ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~   作:ドロイデン

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ファーストステップ その二

 金曜日、あのあと一日が経って俺は自宅ではなく小原グランドホテルの一室に居た。というのも家が曜と隣ということもあり、機体そのものはバレているが、作戦まで知らずのうちに聞かれたらたまったもんじゃないからだ

 

「…………」

 

 朝に弱い俺だが、それでも朝食は食べる派なのでとりあえず下の食堂に向かう。さすがに四月中旬だからか宿泊客はまばらで、朝の静かな食事という雰囲気が……

 

「お久しぶりですな、昴はん!!」

 

 一気にぶち壊れた。この高い声に関西弁……横を振り向くとそこには、薄黒い半被に膝竹までのジーパン、モスグリーンの髪に線のように細い目……

 

「八坂さん!!どうしてここに!?」

 

 世界ランク48位『魔王』こと八坂真央の姿がそこにあった。室内であるためにトレードマークの黄色い帽子は首紐で後ろに回してあり、俺と大差ない身長なのに、さすがは二十代後半というか、それなりの覇気があった。

 

「到着はフェリーニさんと同じ明日だと……」

 

「ワイは大阪からやから、前入りして機体のズレを確認しに来たんや。フェリーニはんも、今日の北海道の便で東京に向かうってさかい」

 

「ってことは、ここ三日はキララさんの仕事か?フェリーニさんは」

 

 ホント、なんで結婚して愛妻家なのにナンパなんかするんだが……。

 

「せやろうな。それよりも朝食、食べましょうや。ワイもさっき到着してチェックインしたばかりなんです。どうです一緒に?」

 

「ええ。どうせここの朝食はビュッフェスタイルなので大丈夫かと」

 

 そう言いながら席を取り、互いにそれぞれ好みの品を取って戻る。

 

「しかし、いつも思いますが八坂さんの半被は彼女さんの旅館のですよね?」

 

「正確には今はワイもそこの従業員してますねん。彼女言うてもだいぶ歳のさがありますさかい、どうにも……」

 

「まぁそりゃそうですよね」

 

 前に一度だけその旅館に訪れたことがあるが、ホントに三十代かと疑うほど、全然二十代前半で通じる美貌を兼ね備えた若女将の姿を見て、おかしい!!と、某運命なガンダム乗りのように叫んでしまったほどだ。

 

「……それよりも、ワイとしては昴はんの食事の方に驚きですわ」

 

「そうですかね?ビュッフェとなったら食えるだけ食うのがいつものなんで」

 

「せやけど、なんで……なんでコーンフレークなんですの?オムレツやら、それこそベーコンとか美味しいもんもあるやないですか」

 

 まあ確かにそうなんだが……

 

「いや、ただ朝はパンとかご飯とかよりこういうのを中心に食べてるから。ビュッフェでもこれを朝に食べないと何時も通りじゃない気がして」

 

「あー、それは失礼をば……ルーティーンのような物ですか?」

 

「そう、それに近い。普通の平日なら兎も角、バトルとかする日はどうにもコーンフレークを食べないと活力が出ないんだよ」

 

 どうせ前入りと託つけて俺と本気のバトルをするつもりだろうし。

 

「さいですか。ところで、相手方の女の子にザク使いいらっしゃるんです?」

 

「……『ザク・ファントム』のカスタムが一人いる」

 

「……前回の世界大会みたいに、継ぎ目切りなんて悪趣味な事はせえへんでくださいよ?話によると継ぎ目そのものを切られたせいでガンプラの修理が出来なくなった例もあるらしいですし」

 

 八坂さんの忠告に、俺は苦笑いを浮かべる。ちなみにその事で俺の2つ名に『ザク絶対殺すマン(シリアルザクキラー)』などというふざけた名前を頂戴している。

 

「A判定なら兎も角、Cじゃそんなこと出来ませんよ」

 

「そらそうやろうな……」

 

「……まぁ足首から首関節までの関節という関節の全てを切り落とす位はするかもしれませんけど」

 

「逆に怖いですわ!?なにそのスプラッタな刻み方!?」

 

 そうは言うが、俺の機体のメイン武装はあくまで実弾の重突撃銃なので、特に首関節落とさないと、宇宙世紀系の以外だと対応できる機体は少ないのだ。

 

