外伝クトゥロニカ神話『4つの愛』   作:カロライナ

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【前回のあらすじ】
 『気が付いた』修羅は一通りドール達の本名を聞き終えた後、シスターが正気を保っている間に湧き上がった疑問を問い詰めるような形で尋ねる。
 シスターもそれを真意に受け止め応じようとするが・・・・。
 暗い闇夜に響くショットガンの銃声。それだけが彼女たちが行える唯一の”弔い”であった。




Episode3-12 『初夜はカレー』

 崩れかけた教会で木材を剥ぎ取るような音と、その木材を解体するような物音が周囲に響く。それは決して崩落音によるものではなく、意図的に誰かが何かを壊しているようだ。

 そして壊したものを1か所に集め、そこから何か火打石を高速で擦り合わせる様な音か聞こえる。無を象徴するかのような暗天に1つの炎が揺らめいた。その炎は紙のようなものに燃え移ると更に火の手を増してゆく。そして先ほど砕いていたであろう木材に燃え移ると、パチパチと音を立て暖かい焚き火が出来上がった。

 円陣を囲うように8人は揃う。乾燥しきった木製の椅子は火を付けると勢いよく燃え上がり、周囲を更に明るく照らした。しかし8人の表情はすぐれない。ぼんやりとしながら、火を囲い暖を取る。

 

グゥゥゥ・・・・

 

 重苦しい雰囲気の中、炎の燃える音に混じって誰かの腹鳴りの音が周囲に響いた。

 その音は星埜が常に護衛している人物から鳴ったようで、本人は何処か恥ずかしそうに俯いた。

 

「・・・そうですね。あの研究所から何も食べて居ませんし、火も起こせました。夕食にしましょうか。クリスティーナさん、装甲車の鍵を頂けますか?」

「あ、はい。」

「ありがとうございます。」

 

 修羅がなるべく明るい声色を出しながら立ち上がり、クリスティーナから装甲車の鍵を受け取る。

 教会の外側から装甲車の後部ハッチを開く音が聞こえ、3分ほど時間が経った辺りで修羅は飯盒と水、レトルトパックを持って炎の元まで歩みよる。

 

「給水車もない今。限られた資源ですから水も貴重です。研ぎ汁も飲料として有効活用しましょう。赤大、ぼんやりしてないで手伝ってくれませんか?」

「お、おう!」

「あ、修羅 縫さん! わたしも料理をした記憶があるので手伝います!!」

「そうでしたか。でしたら・・・ぬいぬいさんは、飯盒セットを火にくべることが出来るように準備を整えて頂けると助かります。」

「はいっ!」

 

 手慣れた手付きで修羅、赤大、ぬいぬいの3人は食事の支度を整える。

 飯盒の数の多さに、大喰らいの人が居るのかと疑問を浮かべたぬいぬいであったが、修羅に頼まれた通り飯盒の数に見合った量の火を炊く。

 

「纏さん。手伝ってほしい事があるのですが宜しいですか? 可能であれば、ロジーナさんも。」

「・・・・・ん・・・。・・・・わかった・・・・。」

「ボクで良ければ手伝うよ。」

「あまり、女性として認めたくないことですけど、私達の怪力で少しでも多くの燃えそうな木材を探しませんか? 人間の皆さんは何か頭に付けている機械のような物が無ければ、行動できない様子でしたし・・・。私達であれば、そんな小道具を使わずとも探せますから。」

「・・・・・頑張る・・・・・。」

「そうだね。戦闘面に置いて、彼女達に助けられていることも多かったから、恩返しも兼ねてボク達はボク達で彼女達に出来ることを最大限にしよう。」

 

対話判定

ロジーナ→飛鳥 8+1【成功】

飛鳥→ロジーナ 6【成功】

纏→飛鳥 6+2【成功】

 

 互いに頷きを交わし合い、教会にある座席の解体を始める。随分と風化により脆くなっているのか、3人がドールの常識範囲中で軽く握っただけで音を立て座席は崩れ去る。纏と飛鳥が座席を破壊し、ロジーナがそれをクリスティーナの付近まで運搬していた。クリスティーナは火の元までその木材が運び込まれると明かりの周囲に居るぬいぬいに向けて木材を運ぶ。

