ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
「ガンプラバトルやろう!!」
「ごめんなさい」
桜内さんが転入してきてから数日、千歌はまるで追いかけるように彼女を勧誘し続けていた。
「なぁ曜、これで何連敗中だ千歌のやつ?」
「うーん?多分二十ぐらいかな?」
「マジか。ならタマゴロー理論ならあと七回で落ちるな」
俺がそう言うと曜ちゃんがなにそれ?と聞き返す。
「なんでもない。それで、曜は自分のガンプラ何にするか決めたのか?」
「うーん、だいたい決まってるんだけど、どっちにするか悩んでるっていうか……」
「ふーん、ちなみに千歌はなんて?」
「千歌ちゃんは、『絶対にインパルスにする!!』……って」
「なるほどな」
話によれば千歌は伝説のガンプライブ優勝チーム『μ's』に憧れてガンプラバトルを始めたらしい。となれば、
「『ストライク・トゥモロー』……確かにあれは衝撃的だったからな」
かの『μ's』のリーダー高坂穂乃果の愛機だったその機体は、今なお色褪せる事なく、寧ろ企業が本人の承諾のもとレプリカキットを販売するほど、人気を泊しているのだ。
そのストライクに肖ってインパルスというのは、ある意味では当然の帰結だ。
「で、なんで千歌は桜内さんを?」
「なんでも千歌ちゃん、私達が勧誘した日の夕方に会ってたらしいよ?それで、千歌ちゃん、桜内さんが『メイジン杯』でのガンプラを作ってたこと聞いたんだって」
「なるほど、そりゃ千歌が必死になるのも頷けるわな」
『メイジン杯』、ビルダーの作成技術を競う大会で、最優秀賞受賞者には、かの高坂悠真など様々な著名な人物がいるほどだ。ちなみに高坂悠真さんは高坂穂乃果の従兄らしい。
「千歌ちゃん、手先器用って訳じゃないしね。あ、戻ってきた」
「うー、またダメだった……」
「お前がしつこすぎるんだよ」
手厳しく俺が言うと、千歌のアホ毛がしょんぼりと項垂れる。何時にも増して表情豊かだなおい。
「まぁいいや。千歌、なんなら俺が手伝ってやろうか?」
「ホントに!?」
調子がいいなこいつは。
「ただし誘うのはお前だ。俺はお前らがどうしようと勝手だから」
「へ?どういうこと?」
「なに、俺のバトルを桜内に見せれば良いってことさ。もしかしたら、それで何か変わるかもしれねぇかもよ?」
「えっと、ここがフィールドですか?」
放課後、桜内さんからの開口早々の言葉はそれだった。まぁ確かに、倉庫のような使われ方をしてるこの部屋を見たら誰でもそうなるだろう。
「さて、まずは機体を見せた方が良いか?桜内さん?」
「え、ええ。確か昴くん……だよね?どんな機体を使うの?」
そう言われて俺が取り出したのは、世界大会予選に向けて作った新しいガンプラだった。
「これ……ベースはジンだよね?でもこれって……」
「そ、機体名『ジン・アサルトハイマニューバ』、略称『ジン・AMH』、正真正銘の『ジン』のカスタマイズさ」
ベースは『ジン・ハイマニューバ』のそれに、胸部に『アサルト』ユニット、肩には『ディープアームズ』のビーム砲を取り付け、さらにウイングをシャープに削ることで装甲、火力、機動性共に強化した会心の一機だ。
さらに翼には『キャットゥス無反動砲』を二つ、足に『3連装ミサイルポッド』それぞれに取り付けており、対大型でもある程度戦えるようにしてある。
「へー、昴くんの機体ってガンダム系じゃないんだ」
「ガンダムばかりがガンプラバトルじゃないだろ?それに俺は『ジン』や『シグー』が大好きだからさ」
「あれ?でも昴くん、なんで肩にバズーカなんて付けてるの?それじゃあ重くなって動けないじゃん?」
