外伝クトゥロニカ神話『4つの愛』 作:カロライナ
『希望』に懇願することで『ロジーナ』と『纒』の完全解体を拒む説得に成功する。
しかし、出された条件は非情かつ陰湿で残虐めいたものであった。
『ぬいぬい』と『飛鳥』は半ば強制的に2人の「たからもの」を破壊していくのであった。
完全に纏のたからものを粉砕しきったところで『希望』は満足そうに嗤う。
「それでは、お次はぬいぬい母様と飛鳥母様の、もっとも大切な『たからもの』を壊していきましょうか。」
4人の真面な記憶が残っているのは ここまで。
もし微量に覚えているとしても、それは『希望』が 修羅に貰った太刀と飛鳥が大切に身に着けていたイソギンチャクのぬいぐるみを剥ぎ取ったシーンであろう。
強大なテレパシーが心まで崩壊しかけたドール達の意識を押しつぶし、途切れさせる。
試練を乗り越えた『母』を、地下都市の奥深くにある研究室へとテレポート能力で連れてこられたことが4人も気絶している最中で感じ取ることができる。周囲からは今まで感じたことのない仄かな暖かさと微かなノイズ、そしてカタカタカタと何かボタンのような物が叩かれる音が聞こえた。
母親の羊水に使っているような生温い水温に身体全身が浸かるような感覚がする。
『希望』はゆっくりと、そして歪んだ愛情を込めて、彼女たちの胎の中に己の居場所を作り上げて行くのだろう。
抵抗は出来ない。
目覚めることもできない。
されど4人とも確実に腹部に『何か』を施されている感覚だけは伝わって来る。
やがて、4人は目覚めた。
その時、そこは地下シェルター入口の外。扉の前の開けた空間には何も車両は停車していない。『まだ到着していないのか。』『崩落の時に死んだんだ。』『あの出会いは夢だった。』『人間は全滅した種族だ。』そんなことを思いながら周囲を見渡す。
『希望』は居ない。
しかし、全員の腹がぽっこりと膨らんでいる。
行動判定
ロジーナ→10【成功】
ぬいぬい→8【成功】
飛鳥→6【成功】
纏→10【成功】
飛鳥は腹部に重みを感じながらも空を見上げた。空は明るく鉛色の綺麗な空が見えている。
4人は『希望』に対し、憎悪も絶望も、嫌悪感すら抱くことはない。そこにあるのは、ただただ幸福感があるのみ。彼のテレパシーはドール達の精神を完全にねじ伏せたのだろう。
そう。
もはや、4人は「ドール」ではない。「サヴァント」となった。
愛しい胎児、『希望』を胎内に抱え、彼の望むままに世界を彷徨うのだ。『希望』は気まぐれに他の『母』の胎内へとテレポートする。「サヴァント」たちはその都度、体重の変化によろけるだろうが、『希望』の「寝返り」にただただ喜びを感じるだけである。
もしかすると、他のネクロマンサーが作ったドールに出会うかもしれない。あり得ない話ではあるが、僅かな希望ではあるが崩落から免れた「しぶとい人間」と出会うかもしれない。相手は狂った「サヴァント」をどう思う事だろう?
きっと祝福してくれることだろう。
否、祝福してくれるに違いない。
分からないあれば解体し、愛を教えてあげればよいだけ。
難しいことではない。
もっとも、もはや全て関係ないこと。
空は明るく、胎内には愛しい子がいるのだから。
よき旅路を。
END.
遠くから何か聞こえたような気がした。
意識を落し、暗く何も見えない。
何も聞こえないはずの暗闇なのに。
超能力とは異なる浮遊感。
暖かいものに接している感覚。
長い間、味わっていない温もり。
それは、長い、永い夢の続き。
彼女たちが望んでいた永い後日談。
【後書き】
これにて第5章『果てる愛』閉幕となります。
閲覧ありがとうございました。
また出会うときがあれば、どうぞよしなに。