ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
「…………」
土曜日、練習が終わり、宛がわれた部屋に戻った俺は、自分の『ジン・AHM』を眺めていた。
(……ダメだ。俺の技術じゃあの二人には遠く及ばない)
それはAI相手に練習していたとき、援護するべき場面で何回かミスしていた。
元々が高機動強襲をベースに組んだために、援護するための武器が大型のパージ前提の火器だけ。まぁそれはコンセプトの都合上仕方ないのではある。
(機体自体は過去に自分で造れた中で最高峰の出来……それを俺は扱いきれてないのか……?)
ならば援護用に新しく作るべきか……だが現実問題として今日は土曜日、しかも既に夕方、いかに頑張っても調整がギリギリになってしまう。
「煮詰まってますな~」
「真央さん……」
と、まるで察したように真央さんは缶コーヒーを片手にやって来る。
「……さっきの連携の特訓、俺は何度か援護する場面でミスをしてました」
「ミスって、ちゃんと援護射撃としては機能してましたけど?」
「いえ、もう少し状況を判断していれば、少なくとも余計なエネルギーを使わずに済んでたはずなのに……」
特にフェリーニさんが操る素組の『フェニーチェ』の援護の際、高火力で粒子消費の多いビームを、相手の動きを止めるだけなのに、余計に二発も射ってしまった。
「気にしすぎですよ。そんなことを言ってたらワイはほとんど援護なんて出来とりませんし」
「真央さんは基本的に動かないで、サテライトキャノンで根こそぎ落とすプレイをしてもらってますからね。仕方ないとは言えますよ」
なのに俺は、肝心の援護で無駄射ちして、機体本来の強みを全く生かせてない。
「だったら昴はんが前衛に入れば?そうすればフェリーニはんも援護に入るかと」
「いや、それはダメだ」
だってそれだと、
「また暴走したら……今度こそ千歌や曜にトラウマを与えちまう……アイツらから夢を奪っちまう。それだけは絶対にダメだ」
「……そういえば、その二人もあの時開場にいましたね」
「そうだ。それでも、二人は俺がガンプラバトルを諦めないでくれって応援してくれた。けど、それはただアイツらがアシムレイトの恐怖を知らないからだ」
俺が本気で戦うことができるのは、本当に一人だけで練習するときだけ。それでも毎回制御できなくて、機体が爆発したときなんかは痛みで失神したことだって一度や二度じゃない。
「だから…………もしも三人と戦って暴走して、三人にトラウマを与えてしまったなら……今度こそ俺はガンプラをやめる。キットも今まで作り上げてきた機体も、道具も含めて全て処分し……
「…………そうですか」
何か言いたげな真央さんだったが、あえてなにも言わずに部屋から出ていった。空にはどんよりとした黒い雲が、徐々に徐々に、窓の外を埋めていった。
真央視点
「どうだった、昴のやつ」
部屋を出た直後、まるで待っていたように姿を現す戦友であり好敵手に、若干のため息が漏れる。
「あかんですわ。昴はん、昔を引きずりすぎてはります」
「だろうな……俺がアイツの立場でも多分そうなる。で、アイツはなんて?」
「もしこの試合で暴走したら、ファイターもビルダーも引退して、街を去る言うてました」
そうか、それだけ言うとフェリーニはんは廊下を引き返す。ワイもそれに習って後を追うことにした。
「案外、ホントに昴のやつはレイジに似てやがるよな」
「そうですね。雑に見えて相手を気遣って、バトルには真剣に取り組む、それがレイジはんの姿ですから」
「そりゃそうだが、アイツは似なくて良いところまで似てやがるからな」
似なくて良いところ?その言葉にワイは首を傾げた。
「レイジはああ見えて、考えすぎて空回りすることも何度かあった。特にあの準決勝、アイラ・ユルキアイネン戦の前夜なんか、葛藤しすぎてたんで拳で語り合ったくらいだ」
「……そうやったんですか」
「ついでに負けず嫌いときたもんだ。もしアイツが赤い髪してたら、写し身かと勘違いしてたな」
豪快に笑うフェリーニはんに、ワイもつい釣られて笑ってまう。
「そういや、昴はんの援護射撃は充分役割果たしとる気がしますけど、フェリーニはんはどう思いますの?」
「ん?ん~……そこは微妙っつうところか。相手方の嬢ちゃん達を少しだけ見てきたが、どいつもこいつも原石ばかり、μ'sに比べりゃ資質は低いだろうが、それでも充分化けておかしくない」
中でも赤い髪の子の作る機体は怖い、そう言いきるフェリーニさんの表情はどこか厳しいが楽しみにしてるようなそれだった。
