外伝クトゥロニカ神話『4つの愛』   作:カロライナ

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【前回のあらすじ】
 真面に行動可能なドールは『ぬいぬい』と『飛鳥』のみになってしまう。
 何とかして動けない2人を抱え、この場から離脱する策を張り巡らせるが名案は思い付かない。
 それどころか感情を読み取っているかのように『希望』は全てを見抜くのであった。




Episode5-13 『罪と罰』

行動判定-2

ぬいぬい→10-2【成功】

飛鳥→5-2【失敗】

 

「・・・・ふむ。そこまで仰るのであればいいでしょう。」

「「・・・・!」」

 

 『希望』は暫くの間、考えるかのように静かになった。

 そして、上機嫌でも不機嫌でもない普遍的な普通の声色で2人の要望を認めた。飛鳥も困惑した様子から解き放たれ、ぬいぬいは頭を上げ『希望』を見上げる。そして俄か(にわか)には信じられないと言ったような僅かな希望が灯ったような顔をした。

 

「しかし、条件があります。」

「・・じょ、条件ですか?」

 

 だが、その希望が灯った表情を嘲笑うかのように若干の笑みを含ませながら『希望』は提案をあげる。明らかに悪意の籠った企みを感知したぬいぬいは生唾を飲み込み、震えながらもその提案について問う。

 

「悪いことをしたら“罪”を償うための“罰”が必要ですよね? 過失ではあるとはいえ最愛の我が子である私に危害を加えたのですから、2人の母様達にも当然“罰”が下るべきです。そして、それを庇う母様達にも『連帯責任』ということで当然、罰せられるべきなのです。違いますか?」

 

 その質問を待ってましたと言わんばかりに『希望』はヒビはいったカプセルを縦方向に細かく振動させると、悪意を十分に含ませた嘲りと共に恐怖の色に染まって行く2人をカプセル越しに見つめた。口など見えないはずであるのにも関わらず、その口元は裂けるほどに口角が上がっている様に2人には見えた。

 

「ち、ちがいななないいいでです。」

 

 ・・・2人は『希望』に逆らえることもなく、暴虐極まりない提案にただ頷く事しか出来ない。

 

「では、ぬいぬい母様はロジーナの大切そうにしている写真と、アルバムの中身を粉々になるまで破り捨ててください。飛鳥母様は纏のクソ汚ねぇ玉袋と、首に巻き付け大切そうにしているゴミの破壊を。あぁ、アルバムとゴミは粉になるまで壊しきってくださいね?」

 

 超能力を使い、動けなくなった2人から『たからもの』である ロジーナの写った写真、楽しげにしている様子が収められたアルバム、音楽プレイヤー、纒本人を抜き取り飛鳥とぬいぬいの目の前にそれぞれ落下させた。

 2人は青ざめながらも動くことのできない2人を見る。

 

「・・・・・ぬいぬい・・・・やめて・・・・・・。・・・・・・わたしは・・・・どうなっても・・・・・・いいから・・・・それを・・・・・壊さないで・・・・。」

「ア゙がだイ゙・・・ザン・・・・がら゙・・・・・預かってぐれっで・・・・頼まれダ・・・・アズガ・・・・ヤ゙メ、やめ゙・・・で・・・お願・・・い゙・・・・。」

 

 ロジーナはまだ動く首を横に振り、芋虫のような状態になりながらも身体を這いつくばらせ、僅かではあるが『たからもの』に向けて前進する。しかし、モンスターに背中を力強く踏まれるとその場から1ミリたりとも動くことは出来なくなった。

 纏はボロボロになった声帯を必死に動かし、飛鳥に語りかける。その眼は潰れて見えなくなっているはずにも関わらず顔の向きは飛鳥を直視していた。

 2人はそれぞれ、纒の玉袋と写真を手に取るが指は震え、力を必死にこめようとするが引き裂く一歩を踏み出すことができない。

 その様子に対し『希望』は、飛鳥とぬいぬいの腕に視認できないほどの自らの青白い光を微量に纏わせ、じわじわと時間を掛けて引き裂き始める。

 ビリっと紙が破ける音にプチプチと肉がちぎれる音、身動きの取れない2人から絶叫とも呼べる悲鳴が上がった。

 2人も指を離そうとするが、何故か指は2人の『たからもの』を離そうとしない。それどころか2人の苦しみを一瞬で終わらせようと引き裂きに掛かるが、引き裂けない。悲鳴を上げようにも、自分がやっているのではないと弁解しようにも、口も開けない。動けない2人の心を玩び(もてあそび)甚振る(いたぶる)かのように。ゆっくりと『たからもの』は形を崩していく。

