その後、ユキノシタさん達は三十分ほど何やら馬車の中で会議をしていた。
その間俺は帰ろっかなーすること無いしじろじろ見られて居心地悪いし。とか思って帰ろうとするも帰るとこが無いことを思い出して軽く絶望したりしていた。……あんのくそ女神、次会ったらマッカン五年分請求してやる。
ただ待っているのも暇なのでステータス画面でも確認していようと思い、ステータス画面を開く。
(《ステータスオープン》)
さーて何か変化はあるかなーっと。
アーツ、《神速》を取得しました。
所持金が、20746Gになりました。
スキル、【鑑定Lv1】を取得しました。
と、表示されていた。
ほーん?アーツ、アーツねぇ。何となくテンプレ感漂うが一応調べておこう。そう思い、《アーツ》と書かれている部分をタップする。……何となくやってみたけど触れるのね、このステータス画面。
すると《アーツ》という物が何なのかという説明が出てきた。何か色々出来るなこの画面。
……その説明を読んでみた感じ、どうやらアーツというのはログホラで言う口伝みたいなものらしい。知らない人はまあ特別で強力な必殺技みたいなもんだと思ってくれれば良いだろう。誰に説明してんのこれ。
さて、そんな感じでステータス画面を確認していると、漸くユキノシタさんたちが馬車から出てきた。そしてユキノシタさんが初老の男性と一緒にまたも俺の方へ近づいてくる。
「ごめんなさい。待たせてしまったわね」
「え、ああ。いや。大丈夫だ」
ユキノシタさんが軽く頭を下げて謝ってきたので、俺も若干おどおどしつつも何とか声を裏返らせずに返す。
「ヒキガヤ様。先程は私共をお助けいただき、誠に有り難うございました。私、侍従長を勤めております。ツヅキと申します」
「え、あ、はい」
近づいてきた初老の男性は深く礼をしながら名乗る。それに若干と言うかかなりというか、とにかく恐縮しながら返事をする。
「ヒキガヤさん。助けて貰った上でこんなことを頼むのは気が引けるのだけれども……」
「?……まあ俺に出来ることなら」
こちらとしても行くところは無いし、ユキノシタさんは王女とか名乗ってたし上手くいけば泊まるところができるかも知れない。野宿だってスキルがあれば出来るだろうが、かと言ってしたいわけでは無い。
「その……護衛をお願いしたいのよ。貴方のお陰で助かったけれど、このまま国まで帰ることは出来そうも無いのよ」
「あ、あぁ。行く当ては無かったからこちらとしても有り難い」
「?行く宛が無い?……貴方ほどの実力者ならどこかの宮廷のお抱えでは無いの?」
「いや。俺も最近こっちに来たばかりでな。お陰でこっちの常識なんかまるで無い」
「そ、そう……では、お願いして良いかしら?」
「ああ」
「有り難う。――ガイル王国第二王女、ユキノ・ユキノシタ。ワタリの神に誓って、この恩は必ず返すわ」
「お、おう」
そんな感じで俺がガイル王国とか言うところまで護衛をすることが決まった。
****
俺は【感知】を使って魔物が近づいてくる前に倒し、ついでにさっき取得した【鑑定】を使って色々調べながらガイル帝国へと向かっていた。
その夜。
俺とユキノシタさんは一対一で話し合っていた。内容としては護衛と救援の報酬について、そして勧誘だった。
「……では、一先ず貴方に報償として30000Gを与えるわ。その他の報酬は国で話し合った上で決定することになると思う」
「ああ」
ユキノシタさんは金貨が詰まった重そうな麻袋を俺に渡してくる。この世界で30000ゴールドっていうのがどのくらいの価値なのか分からないが、さっきの戦いで得たゴールドも合わせれば少なくとも暫くの間は問題ないだろう。
「……それと、もう一つ。出会ったばかりでこんな話をするのもどうかと思うのだけれど……」
「?こっちとしても迷惑どころか助かってんだ。俺に出来ることならするぞ?」