「なら他の二人は?」
「一人は完全な猪突猛進型、見た目はどうもアホっぽいし周りを巻き込みそうだが、多分、高機動接近戦とかやらせて、それなりの技量があれば間違いなくこっちが手を抜いたら落とされかねない」
その言い方に、恐らく去年昴はんの病院に行ったときに会った、オレンジの髪の溌剌とした少女だと感じとる。となると……
「もう一人は援護型の機体だろうな。本人の気概もそうだが、どうもガンガン攻めるって言うイメージが湧いてこない分、周りを上手く判断して援護に回るタイプ」
確かに、その子と一緒にいた灰色の髪の少女は昴はんの身の回りのお世話とか、話題作りとか、とにかく雰囲気を良くしようと回っていた気がする。
「と考えると、もう一人の赤い髪の嬢ちゃんは多分後衛射撃援護型だな。パターンとしてはファンネル系かスナイパーライフルか……はたまた重粒子砲の三つだろうな」
「そういえば昴はん、相手方にザク使いがおるって言ってましたから、多分その子やないですか?」
「ザクで遠距離だとすると……『ザクスナイパー』って線は低そうだから、『SEEDザク』、それもガナー装備か……依りにもよって昴の野郎が一番暴走する可能性のある機体じゃねぇかよ」
そう、一番の懸念事項がそれなんやけど……はたして昴はんの友人のお二人が伝えてるかと言われると……
「……ま、運が悪いとしか言いようがねぇな。うん」
「そうですね。あ、久しぶりにフェリーニはんとサシで戦いたいんで、一戦どうです?」
「そうだな。どうせ昴は暫く固まるだろうしな」
そういってワイらはバトルスペースに進路を変える。ちなみに勝敗については、フェリーニはんが上機嫌でお酒を飲んでおったので察してもらえるとありがたいですわ。
曜視点
ヨー……ソロー……!!只今私、渡辺曜はとある海小屋のバトルルームの一室にてぶっ倒れております。というのも
「ふん、最初よりはだいぶ動けるようになったじゃないか」
黒い髪をオールバックに黒いコートを着た美青年……黒澤家の網子蟹漁師、霜澤シャギア(イギリス系ハーフの現在31歳)さんにこっぴどくガンプラバトルで打ちのめされていました。
ちなみに千歌ちゃんはこの人の弟のオルバさんと、梨子ちゃんはフェリーニさんの旧友らしい小原財閥警備部門、通称『プリベンター』のノイン夫妻と、それぞれ別の場所で練習中であります。
「さて、バトルしていての一先ずの総評とさせてもらうが、構わないかな?」
「は、はい!!お願いします!!」
「ふむ、まず君の機体だが、中距離戦主体としてのカスタマイズされている分、元の『X3』よりは火力としては問題ない。『ムラマサ』も素組のよりシャープにしてあることで切れ味は上がっている……まだそこまで作り込んでないという点を除いても充分戦力としては期待できる」
……なんだか誉めすぎてるような……つまり、ここからは問題点かな?
「だが、バックパックを『ヴェスバー』に変更したことで、全体的な推進能力……詰まるところ機動性は大分落ちてしまっている。元よりABCマントが無かった『X3』ではこれは大分痛手だ」
「なるほど……」
「加えて、全体的に粒子の使用量が多すぎる。ガンプラバトルでは機体に割り当てられる粒子の量は限られてる。その中でも『クロスボーン』シリーズは使用量が激しい事を加味すれば、短期決戦ないしはソロマッチ戦向きの機体だろうな。ゆえに、バカスカ射つことはできないと考えてくれればいい」
言われてみれば、『ムラマサブラスター』のビームライフルとビームサーベル、『ヴェスバー』に『ビームシールド』と、全体的にビーム兵器ばかりだった。
「次に君の技量だが……」
「」ゴクリ
「……正直に言えば、動きが基本に忠実過ぎる。移動、射撃、近接戦闘のどれをとってもそれでは相手に動きを読まれるのは必至だ」
厳しい指摘に少しだけ俯く。やはり年長者というか、長年バトルしてきた人間には通用しないということなのだろう。
「ただし、バトル初心者という面を鑑みれば、成長速度は充分早いうえに、手先が器用なのか、牽制射撃も随分と様になっていた」
「それなら……」
「今すぐにとは言わないが、少なくとも熟練すれば充分に通用する実力がつくのは認めよう。であれば、あの魔王の『GX』とも少なくとも対等に渡り合えよう」
そういうシャギアさんの顔は何やら悪者のそれだが、まぁこれがこの人の素らしいので置いておこう。
「さて、それでは再び練習だ。私の愛機は狂暴だぞ?」
「ヨーソロー!!上等であります!!」
その数十分後、私と私の『カノーニア』は余裕で吹っ飛ばされるのは別の話です