ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~   作:ドロイデン

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ファーストステップ その三

「む~……難しい」

 

 どうもヨーソロー!!毎度お馴染みの渡辺曜です!!あぁ、開幕から千歌ちゃんのむくれてる姿なんて……これだけでご飯三杯はイケるよ!!

 

「ほら千歌ちゃん、もう一回練習しよ?」

 

「分かってる!!分かってるんだけど……」

 

 今はひとまずの休憩で、私はその間に衣装を作成している。既に梨子ちゃんのサイズも図り終えてるから楽と言えば楽なんだけど、問題はやっぱり……

 

「千歌ちゃん、もしかしてあの事を思い出してるの?」

 

「う……」

 

「あの事?」

 

 梨子ちゃんはどういうことか分からないのか首を傾げる。

 

「そっか、梨子ちゃんって世界大会の中継とか見てないんだっけ?」

 

「ええ。私はあくまでもビルダーだったし、何よりバトル自体そこまでやる方じゃ無かったから」

 

 梨子ちゃんのようなタイプは良く居る存在で、趣味としてガンプラを作成する……所謂『模型派』と、昴君のような作るのは当然としてバトルもする……所謂『武闘派』という風に分かれてる。

 

 当然、どちらの派閥でもガンプラバトルの世界大会というのは大きなもので、『模型派』の人でも世界大会の予選に出場するという例は少なくない。っと、話がずれたずれた。

 

「それであの事っていうのはね……昴くん、一度入院してるんだ」

 

「……それって事故にあってっていうこと?」

 

「うーん、そういう訳じゃないんだ……」

 

 でもほんと、今思えばよく果南ちゃんが大爆発しなかったと不思議でならないくらいだ。

 

「じゃあどうして……?」

 

「…………梨子ちゃん、前に一度だけ話したよね。昴君は家を抜け出してテントで生活してる時があるって……」

 

「えぇ、それが?」

 

「ほんとはね、昴君自身が恐れてるんだ……一人で居ることを」

 

 その瞬間、梨子ちゃんは驚いて目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昴君はね、こっちに来てすぐに両親から捨てられたの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捨てられた……?でも、だったら……」

 

「正確には、転校してきたその日に両親が事故で亡くなって……そのトラウマで昴君は両親は蒸発したって思い込んでたのと、それが原因で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……でも、どうしてそれを曜ちゃんが?」

 

「あ、そっちは単純に、私のお父さんと昴くんのお母さんが兄妹なだけ。従兄弟なの」

 

 ホント、今思えばそれだけが不幸中の幸いだった。そうじゃなかったら多分昴くん、すぐに自殺しててもおかしくないくらいな精神状況だったし。

 

 当時の昴くんはその思い込みで他人不信になってしまい、学校でもその他人不信から友達も出来ず、結果として一人になって精神的に病んでしまった。

 

 バスケを始めたのもそれが漸く落ち着いてきた頃に、果南ちゃんの薦めで始めたのがきっかけだった。まぁ中学最後は人数問題でユニフォームは貰えなくて悔しがってたが。

 

「なら入院って……精神科?」

 

「うん、けど入院したのは去年の夏から秋ごろまでだけどね」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……()()()()()()()()()、世界大会の予選リーグ決勝の日、偶々交通事故を目撃しちゃって……()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暴走?」

 

「思い出したショックなのかな……、昴くんはアシムレイトっていう能力を身に付けた……それも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていう嫌なオマケ付きで」

 

 今思い出すだけでも恐い。昴くんの攻撃を受けた相手選手が痛みで悲鳴をあげ、昴くん自身も恐慌状態で錯乱して……予選敗退が決まってた選手たちが総出で助けようと機体を攻撃しても、逆に痛みでヤられ……ある意味黒歴史となってしまった。

 

「結果として昴くんは失格扱い、背景を知った選手の人達からは、昴くん自身が悪いんじゃないって言ってくれてたし、勿論トラウマを乗り越えるように応援もしてくれたけど、周りやマスコミはその事を叩きまくった」

 

 やれガンプラバトルを汚しただの、やれ孤児のくせにだの、今思えば腸煮えくり返って仕方がない。

 

 漸く収まったのは、世界大会終了後から二週間後、三代目メイジンを始めとした様々なファイター達の怒りがチェーンマインの様に爆発し何とか収まったものの、それでも退院しても暫くはガンプラを作れなくなってしまった。

 

「それに今も、昴くん自身の実力は本来の半分も出てない。寧ろ本気でやろうとすると、アシムレイトが暴走しちゃう……」

 

「……その暴走って、実際にどうなるの?」

 

「三代目メイジンさんの話だと、そもそもアシムレイトは機体を生身で動かすのと同じになる代わりに……ガンプラが受けた傷をそのままフィードバックしちゃうんだけど……昴くんが暴走するとそのフィードバックだけを相手と相手の機体にも同様に発生させるらしい」

 

 つまり、お互いにガンプラがダメージを受ければ、受けたダメージを使用するファイターがその分のダメージを肉体に受けてしまう状態になる。

 

 ガンプラの間接を反対側折れば、使用者の関節がぶっ壊れ、腕をビームサーベル切れば、ビームの熱と切られる痛みで悲鳴をあげる。そんな地獄絵図を繰り広げられた。

 

「……もしかして理事長もその事を?」

 

「勿論知ってるけど、今のところ回復の兆しは全くない事と、事件のせいでプロランク上昇も中々進まないって昴くん自身が言ってた」

 

 本当ならガンプラバトル引退も考えていたらしいが、そうなると生活費が全く無くなるためするにできないという悪循環。

 

