どこでも出張野郎隊 〜中東のゴケグモ、奮戦ス〜   作:コウノトリ

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こんちは、コウノトリです。
息抜きついでにちょっと書いてみました。
ウィッチあんま出てきませんが、どうぞよろしくお願いいたします・・。


緊急招集

『こちらアルファ。基地内南東の倉庫にて生存者らしき者を確認。指示を請う。』

「武装は?」

『目視では確認できない。服の下に隠し持っている可能性あり。』

「よし、エリアを制圧しろ。ただし目標は殺すな。無力化して仲間の場所を聞き出すんだ。」

『了解。エリアを制圧する。アルファ、アウト。』

スピーカーから短い砂嵐音が発せられた数秒後、遠くから乾いた破裂音が何度か響いた。三、四発の銃声が真っ青な砂漠の空に吸い込まれ、あたりが風の音に包まれたのを確認すると、サムは再び無線機を取り出した。

「こちらサムだ。状況を報告しろ。」

『こちらベリック。倉庫の制圧完了。生存者はすでに死亡していた。それより、ここの倉庫も空っぽだ。人っ子一人いやしない。銃や弾薬もだ。本当にここであってるのか?』

「状況報告は的確に行え。無駄口を叩くんじゃない。ロッカーの中から排気口の中まで、隅々まで探せ。そこの倉庫が最後なんだからな。このまま誰も発見できなければ、この作戦は失敗だ。」

『了解。捜索を続行する。ところで例の死体だが、身体中に黒い斑点のようなものがある。伝染病か何かか?』

「かもな。うつされたくなきゃとっとと探せ。」

『了ー解。アウト。』

 

 再び世界が静寂に支配された。岩陰から覗かせたM1903A4狙撃銃の銃口とスコープが、300メートル先の黒ずんだトタン屋根の小さな倉庫を満遍なく舐め回すかのように狙いをすます。今の所は、特に異常は確認できない。敵の基地内に哨兵がウロついているどころか、鳥一匹飛んでいないという点を除けば。本当に上の情報は信頼できるのだろうか?

 無音の世界で、一人ただ照準を覗きながらそんなことを考えているサムの耳元のインカムに、突然聞き慣れた声が響いた。

『サム!聞こえるかサム!』

妙に慌ただしい雰囲気が、スピーカーを通してでも伝わってくるほどの張った声であった。耳をすませば、なにやら銃声のような音も聞こえる。

「こちらサミュエル。どうした。」

『緊急事態だ!例の死体が・・! クソッ!トニーとエドワードがやられた!クソッタレが!・・畜生!こっちに来やがった!』

「なんだ、何があった!トニーとエドがやられたってどういうことだ!敵襲か? 詳しく報告しろ!」

『死体が攻撃してしてきたんだ!こんのビチグソ野郎が!全身に鉄板でも巻いてんのか?!・・ダメだ!M14なんかじゃ歯が立たねえ!後退する!援護頼む!』

「死体が・・?死んでなかったってことか・・。了解。倉庫正面入り口まで引き付けろ。こちらで狙撃する。」

『了解!待ってろよバケモンめ!その固いケツにキツイのぶち込んでやるぜ!』

 サムは、銃口を倉庫の正面入り口に向け、スコープの中に映し出されている照準の中央の点に意識を集中させる。パンパンとせわしなく鳴り響く銃声がだんだん遠くなり、しまいには何も聞こえなくなった。開いたままの正面入り口から一瞬閃光が発し、そのすぐ後に土煙がモクモクと立ち上がった。誰かがグレネードを爆発させたのだろう。しかし、その爆音すらもサムの耳には入っていなかった。爆風の影響で舞い上がった砂の中で眩い光がなんども見え隠れする。よほどの混戦になっているようだ。

 煙の中から三名の部隊員が背中を向けて後退してきた。後退しながらも、彼らの小銃は空の薬莢を吐きだし続け、煙が立ち込める闇の中にありったけの鉛玉を撃ち込んでいる。このまま行けば、作戦通りに正面から出てきた敵の頭をブチ抜ける。サムは引き金に人差し指をかけ、肩を少し強張らせた。