と、千歌の指摘に少しだけ苦笑いになる。
「千歌、簡単に言えば『ケンプファー理論』って奴だ」
「けんぷふぁー?なにそれ?」
「……いや、分からないならそれでいい。さてと、そんじゃバトルフィールドは……今日は暗礁宙域にするか、披ダメージレベルはオートはC……俺はいつも通りAだな、」
俺の言葉に驚いたのか、桜内がえっ、と驚く。
「ん?なんだ?」
「えっと、練習だったらCじゃないの?」
「世界大会は地区予選からA設定だからな。Cで馴れすぎて本番ですぐに撃墜されたんじゃ話にならん」
「けどそれじゃ……」
「まぁ見てろって」
俺がそう言うと、手持ちのGPベースを台にセットし、機体を乗せる。
「ふー……そんじゃ、天ノ川昴、『ジン・AHM』出撃する!!」
フィールドに乗り込むと、レーダーをすぐに確認する。敵ガンプラは最高難易度の数歩手前にしてるが、油断したらすぐに落とされる。用心は常日頃だ。
「っと、早速お出ましか!!」
望遠カメラで確認すると、機体は『カオス』、『ガイア』、『アビス』、『フォースインパルス』、『セイバー』と、ザフトのセカンドステージガンダムが揃い踏みしていた。
「この中で気を付けるべきは『カオス』と『フォース』かな……さて、そんじゃあ本気でいくか!!」
そう叫び、右手のコンソールで『27㎜突撃銃』をばら蒔く。するとすぐに散開し、ビームライフルを持つそれぞれが一斉に段幕を作る。
「ビーム使えるのはそっちだけじゃねぇんだぞ!!」
雨のように降り続くビームの嵐をスラスターを巧みに操りすれすれで回避していく。そして肩のビーム砲を『セイバー』にロックオンしようとした瞬間、俺は機体を宙返りさせてその場から退避する。すると狙ったように『アビス』の全門射撃がさっきまでいた場所を通り抜け、真下にあったデブリを爆発、四散させる。
「なろ、際どいところ狙ってきやがって!!」
未だに降り続けるビームの嵐を避けつつ、両手に無反動砲を構えて、近くにいたガイアとセイバーに撃ち込む。弾丸はそれぞれシールドに防がれたものの、2体を吹っ飛ばすことには成功する。
「いくらPS装甲があっても、当たれば痛いよな!!」
そしてバズーカを捨てて、今度こそビームをロックし放つ。放出された緑の光は2体のコックピット部分を的確に撃ち抜き、爆音と共に消し飛んだ。
「まずは二機!!」
漸く落ちたと思いつつ、機体を止めずに残りの三機を確認すると、ブースターを吹かせて一気に追撃した。
梨子ちゃん視点
「凄い……」
彼の戦う姿に、その一言しか出てこなかった。素組みとはいえセカンドステージのガンダム5機を相手に、カスタムした『ジン』であそこまで戦えるとは思っても見なかった。
「凄いでしょ梨子ちゃん」
「え、ええ。でもなんであそこまで無茶な……」
そう、誰が見ても無茶な練習に決まってる。いくら世界大会の予選のためと言われても、あそこまで追い込むような事に私は理解できなかった。
「多分、昴くんが勝ちたいからだよ」
「勝ちたい?」
「そう、去年昴くん、世界大会本選に出場したんだけど、決勝リーグに進めないで負けたんだ」
千歌ちゃんの言葉通り、確かに世界大会は各国から選手がやって来るため、上位16名にするために予選を行うのは知ってる。そこで何十、何百の選手が脱落するのも。
「その時分かったんだって、『ただ楽しむのも良いけど、どうせ楽しむなら勝って楽しむ、試合に次は絶対ないんだから』……そう言ってた」
「……」
「私も何となく分かるんだ。確かにガンプラバトルはあそびかもしれない。けど、その遊びを全力で、誰にも負けないようにしたい。それが本気で楽しむってことなんだと思う」
