外伝クトゥロニカ神話『4つの愛』   作:カロライナ

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【前回のあらすじ】
 ぬいぬいはアンデットから逃げ戸惑う夢を見る。
 纒は自分が生きたまま解体される夢。
 2人の夢には、とある共通点があった・・・。




Episode3-4 『あなたを正気に戻す2つの方法』

「っ・・・ひぃっ!」

「っ・・・・・はぁっ!!」

 

 唐突に身体が動くようになり、2人は蹲った状態から頭を俊敏に引き上げ、起き上がる。

 周囲では赤大や修羅が非常に驚いたような表情。その少し奥では、飛鳥が胎児を大切そうに抱き上げている姿が目に入る。

 

「ぬいぬいさん、大丈夫ですか?」

「ひっ! いや、やめてっ! 来ないで!! 殺さないでぇっ!!」

「お、おい、纏、頭痛は引いた・・・か・・・?」

「やだっ! やだやだやだぁっ!!」

 

 しかし、2人には明らかな恐怖に満ちた表情が浮かび上がっており、同時に完全に錯乱した様子を見せていた。

 ぬいぬいは修羅が手を伸ばし、触れようとするとそれを必死になって振り払い。纏は赤大が額に手を置こうとすると強い拒否反応を示し、装甲車の後部座席の角に身を潜める。

 飛鳥と星乃も何事と言った様子で錯乱状態の2人を見つめる。胎児はクリアグリーン色の培養液の中でプカプカと浮びつつも2人を見つめていた。

 絶叫にも近い悲鳴に対し、装甲車を運転していたクリスティーナもブレーキをかけ、後部座席の様子を伺う。中には非常に錯乱した様子の纏とぬいぬいの姿があった。

 

「何事!? 何事ですの!?」

「来ないで! 来ないでぇっ!!!!」

「ひっ・・・ひぃっ・・・。」

 

 錯乱は留まる事を知らず、狭い96式装輪装甲車をほうほうの体で逃げ回る。

 そんな2人に対して赤大と修羅は顔を合わせる。そして修羅の方が先に頷き、赤大も釣られるように頷いた。

 

「・・・何か怖い夢を見たんですね? 大丈夫です。大丈夫ですよ。私がちゃんと着いていますから。今ぬいぬいに危害を加えるものが現れれば、私が護ります。落ち着いてください。」

「はぁーっ・・・はぁーっ・・・。」

「そうです。ゆっくり深呼吸をして。大丈夫です。私が護りますから。ね?」

 

 真っ先に動き出したのは修羅であった。四つん這いになりながらも、逃げだす、ぬいぬいを全身で抱き締めるように優しく温めるように抱擁する。

 優しく諭すように耳元で修羅はぬいぬいの耳に語りかけて行く。抱きつかれた当初は、逃げ出そうとしていたぬいぬいも小刻みに震えながら、両手を口元に持ってくると震えを止めようと息を整える。修羅はぬいぬいの首元に己の喉元を埋め、人間の体温のぬくもりをぬいぬいに体感させていた。

 赤大は修羅の動きに対して、はっと我に返ったような表情をすると纏の方に振り返った。纏は背中を赤大達に向け、必死に隠れようとしながらも小刻みに震えている。修羅の様に抱きつき、安全であることを伝えようとしたのか纏に手が伸びるが寸前のところでその伸ばした手を止める。

 

「おい、纏。アタシの声が聞こえるか?」

「・・・・・・。」

「・・・修羅みたいに上手いことは言えねぇからよ。怯えているお前になんて声を掛ければいいか分からねぇんだが・・・。」

「・・・・・。」

「お前もその様子から、ぬいぬいと同じように・・・同じかわかんねぇけど・・・。怖い夢を見たんだよな? そしてその悪夢がまだ続いていると信じている。違うか?」

「・・・。」

「ここにはアタシを含め、お前を傷付ける奴は誰も居ない。」

「・・・。」

「って口だけで信じる奴はそうそう居ねえよな・・・。ほら、コイツをやる。」

 

 赤大は怯える纏に一方的に話しかけるが、震える彼からの返答はない。赤大は手困ったような様子で右手を使い前髪を掻き毟ると、何か決断したかのような瞳を纏に向け、そして懐からコンバットナイフを取り出すや否や、それを纏の傍の床に放り投げた。

 