 その三名が倉庫のゲートから五メートルくらい離れ、ついに敵が煙の中から姿を現すと思われた、その時だった。スコープを覗くサムの目に何筋もの眩い光が飛び込んできた。一瞬目が眩み、気が付いた時には既に先ほどまで後退していた三名の隊員の上半身がゴッソリとなくなり、陽炎が立ち込める砂の上に腰から下の部分のみが倒れていた。不思議なことに、血はほとんど流れていなかった。

 サムは目の前の惨状を冷静に整理しようと、知らないうちに口内に溜まった唾をゴクリと飲み込み、収まりつつある砂埃の中から出てくる人影に照準を合わせた。

ところが、ターゲットの姿がハッキリと彼の目に映り込んだ途端、彼は目を疑うことになった。

「・・・・ああ神よ、マジなのか・・・。」

彼は、その時初めて冷や汗を顔面に滲ませた。

 

【数日前】

 

「パパー?電話だよー?」

自宅のガレージで愛車の世話をして久々の休暇を伸び伸びとくつろいでいたサミュエルの耳に、娘の声が飛び込んできた。声がした方に振り返ると、ガレージのドアの隙間からヒョイと顔を出している娘の姿があった。

「ん〜? 今忙しいから後でかけ直すって言っておいておくれよ、ミシェーラ。」

「それが・・なんかアシュリーって人なんだけど・・。」

その名前を聞いた瞬間、サムの手が止まった。

「司令・・?   わかった。すぐに行くよ。ありがとう。」

軍手を脱ぎ捨て、サムは小走りでガレージから家の廊下へと続く階段を駆け上がる。

 アシュリー少将。リベリオン陸軍の中でも優秀な司令官の一人で、数年前にヨーロッパにネウロイが進撃し始めた時にいち早くブリタニアへの援助を上層部に決定させた人間の一人だ。そのおかげで、今もブリタニアが国家として存続できていると言ってもよい。彼は、所謂「隠れた英雄」なのである。

 しかし、多くのリベリオン国民は知らない。彼が英雄としてだけでなく、「もう一つの顔」を持っていることを。

「C.AGRSF」。世界でも珍しい、少人数の精鋭による対人戦闘部隊だ。つまり、人殺しのプロ集団である。少将は、知る人ぞ知るこの部隊の創設者なのだ。マロニー空軍大将の陰謀が発覚した44年に、世界中に潜む「ネウロイ共存主義者」による革命やクーデターなどをリベリオン政府が危惧し始めたのが創設の理由だ。ネウロイとの対話を望む、反政府運動の首謀者やその関係者を世間の目につく前に、隠密にかつ迅速に排除することが目的である。その存在はあくまで「極秘」であるため、連合軍上層部の中でもごく少数の人間しか知り得ない。もちろん、隊員の人数や本部の場所も一切非公開。隊員は、家族にさえ本当のことを話せないのだ。当然、この部隊に所属しているサムも例外ではなかった。

「アシュリー司令、ただいま電話をかわりました。・・娘が何かご無礼を致しませんでしたか?」

『はは、何、気にするな。可愛い娘さんじゃないかね。』

「いえ・・光栄であります。」

『うむ、自分に正直なのは良いことだ。ところで、さっそく本題だが・・・回線は大丈夫か?』

「ハッ、すでに専用回線に換装済みであります。」

『うむ、よろしい。実は中東方面で事案が発生していてな。任務だ。直ちにこちらに急行してくれ。』

「ハッ、了解であります。では失礼いたします。」

そう電話のマイクに言い放つと、チーンと音を立てる受話器受けに受話器をそっと置いた。

 司令は詳しいことは話さなかったが、中東方面と言っていた。確かに、オストマン方面は砂漠の北部がネウロイの占領域に接しているので、よく過激派が潜伏しているのだが、ついにそれらが動き出したと言うわけか。そんなことを考えながら、サムはクローゼットの中に入っていた軍服や着替えの下着を大容量手持ちバッグに乱暴に詰め込む。一瞬、軍帽を忘れるところだったが、もうカバンには入らなかったので、仕方なく頭に被った。適当な身支度が済むと、サムはミシェーラの部屋の前まで行き、ドアを3回ほどノックした。すぐに扉を開けて部屋から出てきた娘は、少し驚いた顔でこう言った。