「……大抵のことはやってのけそうな貴方がそう言うと、何でもしてやると言っているように聞こえるわね」
「いや、俺に出来ることなんて大したことねえよ」
「……………………」
ユキノシタさんが珍獣を見るような目で見てくる。そんな目をされて興奮するような性癖は無いので即刻止めていただきたい。
「……そんで、まだ何かあんのか?」
目を更に腐らせながらもユキノシタさんにそう返す。するとユキノシタさんはただでさえ良い姿勢を正し、わざとらしく咳払いをする。
「……その……恥ずかしながら、ガイル王国には軍事力と言うものがほとんど無いの。まあ祖父の代に出来た新興国だからというのもあるのだけれど」
「はあ」
「父の代で様々な技術が発展し、新興国でしか無かったガイル帝国は豊かになった。けれど人口は中々増えず、それに伴って兵の数も少ないわ。今は技術力の差もあって戦争には負けていないけれど……」
「将来的にどうなるかは分からんってことか」
「ええ。しかも最近になってさっきのような魔物の異常発生。近隣の小国でも被害が大きいわ」
確かに、技術と言うのはどれだけ隠しても流出するものだ。歴史もそれを証明している。……これ一回は言ってみたかったんだよな。
しかもそこにさっきみたいに大量の魔物が発生するのではどうしようも無いだろう。
その後もガイル王国の事情を聞く。というかこいつら自身、疎開先から帰るところだったらしい。
「……というわけで、ガイル王国はいつ大国に潰されてもおかしくは無いのよ。今護衛としてここにいる人たちも、数少ないガイル王国の精鋭なの。貴方からしたら弱いのでしょうけど……」
「いや、あの少人数であの数の魔物と戦ってた訳だろ。自分で言うのもあれだが比べる相手が悪い。俺レベル100あるし」
「……はぁ。あなたがどれだけのレベルだろうともう驚かないわ」
ユキノシタさんは頭痛でもするのか、額に手をやる。
「……まあそれはそれとしても、私としては貴方にガイル帝王国守って欲しい。このままだと、私たちの国は何時か滅ぼされてしまう。それが魔物によってか人間によってかは分からないけど。報酬なら幾らでも渡す。それ相応の地位だって保証するわ。だから、その……」
必死に懇願し、己の国を守るために頭を下げるユキノシタさん。こんな美少女に必死にお願いされて断れる訳が無いだろうに。
……まったく。卑怯すぎんだろ。
「おう。了解した」
「ガイル王国の軍に……って、そんな簡単に決めて良いの?」
「おう。俺住むところも家族もこっちには無いし。だが一つだけ条件がある」
「な、なにかしら……流石に出会って間もない男に身を捧げたくは無いのだけれど」
そう言ってユキノシタさんは綺麗な顔を曇らせ、肩を抱き寄せながら俺から距離を取る。と言ってもさして広くは無い馬車のなかだから意味は無いが。
というか俺そんなに変態に見えるのだろうか。確かに目は腐ってるし本読みながらニヤニヤしてたりするが……あ、これ十分アウトですね。
「そうじゃねぇよ……ただ有事の時以外は自由にさせてくれってことだよ」
「……そんなことで良いの?」
ユキノシタさんはそんなことと言うが俺にとって物凄く大切なことである。出来るだけ働きたくないし。だがまあどうせ神には試練を出されるんだろうし働くことは確定している。だったらこの提案に乗ってゴロゴロダラダラしながらたまに試練をクリアすれば良い。どうせ住むとこ無いし。
「ああ。それで良い。それが良い」
「そう。正式に決まるのは帰ってからになるのだけれど。……これからよろしく頼むわね」
そう告げると、ユキノシタさんはにっこりと惚れ惚れする笑顔を浮かべ、手を差し出す。……なに?握手すりゃ良いの?
「……おう」
俺はそれに応じ、ユキノシタさんの雪のように白い手のひらを優しく握る。
どうやら、俺は無事に住処を得ることが出来そうであった。