まどマギ式☆霊界ナビ   作:サムズアップ・ピース

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 巨人の魔女。その性質は無為。
 結界内に再現された偽りの自然に心を奪われた者から思い出を奪い取り、積み上げて山を作る。伝説に名を残す者を除けばトップクラスの巨体を持つ魔女。
 偽りの自然の美しさに惑わされない様にする事はかなり難しいが、所詮は紛い物、誰も訪れなければ三日で朽ち果てる。


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 巨人の魔女の手下。その役割は幻夢。
 キラキラ輝く夢の欠片を来訪者から抜き取って主人のもとに運んで来る。しかし、魔女はそれを残らず周囲に投げ捨ててしまう。



7 セワスィー部長

 朝。カンカン照りの朝、蒸し暑い朝、気合いの朝、汗水垂らして労働の喜びを感じるには、うってつけの朝。

 野乃中市から電車で十五分、バスなら三十分程の戸平駅(とひらえき)の前に立地する木羅(きら)建設の朝は早い。中でも現在野乃中山を中心とした大規模な都市開発計画を進行中の特別企画開発部の部室の中では、一人の社員が、まだ他の同僚が来ていない内から何やらパソコンに忙しく打ち込んだり、取引先に提示する素材の資料を整理したりしていた。

 

「まだ他の社員の方もいらして無いのに、こんな早い時間からお仕事ですか。大変ですね、部長さんは」

 

 パソコンをカタカタと打っている時、背後から聞こえたその声を「聴き慣れない声だな」と部長は思い、「後ろを振り返ろう」と思ったが、スピードに乗って忙しく稼働していた彼の十本の指はその動きが止まるまで十数秒を要した為、ようやく作業を中断して後ろを向くと、そこには見知らぬ少女が立っていたので、彼は驚いた。

 

 黒地に金の装飾の入った、郵便局員かホテルマンの様な衣装。見た所歳は13,4と言った所か。彼の一人娘の一つか二つ年下(くらい)だ。

 関係者以外立ち入り禁止の社内に見かけない子がいる。それはある意味非常事態ではあったが、特別企画開発部の(おさ)たる彼はパソコンの画面に目を戻し、極めて冷静に対応した。いや、単に仕事の事で頭が一杯なだけかも知れないが。

 

「君は……?何処から入ったのかな。此処は関係の無い子供が入って来る所じゃ無いんだがね」

「娘さんはお元気ですか?」

 

 忙しく働いていた部長の手が止まった。

「……何?」

「最近、娘さんとちゃんと話してますか?娘さん、まだ家に帰ってないんですよ。知ってますか?忙しくお仕事してる場合じゃ無いんじゃ無いですか?」

 

 ええい、気を散らすな、と彼は自分自身の心に言い聞かせた。どうせ守衛の目を盗んで近所の子供が忍び込んで来たか何かしただけだ。適当に追い返すんだ。一日も早く計画を進めなければ。

「……君は何だ、娘の友達か?娘の事なら心配は無い。今頃はこの辺りの学校は何処も夏休みだからな。あの子の事だから早起きしてカブトムシの罠の様子でも見に行っているんだろう」

 娘が三度の飯より昆虫が大好物である事は、彼の楽観視出来ない悩みの種の一つであった。好きな物があるのは親としては喜ばしいのだが、何時までもあのままでは将来嫁の行き先があるかどうか。親馬鹿と言わば言え。

 

「ふーん、娘さんの事は何でも分かってるって訳ですか。良いなあ、美しいなあ。本当に血で繋がった家族は。

 あれれ、でも、だったらおかしいなぁ。娘さんの事が大事なら、何であの人の思い出の場所を壊しちゃう様な事するんですか?」

 

 ふーっ、と溜め息をつく。すべて理解出来た。そう言う事か、情に訴える作戦と言う訳か。何時までも諦めず、よくもまあ此処までの事をやる物だ。負けますよ、貴方達には。

「………………これは失礼。ご町内の開発反対派の方の誰かに言われて来たのかな?君は。全く、我々も皆さんの為を思ってやっているつもりなのだが、住民の方々に中々理解を得られなくて悲しい物だ。兎に角そう言う事なら彼等に君から伝えて欲しい。あの山にこだわるのは分かったが、部長である私の家庭の事まで調べて持ち出すのは卑怯だし、不快だ、そっちがそう言う手に出るならこちらとしては迷惑行為として訴える事も辞さない、とね」

 

 

 

 

 

「さっきからさっさと大事な話を終わらせようとしてんじゃねぇよ。下手に出てりゃあーだうーだ指図しやがって。大人だからっつって調子乗ってっと潰すぞ、このオッサン」

 

「はっ…………⁉」

 思わず言葉を失った。

 さっきまで小さな女の子を適当になだめすかして家に帰すつもりだった部長は、さっきまでは確かに丁寧な口調だった目の前の人懐っこそうな可愛らしい少女が、いきなり今の様な暴言を吐くと言う突然の事態に、柄にも無くたじろいだ。これか、これが今時の女子の本性なのか。悪意溢れるネット社会を生きる現代の少女達は、一皮剝けば皆こうなるのか。こんな社会を可愛い娘は生きているのか。

 

 女の子は暫くそのまま気迫を放ち続けていたが、やがて元の親しみ易さに満ちた笑顔に戻ると、

「………なーんて。冗談ですよ、冗談。ほら、そんな硬い顔しないで。只の子供の戯言なんですから、もっと気を楽にして、はははって笑ってください、はははって。ははははは」

「は、はは………」

 いや、悪いがもう、今はその優しい言葉さえも、警察の取り調べかヤクザの物言いにしか聞こえなかった。

 そして、えへん、えへんと甲高い声で二度程咳払いをすると、少女は本題に入り始めた。

「さて、冗談はこの位にしておいて………先ず何か誤解があるみたいなんですけど、私は別に開発反対派の使いじゃありません。もっと言うと開発が行われる予定の、胡筑町(こづきちょう)の人間でもない。ま、出来れば開発はやめて欲しいのはそうなんですけど、それはまた別の話」

「何だって?」

 彼は面食らった。何処からとも無く侵入して来たり、大人相手に堂々と啖呵を切ったり。この子は何なのだ?

 

 と、彼女が唐突に、ぐいっと顔を部長の顔に近づけて来た。少し金色のそれは、自分自身の内側まで、潜り込んで抉り出すかの様な()だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「訳があって詳しい事情は話せませんが、兎に角一刻を争う事態でして。私と一緒に来て頂けますよね、渥美俊郎(あつみとしろう)さん」




 前書きのはちょっと思いついて描きたくなっただけです。
 気にしないで下さい。

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