千歌ちゃんの話に、私は何も言うことが出来なかった。すると対戦フィールドで、昴くんの『ジン・AHM』が追い詰められていた。
既に『アサルト』ユニットはパージされ、ミサイルもバズーカも無し、さらに肩のビーム砲もパージしたのか、既にベースとなった『ジン・ハイマニューバ』そのものになって、持っているのは重斬刀二本とアサルトライフル二丁だけだった。
「うわ、昴くんが珍しく追い込まれてる!!」
「流石の昴くんでもPS装甲持ち5体を同時に相手するのは厳しいんだよ」
千歌ちゃんと曜ちゃんも珍しいというように焦っている。それほど追い詰められているということなのだろう。
「……っ!!」
その時だった。私のなかに何かが灯ったのは……。私は自分の鞄の中からケースに入れられたそれを取り出す。
「梨子ちゃん!?」
「ごめんなさい、でも……」
私はいてもたってもいられず、昴くんのいるフィールドの反対側へ歩き出した。
昴視点
「くそったれ!!やっぱり素組みでもキツイもんはキツイか!!」
既にビームも無くなり、手持ちは『27㎜突撃銃』と、対ビームコーティングを施した『重斬刀』がそれぞれ二つずつ、対して相手は三機ともビームライフルこそ破壊したが、それ以外はほぼ無傷、『アビス』に至っては完全の状態に他ならない。
避けながらどうしたものかと思っていると、左右からロックアラートが鳴り響く。慌てて確認すると、そこには『カオス』のポッドが二つとも飛ばされていたのだ。
「マズイ!!」
大慌てで回避するものの、今度は目の前に『アビス』が得物のビームアックスを構えて突撃してきた。
「くそがぁ!!」
思わず重斬刀で切り結ぶものの、そこで今まで吹かしていたスピードが一気に落ちてしまう。そこを狙ったように下からインパルスがビームサーベル片手に突っ込んできた。
ヤバイ、これは完全に嵌められた。インパルスを避けようものなら、『アビス』の一斉射撃と『カオス』のポッドが、アビスを吹き飛ばしてもインパルスにぐさり、完全に嵌められていた。
(くそ、こんなところで……こんなところで俺は……)
徐々に近づくインパルスに、負けの覚悟を決めるしかなかった。
その時だった
『あたれぇぇ!!』
突如として射たれた二本の赤い重粒子のビームが、狙ったようにインパルスとアビスの両方を貫いたのだ。
「ぐぁぁぁぁ!!」
爆発の衝撃で少しだけ吹っ飛ぶが、すぐに制動をかけて態勢を立て直す。何事か、そう思いビームの来た方向を確認するとそこには、赤柴に塗れた『ガナーザクファントム』らしき機体が浮かんでいた。
『間に合って良かった、昴くん』
「桜内さん!?いったいその機体は」
桜内さんが乗っていると思う『ザクファントム』は、なんと『オルトロス』とバッテリーパックを二つずつ取り付けた、まさにエネルギーを食いつくしそうな程の重砲撃戦のような機体だった。
『一応これが私の機体、『ザクファントム・リリィ』。そんなことより、『ポッド』が来てるわよ!!』
「ちっ!!」
指摘され急いで避けつつ、一旦桜内さんと合流する。
「桜内さん、いったいなんでこんなことを……」
『貴方を見てたら、なんか体が熱くなってきて……気づいたら動いてたんだよ』
「そっか……」
何となく分かるその感覚に共感しながら、俺は銃を捨てて剣を両方の手に構える。
「なら援護頼む。ホントならこういうのはいけないことなんだが……」
『練習なんだから関係ないよね。当たったら大ダメージじゃ済まないから、射線には気をつけて』
「桜内さんこそ、俺の高速戦闘に遅れるなよな!!」
