気付いてる方は気付いてると思いますが、各話内の各章のエピソードのサブタイトルは、全て何かのパロディになっています。
アニメ関連やドラマのタイトル、詩や心理学用語もあるね、今の所。
「…………………奈尾ちゃんは?どこに行ったの?」
ヤマネが、向こうを向いたままこっちを見ないさやかに訊く。地面にそのまま寝転がり、朝露に濡れた緑の草を、触れた所から真っ黒に穢しながら。
ヤマネの身体の異変は、奈尾が行ってから益々悪化していた。黒煙は今や全身から発生しており、ヤマネの姿は、黒い
「…………これが限界まですすんじゃったらさ、わたし、どうなるの?」
さやかは何も言わない。ただ空気が重く、固くなるだけだ。
「そっか、なにかとりかえしのつかないことがおこるんだね?…………」
ギギッと、さやかが無力感に歯を食いしばる音が聴こえた。既にこの世に無い者にも人間臭い気持ちがあるなんて、考えてみれば
「べつにいいんだけどね、もうどうなっても…」
「もうそれ以上言うのはやめな」
短く言うさやか。しかし、ヤマネももう受け答えがおかしくなって来ている。大人しめに見えて、実は結構感情表現が豊かな彼女だったが、今はもう声を荒げたりはせず、それこそ自分の天命を悟った老人の如くテンションが沈んだまま安定していた。
ふふふと
「奈尾ちゃんにだって、こればっかりはどうにもできない。おとうさんの計画をを止めることなんてね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「奈尾、今すぐその開発計画を請け負ってる会社に行って来て。あたしはヤマネの傍についてるよ。もうこうなったら、何とかして山の開発を止めさせないと………」
「はーーー…やっぱそうなっちゃいますかぁ……また無茶苦茶な……」
目の前で相談している奈尾とさやかの姿が、ずっと遠くの様に現実味が無く感じられる。
熱射病に罹っているみたいに身体が熱くて頭が重く、呼吸も苦しくなり、ヤマネの気分は最悪だった。おまけにアタマの中では、ぐわんぐわんとさっきからずっと聴き知らぬ誰かの声が響いている。
もう良いんだよ、無理をしなくても。良い加減もう楽になっておしまいなさい。怖がる事など何にも無い。大丈夫だよ。あんよは上手、ここにおいでよ。”むこうがわ”にはここよりもずっと楽しい世界が待っている。
憎いんだろう?何もかも恨めしいんだろう?分かるよ、好きなだけ暴れろよ。この瞬間までの短い人生の間に可哀想な目に遭って来た子は、好きな物を、好きなだけ、いかようにでも呪って全然平気。神様のお創りになられた、この世界のルールでそうなっているのさ。悪い事は言わない、見せかけだけの良い子ちゃんなんかやめてしまいなさい。今時流行らない。さあ、解き放ってご覧新しいちかr
「でも、ま、他に方法も思いつきませんしね。なる様にするしか無いでしょう。ちょっと手荒になるかも知れませんけど…………」
「おっ、流石切り替えが早いね。その意気だよ、奈尾」
ぶるぶると首を横に振って、意識を無理矢理現実に引き戻した。もう辺りの鳥の鳴き声さえ、はっきり聞き取るのが困難になっている。遠くの方で、奈尾とさやかはさっさと相談をまとめてしまっていた。
「…………ま、待って!」
ぐらつく頭を押さえながら、ヤマネが二人を呼び止める。ふらふらと足を進めはしたが、石に躓いて霊体の筈なのに倒れた身体を身体はとうに消えてる筈さやかに支えられる。
「ヤマネさん?」
「あの、ちがう、だめなの、たしかに山は大事だけど、開発はやめさせちゃだめ、だめなの」
「ちょっとあんた何言ってるの?」
ああ、なんてにくたらしいだめなこのわたし、とヤマネは思った。こう言う大事な時に限って、言葉の一つもろくに発せない!