 

「ヒャハハハハハハハッ!!ロジーナ! 纏ィ! これは貴方達の為に母様達が心を鬼にしてやっていることなんですよぉ!? どうですかぁ? いまの御気分はぁ! ヒャーッハッハッハッハッハァ!!」

「あ・・・・・あ・・・・・。」

「・・・・・・っ・・・!!」

 

 4人は声にならない悲鳴を上げる。

 『希望』は今までよりも更に強大な笑い声をドール達に浴びせる。ぬいぬいと飛鳥は涙を流しながら心の奥底で2人に謝る事しか出来ない。

 10分ほど時間が経過しただろうか? ついに“1つ目”『たからもの』が完全に崩壊した。

 

狂気判定-1

ぬいぬい→1-1【大失敗】

ロジーナ+1

飛鳥→7-1【成功】

 

狂気判定-2

ロジーナ→8-2【成功】

たからもの+1

纏→6-2【失敗】

たからもの+1

飛鳥+1[発狂]

 

「あ゙、あ・・・ああ゙あ゙あ゙あ゙ア゙ア゙ア゙あ゙あ゙ア゙ア゙?!!!!」

(ごめんなさい・・・・っ。ごめんなさい・・・・っ。)

 

 纏は何かタガが外れたかのような絶叫をあげ、ぬいぬいはただひたすらにロジーナに向けて謝罪する。心の中で戦意とは異なる決意が軋む音が聞こえる。

 

「良い声ですねぇ・・・。しかし、“罰”はまだ終えて居ませんよ? さぁ、メインディッシュも手早く壊してください。」

 

 『希望』は、心の奥底から愉快そうに震動する様子をドール達に見せつけ震える。

 そして、超能力で無理矢理、飛鳥を立ち上がらせ足元に音楽プレーヤーを置く。ぬいぬいも引き上げられるように号泣しながら立ちあがり、目の前に青白い光をまといつつも浮遊しているアルバムに向けて名刀を引き抜く。その様子はまるで操り人形そのものだ。

 

「ああ、それと。目を逸らしたら罰にならないじゃないですか。『次は』壊れる瞬間を目視するように。」

 

続けるようにして目を瞑っていたロジーナと飛鳥の瞼を引き上げ開眼させ、視線を無理にでも『たからもの』へと注視させた。瞳のない纏に対しては乱暴に眼球がねじ込められ、見えるように鮮明な視界を確保させてから、ロジーナと同様の姿勢にし、音楽機器を見つめさせる。

 

「さ、ぬいぬい母様、飛鳥母様。どうぞ。」

「ぬいぬい・・・! ・・・それだけは・・・! それだけは・・・!!」

 

ロジーナの悲痛な叫びが、さらにぬいぬいの心を抉っていく。

もしも自分自身がロジーナの立場であったらどうしていたであろう。『ぬい』に剣術を認められて、別れる直前に託された名刀を目の前でへし折られたらどんな気分になるだろう。今のロジーナと同じように”きっと”懇願するに違いない。いや、ロジーナよりも酷く取り乱すはずだ。

 ぬいぬいは両目から涙を零し、噛める範囲の下唇を噛みしめる。この残酷な現実では、ヒーローは遅れてやってこない。自分たちにとって確かな【希望】を与え続けてくれていたヒーロー(修羅 縫)は『希望』の姑息な手段によって死んだ。

 どんなに待ち望んでも彼女等は来ないだろう。もう目の前に『希望』の手駒となって存在しているのだから。

 時間だけが刻々と過ぎ去っていく。

 

「ぬいぬい母様、分かっていらっしゃいますよね?焦らすのはそこまでにしてください。それとも貴女は、本当はロジーナと纏を助けたくない 飛鳥母様に便乗しただけの偽善者だったのですか?」

 

 涙を流して、なかなかアルバムを切り裂かないぬいぬいに対し、いら立ちを覚えたような様子で『希望』は煽り催促をする。号泣しているぬいぬいに対しロジーナは必死に語りかけ、纏は狂った絶叫をあげ、飛鳥は絶望した顔でその様子を静観していた。

 

「・・・分かり、ました。」

Hеeeeeeeeeт!!!(やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!)