「……千歌ちゃんはどう思ってるの?」

 

「……私は……少なくとも昴くんがまた本気でバトルできるようになって欲しい!!けど……」

 

 いつも前向きな千歌ちゃんですら、この事に関してだけは攻めあぐねてる。

 

「……だったら、その気持ちをバトルで伝えるしかないんじゃないかな?」

 

「それは……でも相手は昴くんだけじゃないんだよ?プロ二人と昴くん、三人のうち誰かを倒して……その上で……」

 

「それは違うよ千歌ちゃん!!」

 

 千歌ちゃんは私の言葉にへ?と呟く。

 

「三人じゃない、昴くんだけを狙っちゃえば良いんだよ!!そうすれば、幾ら昴くんでも本気にならざるを得なくなる!!」

 

「そっか、私達の勝利条件は誰か一人でも倒すこと……だったら他の二人を無視して昴くんだけを狙えば!!」

 

「ちょっと待って、無視するって言ってもプロよ?生半可な事じゃ逆に追い詰められて……」

 

 まぁ梨子ちゃんのいう通りな訳なんだが……でも、

 

「そこで盗み聞きしてる人!!出てきたらどうなの!!」

 

「「え?」」

 

 どうやら二人とも気づいてなかったみたいで驚いていると、出入り口の側から茶色のコートに無精髭、明らかに日本人じゃない男の人……

 

「り、リカルド・フェリーニ!?」

 

 対戦相手、イタリアの伊達男その人が立っていたのだ。

 

「やれやれ、お嬢ちゃん良く気づいたな」

 

「明らかに男性の臭いがずっとしてたから、もしかしたらって思って」

 

「そうかよ。ま、お嬢ちゃん方の話は聞かせてもらったわけだが……俺個人としてなら賛成だ」

 

 まさかの言葉に私達は揃って驚く。そりゃそうだ、まさか相手が負けることを良しとして……。

 

「勿論賛成なのは昴を立ち直らせるって言う面だけだがな。さすがに完全無視されて何もせずっていうのはプロとしては見過ごせないからな」

 

「「「デスヨネー……」」」

 

 実際そうだろう、でなきゃただファイトマネー貰うだけの無能だろうし。

 

「だからちょっとばかし賭けになるが……こっちに居るファイターに頼んで訓練を頼んでおいた。勿論実力はプロないしセミプロ級だ」

 

「そ、そんな人たちを態々ですか!?」

 

「どうしてそんな!!」

 

「んなもん、折角のファイターっていう仲間が停滞してるなら、どんな形であれ引っ張ってやるのが、俺たちファイターってわけだからだ」

 

 フェリーニさん曰く、ファイターは後輩のファイターを育成するのが好きなのだと、そう言った。

 

「俺も昔、一人だけだが後輩のファイターを指南してやった。そいつは俺が滅多うちにしてやったのに食らいついてきて……最終的には世界大会優勝を成し遂げちまった」

 

「…………」

 

「まぁそいつがファイターとして活動したのはたった半年程度だが、それでもあの昴にはアイツと同じ雰囲気があった。挑戦者っていうそれがな、今のお前たちと同じだ」

 

 フェリーニさんは哀愁漂うようなそんな感じで告げるが、どこかギラギラとした炎のようなものが見てとれた。

 

「アイツに勝ちたいなら、ともかく力を付けろ。がむしゃらでも何でもいい、思いを届けるには本気じゃなきゃいけねぇからな」

 

 フェリーニさんはそう言うと、颯爽と部屋から立ち去ってしまう。

 

「あれが……世界大会決勝リーグ進出者の貫禄……」

 

「……そうね、見てるだけなのにどこか萎縮してた……」

 

 私も梨子ちゃんも、揃ってあの人と本気で戦うことになる……それを思うだけで恐くなってきた。

 

「……やろう、二人とも」

 

「千歌ちゃん?」

 

「あの人の言う通りだよ、私達は挑戦者なんだよ!!だったら精一杯、あの人や昴くんに食らいついて……絶対に勝つんだ!!」

 

 そういう千歌ちゃんの体も震えていた、けどそれは恐怖じゃなく武者震いなのだと、挑戦者としての本能なのだと分かってしまった。

 

「……そうね、やるからには全力で勝ちましょ!!」

 

「ヨーソロー♪だったらすぐに練習しないとね!!」

 

 笑いながらバトルスペースに立ち、私達は再び練習を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 フェリーニ視点

 

「全く、末恐ろしい少女たちだぜ……」

 

「そういうわりには、目が燃えてるわね」

 

 サイドカーに座り、そんなことを言う妻に苦笑しながら、俺はアクセルを踏み込む。

 

「そりゃそうだ、三人とも、磨けば光る原石ばかりだったからな。今から戦うのが楽しみなくらいだ」

 

「そ、まぁ私も彼のバトルは正直、あの赤い髪の子にひけをとらないって思ってたしね。久しぶりにファイター復活しようかしら」

 

「そりゃつまり、ガンプラアイドルに復活と見ても?」

 

「ばーか、誰があんなハズい事やるのよ。歳を考えなさい歳を」

 

「はいはい。で、どちらに向かいますかSignora(スィニョーラ)?」

 

「そうね……なら世界大会開場にでも向かいましょ?久しぶりにあそこにあるバーで飲みたいから」

 

 任務了解、そう呟き俺はバイクを走らせる。思えば懐かしきあの場所へ向かう潮風を感じながら、俺は宿をどうしようと頭を悩ませるのだった。


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