「………………ヤマネさん!ヤマネさん!ちょ、痛い痛い痛い!離してくださいって‼」
「……山の開発計画を進めてる責任者が、わたしのおとうさんなんだよぉ!」
「「………………っはぁ⁉」」
はあ、はあと肩で大きく息をするヤマネ。
肝心な事を、ようやく口に出して伝える事が出来た。
「…噓でしょ、何でまたそんなややこしい…!」
「ヤマネのお父さん、この山が好きじゃないの?」
ヤマネは下を向きながら絞り出すように言う。
「………そうすることがこの町の為になるって、おとうさん本気でおもってるみたい………」
「だったら尚更お父さんを説得しないと」
「でも私、お父さんをこまらせるのもいやだ………!」
目に涙が溜まって来た。何故目に涙が溜まるんだ。本当の心の叫びが、涙と共に一気に溢れ出て来た。めそめそしちゃって、同情が貰いたいだけなんだろう。こういう時泣く事しか出来ない自分が、わたしは本当に大っ嫌いだ。
「もうむりだよ……この山が削られちゃうよお!わたし、ほんとは山がなくなるのもやだよぉっ‼」
黒煙を身体から発しながら、子供の様に泣きじゃくるヤマネを前に、奈尾は一度さやかと顔を見合わせて、そして声を掛けた。
「………ヤマネさん?」
「う、うううう………………」
「ヤマネさん、私嬉しいです。ようやくご自分の本音、聞かせてくれましたね?」
ヤマネは顔を上げて奈尾を見た。ひまわりの笑顔。何でもどんくさいヤマネには、学校の友人には滅多に見せて貰えない、暖かい表情だった。
満面に笑う奈尾は、力強く言う。
「大丈夫です。ヤマネさんの問題は、全部私がどうにかします」
何言ってるの、この子。もう全部終わったんだよ。
「どうにもならないよ…おしまいだよ、もう…」
「じゃあ、
え、とヤマネの口から言葉が漏れる。
「ヤマネさん、私はね、『無理だ』とか『駄目だ』とか、個人的にそうやって口で言うから、本当に何も出来なくなっちゃう物だと思うんです。
どうにもならないかどうか、やってみるまでは分からないじゃないですか。いや、必ず解決して見せます。ナビゲーターとしてのプライドに賭けてもね。
……だから、もうちょっとだけ、後ほんの少しだけ頑張って下さいね。私はすぐ戻って来るので」
その後奈尾は、「じゃあ、行ってきます。さやかさんお願いしますね」と短く言い、ぼうっとしているヤマネを置いて去って行った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…って、なんだかえらくはりきって行っちゃったねぇ、奈尾ちゃん……」
「当り前だよ。あの子にとってナビゲーターは、大切な自分だけの仕事なんだから」
「仕事だからやさしいんだ。仕事だったから、奈尾ちゃんはわたしに笑いかけてくれたんだ。やっぱりね、ふふふ。そんな気はしてたんだ………」
「良い加減にして」
さやかが静かに、しかしぴしゃっと言葉を叩き付けた。そんな彼女の様子を見て、ヤマネは今度は可笑しくて堪らないと言った様にふふふふと笑い続けた。
「ごめんねえ、わたし頭がわるいからさあ。ひとにめいわくはかけるけど、わたしはこれでふつうのつもりなんだ。
あのさ…もういいよ。なんかわたし、もうなにもかもどうでもよくなっちゃったからさ。わたしなんかのために、ふたりにばっかりがんばらせるだけわるいよ。
………………もうだれも、わたしのせいでやな顔しないでよ。
どうせもう、何をしたってやるだけむだなんだからさ。べつにいいよ、もう」
「やめなよ…………やめな…………」
「それともなんなの?わたし、もう死んじゃったのに、わたしのすきにさせてくれないの?べつにどうなっちゃってもかまわないんだってもうこの世のことなんか。野乃中山がなくなるんなら、もうこだわるのもばかみたいだしなあ。ねえ?
なんだかなあ、どうしていままでわたしが守ってきた町のひとたちが、わたしのおとうさんが、大すきな山を消そうとするのかなあ?どうしようかな、いっそこの町にこのまま残って、だれもかれも呪ってやろうかなあ!」
「やめなって言ってるだろっ!!」
今までぐっと堪えてはいたが、とうとうさやかはヤマネの胸倉を引っ掴んで無理矢理に立たせた。
「…ひねくれた事ばっか言って、悲劇のヒロインにでもなったつもりかよ」
「………………………」
「辛いのはあんた一人だけだと思ってるでしょう。冗談じゃないっての…………
………必死になって頑張ってるあの子を、何で信じてあげられないのさ!」
その言葉にはっ、となって、ヤマネは思い出した。立ち去る直前、奈尾が小さな声で「……ハッスル、ハッスル…!」と自分に言い聞かせているのがちらりと見えてしまった事を。
「
『仕事』って、そう言うもんよ。そこには必ず当人のプライドがあるの」
そこまで言うと、さやかは不意にヤマネの事を離し、空を見た。
何があるのかと思い、ヤマネも空を見上げる。
真昼の空に出ていた満月を見て、ヤマネは思わず目をそらしてしまった。
透き通った満月が、何故だか
「……ごめん、ほんとはあたしにもあんたの気持ち分かるわ…あるよね。魔法少女やってるとさ。自分が何の為に頑張ってるのか分からなくなる時が。
だから、あんたにも後悔して欲しくない訳よ。
お願い。奈尾や町の人たちに気持ちをぶつける前に、もう少しだけ、落ち着いて考えてみてくれないかな?その呪いを言う前に、もう少しだけ猶予をくれないかな?」
「…さやかちゃんは、あったの?自分をおもってくれてたひとに、ひどいこといって、後悔したこと」
「何度もあるね。だからこういう風に生意気な口きけるの。あんたより年下の癖にね。
…………噂をすれば、帰って来たみたいよ」
さやかに言われ、ヤマネは後ろを振り返った。
背広の男性と、制服の少女が、並んで森の中を歩いているのが見えた。
今にpixivでまとめ版出します。
2017/7/9
さやかちゃんの台詞は難しいけど、描き甲斐あるにゃあ。
最後のシーンの台詞をちょっと変えました。