 

 ぬいぬいは偽善者よりも早く『本当は助けたくない』という言葉に対して、号泣しながらもビクリと反応を示すと袖で涙を拭いアルバムに向かって斬首するかのように振り被る。この名刀は【姉妹】を守るために修羅は渡したのだろうと、切りかかるときに限って脳裏に過ぎった。

 ぬいぬいは修羅に対しても一言謝罪する。ロジーナのロシア語での絶叫が上がるが、そのまま『希望』の指示した通り、ほぼ粉になるまで引き裂き破壊した。

 

「この絶望のハーモニー・・・いいですねぇ・・・。さて、飛鳥母様も行ってみましょうか。」

 

 もしもこの場に『希望』の実像があれば、爽やかすぎる笑顔で振りむいていたであろう。しかし、そこに浮遊するは胎児。上半身を肉片とした胎児であり爽やかさなど微塵にも存在せず、醜悪さが更に引き立てられている。

 

「飛鳥・・・・お゙願い゙・・・・飛゙鳥・・・・・・。」

「戦闘面に関してポンコツな母様の為に、今回は転倒しないよう支えていますから。安心して踏み潰してくださいね。おおっと、そうだ脚は自分で切断したんでしたね。では足の一本だけ修復して壊せるようにしましょうか。」

 

 悲痛な纏の叫びを遮る様に『希望』は飛鳥と纏の間に割って入り、近くのモンスターを呼び寄せると切断した足を繋ぎ直させ、踏みつけられる環境を用意する。

 更に足が自動的に持ち上がると、いつでも踏みつけるような体制となったではないか。

 

「飛鳥母っ様の~!いいっとこ!みってみったいっ!!」

 

 周囲の死体どもの手を打ちならし、合いの手リズムを取らせる。纏の声はかき消される様に聞こえなくなり、その場には飛鳥と音楽プレイヤーしか存在していないかのような感覚になる。

 

『ウォォォォオオオオ?!!』

「っ!!!」

「アアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 死体共は口を大きく開き盛り上げるかのように咆哮をあげる。そしてその咆哮が終えるのと同時に飛鳥も『たからもの』を踏み付けた。纏から更なる絶叫が上がる。それは他の声援で聞こえない筈の飛鳥にもしかと聞き取れてしまった。

 一踏みで外殻にヒビが入り、2踏みで基盤がさらけ出し、、、、、6踏みで部品が粉々になり始める。纏の女の子のような甲高い絶叫もそれに合わせて木霊する。

 どんなに身体を引き千切られたとしても、痛みなど感じなかったのにも関わらず。ガッ、パキッ、バキッ、ゴシャ、グシャ、グシャリ・・・と踏み潰す感覚は新明に伝わる。

 心の奥底では必死に纏に謝り続けていたが、口から漏れ出す言葉は言葉として意味を成さない。

 

狂気判定-2

ぬいぬい→6-2【失敗】

ロジーナ+1

飛鳥→4-2【失敗】

纏+1[恋心発狂]

 

狂気判定-3

ロジーナ→3-3【大失敗】

たからもの+1

ぬいぬい+1

纏→1-3【大失敗】

たからもの+1

ぬいぬい+1

 

 

 




【後書き】
 全滅ENDや別ENDついて彼の描写や性格について読み上げていると、陰湿で執念深さがありありと浮かびあがって来たので、シナリオにはないですが加筆することで彼の陰湿で残虐かつ冷酷さを表現してみました。
 納得できない終わり方かもしれませんが、彼の本質的なものをオリジナルで書けたことに関しては、自分の中で納得しています。

 そして次回で第5章 最終話です。



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