「お願いですから、相手は女の子なんですから首は兎も角、手首の先まで切り落とすのはやめてくださいよ。下手したらトラウマもんです」

 

「流石にそこは考えてますよ。援護の面を考えて今回は『ビームカービン』をメイン射撃武装にカスタマイズしてますから」

 

「どっちにしろ『ジン』系統の武器や無いですか……」

 

 正確には『ジン・ハイマニューバⅡ型』だが、そこを突っ込んでも仕方ないので心にしまうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、早速まずは昴はんの機体の慣らしといきましょうか」

 

 朝食を食べて暫く経ち、鞠莉さんに頼んで貸してもらってるバトルルームで、俺と真央さんは各々の機体を持って対峙する。

 

「よろしくお願いします!!」

 

「こちらこそ。ダメージレベルは前と同様にC判定、せやけど時間が勿体ないから、昴くんはパージ余りせぇへんといてや?」

 

「真央さんの調整の時は……けど、今はバトルなんで本気でやらせてもらいます」

 

 自分でも分かるくらいぎらついた目を向けると、普段は閉じたように見えるその目を僅かだが開いて、真央さんも獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ほんなら……八坂真央!!『フルクロスボーンガンダム魔王』!!出ます!!」

 

「天ノ川昴!!『ジン・AHM』!!出るぞおらぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 フィールドはプトレマイオスクレーター……所謂SEEDの月面基地のそこを再現されてあった。

 

「デブリは少ないし、見晴らしが良すぎる……か」

 

 ステージ確認をしつつ、レーダーで相手の出方を……!!

 

「ヤバッ!!」

 

 いきなりの高エネルギー反応にあわてて月面近くまで降りて回避すると、さっきまでいた場所にとてつもなく白いエネルギーが、なんと九連装で飛んできた。

 

「いきなり『サテライトスマッシャー』かよ!?」

 

 『サテライトスマッシャー』……八坂真央の操る『フルクロスボーンガンダム魔王』の最強兵器、それはもとの『フルクロス』の持ってる『ピーコックスマッシャー』という九連装ビームボーガンを、あろうことかそれぞれがサテライトキャノンを射てるように魔改造したトンデモ兵器なのだ。

 

 ハッキリ言って、禁断兵器とでも呼べるものを、あの人は『ソーラーレイ』システムを組み込むことでまさしく開幕殺しの『魔王』という異名を持つことになったのだ。

 

『これくらい、昴はんの本気なら簡単に避けれますやろ?』

 

「容赦が無さすぎですよ!!このやろう!!」

 

 仕返しとばかりに、今回積んできたバズーカ四本のうち、改造ビームバズーカ『バルルス改弐』を両手に一つずつ、さらに肩の『ビームキャノン』の計四門のそれを発射元の方向に撃ち込む。

 

『ちょ!!弾幕キツいですやん!!』

 

「ええい!!ちょこまかちょこまかと!!逃げてないで向かってこいやぁ!!」

 

 音声越しだが軽く言ってくる相手に、俺は脚のミサイルもついでにぶっ飛ばす。五秒くらいするとミサイル六発、それも全てを爆発し、破壊されたと心で悪態をつく。

 

「さすがは魔王!!(操縦技術が)上手いを通り越して汚い!!」

 

『そんな誉めても、『サテライトキャノン』しか出てきまへんで!!』

 

「そんなのクーリングオフじゃぁぁ!!」

 

 再び飛んでくる、今度はビーム砲とサテライトキャノンのミックスというふざけた撃ち方をしてくる奴に大慌てでブーストを使って避けまくる。少しでも被弾したら即サテライトの餌食、そんなのは真っ向ごめんである。

 

「くそったれ!!こうなったら!!」

 

 漸くサテライトキャノンが消えた次の瞬間、俺は剣と突撃銃以外を全てパージし、ウィングに取り付けた……()()()()()()ではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()(destiny版)を、それはもう完全にフルパワーで吹かすことにした。

 

 その速さは、試作品ですら暴れ馬と呼ばれたほどの加速が、カスタムしたこともあって数倍にも跳ね上がり、『トールギスⅢ』並みのスピードを叩き出す。

 

『ふぁ!?なんやねんその速さ!?』

 

