ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
結論から言えば、あのふざけた戦いの後にもう一度サーバーに入ってみても、俺は奴等と会うことはできなかった。
やはりあのアイリとか言ったAI……て、確か電子精霊とかなんとか言ってたっけ?……の言う通り、今回のがかなり異常な事態だったようだ。
「しかし、結局のところあのサーバーはいったいなんだったんすかね」
「平行世界っていうより、過去が分岐した世界って感じだったよね」
とある一室に戻った俺と鞠莉さんの二人は、用意された軽食を食べながらぼんやりと今回の調査でのことを思い返していた。
プラフスキー粒子から別のものを使ったバトルシステム、正直電子精霊とやらの情報も含めてもう少し深く探れれば良かったわけだが
「まぁ元から平行世界の存在は知ってましたけど、あそこまで分岐したうえで、なおこの世界と近しい世界というのも珍しいですね」
「って、ニルスさんは知ってたんですか、平行世界って存在は」
「まぁ友人が平行世界の王族でしたので、多分昴君も知ってるはずですよ」
そう言ってスマホを取り出して見せた画像に少しだけ頬をひきつらせた。何せそこに写ってたのは、
「せ、PPSE時代最後の世界大会優勝者のレイジさんと、かのアイラ・ユルキアイネンさん……かよ」
二人とも大分大人な姿をしてるが、その面影はやはり写真で見た二人の姿にそっくりだった。
「写真自体はここ最近のものですけど、今や二人の娘まで居るそうです」
「さいですか……」
まぁレジェンドファイターの今については突っ込むことすら野暮なのでとりあえずどこか片隅に放っておくとしよう。
「とにかく、今回の依頼は以上で終了。成功報酬はあとで小原の方に振り込んでおくので、そちらで再分配してください」
「分かりました……それとついでになんですが」
「分かっています。松浦さんについては此方で簡単な検査等をしてから病院の方へ送っておきます」
ですが、とそう聞くニルスさんに俺は苦笑いをするしかない。
「入院先が東京の……それも西木野総合病院ということですが、良いんですか地元じゃなくて」
「残念だけど、小原系列の病院よりもあそこの方が設備が整ってるからね。果南と昴の主治医もあそこだし」
鞠莉さんの言葉にニルスさんはなるほどと呟くが、俺としては頭が痛い案件だった。
果南の無茶は今に始まった事じゃない……というかAqours三年生組全員が無理無茶無謀をやらかすのはある意味で日常茶飯事だったわけだが、それでもやはり果南が自ら傷つくのは幼馴染みとしては考えさせられる部分がある。
まぁ最も今は三人ともいい意味で落ち着いてるし、果南は果南で
「あれ、そういえば昴も昴でそろそろ病院に行く頃合いじゃなかったっけ?」
「あー……」
「おや、昴君も何か用があるんですか?」
ニルスさんの珍しそうな視線に俺は少し視線をそらす。
「いや、俺自身というわけじゃなくて……プロとしての仕事というか、なんというか……」
「もう昴は……はっきり言えば良いじゃない。自分のファンの子のお見舞いだって」
鞠莉さんの言葉にニルスさんはへぇ、という風に驚く。
まぁ実際、俺自身ファンができるとは思ってなかったし、何よりファンというかは……
「まぁ……どちらかと言えば弟子に近いファンですけどね」
そんなこんなで翌日、果南のお見舞いついでにそのファンの子のお見舞いへとやって来た俺は、手に近くの模型店で買ったガンプラ数箱とケーキを片手にその子の病室へ訪れていた。
「……」
軽くドアを三回ノックすると、小さな声でどうぞという声が聞こえた。
「入るぞ」
そう言ってドアを開けてみれば、部屋の大半がガンプラで埋まったその部屋に居た少女に俺は少し微笑んだ。
「毎回思うが、幾ら個室だからってこんなに飾ってて良く怒られないな」
「もう、昴お兄さん酷い‼そう言って何時もガンプラ持ってきてくれるのお兄さんでしょ」
「そうだったな」
苦笑いしつつ少女の……俺のファン1号であり、二番弟子にあたる彼女、織川恵美にケーキを差し出しつつ近くの椅子に座った。
彼女との出会いについては後々本編で明かすので今回は割愛し、俺は近くの棚からお皿を二枚取り出して、ケーキの箱を開けようとする。
「で、お兄さん今日はどんなガンプラ持ってきてくれたの?」
「ん?なんだ、ケーキよりガンプラの方が気になるのか?ならケーキは俺が全部食べちゃうぞ?」
「もう‼お兄さんの意地悪‼」
病室のベットに座りながら俺の事をぽかぽかと叩きながら言う彼女に笑いながら俺は彼女のそばにガンプラを置いた。
「今回はちょっと奮発してな、MG3つ買ってきたよ」
「ほんと‼」
そう言ってガンプラの入った箱を見ると、彼女の顔が喜色に変わる。
「あれ?お兄さん珍しいね」
「ん?何が」
「だってお兄さんがザクのガンプラ買ってくるなんて、大分珍しいんだよ?ザクが大嫌いなお兄さんが買ってくるだけで」
恵美のその一言になるほどと俺は苦笑する。何せ今回買ってきたのは『天ミナ』、『ドム』、そして『ザク』と、今回共闘したあの三人の機体の素体だったからだ。
「別に俺はザク自体は嫌いじゃないぞ。ザクに乗ってジンを貶してくる阿呆が嫌いなだけで」
「もうお兄さんったら」
恵美は笑いつつ俺の顔を見ると、コテン、と首を傾げる。
「なんかお兄さん、良いことあった?」
「ん?どうしてだ?」
「だってお兄さん、なんかすっごくいい顔してるもん。いつにもまして」
恵美の言葉に俺は少しだけ悩み、
「まぁ、面白いやつらとガンプラバトルはしたかな」
「へ~お兄さんが面白いっていうことは結構凄い人だったんだ」
「まぁそうかもな。もしかしなくても聞きたいって、顔に書いてあるぞ」
俺の一言に、目をキラキラと輝かせながら首をコクコクと縦に降り続ける彼女に苦笑しながら、俺は仕方ないな~と前ふりつつ、
「少し長くなるけど聞かせてやるか、精霊使いと呼ばれたファイターとのバトルをな」