外伝クトゥロニカ神話『4つの愛』   作:カロライナ

40 / 60
【前回のあらすじ】
 探索者達が崖崩れに巻き込まれ、ドール達は取り残される。
 辛く苦しい現実を良い方向に捉え 何とか正気を保とうとする。
 4人は、ぽっかりと大穴の開いたような感覚を胸に抱きながら最短ルートを通り、シェルターを目指す。




Episode4-6 『見敵必殺』

 ドール達は2日かけて森を目指す。

 時折、初めての夜に食べたカレーライスの思い出が、ふと湧き出ては消えて行ったが、合流さえすることができれば あの時のように、また皆で仲良く食事を囲めると互いに励まし合いながら歩き続ける。

 教会で見つけた地図には書かれていなかった廃墟跡を横目に荒野を進んでいくと、やがて生い茂る森が見えてきた。

 そこは非常に青々とした美しい生命に満ち溢れた森の景色だった。確かに装甲車を走らせるには明らかに道幅が足らず、案として浮上していた切り倒さなければ入れそうにもなかった。

 

対話判定

ロジーナ→ぬいぬい 10【成功】

ぬいぬい→飛鳥 8+1【成功】

飛鳥→纏 10【成功】

纏→飛鳥 4+2【成功】

 

「ここが森かぁ。」

「青々としていて綺麗ですね。迂回路を探して正解だったかもしれません。こんな綺麗な場所を斬り倒さなくて良かったです。」

「・・・・・・この先に・・・・・・シェルターが・・・・。」

「・・・行きましょう。」

「うん、そうだね。」

 

 纒を先頭にドール達は歩みを進めて行く。そこはどこか絵本や悪夢を思わせるような森であった。外見は爽やかな景色であったというのにも関わらず、内部には毒々しい巨大な花や。触手めいた蔓草がうねる様に這い、木々の幹さえも奇怪に歪曲していた。踏み込んできたドール達に驚いて、多数の蟲が飛びまわる。

 

行動判定

ロジーナ→10【成功】

ぬいぬい→1【大失敗】

飛鳥→1【大失敗】

纏→5【失敗】

 

「ミャー!!! 飛鳥さん! そ、そそそこに大きなムカデがぁ!」

「大丈夫ですよ。別にこっちに向かって来た訳じゃないんですから、なるべく踏まないようにしましょう? 虫たちだって生きているのですから、殺してしまっては可哀想です。むやみな殺生は避けて行きましょうか。ほら、手を繋いで・・・そしたら、もう怖くないですよ。」

 

 森の中を生い茂る草やかき分けて4人は進む。外見は普通の森であったのに対し、内蔵物は悪夢のような外見は変わることもなく、ドール達は4角形編成で身を寄せ合って進んでいた。

 前をロジーナと纏が固め、背後を飛鳥とぬいぬいと言った編成である。

 ロジーナと纏が率先して先に進んでくれるおかげで、虫たちが後方の2人に衝突するといったことが起こりはしないものの、それでもぬいぬいは偶に飛鳥に身を引き寄せ巨大な虫が現れては驚いたように声を張り上げた。そのたびに飛鳥が窘める。

 

「そ、そ、そそそそうですね・・・。あっ、あ飛鳥さん・・・。」

「なんです・・・・わっぷ!?」

 

 ぬいぬいが足を止めるたびに飛鳥も足を止めるゆえ、ロジーナ纏とは大きく間隔が開いてしまう。巨大ムカデも森の茂みに消えて行ったところでは、2人とは3mも離れていた。

 飛鳥はぬいぬいと手を繋ぎ、目の前には何も居ないこと前提で、ぬいぬいの顔に微笑みかけながら先を急ぐ。ぬいぬいは飛鳥に手を引っ張られながらも、前方二人に追いつこうと足を一歩踏み出したが、すぐに歩みを止める。そして非常に青白い顔で震えながら飛鳥の正面を指差す。飛鳥はその指差した方向を振り返ったが一足遅かった。

 顔面に感じる柔らかくも生暖かい感触。それは脈動しており、ぶつかった衝撃で周囲に『きなこ色の粉』が舞い散った。飛鳥は顔を鱗粉塗れにしながらも、二歩ほど下がる。そしてその衝突した生き物を見た。

 初め、それは巨大な人間の顔に見えた。大きな丸い目玉に黄色の肌。輪郭は下三角形にあり、塗りつぶされたような瞳が飛鳥を見つめているのだ。

 飛鳥の顔に血の気が引く。

 

「・・・・に゙ゃ゙ーーーーーーーーっ!!! 悪霊退散ッ!!!」

 

 そして、ぬいぬいの悲鳴よりも巨大な絶叫が森全体に響き渡る。その大きな絶叫により、周囲の木蔭に隠れたはずの蟲たちがパニックでも起こしたかのように飛び散る。目前の顔もそうであった。それは大きく羽ばたくとその場から逃げようと飛び立つ。

 しかし、飛び立つよりも素早い一撃がその顔面の鼻に当たる位置へ放たれる。

 飛鳥の鉄拳であった。

 右足で地面をしっかり踏みしめ、全身全霊の一撃が鼻、もとい蛾の胴体を捉え殴りつける。飛鳥の右こぶしに蛾の体液はべっとりと付着し、そのまま無情にも爆裂四散。周囲に鱗粉が舞い散り悪夢の空間を『きなこ色の鱗粉』でリフォームした。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁっ・・・。」

「えっ。え? 飛鳥さん・・・むやみな殺生は・・・避けるんじゃ・・・。」

「あっ、あれはっ、不可抗力ですっ!!」

 

 普段から息などしている訳ではないのに、息も絶え絶えの状況になる。

 汗もかかない。かけないはずであるのに汗を拭うような動作を行う。白い巫女服はきなこ色に染まり果てた。なお先ほどまで発言していた言動と、今目の前で引き起こした行動。とてもかけ離れた矛盾現象に、ぬいぬいも髪の毛をきなこ色に染め上げながら驚いた顔で爆裂四散した蛾と飛鳥を交互に見ていた。

 飛鳥はぬいぬいに向き直ると、言葉がつっかえながらも慌てた様子で必死に弁解し始める。

 

 

 




【後書き】
 ここの話はちょっとした反省点だったりします。
 探索者が居なくなったドール達の悲哀を描写すればよかったのですが、あまりにも長すぎるのも問題視していため省略してしまいました。
 すべては後の祭り。もう完成してしまっているので微加筆を加えながら進めるだけです。



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