「《雷拳》」
俺は【雷撃魔法】を発動し、両手の拳に雷を纏わせる。さらに【身体強化】によってただでさえ高レベルの身体能力を大幅に強化する。それにより俺は馬車を襲ってきた愚かな魔物――12体ほどのゴブリン――の内の一体を殴り飛ばす。いや、殴り飛ばすと言うより貫く。もちろん拳で。
腹に風穴が空いたゴブリンは何が起きたのか理解できないまま即死する。そしてそのゴブリンを貫いた勢いのまま三体同時に殴り、貫く。
「《武具召喚:両手剣》、《
俺はスキル【武具召喚】によって両手剣を召喚し、【魔法付与】によって地獄の炎(そんなイメージの火炎と暗黒の混合魔法)を纏わせる。頭でイメージしながら口にも出すと更に早く発動が出来るらしい。まあ【詠唱破棄】があるからあんま関係ないっちゃ無いのだが。
そして残りの八体の憐れなゴブリンは漸く仲間が殺されたことに気づき、慌て始める。そんな中一体のゴブリンが俺に気づき、ゴブリンにしては速いスピードで俺に殴りかかってくる。しかし俺のスピードに勝てるはずもなく、俺は左上から斜めに切り下ろして四体のゴブリンを上下に両断する。そしてその場で回転し、さっきの勢いを殺さず左下から切り上げる。そしてまたも四体のゴブリンを両断する。
「終わったぞー」
俺は後ろで戦闘を見ていたユキノシタさん達に声をかける。
実際、わざわざ魔法を使う必要なんか全く無かったのだがまあ練習として使っていた。それに自分の力で出来ることと出来ないことを見極めとかないといざというとき失敗しかねん。
「え、ええ。ありがとう……いまさらだけれど、どうやったらそこまで強くなれるの……というか本当に人間……?」
若干ユキノシタさんが引いているような気がするが気にしない。気にしたら負けだ。
****
その日の夜。護衛二日目の夜となるこの時間。俺はまたしてもユキノシタさん、改めユキノシタの相手をしていた。
「ヒキガヤくん。思ったのだけれど貴方のその目は『魔眼』なの?」
「何だそれ。これは気付いたらこうなってた。『魔眼』なのかは知らん」
ユキノシタは俺のことをヒキガヤくんと呼ぶようになり、俺も彼女をユキノシタと呼ぶようになった。というか強制的にそうなった。第二皇女の命令なんて断れる訳がない。まあ気楽だからこっちのが良いのだが。
「そう、なの?あなたのあの強さに『魔眼』は関わっていないとでも言うのかしら?……だとしたら本格的に貴方が人間だとは思えなくなってくるのだけれど」
「いや、俺はれっきとした人間だから。人を魔物か何かみたいに言わないでくれる?」
「大丈夫よ。あなたのその目はどちらかと言うとゾンビだから。良かったわね。元は人間よ」
「それは結局魔物なんだよなー……」
まあ俺の目を見ればあながち冗談とも言えなくて返答に困ったりする。……ちゃんと人間だよな……?