 

 予備の分の槇を片側に備蓄した頃、飯盒から白い煙が立ち昇り、蓋を開けると白米が炊ける。

 荒廃した世界には、似つかわしくない香りが教会内の焚き火の周囲に立ち込める。修羅は厚手のグローブを着用するとそれを丁寧に8等分し、8枚の皿に盛りつける。また余熱で温めたレトルトパックを8等分した白米の上に乗せ、火でを囲むようにそれを設置した。

 

「やっと帰ってきましたか。食事の準備が整いましたよ。さ、好きなのをどうぞ。」

 

 作業を済ませ、再び焚き火を中心とした円陣の輪に戻る。そこには後片付けも済ませた修羅がロジーナ、飛鳥、纏を仁王立ちで待っていた。左隣には、左手にスプーン、右手に飯盒を持ったぬいぬいが困惑したような顔で、修羅と飯盒を交互に見ているのであった。

 

「・・・・・え・・・・。」

「『え』ではないですよ。各個人の分の食事の支度が終わりました。『料理が冷めてしまうので好きな皿を取って下さい』と言っているのです。」

「あ、あの・・・修羅 縫さん・・・・? あの初めて出会った部屋で話した通り、私達は・・・認めたくはありませんがアンデットなので食事がなくとも平気です・・・よ?」

「腹鳴りを響かせた張本人が何を言っておられるのですか?」

「ゔっ。」

「アンデットである以前に貴方方は育ち盛りの少女ではありませんか。個人的に、明らかに年上である私達だけが食事を取り、貴方達だけひもじい思いをするのは理に適っていません。」

 

 呆然としている3人に修羅は淡々と指示を送る。

 想定していなかった食事の誘いに対し、キョドりながらも飛鳥は研究所で話した筈の内容を再び伝える。ロジーナも言葉を失いつつ隣で頷く。しかし、それを修羅はぴしゃりと払いのけた。そして真実を伝えられた飛鳥はぐうの音も返事が返せなくなる。

 

隠れる&忍び歩き

赤大75,60→44【両方成功】

 

「纏ぃー。」

「・・・ひぇ・・・。」

「こうなった修羅はアタシにも止めらんねぇ。観念して食っちまえよー。ぐへへへ・・・レトルトかつ人相の悪い顔だが、修羅の料理はうめぇぞぉ・・・?」

「・・・赤大。貴方とは少しお話をする必要があるみたいですね。」

「やっ、やっ、やだなー。マジになんなよ。ちょっとした場を和ませるジョークじゃねぇか。」

 

 その場から忍び足で姿を消そうとする纏に向けて、ヘビのような素早く無音で赤大は腕を纏いの肩に絡ませる。そしてゲスめいた笑い声を上げながら、悪魔のような低音の質で耳元に囁く。

 纏の状況を例えるのであれば、ヘビに睨まれた蛙と言うのが正しいであろう。動くことが出来ず、そのまま赤大に引き摺られる様になりながら火の元まで半ば強制的に連れて来られる。

 そしてそのヘビを黙らせるような、鋭い戦艦クラスの眼光が赤大に向いており、鷹に睨まれたヘビの状況に赤大は陥る。そして必死に弁解する小物の様に引き攣った笑い声で修羅に愛想笑いを浮かべていた。

 

「ぐすっ・・・・。わたくしが折角 運んだ(まき)でカレーを食べてくれないのですのね・・・。クリスティーナ悲しいッ!! ・・・フフッ。」

「飛鳥。食べない。元気。ない。私。悲しい。」

「・・・・・食べる・・・! 食べる・・・・! ・・・泣かないで・・・・。」

「た、食べます!」

「うひひひひ・・・・まぉとぉいぃぃぃ・・・。」

「食べるから! 食べる!!」

 

 ついには自分の嘘泣きの小芝居に吹きだすクリスティーナと星乃の心配まで入る。

 ロジーナは瞬時に火の回りに置かれている皿を取り、星乃も本気で心配される様な素振をされたため、皿を手に取った。纏も皆が料理を手に取るというなら・・・といった様子でしぶしぶ皿を手に取る。

 

『いただきます。』

 