「もしもその夢が現実だと思っているなら、ソイツでアタシを刺せ。お前にアタシがお前に危害を加えるクソヤロウだと思うなら全力でソイツをアタシに突き刺せ。そしてお前の目で見極めろ。何が現実でどれが悪夢なのか。」

「っ・・・・!!?」

「・・・・・・・ッ!! うわああああああああっ!!!」

 

 修羅も赤大の演説に息を飲み生唾を飲み込む。そして他の6人が纏を止めるよりも先に、コンバットナイフを拾うと全力でそのまま赤大に突き刺した。

 

ダメージ

1D4+2+1D6→7

装甲

白兵戦攻撃に限りダメージ1/2

赤大HP15→12

 

 纏の手に伝わるのは確かに肉を刺した感覚。纏の一撃は深々と赤大の防具を貫き、刃物の先端は赤大に突き刺さる。そして刺した相手を見るが、苦そうにしながらも敵意のない精一杯の爽やかな笑顔を見せる。ゲスめいた不気味な笑顔ではない。瞳が小刻みに揺れ、刺している手も震えだす。

 

「ぐっ・・・・ぅっ・・・・。」

「・・・・ぁ。ぁ・・・。」

「・・・・な・・・・? アタシの言う通りだ。お前が見ていたのは・・・・・ただの悪夢で・・・誰もお前を傷付けたりしねぇ・・・・だろ・・・?」

 

 ボタボタと赤い血液が装甲車内部を汚していき、ついに我慢をしきれなくなったのか赤大は苦しそうな呻き声を上げた。突き刺さったコンバットナイフが引き抜かれ、そのまま装甲車の床に転がり落ちる。

 辛そうに笑顔を引き攣らせながらも、赤大は血濡れていない方の手で纏の頭に手を置く。キメ顔と言わんばかりに纏に対してウィンクを飛ばした。

 

「ぁ・・・ぁぁ・・・ぁぁっ! ・・・ごめんなさい!! 赤大さん、ごめんなさいっ!!!」

「・・・安心しろ。この程度・・・・っぐ・・・神話生物に負わされる・・・・傷に比べたら・・・掠り傷程度だからな・・・・。それと・・・やっぱり、『桜井』は笑顔も可愛いが・・・泣いている顔も可愛いなぁ・・・。」

 

 纏は正気に戻ったかのように赤大に対して謝り始める。しかし、赤大は引き攣った笑顔を浮かべながら片手で負った傷を圧迫止血しながら、頭に置いた手で頭を撫でた。そして減らず口を叩きながらもコンバットナイフを回収し、元の定位置に仕舞った。

 

応急手当

クリスティーナ75→22【成功】

1D3→3

赤大HP12→15

 

 すぐにクリスティーナは赤大の防具を脱ぎ捨てさせ、傷の治療に入る。幸いにもその傷跡は浅く胸元に縫い傷が1つ追加されるだけで済んだ。手慣れた手付きで縫合し、包帯を巻きつける。その間赤大は布を噛みしめ呻き声を発さないように耐え切り3分ほどで手当は終わりを告げた。

 

行動判定

纏→7【成功】

 

 そして纏は見ることになる。赤大の身体には、いくつもの銃跡や切り刻んだのであろうかと疑いたくなるほどの背中までも続く、多数の縫い付けた後の手術痕が残っているのを。

 クリスティーナは手を真っ赤に染めながらも、適当な布で血液を付き取ると再び装甲車を走らせた。途中、急に停車した装甲車を心配したロジーナが窓越しにノックをしたが何でもない風に装うとすぐに頭を引っ込めた。

 

対話判定+2

ぬいぬい→修羅 4+2【成功】

纏→赤大 6+2【成功】

 

 

 




【後書き】
 今回の話の裏話になりますが、赤大のアプローチ方法が180度異なっています。
 改善する前は錯乱している『纒』に馬乗り状態になってマウントを取り、殴って正気に戻していました。しかし、ボツになりましたね。理由としては以下の通りです。

1.ドール達は人間の頃に比べ怪力となっており、拉げた扉でも無理やりこじ開けることができる。
2.『赤大』にとって『纒』は『桜井』と重なる存在であり、アイドルとして扱っていた彼を殴りつけるだろうか?

 と、後から考えた為ですね。因みに、ドールのDBは一律+1D6で処理しています。初めは1D6~2D6管理にしようかと思ったのですが、パーツ、未練、DB・・・・等々考えた結果、一律になりました。
 それにドール達は怪力とはいっても、内臓などが飛び散っているのでSIZは低目であると想定したためですね。




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