そういって俺はスラスターを全開にして一気に残ってる『カオス』に接近する。奴もビームサーベルを抜いて盾を構えつつ接近してくる。けど、
「『ハイマニューバ』には……こういう事もできるんだよぉ!!」
それぞれの剣がぶつかる直前、スラスターを動かし機体を『カオス』の上へと移動させ、後ろを取る。
「っらぁ!!」
そして右手の剣で奴の首間接を切り落とす。いくらPS装甲でも、Sフリーダムと違って間接にはPSは使われていないなら、ただの実体剣でも首を撥ねるぐらいならできる。
が、それでもAI制御というべきか、こちらを確認してビームサーベルを振ってくるが、俺はそれを余裕で避ける。機動性だけなら、変形してないカオス相手でも何とか上回れるのだ。
「桜内さん!!」
『分かってる!!』
それだけ言うと、だいぶ遠くから重粒子砲『オルトロス』が時間差で奴の両腕とポッドを消し飛ばした。何という射撃技術というか、砲戦射撃であそこまで正確に撃ち抜くのには驚愕を覚える。
「これで……終わりだぁ!!」
最後に剣を奴の首穴に挿し込み、コックピット内にあるコアを潰し、『カオス』は爆発、同時にバトルも終了となった。
「はぁ、疲れた……」
バトル終了後、久しぶりのピンチに疲労が溜まり、お茶を飲みながら備え付けの椅子にぐだっていた。
「凄かったよ昴くん!!梨子ちゃんも!!」
千歌は千歌で大はしゃぎ。まぁそれなりに見応えはあっただろうし当然と言えば当然だ。
「でも良かったの昴くん?せっかく作ったガンプラのパーツをあんなすぐにパージしちゃって?」
と、パーツがバラバラになってしまったガンプラを見ながら曜は曜で観察してる。そんなに見てもなにもでないぞ?
「甘いな曜、さっき千歌にも言ったろ?こいつは『ケンプファー理論』だって」
「あ、そっか……なるほど!!だからここまでゴツくしてるんだね!!」
「ねぇ曜ちゃん?その『けんぷふぁー?理論』って何?」
未だに分かってないのか、千歌は明らかにアホ毛がぶんぶん揺れている。
「あのね千歌ちゃん、つまり昴くんの機体は武器をパージ……捨てることで重量を減らして速さを上げる機体って事なの」
「???」
「つまり、アサルトライフルと剣以外は使い捨てなんだよ。最終的には剣だけになって相手は機体速度に追い付けなくなる……そういうこった」
分かりやすくそう言うと、漸く千歌のアホ毛がピンとなる。いつも思うがこのアホ毛動きすぎだろ……。
「そんなわけだから、徹底的にぶっ壊されなければ、元通りくっ付けるだけで元通りになるんだよ。今回はすぐにパージしたから、ダメージは無さそうだが、家に帰ったら軽くメンテナンスだな」
「なんなら私も手伝う?」
「ん、千歌と違って下手に壊したりはしなさそうだしな。明日は土曜だし、頼む」
実際、曜は手先が本当に器用すぎるからな。コスプレイヤーは伊達ではないというやつか。
「ちょっと!!私と違ってってどういう意味!!」
「え?だって千歌おバカだし結構大雑把じゃん」
「ひっどーい!!曜ちゃんそんなことないよね!?」
「アハハ、私はそんな千歌ちゃんも好きだよ」
「まさかの裏切られたぁ~!!」
「クスッ」
「り、梨子ちゃんにまで~!!」
そんな笑い声が、バトルルームに広がり、いつの間にかまわりには笑顔が満ちていた。
オマケ
果南「ねぇ、これって二話目の前半辺りだよね?私の出番は?」
作者「大丈夫、次回の頭にダイビングもやるから」
果南「だったら良いけど……ところであれは?」
鞠莉「出番give me!!」プラカード構え
作者「どうせあと二話ぐらいで出てくるんだから放っておけばいいよ」