「どうしたのその大荷物?どっか行くの?」

「パパこれから仕事なんだ。いつ戻ってこられるかまだわからないから、後で電話するよ。いいね?」

「今休暇中なんじゃないの?」

「大人にはいろいろあるのさー。 ま、そう言う訳だから良い子で留守番してろよ。ママもすぐ帰ってくると思うけど、一応パパから電話入れておくよ。」

「あ・・そう。わかった。行ってらっしゃい・・。」

行ってらっしゃいを言う娘の顔は、サムにはどことなく寂しげに見えた。当然である。軍人は一度任務に駆り出されればそう簡単には家に帰ってくることはできない。9ヶ月留守にするなどは、ザラである。数少ない休暇を大好きな父親と過ごせなくなったと聞き落ち込まない娘はいない。見兼ねたサムはミシェーラの両肩をポンと叩き、少し腰を屈めて彼女と同じ高さに顔を持ってきた。

「なぁに、すぐ帰ってくるよ。帰ったらまた休暇とって一緒にどっか行こう。ね?」

するとミシェーラの顔は少し明るくなり、大きく縦に一度頷いた。

「よし!じゃあママをよろしくね! 行ってくるよ〜。」

玄関で靴をパラトルーパーブーツに履き替え、木製の重たいドアをゆっくりと開けて外に出た。空からは昼下がりのまぶしい太陽光が燦々と降り注ぎ、サムは思わず右手の平で目元に影を作り、身を細めた。今日もロサンゼルス上空は一日中快晴のようだ。ふと彼が後ろに振り返ると、ドアの中から娘が手を振っていた。サムも笑顔でそれに応じた。

「行ってきま〜す!」

 

 「よお、サム! 休暇中だろ?なんかやらかしたのか?」

「はは、まさか。仕事だよ仕事。」

炎天下の中でも元気にサムに話しかけてくるのは、正面門を警備している哨兵のボブ。彼とサムは昔からの顔馴染みである。

 胸ポケットから身分証を取り出し、車窓を通してボブに渡す。ボブは終始笑顔のままそれを受け取り、中の写真とサムの顔を見比べた。

「OK!通って良いぞ!」

「どうも。今日もいい笑顔だな!」

「おかげさんでな。じゃあな〜」

ボブが別れの挨拶をしたのを確認すると、サムは開いたポールをくぐり、基地内の駐車場に向けて車を走らせた。

 司令に召集がかけられたのは全部で11人だった。サムがブリーフィングルームに軍服姿で登場した時にはすでに他のメンバーは集まっていて、あとは司令の入室を待つのみという状態であった。

「おっせえぞサム。今日もギリギリだな。」

投影機のすぐそばに座るトニーが少し遅れて到着したサムを茶化しにかかる。しかしサムにとってはそれはいつものことであり、もはや慣れっこであった。

「まぁそう言うなや。司令が来てないんだからセーフセーフ。」

「ヘッ 罰則受けても知らねーぞ。」

室内に意外にも和やかな雰囲気が漂って来たその時、部屋前方出入り口のドアがガチャリと開いた。その段階で駄弁っていた隊員は全員口を噤み、次の「司令、入られます。」の合図とともに一斉にガチャガチャと音を立てて立ち上がり、ピシッと決まった敬礼をした。間も無く、ドアの陰からアシュリー少将がゆっくりと歩を進ませ出て来た。しばらく見ないうちに、彼の制服にはいくつも新しい勲章のバッジがぶら下がっていた。サムたちの知らないところでまた戦果を上げたのだろうか。敬礼を続ける隊員達の推測をよそに、司令は段上に立って口を開いた。

「楽にしたまえ。」

全員がバッと腕を下ろし、それぞれのタイミングでカチャカチャと着席していった。ヒョイと周りを見渡せば、両手にペンとバインダーを持ちメモの用意をしている者も、逆に何も持たずに腕を組んでただ前を見つめている者も、着席した後は物音ひとつ立てていないのがすぐにわかった。室内が静寂に包まれたと同時に、アシュリー司令はまたもや口を開いた。