 当然、この加速は交渉後のバトルでは見せてないため、数百メートルほど離れてた筈なのに、既に目測で50メートルも離れてない密接距離になっており、真央さんも驚きで固まってしまった。

 

「アララライ!!」

 

 その隙にさらに肉薄し、両手に持った重斬刀で忌々しい『サテライトスマッシャー』と、左上のスラスターを切り落とす。

 

『ぐぅ!!なんのぉ!!』

 

 だがそこはワールド50以内、すぐに『クロスボーン ガン×ソードⅢ』をソードモードで降り下ろすが、

 

「速さで負けるわけにはいかねぇんだよ!!」

 

 すぐに敵の右腕から降り下ろされるそれを、左のスラスターを全開にし、回転するように背後を取る。

 

『な!?ロールターンやと!?』

 

「これでも中学までバスケやってるからな!!動きは完璧にマスターしてるんだよ!!」

 

 その叫びと共に奴の両肩を切り落とすと、その瞬間にバトル終了のアラートが鳴った。

 

 

 

 

 

「ぐぅ……まさか最後にあんな近距離で回転して避けるやなんて……」

 

 試合後、とりあえずパージしたパーツをつけ直した俺は、そう愚痴る真央さんに苦笑いを浮かべる。

 

「バスケは『コート上の格闘技』とも言われるくらい、人間の体と軸を中心に使うスポーツなんで、慣れるとガンプラバトルでも応用効くんですよ」

 

「そら、昴はんは『アシムレイト』使えますから、尚更驚異ですわな」

 

「そんな大袈裟ですよ」

 

 アシムレイト、ガンプラバトルに置ける超常現象というべきか、機体の動作に、まるで人間が手足を動かすような、そんな形で動かせる現象。プロで言えば、格闘技選手としても活躍してる、世界ランク19位『覇王』神木世界さんが有名どころだ。

 

 だが、俺はその技術を完全にマスターしていない。というよりはむしろ……

 

「…………」

 

「……その感じやと、まだ()()の事を許せとらんのやろ?」

 

「……ええ、仕方ないこと……そう割りきろうとはしてるんですがね」

 

 そう、仕方ないこと……誰が見てもそうなのに、俺の心はそれを許そうとはしていない。むしろ……

 

「……すみません、少し外の空気吸ってきます」

 

「了解や」

 

 断りを入れ、俺は部屋を出ていきそのまま外の方へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

真央視点

 

「昴はん……」

 

 年下の、しかも高校生の友人の過去を思い、ワイは少しだけため息を付きたくなった。

 

「ホンマ、昴はんは何も悪いことはしてへんのに……」

 

 本来なら、昴はんの実力は世界大会決勝リーグに出場してもおかしくない、寧ろその二つ名は、宇宙世紀系ではない量産機、『ジン』で戦い抜くその姿に、そのグレーカラーと敵を光へと変えて駆け抜ける事から、『灰光の流星』と、希望を持って付けられたはずやった。

 

 けど、大事な予選リーグ決勝で、勿論それは昴はんは悪いことはしてない。けど、開花したアシムレイトの能力と、彼を縛るトラウマによって引き起こされたそれは、長く続く世界大会の中でも胸糞悪くなる事件を引き起こした。

 

「なんで……なんでワイが友人と思うた人ばかり、悲しいめに合うんやろうな……」

 

 今は外国でガンプラバトルの楽しさを教えているライバルも、世界大会の決勝で無二の相棒を失ってもうた。

 

「聖はん、レイジはん……彼に力を……」

 

 かの『ティファ・アディール』のように祈りながら、ワイは外に向かった友人に対して静かに涙を流した。




オマケ

作「次回かその次辺りに、ちょっとした番外編をやろうと思います」

昴「唐突だなぁおい……いったいどうした?」

作「今回の最後にあった『世界大会での事件』って奴を書いておこうかなぁ……と」

昴「マジか……あの事は思い出したくないんだけどな……」

作「どうせすぐにとは言わないけど、乗り越えなくちゃいけない壁だからね。こういうのはすぐに出した方が後々のためなんだよ」

昴「そうかよ、けどあんまり深く掘り下げすぎるなよ?ただでさえ他の作品もあるんだからよ」

作「それを言われたらなにも言えない……」

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