「ふふっ、冗談よ」
「そうかよ」
「ええ。そうよ」
ユキノシタは気を許してくれたのか、時々こんな感じで冗談を言ってくる。内容はキツかったりもするが別に悪口って程じゃない。それにこのテンポの良い気楽な会話が気に入ってたりする。
「そんで、明日の昼には王都に着くんだよな?」
「ええ。その予定よ」
「じゃあ明日で一応護衛は終わりか」
「ええ。最後まで気を抜かないようにね」
「おう。王女様直々に頼まれたらやるしかねぇな」
「ふふっ。……無理はしないでね」
「Lv100なめんな」
実際レベルのお陰なのか【身体強化】のお陰なのか、昨日寝ずの番をしたが体に不調は見られない。七徹くらい余裕で出来そう。
「そうね。ならお願いするわ……お休みなさい」
「おう。お休み」
****
「ユキノちゃーーーん!!!」
「ね、姉さん。暑苦しいわ……は、離れて!」
「良かったよー!!!ユキノちゃーん!えへへ、ユキノちゃーん!」
「うぐっ……!?く、くるし、だめ、姉さ、ん。は、はなし……て」
「ちょっ!おいっ!窒息してる!」
王都で一番に出会ったのはハルノ・ユキノシタ。ユキノシタの姉でありこの国の第一王女らしい。
そして重度のシスコンだ。妹に会った瞬間抱きついて窒息させかけるぐらいにはシスコンだ。
「おーい。ユキノシター、生きてるかー」
「…………」
「あ、や、やばいっ!すぐ回復術師呼んでくる!」
「あ、大丈夫っすよ。俺回復魔法も使えるんで」
「そ、そうなの!?は、早く!早く回復して!」
「言われなくてもやりますよ……《小回復》」
「……ん、こ、ここは」
「ユキノちゃーん!さっきはごめんねー!」
「はいストップ」
俺が回復魔法をかけてユキノシタは意識を取り戻したが、またもユキノシタさん……まぎらわしいな。ハルノさんでいいや。ハルノさんが抱きつこうとする。今度は勿論止めた。片手で。
「は、離しなさい!ていうかなんで止められるの!?私レベル30あるんだけど!?」
ユキノシタに聞いた話だと、この世界の一般的な兵士はレベル10ほどらしい。そう考えるとハルノさんのレベルは相当に高いと言えるだろう。そしてそれに伴って身体能力も高くなる。レベル差が10もあれば物理だけで勝つなんてことも出来るらしい。つまりハルノさんを止めるには最低でも同レベルである必要があるのだ。ステータスのパラメータの片寄り方によっても変わるだろうが、ユキノシタが言うにはガイル王国で最強なのはこのハルノさんだそう。自分を止められる人間いるとは、まして自分より年下であろう俺に止められる筈が無いと思っているのだ。
だが相手が悪い。なんせ俺はレベル100なのだから。俺にとってハルノさんを止めるというのは息をするより簡単なのだ。
「……ユキノシタが怯えてるんで落ち着いてください」
「怯えてなどいないわヒキガヤくん。変なことを言わないで頂戴」
ハルノさんに窒息させられかけた上に追い討ちをかけられそうになって怯えていたが復活した。どうやらこいつは重度の負けず嫌いらしい。
「あ、ご、ごめんねユキノちゃん……ん?君今呼び捨てにしなかった?というかユキノちゃんもヒキガヤくんて……ど う い う こ と か な?君?」
!?な、何だこの威圧感……!や、やばい、これ返答をミスったら死ぬ!確実に!魔物の群れとか比じゃない!なにこれ!なにこのラスボス感!
「……はぁ。ヒキガヤくんは、魔物に囲まれていた私たちを助けてくれたの。命の恩人よ」
「え、そうなの?ユキノちゃんを狙う毒虫とかじゃ無いの?」
「そんな筈がないでしょう。名前も私がそう呼んでくれるように頼んだのよ」
「そ、そう……へぇ。この子が魔物を。まあ実際私より強いみたいだしね。認めたくないけど」
「ど、どうも。比企……ハチマン・ヒキガヤです」
どうやらこの世界での名前の名乗り方はこっちのが正しいらしい。ユキノシタは普通に名乗っても分かってくれたが、これから暮らしていく土地の作法に合わせた方が良いだろう。【共通言語】があるから大丈夫だとは思うが。
「ふーん。ヒキガヤくん、か……あ、私の名前はハルノ・ユキノシタ。詳しい話は後で聞くとして……よろしくね。ヒキガヤくん」
「っ……は、はい」
そう言えば王族相手に色々やらかしたな、俺。もしかして処刑とかされるのだろうか。……あぁ、まだ死にたくないなぁ。
妖艶な笑みを浮かべたハルノさんの外面に謎の威圧感を感じながら、俺はそんなことを考えていた。