「今日君たちを集めたのは、君たちが今回の作戦に一番適している戦力だと私が判断したからだ。と言うわけで、さっそくブリーフィングに入ろうと思う。 あー ちょっとそこの君、悪いけどこのフィルムをそこの投影機に差し込んではくれんかね。最近足を捻挫してね・・・。」

本題に入るといいつつ話をどんどんそらすアシュリー司令は、顔を見ても分かる通りかなり温厚な性格である。胸いっぱいの勲章と高い階級があるにも関わらず、それを振り回さずに他人に気を使う彼のその生き様は、多くの部下から尊敬されている。サムが、いや、この場にいる全員が彼に熱い敬礼を送ったのもそれが理由の一つであろう。

 部屋の後方に立っていた投影機担当の兵士が司令からフィルムを受け取り機械に差し込むと、部屋の明かりが消されて司令が立つすぐ横の壁にフィルムの中身が投影された。

「3日前、中東オストマンの砂漠地帯南東に潜伏する過激派を監視していた第2武装偵察小隊との連絡が途絶えた。さらに彼らからの最後の通信には、「過激派のグループ数十人が赤く光り輝く物体をトラックで基地内に運び込んだ」といった内容のものが含まれていた。・・・我々はこの物体がネウロイのコアではないかと睨んでいる。」

突然の司令からの衝撃の告白に、部屋が一瞬どよめく。それもそのはず、ネウロイを撃破するにはコアを破壊する他ないからだ。つまり、コアを破壊せずにコアだけを移動させるには、それを取り囲んでいる金属部分を取り除かなくてはいけないのだ。しかし、現在世界にはそれを実行する手段も技術もない。ならば考えられる可能性はただ一つ。

何らかの事故で再生できなくなったネウロイのコアを過激派の誰かが発見したのだろう。

「OSSからの書類にもそう書いてある! わしもそう思うし、何よりOSSがそう言っているということは、そういうことなのだろう! そこで・・だ。問題は過激派がそんなものを自陣に持ち込んで一体何をしようとしていたのか・・ということだ。我々はそれを確認し、必要があれば破壊することも視野に入れなきゃいかん。よって今回の作戦は「過激派の計画の阻止及び連絡を絶った第2武装偵察小隊の救出」だ。そこで敵集団の規模と基地の構造についてだが・・・。」

彼は話を続けた。今回の作戦は、砂漠での過酷な戦闘が要求されるようだ。サム達の任務は敵の計画の阻止と偵察部隊の救出だが、戦場が敵基地内になることが予想される上に、恐らく警備が一番厳重なネウロイのコアを破壊するのには相当な隠密行動スキルが必要とされる。もし見つかり反撃を受けた場合はこれに応戦、速やかに目標を排除するわけだが、万が一増援を呼ばれてはこちらに勝ち目はない。一瞬足りとも気が抜けない任務になることは、その場にいる全員が理解していた。

「・・・というわけだ。決行は7日後。それまではこちらが用意したトレーニングをこなしてくれたまえ。当日は安全圏を通ってモエシアまで輸送機で、そこから先は陸路となる。何か質問は。」

司令は最後に質問を募集したが、彼の的確な作戦内容の説明に不透明な点などあるはずもなく、当然誰も挙手しなかった。

「・・・そうか。皆既にわかっていると思うが、今回の作戦はかなり過酷なものになるだろう。それでも参加してくれる君たちに、私は心から敬意を表する。」

彼がそう言い終えると、それまでの物々しい雰囲気はじわじわといつもの空気に戻り始めた。相変わらずの人柄に、苦笑している者までいる。

「起ーーーーー立!!」

ボイル隊長がタイミングを見つけたのか、自慢の怒号を部屋に響かせる。その号令と同時に、隊員全員が先ほどと同じように勢いよく椅子から立ち上がり、気をつけをした。

「敬礼!」

隊員の綺麗な敬礼に見送られ、アシュリー少将は部屋から退室した。同時に、バッと音を立てて全員が腕を下ろすと、再び軍曹が大声で言い放った。

「解散!」

 

                                                                                                                    To Be Continued




いかがでしたでしょうか。
今回は文字数ちょっと少なめです。なお、この作品の投稿は結構遠間隔なものになります。あくまでサブですので。
読んでくださった方は、是非評価・感想をお残しください。(一言付きだと嬉しかったりです・・・。)

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