 8人はそれぞれの皿を手に取り、食前の挨拶をし白米とレトルトカレーを口の中に運ぶ。

 口内に仄かに暖かくも、食感のある風味の香ばしい味が、既に人を止めたはずのドール達を包み込む。痛覚が無ければ、味覚も無い筈である。されども記憶片隅に残っているのか、確かなカレーの味にドール達は自然と笑みが零れる。そして、4人は口々に『美味しい』と呟いた。

 

「美味しい理由は味だけの問題じゃありませんわよ。」

 

 もぐもぐと口を動かしながら口々に歓喜の言葉を発する4人に向けて、クリスティーナは諭すように笑顔で呟く。

 

「このようにしてみんなで食事を囲むことによって、感情を共有し合い『美味しい』と互いに認知し合う事で、その料理の味の深みが増していくんですわ!」

「えぇ。だからこそ、貴方達を多少強引でしたが食事にお誘いした訳です。記憶が無いのであれば、このような感覚も存じ上げないでしょう? でしたら思い返せるようにキッカケを作れば良いだけです。難しいことではありません。」

 

 修羅も口の中に入っているカレーを飲み込むと不器用ながらにも微笑み、ドール達を見渡した。

 

「それだけじゃねぇぜ? 飯を囲むと、不思議と明るい話題も出て和気藹々として食も進むモンだ。親睦を深めるなら話しながら飯を食えって姉貴から習ったしな。・・・まぁ。価値観の違う奴にやったら、地雷を踏むことになるけど。」

 

 歯で嚙みながら、スプーンをタバコの様に加えた赤大も修羅やクリスティーナに便乗するかのように笑いながら話す。

 

「でさぁ・・・・纏? アタシ、ニンジン嫌いなんだけどさぁ・・・食べてくれねぇ?」

「・・・・しょうがないですね。角によせて置いてください。後で食べときますから。」

「ニシシ。サンキュー。」

「・・・。・・・代わりに・・・ジャガイモをお願いします。」

「おっけおっけ。」

 

「暖かい料理なんて、なんだか初めて食べたような気がしますね。」

「・・・・・・ね・・・・。」

「ロジーナ=ブレアさんでしたっけ?」

「・・・・そう。・・・・神代 飛鳥?」

「そうです! なんだか、予備慣れていないフルネームで呼ばれると違和感がありますね。」

「・・・・・ん・・・・。」

 

「修羅 縫さんって、修羅 縫で苗字なんですか?」

「いえ、貴女と同じ『修羅』までが苗字で『縫』は名前ですね。何故か分かりませんが、赤大と星乃さんを除いて皆さん、繋げて私の事を呼ぶのですが・・・。どういう事なのでしょうか?」

「あはは・・・。・・・。あの・・・。」

「なんですか?」

「もし良ければ、わたしの事、今度から呼び捨てで『ぬいぬい』って呼んで貰えませんか? 私も、修羅 縫さんのこと、縫お・・・いえ、『ぬい』って呼びますから。」

「・・・・・。」

「あ、いや、嫌でしたらいいんです! でも・・・修羅 縫さん・・・わたしを『ぬいぬいさん』って呼ぶのなんだか時折言いづらそうに見えたので・・・。」

「・・・お心痛み入ります。今度からぬいぬいと呼ぶことにしますね。」

「・・・・はい!」

 

対話判定+2

ロジーナ→飛鳥 8+3【大成功】

ロジーナ→ぬいぬい 7+2【成功】

ぬいぬい→修羅 2+2【失敗】

ぬいぬい→ロジーナ 7+2【成功】

飛鳥→ロジーナ 8+2【成功】

飛鳥→纏 10+2【大成功】

纏→赤大 5+3【成功】

纏→赤大 1+3【失敗】

 

 

 




【後書き】
 この話の裏話として、私には同じ小説を執筆する友人が居るのですが、タイトルについて『(意味深)っぽい?』と尋ねたところ『そんなことはない。』と返事が返って来たので、タイトル決定時に安心したのを覚えています。
 ドール達には味覚も痛覚もないようですが、記憶として残っている場合『味』を感じることがあるようです。
 今回は、互いに少しずつ距離を狭めていく様子を描写できて、その様子が伝われば良いなと思っています。





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