。ガンプラ作りも下手っぴで、バトルもそんなに上手くなくて……どこにでもいる普通の女の子だった。

 

 それを曜ちゃんが、梨子ちゃんが、フェリーニさんや特訓に手伝ってくれた人達が、皆が居たから……私はこの場に今立っていられる。

 

 だから負けられない。皆の思いに答えるためにも、今この一瞬だけは……勝たなきゃいけないんだ!!

 

「そうでしょ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヨーソロー!!痛いけど……分かっております!!』

 

 ポロボロの機体を無理させて立ち上がる、水色の機体を動かす仲間の、親友のその言葉と、手に持っているビームサーベルに笑顔を向けている。

 

『しまっ!?』

 

『ウォォォォ!!』

 

 いきなりのことに対処できなかった昴君が振り返ろうとして隙ができたその瞬間、私は競り合ってる剣を手放し、傾く昴君の『ジン』の胸に手を当てた!!

 

『ハッタリ!?まさかパルマキオを射つための!?』

 

 分かっているのか驚いているが、既にそれでは遅かった。

 

「これで!!」

 

『おしまいよ!!』

 

 手から目映い光と衝撃と共に、昴君の機体が一歩、また一歩と後ろに進み、丸く空いた胸を晒して、ここに『灰光の流星』が、ゆっくりと倒れ伏し、試合終了のアラートが鳴り響いた。

 

 

 

 

「勝負あり、勝者は千歌っち達、チームAqours!!よって部の発足を認めます!!」

 

 鞠莉さんの言葉に呆然としていた私に、かなり息絶え絶えの昴君が、フェリーニさんに肩を貸されながら寄ってくる。

 

「お前の勝ちだな……千歌」

 

「昴君……私……私……!!」

 

 アシムレイトの反動で辛いはずのに笑いかけてくる友人に、色々が混ざりすぎて涙が出てきて、思わず抱きついてしまう。

 

「おいおい……勝ったのに泣いてちゃ世話ねぇぞ、バカ千歌」

 

「バカでいいもん!!嬉しかったり悲しかったりでごちゃ混ぜ過ぎて、勝手に涙が出てくるんだよ!!」

 

「たく……胸を張れよ後輩(チャレンジャー)、勝ったやつの責任ちゃんと果たせよな」

 

「うん……うん!!」

 

 そう言って疲れて眠る昴君に、赤くなった目を擦りながら、私達のデビュー戦は、漸く幕を閉じたのだった……。

 

 けどまだ私達は知らない。既に次の戦いの幕が少しずつ、だが着々と進んでいたということに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???side

 

『……って強すぎなのよ!!少しは加減ぐらいしてよ』

 

 

 

『良いよね……は、才能があって』

 

 

 

『……とバトルしてもつまらないのよ』

 

 

 

『そんなにバトルしたかったら……、あんた一人で……』

 

「うるさいうるさい!!」

 

 いつになく寝覚めの悪い夢を見て跳ね起きた私の目には、いつもと変わらない私の部屋が映っていた。

 

「……久しぶりね、あれを見たの」

 

 少し前までなら毎日のように見ていた悪夢にため息を漏らしながら、私は机に置かれているそれに目を向ける。

 

 忌々しく、吐き気がするほど嫌いなはずのに、いつになっても捨てることのできない、黒く塗られた翼を持つ私の分身。

 

 そしてその近くには、乱雑に置かれた『()()()()()()』の期限切れの推薦書が未練たらしく残されていた。

 

「……ッ!!こんなもの!!」

 

 あまりの苛立ちに、それを引っ掴むと勢い良く破り裂いた。そうだ、私はもうやらないと決めたはずなんだ……だから……!!

 

「……ッ!!」

 

 分身に手を伸ばそうとするも、寸でのところでそれも止まる。数秒考えるのちにその手も下がり、逃げるようにベットに隠れる。

 

「私は……私はヨハネ……ガンプラファイターの津島喜子じゃない……普通の女の子のヨハネ様なのよ……」

 

 言い聞かせるように呟くその言葉を唯一聞く私の分身は、どこかその黒い翼を悲しく下げていたような、そんな感じがした。




次回から一年生加入編に入ります。はてさて、どんな人間模様が映るのやら……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。